8%成長の中国経済の勢いはすごい、だが制御不能に陥るリスク消えず 世界からの「機関車役」期待に北京中央は背伸び、地方政府は過大投資


時代刺激人 Vol. 63

欧米主要国のマイナス成長が続く中で、中国経済の年率8%成長は勢いがあり、率直に言ってすごい。かつて日本やドイツが世界経済の機関車役と言われた時期があったが、いま、中国が肩代わりして、新たな期待を担っている。オバマ米大統領が11月17日の北京での米中首脳会談で、これまでの中国との「戦略的経済対話」を一段と強め、「戦略的信頼の構築・深化」の関係に踏み込んだのは、意味深長だ。経済的に重症の米国にとって、中国の巨大な内需は、対中国向け輸出増大のチャンスでもあり、米国再生の切り札となるとみているのは間違いない。
 しかし、中国経済をウオッチしている経済ジャーナリストの立場で言えば、中国経済の動きに水をさすわけでないが、中国政府が打ち出した今後2年間に4兆元(円換算約58兆円)にのぼる巨額資金投入の内需拡大策が地方政府の現場でオーバーヒートし始め、マクロ経済運営的に制御不能に陥るリスクが消えていない。そこで、今回は、中国経済の専門家や地方経済の現場を見てきた人たちの話を踏まえ、勢いある中国経済のリスクに焦点を当ててみたい。

広州モーターショーが異常人気、外資は世界最大の新車販売数の中国に熱い視線
 まずは、勢いのある話から先に始めよう。直近の話で言えば、11月24日からスタートした第7回中国国際汽車展覧会がすごい。中国では汽車は自動車のことを意味するが、この展覧会は、日本のメディアの呼び方で言えば広州モーターショー。何がすごいかと言えば日本、米国、欧州などの海外自動車メーカーを含めた出展社数が約670社にのぼり、その展示スペースは約15万平方メートル。11月上旬まで開催されていた東京モーターショーに比べ出展社数で6倍、展示面積で3倍というスケールの大きさだ。
 かつては東京がモーターショーの花形的存在だったが、中国経済の勢いがすべてを決めてしまった。東京への出展を見送った米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲンなどが躊躇(ちゅうちょ)なく今回、広州に積極参加している。いずれも中国の新車販売台数が今年、世界最大の1300万台にのぼり、来年2010年も1500万台に及ぶ見通しという急成長市場のため、新型車の販売を見込んでの出展参加であることは言うまでもない。欧米の主要メーカーにとっては、もはや東京は眼中にない、東京でデモンストレーションしても販売増を見込めない、それよりも急成長の新興経済市場の中国に、という判断なのだ。

OECD世界経済見通しでも中国は09年8.3%成長で突出、日本など青色吐息
 経済協力開発機構(OECD)が11月19日に公表した世界経済見通しでも、中国の2009年の実質成長率が8.3%で突出している。同じ新興経済国のインドも気を吐いて6.1%成長で続いている。中国やインドはOECD加盟国になっていないが、肝心の加盟国では日本がマイナス5.3%、米国が同じくマイナス2.3%、ドイツがマイナス4.9%で、OECD全体でもマイナス3.5%成長だった。日本や欧米諸国が米国発の金融・経済危機のあおりで青息吐息なのに比べ、中国の成長が突出しているのが、おわかりいただけよう
2010年度見通しによると、さすがに各国のマクロ政策面での景気刺激策が実体経済に寄与し始め、日本が1.8%、米国が2.5%、ドイツが1.4%、OECD全体でも1.9%とプラス成長に転じる。しかし、中国は、その勢いにさらに弾みがついて10.2%の2ケタ成長、インドも7.3%成長で先を走っている。

APEC首相会議で中国は一番乗りしホストのシンガポール顔負けの経済外交展開
 11月中旬にシンガポールで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、そうした中国の勢いを裏付ける動きが見られた。胡錦涛中国国家主席が首脳として一番乗りで会議に顔を見せ、後から続々と訪れる米国のオバマ大統領らを待ち受けたのだ。ホストのシンガポール顔負けの動きだったが、中国が経済成長を背景に、政治的な力も誇示しようとした計算づくの行動であったことは言うまでもない。
 米国が、ゴルフでいうリカバリー・ショットを打つべくオバマ大統領、クリントン国務長官ら首脳陣がAPECに参加し、シンガポールやブルネイなど4カ国との自由貿易協定(FTA)をアジア太平洋全体に拡大していく構想を打ち上げた。しかし現時点での米国と中国の経済の力強さの差は歴然で、中国の迫力が米国を上回った、というのが会議に参加した日本側政府関係者の話だった。
事実、中国を軸に広がる東南アジア諸国連合(ASEAN)のFTAの動きに比べれば米国の構想はスケールも小さいし、経済の勢いも異なる。しかも中国がAPECの場で、貿易・投資の自由化をアピールしたため、首脳会議の大きな流れは中国に傾いた。日本の鳩山由紀夫首相は東アジア共同体構想をアピールし、会議ではそれなりの共感を得たが、中国の勢いに比べれば、やはり迫力負けは否めなかったようだ。

中国「財経」誌の前編集長の実体経済分析は鋭い、金融政策の出口戦略がカギ
 さて、中国経済に勢いがついている話は、書きはじめると、あれだけ広大な国だけに、材料はいろいろあるが、今回のテーマは、むしろ、その勢いある経済のリスクに関するものなので、問題をそちらに移そう。
最近、日経BP社が主催したアジアの経済セミナーで、ぜひ会いたいと思って参加したのに、その人が直前に講演キャンセルになって残念な思いをしたことがある。それは中国の有力経済誌「財経」の女性編集長の胡舒立(こじょりつ)さんだ。この胡さんは1998年に編集長就任以来、この雑誌編集に携わってきたが、残念なことに経営者との編集方針をめぐる対立が表面化し、11月9日に辞職したばかりだ。その編集方針は、中国の経済メディアとしては、なかなかリベラルな報道ぶりで、時に調査報道を踏まえて、権力批判も堂々と行うので、われわれ中国経済ウオッチャーとしては常に注目していた。
 胡さんが、セミナーに対しておわびの形で送った中国経済に関する分析レポートがなかなか鋭い。私の見方を裏付ける点も多く、今回のテーマの参考になるので、少し紹介させていただこう。結論から先に言えば、胡さんは、中国当局のマクロ経済運営は難しい局面にあるが、内需拡大の景気刺激策がインフレを誘発するリスクを抱えており、人民銀行を含めた政府当局の金融政策の出口戦略、端的には利上げ政策がポイントになる、という。

巨額の財政刺激策が地方政府にバラマキ型投資の口実与え随所で設備過剰に
 胡さんの分析によると、中国にはいくつかの誤算があった。米国のリーマン・ショック直前までは、経済過熱を抑えるために金融引き締め政策をとってきたが、突然の米国発の金融危機、経済危機の影響を受け、金融政策のかじ取りを金融緩和策に切り替えた。しかしリーマン・ショックの影響は1997年から98年にかけてのアジア金融危機時と比べものにならないほどのボディブローのような影響が中国経済に押し寄せた。このため、北京中央政府は危機感を強め、財政面でケタ外れの2年間にわたる総額4兆元の巨額の財政刺激策を講じた。その一方で、金融政策運営に関しては、人民銀行は過去、過熱経済の抑え込みには自信があったが、こと、デフレ対応に関しては経験が少なく、日本銀行の超金融緩和政策などを参考に、「適度の金融緩和」を次第に「極度の金融緩和」に切り替えざるを得なかった、という。
 ところが、胡さんの分析レポートによると、4兆元の財政刺激が、とくに地方政府に対してバラマキ型の投資政策の絶好の口実を与えてしまい、地方経済は鉄道、道路、飛行場の3つのインフラ投資に集中している。過剰な投資、生産能力の増強が進むが、肝心の市場が吸収し切れず、かといってはけ口の輸出も大きな期待が持てない。いわば設備過剰のツケが数年を待たずにやってくる可能性が高い。その関連で、金融機関の野放図な融資が不良債権の増加リスクにつながっている。また、金融緩和は不動産投資融資などにも向かい、資産バブルが起きている。行き場のないマネーが不動産、マンション、そして株式投資に向かっていて、この面でのリスクも再び増大している。
そこで、胡さんのさきほどの結論部分につながる。北京中央は、来年2010年春までは、この内需拡大のための景気刺激策を続けるだろう。このため、インフレ警戒の利上げ、金融引き締め政策はとりにくい。インフレ率の許容限度は3%で、このレベルを超える物価上昇となったら、引き締め政策に転じるだろうが、内需拡大は必要だし、さりとてバブル、あるいはインフレ過熱は抑え込まなくてはならないし、まさにマクロ政策的に進むも退くも難しい、という局面がやってくる、という。

8%成長割れ回避の財政刺激策が功を奏したが、加熱経済の抑えは大丈夫か
 最近、日本で出会った中国の北京大学教授も、地方政府のバラマキ型の投資の弊害を危惧していた。ある省では、その省自体が大きいということもあるが、鉄道建設の計画に整合性がとれていなくて、重複投資になっていて、出来上がった時に旅客需要が計画どおりに見込めなければ、赤字の不採算路線になることが目に見えている。それでも北京中央の内需拡大の号令を大義名分にして、大胆な投資を繰り返している。そればかりか、地方政府の幹部の中には、投資資金の活用に困って、高級外車を買いまくるケースもあり、このままでは、いずれ巨額財政刺激策のツケが実体経済に押し寄せるリスクがある、という。
 中国にとっては、もし成長率が8%割れになると、失業や失職による雇用不安が社会不安、そして政治不安に発展するリスクが一気に高まる危機ラインであるため、北京の中央政府は必死で巨額の財政刺激策を講じた。米国のリーマンショックはある面で、そうした財政刺激策による8%成長維持政策に弾みをつけるものだった。ところが、それに弾みがついて、一気に、OECD世界経済予測にあるように、中国経済は突出した経済成長を実現し、今や「世界の機関車役」の期待にも応える様変わりの状況だ。
しかし、問題は、胡さんが危惧したように経済過熱リスク、そして地方政府を含めた経済の過熱に対してマクロコントロールが利くのかどうか、制御不能に陥るリスクが消えていないというところが心配だ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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