新日鉄と住友金属の大型鉄鋼統合、来るべき国内産業再編成の予兆と確信 グローバル競争への積極対応が魅力的、世界で戦える日本企業輩出は大賛成


時代刺激人 Vol. 121

 新日本製鉄と住友金属工業が経営統合――2月3日に緊急発表の大型鉄鋼メーカーの経営統合は、経済ジャーナリストにとっては思わずわくわくするもので、もしチャンスがあったらスクープしたくなるようなテーマだ。
というのも、金融資本力を使って強引にM&Aによる経営統合を繰り返し肥大化しただけの鉄鋼トップのアルセロール・ミタルと違って、日本の鉄鋼技術を学びとって後追いした中国や韓国の鉄鋼メーカーが新興アジアを舞台に急成長している現実を無視できず、この際、高張力鋼など技術面で間違いなく実力ナンバーワンの日本の鉄鋼は、グローバル競争時代に勝ち抜くには大型の企業経営統合しかない、と見ていたからだ。

互いの強み生かし「世界トップクラスの鉄鋼メーカーめざす」という自負が心強い
 その点に関して、今回の新日本製鉄と住友金属工業両社のステートメントを読んで、とても興味深かったのは、「技術・品質・コストなど、あらゆる面で世界最高の競争力を実現してまいります」「激動の中にあって、名実ともに世界トップクラスの総合鉄鋼メーカーに発展することをめざします」など、随所に「世界トップクラスをめざす」という自負をうかがわせる言葉が目についたことだ。

企業の経営統合は往々にして、経営的に苦境に陥った企業を救済合併するとか、あるいは資本の論理が露骨に出て吸収合併というケースが目立つ。ところが、今回の場合、両社ともグローバル競争に勝ち抜くために、新日本製鉄は高張力鋼や電磁鋼板、住友金属工業がシームレスパイプといった互いの強み部分を全面に押し出し、補完型の経営統合によって世界トップに躍り出る積極的な経営戦略をとった点が何とも心強い、と思えたのだ。

今回の経営統合は2、3周遅れ、でも日本鉄鋼の技術力に凄み、すぐ勝負可能
 経済ジャーナリストの立場で言わせてもらえば、欧米経済の成熟度が高まって停滞が見える中で、世界の成長センター、新興アジアでは、経済の勢いに合わせて鉄鋼需要が伸びている。そんな状況をみれば、新日本製鉄など日本の鉄鋼メーカーが、狭い日本国内の内需を当てにして力をすり減らす競争をするよりも、大型経営統合で力をつけてグローバルなレベルで、時代を先取りするようなアクティブな動きを進めるべきだと、思っていた。

その点で言えば、本当は2、3年前に、この大型経営統合が行われ、技術を軸にした総合力を武器に新興アジアに打って出てもよかった。つまりはグローバル競争のもとでは今回の経営統合は2、3周遅れかな、という気がするほどだ。しかし、日本の鉄鋼はゴルフでいえばリカバリーショットを打てる潜在的な力が十分にあるので、すぐに勝負に出ていける。日本の鉄鋼には凄みがあり、その力は捨てたものではないと断言できる。

国内での消耗戦よりもグローバル企業展開の時期、「産業構造ビジョン」も指摘
 そこで、今回は、新日本製鉄と住友金属工業という鉄鋼メーカーの大型経営統合の課題が何かを考えると同時に、今回の鉄鋼の経営統合をきっかけに、日本国内で産業再編成時代が到来する予感がする、という点を取り上げてみたい。とくに産業再編成に関しては、日本企業は、日本国内で消耗戦を繰り広げるよりも、新興アジアという世界の成長センターを前に戦線を再構築し、文字どおり世界で戦えるグローバル企業をめざすことがいよいよ必要になってきたと考えるのだ。

私は、このコラム第89回で「意外に面白い経済産業省の産業構造ビジョン」の話を書いた。その「産業構造ビジョン」によると、日本の産業の課題の1つは、国内の同一産業内部でプレイヤー企業の数が多すぎて、グローバル市場に出る前の国内予選で必要以上に消耗戦を繰り広げてしまい、あおりで低収益体質に甘んじている、という。

旭化成の蛭田さん「日本産業はドメスティック・グローバルからの完全脱却が必要」
 とくに韓国企業は、それこそ国内予選なしで、最初からグローバル市場に向けて大胆かつ迅速な投資戦略をとり、それを強みにしている。これに対し、日本企業は1億人の、しかも成熟した国内市場に成長のパイがあると国内に力を注ぐ結果、国内での競争で力を消耗して収益力も弱めている。これが日本産業の構造的な問題だ、という分析だった。

同じ問題意識で「日本の企業経営は変わる時期に来ている」と、経済産業研究所での講演で問題提起された旭化成前社長の蛭田史郎さんの指摘が今でも記憶に残っている。要は、「日本の産業の成功パターンは、1億人のうるさ型消費人口の国内市場で勝ち抜き、それを武器に欧米中心の10億人の世界の商品市場に進出しシェアを勝ち取ってきたことだ。しかし今や世界は新興国の消費購買力を含めた40億人の市場に急拡大している。それなのに、日本産業は過去の成功体験をもとに1億人市場での勝利にとどまり、すべてをグローバル基準で対応する態勢にない。私の造語英語で言えば日本産業は早くドメスティック・グローバルからの完全脱却が必要だ」と。

自動車、エレクトロニクス、化学、造船、海運、総合商社、食品などが注目分野
今回の新日本製鉄と住友金属工業両社が経営統合によって「世界トップクラスの総合鉄鋼メーカーをめざす」という点にこだわりを見せたのは、ある面で、明確な戦略転換であることは間違いない。もちろん、新日本製鉄と住友金属工業両社とも、日本国内市場を捨てて、グローバル展開に切り替えたわけでなく、経営の軸足を新興アジアなどグローバルな分野に置き、世界で戦える経営態勢を、という発想であることは言うまでもない。

私は、今回の鉄鋼の経営統合が来るべき産業再編成の予兆とみているが、問題はそれに続く産業、企業がどうかなるかだ。とはいえ、自動車はすでに世界でトップランクの実力を見せているが、参入する企業の数の多さをどう考えるか。同じように韓国のサムスン電子、LGと熾烈な競争を繰り広げるエレクトロニクスも競合企業の数の多さが気になる。化学、重電、建設、造船、海運、食品、総合商社なども同様だ。問題は、これら産業の再編成や企業の経営統合の旗振り役を誰がやるかだろう。最終的には、企業経営トップの判断だろうが、いろいろな利害や思惑がからみ、一筋縄でいかないことだけは間違いない。

経産省はかつての官主導の産業政策発想なく、民主導で阻害要因除去を強調
 その点に関して、かつては旧通産省が産業政策、行政指導という名のもとに産業再編成や企業統合を主導したことがあったが、現在の経済産業省は方向転換し、民主導、企業の自主性に委ね、政府の役割は、業界再編成を阻むような構造要因などの除去に比重をかける、というふうに変わってきた。「産業構造ビジョン」のとりまとめ役だった経済産業省の現大臣官房総務課長の柳瀬唯夫さんは以前、「業界再編成や事業分野に関する企業間での棲み分けについては、当事者である企業が主導して実現すべきものであり、政府の役割は主として、その阻害要因を除去することにある、と考えている」と述べていたのが印象的だ。

だから、今回の新日本製鉄と住友金属工業の経営統合に関しても、行政指導の名のもとに、所管官庁の経済産業省が両社に事前報告を求め、行政指導という形で方向づけをした、といったことはなかった。事実、経営統合計画を発表した時刻に、新日本製鉄の三村明夫会長、そして住友金属工業の下妻博会長が首相官邸や経済産業省に報告を兼ねてあいさつに行った。発表の翌日には新日本製鉄の宗岡正二社長、住友金属工業の友野宏社長が独占禁止法がらみで経営統合のよしあしの判断を下す公正取引委員会に、あいさつに行ったというのも、うなずけることだ。間違いなく以前のような官主導の時代でなくなってきた。

英エコノミスト誌が「産業政策の世界的な復活」を特集、流れは産業政策を待望?
 英エコノミスト誌が以前、「産業政策の世界的な復活」というテーマで興味深い記事を書いていたのを思い出す。そこでのポイントは、米リーマン・ショックをきっかけに世界経済の減速が表面化し、政府の政策課題が持続的な経済成長と雇用の創出となったこと、とくに米オバマ政権にみられたように緊急支援策による需要の創出が政府に求められたこと、金融経済から脱却し環境技術などを伴ったグリーン産業政策が重要課題になったこと、また中国や韓国などの新興国の産業政策的な動きへの対抗策が求められたことなどだ。
これは主として、経済の減速や新興国の台頭を背景に、欧米サイドで産業政策ニーズが一気に高まったということを挙げているのだが、新興アジアでも産業政策が際立っている。中でも中国は積極的で、鉄鋼、自動車、通信などの産業分野に財政資金をつぎ込んで国家主導で国有企業の再編成などを大胆に行っている。韓国も同様で、エレクトロニクス分野が代表例とも言えるが、サムスン電子とLGの2社に特化するなど、国家主導で強引ともいえる産業再編成を行っている。

民主導に委ねる政策判断に誤りなし、過去は自動車などは官が行政後追い
 日本の産業政策が産業再編成、業種内部の棲み分けを民主導に委ね、行政はそれら産業の自主的な動きの妨げになるような要因除去にウエートをかけているのとは対照的だ。私は、この政策判断は間違っていないと思う。かつて旧通産省がエネルギーの経済安全保障の観点から石油精製業を再編成し、産業保護したが、結果として、企業競争力が弱体化したのと対照的に、民間企業の動きが先行して結果として行政が後追いになって自由競争に委ねた自動車、エレクトロニクス産業が自由にはばたいた現実があるからだ。

ただ、産業再編成問題とは別に、経済産業省は、新興アジアを中心とした巨大な産業インフラ需要の高まりに対して、官民一体の「日本株式会社」的な組織作りを主導している。とくに個別企業でインフラビジネスに対応するのは限界があるため、さまざまな企業群の力を束ねるシステム輸出、端的にはプラントなどのハコものだけでなく、むしろ新興国が求めるシステムそのものの運行管理、技術者育成、料金制度設計などへの対応、さらに政府系金融機関の制度金融資金の活用などが必要と、官のサポート体制を打ち出している。これは今後のインフラビジネスをめぐる欧米、それに韓国、中国との各国間競争では重要になるので、産業政策的にバックアップ体制をとるのは異存ない。

公取委は今回の鉄鋼統合に関してグローバルな競争を視野に置き柔軟対応必要
 最後になってしまったが、新日本製鉄と住友金属工業は2年後の経営統合をめざすにするにしても、それまでには両社間で一気に膨れ上がる設備や人員など課題への取組みが多い。しかし最大の問題は、独禁法上で競争制限にならないかどうか、といった観点から公正取引委員会が、この大型鉄鋼統合を認めるかどうかにかかっている。

結論から先に申し上げれば、公取委は2007年に、企業の合併や経営統合計画の審査に際して、国内でのシェアなど寡占度だけでなく、海外市場での寡占度合いも考慮するように柔軟対応の姿勢を打ち出しており、それに沿った判断をすべきだろう。端的には、国内での両社のシェアが大きいことは事実だが、新興アジアでは中国や韓国の鉄鋼メーカーとの競合が激しく、新日本製鉄の宗岡社長によれば世界全体でわずか3%シェアという。
グローバル時代の競争政策に関しては、柔軟対応が必要になってくるように思う。経済産業省も今国会に産業活力再生特別措置法の改正法案を提出し、公取委の承認に際して、関係閣僚との協議を義務付けることをめざす、という。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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