大丈夫か鳩山民主党政権、誰が見ても迷走にしか見えない高速道路料金改革 統治能力の欠如も極まれり、「小沢さん、あなたが口出しするたびに事態悪化だ」


時代刺激人 Vol. 81

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ガバナンスは、統治能力をさす言葉だが、今の民主党、そして鳩山由紀夫政権は、政策決定過程での迷走の度が過ぎ、統治能力そのものがすっかり欠如してしまっている。政権交代で、この国が変わってほしいという期待が大きかっただけに、事態は憂慮というレベルを越えてしまい、この国の経営を民主党政権にゆだねておいていいのだろうか、という不安に駆られる。最近の高速道路の料金制度の見直しをめぐって、政府と与党の対立が高じて二転、三転し、とどのつまりは事実上の問題先送りとなったことが象徴的だ。メディアで散々、批判を浴びており、このコラムで取り上げても「またか」と思われるだけと思いながらも、やはりジャーナリストの立場からすると、黙ってはおれない。

問題は3つ、鳩山首相の指導力のなさ、小沢幹事長の二元政治、労組の権益擁護
 結論から先に申し上げれば、統治能力の欠如はいくつかの問題に起因する。1つは、鳩山首相自身の指導力の決定的な欠如は言うまでもないこと。2つは、民主党政権が政策決定の一元化という形で内閣に最終的な決定権限を与えていたにもかかわらず、小沢一郎民主党幹事長が目先の参院選の選挙対策などからの口出しで政策がひっくりかえる二元決定が常態化してしまっていること、3つが、民主党は旧自民党政権時代の族議員政治、業界団体などの既得権益擁護の政治を否定しておきながら、その実、連合や自治労、日教組などの労組に支持基盤を置いていて、労組などの既得権益を擁護する現実があり、国民から見れば、政治は何も変わっていないという印象しか与えていないということだ。

さらに付け加えれば、民主党とは相容れない国民新党、社民党との与党連立政権の枠組みが政権を一段と不安定にしている。参院での過半数を制するという数合わせだけの論理で連立を組んだが、亀井静香国民新党代表に振り回されてしまっていて、民主党らしさがまったく出ていない。連立の解消をどこかのタイミングでとらない限り民主党らしさは失われるばかりだ。

小沢氏の古い政治体質、権力体質が民主党を劣化させるばかり
 とはいえ、最大の統治能力欠如は、最初の3つの問題から起きている。いずれもが複雑にからんで、何か問題があるたびに、ねじれ現象を起こし、最後は冒頭に申し上げたように、政権の統治能力の決定的な欠如という事態に至ってしまっている。しかし首相の指導力のなさは今に始まったことでなく、旧自民党政権時代の安倍晋三氏、福田康夫氏、麻生太郎氏といった二世議員首相時代から共通したことで、政治家の質の劣化がひどくなっていた。それが今回、鳩山首相にも表れただけだ。
それよりも、私が問題視したいのは、小沢氏の古い政治体質、権力体質だろう。政治家としての志の高さといったものを感じさせず、この国の将来を託してみたいな、という気持ちすら起こさせない。政治手法も古いし、こわもてが高じて一種の恐怖政治のような状況を民主党に生みだしている。民主党を劣化させるばかりだ。「小沢さん、あなたが口出しするたびに鳩山政権への政策信頼度が低下し、内閣支持率低下に拍車をかけ、このままでは参院選での手痛い敗北という事態に陥りますよ。いいのですか」と言いたい。

舛添新党改革代表「小沢幹事長が政府方針を左右することが問題」 と鋭く指摘
 新党改革代表となった舛添要一氏が自著「日本政治改革原論――厚生労働省戦記」(中央公論新社刊)で、面白いことを言っている。「民主党の小沢一郎幹事長が政府・与党の一元化を唱え、民主党内の政策調査会・部門会議を廃止したのは、自民党の族議員の弊害の反省に立てば合理的な決定である。田中角栄、金丸信の直系だからこそ、旧来の自民党政治の問題点もよく把握しているのだろう。ところが実際には、政府の方針を小沢幹事長が左右するといった、およそ理想とはかけ離れた政治運営がされている」と批判しているのだ。

まさにポイントを衝いている。ご記憶だろう。昨年12月の政府・与党首脳会議で、小沢幹事長が鳩山首相に2010年度予算案への18項目の重点要望という形で政策変更要求を行った時がそれだ。とくに、民主党がマニフェスト(政権公約)で掲げたガソリン税の暫定税率の廃止について「業界団体や自治体、全国民からの陳情、要望だ」として、暫定税率の維持を迫り、有無を言わせずに実現してしまったことだ。景気低迷で税収が落ち込んでいる中で、暫定税率を廃止すれば税収減に追い打ちをかけるばかりか、予算編成が出来なくなる、それでいいのか、という判断からで、小沢氏としては、当時、財源不足で予算編成が袋小路に入った事態の打開を図ったつもりなのだろうが、結果として、内閣の政策一元決定の大原則を突き崩してしまった。

旧自民党政治の「失敗の研究」効果で、与党幹事長室に陳情調整の権限集中
 旧自民党政権時代も政権と与党との間に派閥政治がからみ、二元決定は日常茶飯事だった。小泉純一郎政権になって一時、首相官邸に政策決定機能が収れんしたことがあったが、その後の安倍、福田、麻生政権時代は旧自民党自身の地盤沈下だけでなく、トップリーダーとしてのそれぞれの首相の指導力のなさで、政策どころでなくなっただけ。
小沢氏は、政権交代で民主党が権力を担ってから、多分、最も意識したのが旧自民党政治の「失敗の研究」効果として、与党幹事長に力を集中することだったのだろう。そこで、旧自民党のような政務調査会、総務会などの組織を廃止した。政策決定では与党は関与しないというポーズをとりながらも、現実には与党、とりわけ与党幹事長だけが政策に関与する権限を持つというふうにした。その足掛りが、税制改正や政策の利害調整の陳情などの窓口を民主党幹事長室に一本化させたことだ。旧自民党時代には税制改正は自民党税制調査会が窓口になっていたし、政策の利害調整は族議員が行っていたが、民主党政権になってからは、小沢氏の判断で与党幹事長室をすべて窓口にした。当然ながら、業界団体などにニラミがきく。参院選など選挙対策には、それが好都合だということを知り抜いてのことだろう。

小沢氏の見直し要求は参院選対策見え見え、政策決定システムのいい加減さ露呈
 今回の高速道路料金の見直し問題での小沢氏の口出しは、まさに参院選の選挙対策に他ならない。前原誠司国土交通相が政務3役で決めた「普通車の高速道路料金の上限2000円」の新料金制度は、小沢氏が昨年12月の2010年度予算案への18項目の重点要望にあった高速道路整備の推進とからむものだったが、今の小沢氏にとっては、この新料金制度では一部の地域で値上げとなっており、トラックなどの運送業界の組織票をとり逃がすリスクを感じた。それが政府・与党首脳会議の場での小沢氏の見直し要求となったのだろう。
しかし、前原氏がその後、問題視したように、新料金制度案を閣議決定しているのだから、小沢氏が口出しすること自体、おかしな話であることは間違いない。そのうえ、鳩山首相が混乱を招き、まず小沢氏の要求を受け入れてしまったこと、その後、今度は担当の前原氏から「冗談じゃない」とねじ込まれたら、鳩山首相が再び態度を変えてしまい、世の中には二転、三転する政策決定という最悪の印象を与えてしまった。誰が最後の振り付けをしたのか定かでないが、前原氏は鳩山首相や平野博文官房長官との会談で、1)現時点では制度の再見直しはしない、2)6月実施に向け国会での関連法案のスムーズな審議を求める、3)ただし高道路料金のあり方に関しては、国会審議の状況を踏まえ、国土交通省で総合的に判断する、という考え方を示し、首相官邸での鳩山週相らの3者会談は「それでいこう」となった。現実は問題先送りだが、小沢氏の口出しは参院選対策が見え見えとはいえ、民主党政権の政策決定システムのいい加減さを露呈してしまったのだ。

郵政改革法案も参院選対策で鳩山首相はおかしな決着、今後がさらに心配
 79回のコラムでも取り上げたように、郵貯の限度額引き上げなど郵政改革法案をめぐる連立政権内の対立でも政策決定の透明度がなくなっている。そして鳩山首相が政治指導力を発揮できず、目先の参院選での全国郵便局長会などの郵便局票をとり込みたい亀井国民新党代表(金融および郵政改革担当相)の思惑に、鳩山首相は妥協し、政権内部の他の閣僚の批判も振り切って、わけがわからない形での「総理一任」で亀井案を事実上、受け入れるおかしさだった。
最近のメディアの世論調査では鳩山政権の内閣支持率は下がるばかり。鳩山首相が盛んに5月末の決着を公言する沖縄の米軍普天間基地問題についても、客観情勢は厳しくなるばかり。鳩山首相の最近の首相番記者とのぶら下がり会見を見ていると、目が泳いでいる。早い話が逃げの姿勢で、毅然とした指導者の姿勢が見受けられない。日本は危うい、大丈夫なのかなと思わず思ってしまう。

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