韓国最強のグローバル企業サムスン、技術力や生産性の低さに意外な弱み 逆に強みのマーケッティング力で突出、日本は「表」の競争力磨けば対抗可能


時代刺激人 Vol. 107

前回コラムで、韓国サムソンの経営に長く携わられた東京大学大学院ものづくり経営研究センター特任研究員、吉川良三さんの話などをもとに、日本企業のグローバル戦略はどうあるべきか、という点にスポットを当てた。そうしたら、うれしいことに反響があり、さまざまなコメントをいただいた。その多くは、韓国グローバル企業サムスンから学ぶものは何か、逆に弱点は何かといった点に関心があった。そこで、この際、サムスンがかつて日本企業の背中を見て自らの競争力を強化したと同じように、グローバル市場で力強く動き回るサムスンから日本企業が学ぶものは何かを今回、浮き彫りにしてみよう。

ご記憶だろうか。吉川さんの話で興味深かったのは、サムスンやLGといった韓国企業は当初、技術力に欠ける三流企業で、必死に日本企業の持つ技術力を模倣し、あとは安い労賃などコスト競争力を武器にキャッチアップを図る、という戦略だった。ところが、サムスンはある段階から、日本を後追いするやり方を止めた。要は、日本企業をターゲットにするよりも、グローバル化という時代の流れのもとで急成長するアジア新興市場にビジネスチャンスがあり、新興市場そのものをターゲットにすべきだと鋭く見抜いたのだ。

サムスンは日本企業の後追いを止め、新興市場戦略に切り替えたのが成功
 しかも、ものづくりがアナログからデジタルに変わり、技術のデジタル化によって、どこでも、そして誰もが難しい技術を装備しなくてもつくれることを知った。極めつきは、新興市場に戦略ターゲットをしぼり、現地のニーズに対応する徹底したマーケッティング戦略でサムスンのデザインやブランドをアピールして、あっという間にシェア確保した、という点だ。確かに、サムスンが技術のデジタル化に合わせて、マーケッティング戦略を巧みに駆使する戦略に転換したことは、なるほどと思わせるものがある。

しかし吉川さんに言わせると、日本企業は技術力などの強みの部分を活用しながら、サムスンと同様、新興市場などでの徹底した現地化という形で現地のニーズを見極め、製品に工夫を施し、あとはマーケッティング力で多様なグローバル市場に機敏に対応すれば、サムスンを凌駕(りょうが)できる、という。つまり日本企業には技術という底力があるので、吉川さん流に言えば、「表」の競争力をしっかり磨けば、サムスンには十分に対抗可能だ、というのだ。

日本企業は品質力、生産方式で優れた強みあるが、欠けるのは市場づくり
 この「表」と「裏」の競争力のうち、吉川さんによると、「表」の競争力は、サムスンが得意とするもので、デザインやブランド売り出し力、マーケッティング力、さらには価格政策力などで、消費者からよく見える表の部分。これに対して「裏」の競争力は、品質、それを支える生産方式、企業体質など、どちらかと言えば消費者からは全く見えない部分だ。日本企業は、この「裏」の競争力について、優れた強みを持っているが、「表」の部分の市場づくりという点では競争力に欠けている、と吉川さんは語る。
言われてみればそのとおりで、日本企業は、熟知した日本の国内市場を別にして、アジアの新興市場のような言語、文化、宗教、商慣習などが大きく異なる地域でのマーケッティング力では、これから述べるサムスンのすごさには、まだまだかなわないことは事実だ。

「携帯電話作った日本」「携帯電話『市場』作った韓国」はなかなか本質ついている
 吉川さんが言う「表」の競争力のうち、サムスンの市場づくりのたくましさで、ふと思い出したことがある。株式会社コムセル社長の飯塚幹雄さんが書いた「市場づくりを忘れてきた日本へ。」(しょういん刊)で、日本と韓国の企業の取組みの違いを浮き彫りにする、とても印象に残った小見出しがあったのだ。

それは「携帯電話を作った日本、携帯電話市場を作った韓国」という部分だ。技術力で優れている日本の携帯電話が、制度的なカベも加わって、世界市場でまったく通用せず、挙句の果ては日本以外の市場でのシェアがほとんどとれず「ガラパゴス化した日本の携帯電話」と、ひやかされた話につながる部分だ。

日本の携帯電話がカメラ機能を売り物にしてもアジア市場では無用の長物に
 飯塚さんはこう書いている。「東南アジアでフィールド・マーケッティングという手法で携帯電話販売店、ユーザーリサーチをしたことがある。東南アジアはサムスン・エレクトロニクス、LGエレクトロニクスといった韓国勢、ノキア、モトローラ、ソニー・エリクソン、さらに現地ディストリビューターが扱う携帯電話もある大混戦地帯。この市場で日本製の携帯電話も並べてもらい数カ月、調査したが、どうしても他国勢を抜くことが出来ない。理由はいつも『ラジオがついていない』といった点だ。カメラ機能などでは、どう見ても日本勢が勝っていたが、シェア・ナンバーワンをとることはできなかった」と。

飯塚さんは「日本が自慢するカメラ機能。いくら画質がよくても、コンピューターにデータを移さなければ、メモリーは数枚の写真でいっぱいになってしまう。コンピューターの普及率の低いインドや東南アジアでサムスンの何倍もの価格で売ろうとしていたのだ。(日本企業は)現地を知らない、ということになる」。なかなか痛烈な指摘だ。サムスンは徹底したマーケット・リサーチによって現地ユーザーのニーズ、消費購買力レベルを調べ上げ、日本のような多機能の機種でなくても低価格の使いやすいもので、一気に販売攻勢をかけてシェアを握るのだ。

サムスンの戦略転換は1997年アジア金融危機、国際化からグローバル化へ
 さて、ここで、本題のサムスンの企業研究に話を移そう。10年間もサムスンの経営に携わった吉川さんは、サムスンの経営の強み、弱みを知りつくしている人なので、吉川さんがセミナー講演された「サムスンに学ぶ新時代の経営戦略」のポイント部分をぜひ、みなさんにご紹介したい。というのも、私自身、サムスンを取材したいと思っているが、なかなかチャンスがないためだ。ご了解願いたい。

まず、サムスンは、1997年のアジア金融危機に韓国も大きく巻き込まれ経済危機に陥った際、国際化からグローバル化へと経営を移行させた、という。ポイント部分なので、少し述べておこう。吉川さんによると、国際化は、サムスンが海外に工場や拠点を持っているだけのことで、製品は現地ニーズに関係なく韓国で企画立案、設計されたものを安い労働力のある海外で生産するだけの意味合いだ。ところがグローバル化は、市場として期待される国や地域に向上や拠点を置いて、その国の文化に合った地域密着型ものづくりをする、というもの。現在の新興市場戦略が、この時点でサムスンの経営にとって最重要課題になると同時に、それまでの日本追従政策に見切りをつけた、というのだ。

サムスン会長「すべての商品が日本のモノマネ、品質も劣る」と93年に荒療治
 さらに吉川さんによると、サムスン経営陣は1993年に徹底したライバル研究を行い、生き残りをかけた大手術をやった。危機意識のポイントは、「すべての製品が日本のモノマネで、かつ品質が著しく劣っている」「コストは日本よりも高く、販売価格は日本製品よりも20%安く設定しないと競争力がない」「このままでサムスンはつぶれる、サムスンがつぶれれば韓国がつぶれる」というものだ。そして、サムスングループ企業の自動車をルノーに、重工業部門をボルボに、防衛産業をトムソンに売却すると同時に航空機や発電事業、船舶エンジンなどを韓国他企業と合併や統合させた。これらによってグループ会社140社を83社に、主力のサムスン・エレクトロニクスで1万2000人の従業員の強制退職、分社化を大胆に進めた、という。

このあたりの経営の大胆さは、サムスングループの総帥で李さんというワンマン会長がいればこそ出来ることで、サラリーマン経営者が多い日本企業では到底、考えにくい。しかし、この李会長のすごさは、吉川さんによると、「顧客は最初にデザインによって心を動かす」という経営哲学に沿って、各国から1000人以上の優秀なデザイナーを集め、製品の機能や品質よりもデザイン力を重視した組織能力に力を入れたことだ、という。

また、グローバル化への対応という点では、やや専門的になるが、組織能力についても情報技術(IT)を活用した生産データ管理の整備、知識共有センターの設置などを積極的に進め、世界中の市場の動きに素早く対応する組織にしている。当然、情報戦略に関しても似たようなグローバル対応だという。要は、人口4800万人の相対的に少ない人口の韓国の国内市場はサムスンにとっては、ターゲット市場でも何でもない、という明確な割り切りなのだ。

サムスンは自身の弱み知り戦略転換の可能性、ソリューション・ビジネスを視野に
 ただ、吉川さんによると、サムスンの弱みは、いくつかあるが、サムスン自身は十分に弱みを知っていて、次への戦略転換も考えている、という。その弱みは、研究開発にはかなりの力を入れているが、まだまだ基礎技術の面で弱さがあること、生産性の面でも立ち遅れがあること、さらに韓国には日本のような優秀な中小企業、とくに部材を支える企業が育っていないため、サムスンを支える企業インフラ面でも決定的な弱さがあることだという。サムスンの李会長は「あと5年以内に、現状維持にとどまり、新たな戦略展開をしないと韓国は吹っ飛ぶ」といういい方をしているそうだ。
吉川さんが見通すところ、サムスンは場合によってはモノづくりから撤退し、ソリューション・ビジネスに移行する可能性がある、という。このビジネスは、最適の解決提案でIT市場を攻略するビジネス、問題解決型ビジネスと言われ、IBMなどがチャレンジしている事業分野だ。

吉川さん「日本企業はグローバル社会の変化に常に着目すべき」と強調
 私に言わせれば、サムスンはいま、新興市場で「表」の競争力でもって、しかも低価格攻勢で市場シェアを確保しているが、「1人勝ち」でないにしても、いまの高い市場シェアをどこまで持続できるか不透明だ。つまり、いずれ中国などの後発メーカーが同じビジネスモデルで新興市場に本格参入する可能性が大きい、さらには新興市場での中間所得階層が膨れ上がりレベルの高い品質のものなどを求め始めると、サムスンにとっては厳しい競争を強いられる可能性が出てくるからだ。
こういった中で、日本企業のグローバル経営戦略はどうあるべきだろうか。吉川さんはサムスンのような「表」の競争力を強化すれば、十分にグローバル市場展開は可能だという。さらに、吉川さんは「グローバリゼーションとデジタルものづくりによって、社会が大きく変化したことに着目すること、独創的な新技術よりも既存の技術を進化、あるいは深化させることで新たな競争力をつけることが重要でないか」という。みなさんは、このあたりを、どう受け止めるだろうか。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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