「企業はいったい誰のものか」 なぜ、なぜ多すぎるオリンパス


時代刺激人 Vol. 160

 カメラ大手企業のオリンパスが、財テク投資失敗による巨額損失を、過去の遺物とも思える「飛ばし」行為によって20年間にわたり隠し続けてこられたことも驚きだが、社内と社外双方の監査役、さらには公認会計士がそろう監査法人がチェックし切れていなかったことも驚きだ。もちろん他にもなぜがある。とにかくなぜ、なぜが多すぎる不可解な企業だ。
今回の問題表面化で、ここ数代の経営トップが介在した企業ぐるみの粉飾決算が明らかになっただけに、株式市場での上場廃止処分になる公算が強い。そうなると、優良企業ということで株式投資してきた機関投資家、大衆投資家などにとっては、すでに急落を続ける株価がさらに紙くず同然になりかねず、企業のもたらした罪は計り知れない。そればかりでない。胃カメラなど内視鏡では世界の75%シェアを握る優れた技術力を持つ企業だけに、何も知らされていなかった社内の技術者、一般社員が失うものも大きい。もとよりブランドを信じて商品を購入してきた消費者らへの裏切りも大きい。

外国メディア
「日本ブランドは優秀なモノづくり文化の象徴だったのに、、、」
 このオリンパス粉飾決算に対する外国メディアの論調は厳しい。中でも、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は11月10日の「真実から目を背ける日本企業」というタイトルのコラムで、当初、一貫して事実を否定し続けてきた企業姿勢について「日本ブランドと言えば優秀なものづくり文化の象徴だ。ところが、近ごろでは誤りを否認しようとする日本企業のイメージと重なって見える」とし、オリンパス損失隠しを厳しく批判している。米国エンロンなどのケタ外れの粉飾決算事例があり、何も日本だけの特殊事例ではないものの、今回の場合、マイケル・ウッドフォード元社長の内部告発をしっかりと受け止めず、逆に解任しただけに、外国メディアはぐいと踏み込んだ形だ。

メディアは好き勝手に、すぐ批判したがる、と言われそうだが、今回のオリンパス事件は、経済ジャーナリスト経験の長い私でも唖然とすることが多すぎる。冒頭に申上げたように、なぜ、なぜばかりだ。そこで、「企業はいったい誰のものか」という括(くく)りで、経済ジャーナリストの目線での疑問を「なぜ」の形で、いくつかぶつけてみたい。

なぜ、その1「20年間もどうして巨額損失を封印できたのか」
 まず、オリンパスの場合、20年間も巨額損失の存在を封印できたこと、隠し通せたことが信じられない。とくに、監督当局が、企業の目に余る粉飾決算事例をもとに、再発防止のため、早期発見できるような制度設計をしているはず。ところが、過去の山一証券が「飛ばし」を行って大問題になった際、抑え込んだはず。それがまた、依然とは違って手の込んだ形で出てきてしまった。経済犯罪をチェックする技術はなかったのだろうか。

メディア報道によると、2001年3月期からの時価会計制度の導入によって、含み損を時価で実損として決算計上することが義務付けられたため、放置すればばれると、あわてて大手証券OBの入れ知恵に従って社外の投資ファンドに損失を移し替える「飛ばし」を行った。つまりファンド発行の債券と、含み損を抱える問題金融商品をもっともらしく等価交換の形で取り繕った、という。悪い奴というのは徹底してワルに徹し、投資家や消費者など企業のステークホールダーのことなど関係ない、というわけか。その場合、何を守ろうとしたのか。明らかに企業だけが大事で、投資家や消費者は眼中になかったのだ。

なぜ、その2「一握りの財務出身のトップだけで隠し通せるものか」
 今回の場合、専門の弁護士らでつくる第3者委員会の解明に待たねばならないが、なぜ、一握りのトップが経営数字をすべて隠し通せたのか、未だに理解できない。財務出身者のトップが多かったというが、それにしても数字処理する財務や経理担当者は当然、知っていたはず。実は、オリンパス社内では財務・経理だけでなく管理部門では周知のことだったが、誰もが自分の首のみならず会社の命運を左右する情報開示のリスクを感じて、口にチャックだったのだろうか、そのあたりは全く見えてこない。今後の検証が必要だ。

オリンパスの歴代社長はいずれも異例の長期の在任期間だ。トップ交代が普通の企業のように、4、5年ごとに行われていれば、問題が表面化した可能性もある。その意味で、歴代の長期政権化は、問題隠しのためのものと、疑われてもやむを得ないかもしれない。
時期的に問われるのが、1984年から93年までの実に9年間、社長を務めた下山敏郎氏、そのあと7年間、社長職の岸本正寿氏、さらに2001年から10年間、社長そして会長職にあって今回の問題の中心人物の菊川剛氏がトップの座にあった。このうち下山氏はメディア取材に対して「損失隠しなど知らない」と全面否定、岸本氏はメディアに顔を出さないので、わからないが、菊川氏は損失隠しをハッキリと認めている。このトップに加えて今回の表面化で、関与を認めた森久志前副社長、山田秀雄常勤監査役の2人だ。

なぜ、その3「解任の監査役を除き、他の監査役や監査法人は
チェックできない?」
次の問題は、常勤監査役の山田氏が財務担当役員時代から、粉飾決算に関与していたのも大問題だが、口封じのためなのかどうか、そのまま常勤監査役というお目付け役に横滑りして本来の責務を果たさずに、ひたすら粉飾数字が外部に出ないように動いた、というのだから驚くべきことだ。常勤監査役というポジションの形骸化がなげかわしい。オリンパスの場合、監査役には社外監査役も名を連ねていたというが、お飾りだったのだろうか。

それと、監査法人も問われる。長年、監査を引き受けていたあずさ監査法人が過去の飛ばしなどの時期に、プロの大手証券OBが巧みに裏で仕組んだとはいえ、本当にわからず仕舞だったのだろうか。ただ、あずさ監査法人が2009年3月期決算の監査で、問題の英国医療機器メーカーのジャイラス買収に伴う投資助言会社への支払い報酬額が大きすぎること、さらにオリンパスの本業とは無縁の国内の健康食品企業など3社買収についても、買収額と企業価値との差額を損失計上すべきだ、との指摘を行っていた、という。

ところが、オリンパスは、監査意見を受け入れて国内3社分だけ、指摘の損失を計上して決算承認を得たが、そのあと、急きょ、新日本監査法人に切り換えた。ある監査法人の幹部は「過去にもわれわれ監査法人の存在が問われたことがあり、公認会計士協会はじめ業界団体でも、かなり厳しいル―ルづくりで対応している。もし粉飾を見て見ぬふりしたら、金融庁からも課徴金など厳しい処分があるので、いい加減な監査はしていないはずだ」という。しかし20年間、監査のプロがだまされたことは紛れもない事実だ。

なぜ、その4「取締役会はウッドフォード氏の告発資料をどうして
無視したのか」
 オリンパスの取締役会自体の問題も問われて当然だ。とくに、菊川会長や森副社長(いずれも当時)に対してマイケル・ウッドフォード社長(当時)が独自に海外の調査機関にチェック依頼した結果をもとに、買収した英国企業への不当な投資助言報酬の支払いを問い詰めても、はっきりした回答が得られなかった。そこで、取締役全員に対して外部調査結果の資料を送り、取締役会で問題視すべきだとしたのに、ほとんどの取締役が無視したことがウッドフォード氏のメディアインタビューでの証言で明らかになっている。

そればかりでない。私が見ても、おかしいなと思う健康食品企業など、本業とは無縁のベンチャー投資に巨額の買収資金をつぎ込んだことに関して、当時の取締役会はどういった議論を行い、買収案件にゴーサインを出したのか、むしろ反対意見はどうだったのか、ここも議事録などでチェックしたいところだ。結局、ワンマンリーダーの菊川社長の意に逆らえない、という眠れるスリーピング経営ボードだったということなのだろうか。とくに社外取締役の存在が問われる。

なぜ、その5「雑誌ファクタの調査報道記事を無視した
既存メディアの怠慢?」
 コラムのスペースが限られてきたので、ぜひ、時代刺激人ジャーナリストとして、なぜの形で指摘しておきたいことがある。それは今回の問題を鋭く提起した雑誌ファクタが、既存のメディアに無視されたことだ。
雑誌ファクタは、このオリンパスの企業買収の疑惑を問題視する調査報道記事を掲載し、マイケル・ウッドフォード氏が友人から、その記事の日本語訳記事コピーを読んで驚いた所からオリンパス社内で問題がスタートする。ウッドフォード氏は依頼した調査会社の調査事実が雑誌記事どおりだったので問題告発に踏み切った。ところが菊川社長に無視され、取締役会にも相手にされず、挙句の果てに解任という事態に及んで、一気に問題が表面化することになったが、なぜ日本国内のメディアが、そこに至るまでずっと雑誌記ファクタの記事を黙殺したのか、という点だ。

私自身、この雑誌の愛読者だが、オリンパスの問題記事が出た時には、私のカバー領域のテーマでなかったので、「これはすごい記事だ。大騒ぎになるのだろうな」と思うにとどまっていた。ところがどこにもフォロー記事が出ない。オリンパスが徹底して「知らない」「事実無根」を通しているのだろうか、でも新聞社の取材力をもってすれば、どこかで浮き彫りになるのに、と思っていたが、それでも記事化されず、今回、問題表面化した途端に怒涛のような新聞記事が出てくる。それだけの取材力があるのなら、もっとメディアの存在感をアピールすれば、と思った。率直に言って、既存のメディアの敗北だ。

オリンパス元専務の
「ウッドフォード氏を社長に復帰させ再建」案に賛成
 このオリンパス問題は、株式市場での上場廃止問題にとどまらず、株主の損害賠償要求を求める株主代表訴訟に発展する可能性が極めて高い。そうなったら、オリンパスと言うい名門企業の行く末は厳しい事態が待っている、ということになりかねない。歴代の一握りの財務出身トップの犯した罪は計り知れない。企業はいったい誰のものなのか、ということを改めて問いたいし、企業のガバナンスはどうなっているのか、という点も、それぞれの企業が自分たちの企業はどうだろうか、問い直してほしいぐらいだ。

このオリンパスという企業の再建に必死になっている元専務の宮田耕治さんが現役社員に働きかけて、解任された元社長のマイケル・ウッドフォード氏を復帰させ、再建の担い手にすべきだと書名集めをしている、という。また、オリンパスの株主の米投資会社、サウス・イースタン・アセット・マネージメント社も、同じくウッドフォード氏の経営裁量を認めて社長復帰を支持している、という。うれしいことにウッドフォード氏自身も、メディアのインタビューに答えて、オリンパスの技術力をベースにすれば再建は可能と意欲的だ。
私も、この際、現在の取締役は全員、退任し、新たな経営をウッドフォード氏に委ねて再建を図ればいいと考える。問題は、上場廃止などの厳しい現実も考えられる中で、どう再建が可能か、すぐには見えないが、チャレンジすることは必要だ。それにしても、ここ数代の損失隠しに躍起になってオリンパスという企業をダメにした経営トップの責任は本当に重い。

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