たばこ税、日本人の健康確保といった政策鮮明なら税率引き上げやむなし 吸い続ける喫煙者の「勇気」には敬意、公共の喫煙スペース確保など配慮も必要


時代刺激人 Vol. 61

 民主党政権が初めて手掛ける2010年度税制改正で、ガソリンにかかる揮発油税や自動車重量税などかつて道路財源確保のためだった暫定税率の廃止の一方、国民の健康確保をねらったたばこ税率引き上げや地球温暖化対策税(仮称)導入の増税案が浮上し、増減税一体の税制改正となりつつある。そこで、今回は、たばこ税にスポットを当て、増税の意味合いが何なのか、取り上げてみよう。
このたばこ税増税、正確にはたばこにかかる税率引き上げについては、鳩山由紀夫首相が政府税制調査会(政府税調)に対して、国民の健康に対する負荷を踏まえた課税という観点で検討を、という諮問を行い、にわかに注目を集めた。早い話が、新政権はマニフェスト(政権公約)に沿って、暫定税率の廃止に踏み切ることで税収が国と地方合わせて2.5兆円ほどの税収減となり、こども手当などの新政策に伴う歳出増をまかなう財源が捻出できないため、穴埋めあるいは調整財源として、たばこ税増税に照準を当てたのでないか、という感じが否めない。

税収確保のための安易な増税では納税者はそっぽを向くのは必至
 結論から先に申し上げれば、新政権は政権交代で過去の呪縛(じゅばく)から解き放たれて新しい制度改革、政策提案を行うのが大事。その延長線上でいえば、たばこ税増税に関して、税収確保のために税金をとりやすいところから安易にとる、というこれまでの自民党政権のような政策手法ではなくて、新政権らしく、この増税によって、国民の健康確保のために政策誘導するのだ、といったハッキリとした政策アピールが必要だ。そのためのさまざまな健康確保対策に関して、たばこ税増税によって健康にマイナスなたばこ消費の抑制を図るといったことをはじめ、数多くの政策メニューを示す必要がある。それが果たしてできるのかどうかだ。
私個人は、そういった増税に関する政策的な意味づけを明確にしたうえで、鳩山政権が、国民に信を問うという強い政策姿勢を示すことができるのならば、たばこ税増税に関しては引き上げることはやむをえない、と思う。地球温暖化対策税に関しても同様で、新政権が強い政策アピールをして、納税者を納得させる、それどころか納税者が新しい政策について、あえて増税を甘受してでも新政策への参加意識を明確に持つことができるかどうかだ。その点が不明確なまま、口先だけの安易な増税だと、納税者の国民は新政権に対してそっぽを向くのは必至だ。新政権は過去の政権と、政治手法や政策手法の面で何の新鮮さも感じられない、といった反発だけが残る結果になりかねない。
かつては、私もヘビー・スモーカーだったが、今は健康とのからみで、まったく吸っていない。しかし最近の喫煙環境を見ていると、公共スペースはもとよりだが、企業内でも喫煙スペース以外では吸うことまかりならぬ、という形で、喫煙者にとっては、肩身の狭い思いでいるどころか、失礼ながら、どちらかと言えば除け者扱いされてしまっている。これだけ健康への影響が言われながら、それでも吸い続ける人たちに関しては、私は最近、吸い続ける「勇気」に敬意を表する。それでと言うわけでないが、仮に民主党新政権がたばこ税増税を決めた場合には、しっかりとした政策説明責任を全うすると同時に、公共スペースなどで喫煙スペースをぐんと増やして、喫煙者への配慮も必要だ。そうでないと、喫煙者の人権を無視するのか、といった造反も起きるリスクがある。

自民党政権時代は葉たばこ農家対策に躍起、民主党政権は説明責任を明確に
 そんなこと、わかりきっていることじゃないか、と言われそうだが、今回とりあげるたばこ税に関しては、過去の自民党政権のもとでは、初めに税収確保ありきで、納税する立場のたばこ喫煙者に対するしっかりとした政策説明などがあったという記憶はない、むしろ、その時々の政権が増税に際して腐心したのは、葉タバコ農家の減収対策だけだった。こういった形で、時の政権が税制を税収確保のために、表現悪いが、もてあそぶような形で扱ってはだめだ。民主党政権は、有権者の国民から、政権交代によって新しい政策姿勢、制度改革を期待されて誕生したのだから、政策の説明責任を明確にし、政策の透明度を高めることが必要だ。
 今回、たばこ税を取り上げようと考えるに際して、たばこ1本に、どれぐらいの税金がかけられているのかと調べてみたら、喫煙者は文字どおり税金を吸っているようなものだということがわかった。驚くなかれ、税金は5つの税目に分かれ、いろいろなところが群がるように課税していた。まず国が1本あたり3.557円、続いて都道府県たばこ税として同じく1本あたり1.074円、そして市町村たばこ税として3.298円、4番目が実にあいまいな「たばこ特別税」という形で1本0.82円が課税され、これが国債整理基金特別会計に入り、要は国債の償還財源となっている。そして5番目が消費税。これらをひっくるめて、標準タイプの20本入りのたばこで換算すると、1箱300円のたばこに対して、たばこ税の形での税金が189.17円かかるそうで、要は約60%が税金分という計算になる。まさに、今の喫煙者は税金を吸っているようなものだ。

厚労省はたばこ1箱500円を要望、鳩山首相は超党派で以前1箱1000円提案
 厚生労働省が政府税調に対して行った2010年度税制改正要望では、健康対策や社会保障費の財源確保を理由に、たばこ税を1本あたり10円の引き上げを求めている。これを1箱300円のたばこに換算すると500円にするというものだ。もし、増税となれば、1本あたり85銭の引き上げを行った06年度以来、4年ぶりのこととなるが、今回はケタ外れの値上げ幅要求となっている。
しかし、以前、鳩山首相がまだ、民主党が野党時代に、自民党の元政調会長や元幹事長だった中川秀直氏らと連携して、このたばこ問題で超党派での議員連盟をつくり、国民の健康維持のための禁煙政策の一環として、たばこ1箱1000円案を打ち出したことがある。その意味で、今回、政府税調に対して、鳩山首相がたばこ税引き上げの諮問を行ったのも実は、かねて用意の政策提案ということなのかもしれない。
 経済のデフレ脱却が難しく、低物価が定着する中で、肝心の所得が伸びないどころか、コストカットがらみで企業の賃金や給与にしわ寄せが来ているそうした状況下でたばこが嗜好品というよりも必需品のようになってしまっている人たちにとっては、1箱500円もさることながら1000円ともなれば死活問題になりかねない。それだけに、新政権としては、増税という形での新政策が、それら喫煙者の生活を奪うのではなくて、本当に健康の維持、確保のためには重要な政策提案なのだということを説明できるかどうかだ。

医師から「人間やめるかたばこ止めるか」警告され1日100本喫煙ストップ決断
 実は、冒頭で申し上げたように、私は毎日新聞記者時代にピーク時、1日5箱、つまり1日100本のたばこを吸うヘビー・スモーカーだった。原稿を書く際に、たばこを吸えばいいアイディアがひらめくのでないか、という、いわばたばことアイディアは関数関係にあるなどと勝手に思い込み、プカプカと吸っているうちに、一時は人間、まさに煙突状態で煙をモクモクと吐き出していた。健康にいいはずがないが、人間ドックでの検査で肺が曇ってしまっていて、医師から「人間やめるか、たばこ止めるかだ」とか「酒を止めるか、たばこを止めるか」といった警告を再三にわたって受け、家族のことも考え、節煙どころか禁煙することにした。
と言っても、この禁煙へのチャレンジは2回目で、以前、私は失敗している。旧大蔵省担当で取材しているうちに、イライラして軽い気持ちで一服、吸ったらこれが裏目に出て弾みがつき、禁煙宣言以前よりの喫煙量が大きくアップしてしまう苦い経験があった。そこで、一計を案じて、周囲に1本でも吸ったら罰金を払う、ただし成功したら逆に目的実現おめでとう賞という形で賞金を支払うという投資ゲームを計画した。計画期間の最大3か月間、悪戦苦闘でがんばった結果、何とか克服できた。それからもう20年がたっており、完全に断ち切れた。

「爆笑問題」の太田さんは「何と言われようとも止める気はない」
 肺がんなどの外科治療の医師、奥仲哲弥さんとテレビで有名なコント「爆笑問題」の太田光さんの2人が対談した「禁煙バトルロワイヤル」(集英社刊新書)がなかなか面白い。自他ともに認めるヘビー・スモーカーの太田さんは、「1日20本、たばこを吸うと、1年でタールが牛乳瓶1本分たまる計算になるんだぞと言われても、それが何か問題でも?という感じなのでしょうか」と聞かれたのに対して「う~ん(笑い)。でも、何と言われようと、現時点では止める気はないんです。禁煙で苦しんでいる人はいっぱいいるけど、僕は止めようと思えば多分、簡単にやめられると思っているんです」とか、「1日に吸うたばこの本数X年数。これはプリンクマン指数と言って、喫煙者ががんにかかる危険度数を表します。この指数が400を超えると危険ゾーン、800を超えると極めて危険ゾーン突入となります。太田さんの場合、吸い始めて25年で1日40本ですから1000の数値で、がんになる可能性が極めて高いです」という話に対しても、太田さんは「とりあえず今のところは体調は悪くないですね」「僕は身体的にも精神的にもストレスがないのです。仕事がつらいと思ったこともないです」といった調子。

政府のたばこ税増税めぐる政策議論の情報開示と同時に科学的データ開示も
 税金を高くすることで、政府の税収は増えるのは間違いない。今回のたばこ税のように仮に1箱1000円ということになれば、約60%が税金だから税収増は大きいが、喫煙者の造反もあり得るので、国民の健康確保を優先した、という明確な首相メッセージが必要だ。その政策決定に至るまで、政策論議の透明性を示すため、情報開示を行うのは当然だが、次世代のことを考えての苦渋の選択をした、ということが説得力を持つかどうか、大きく問われるところだ。「爆笑問題」の太田さんと対談した奥仲さんの話のように、本当に健康に害があるのかどうか、科学的な検証データの開示も当然必要だ。
それに、最初のところで指摘したが、喫煙環境を改善することも重要なことだ。いま、日本では男性の約40%、女性の約12%が喫煙人口であり、とても無視できる数字ではない。ところが、公共の場所では喫煙制限どころか禁煙指定が強く出てきており、またオフィスなどの中でも、喫煙者の喫煙スペースが著しく少ない。これらの人たちは社会の片隅に追いやられてしまっている。たばこを吸わない人たちへの健康配慮と同時に、たばこ増税によって、喫煙者の禁煙を促すことで、国民全体の健康度を高めるのは大事だが、その一方で、これら喫煙者の人たちへの喫煙環境を改善することも案外重要なことだ。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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