電気自動車は加速性などで優位性あるのに、なぜ普及しないのか 経産省幹部「課題克服されれば推進」、自動車メーカー「目先の不況対策が先決」


時代刺激人 Vol. 21

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

うれしいことに、「時代刺激人」コラムを読んでいただいている方々から2008年12月26日付「日本は時代先取りで地球環境にやさしい電気自動車にチャレンジを」というコラムに関して、いろいろ反響があった。
読んでいただいた方々のコメントは、電気自動車が今のガソリン車に代わって新たな時代の担い手になることを予感する、あるいは地球環境にやさしいことが時代のキーワードであり日本は時代を先取りする形で推進すべきだ、といったコメントが多かった。ただ、その一方で、加速性、乗り心地が素晴らしいなどのメリットがありながら、なぜ、電気自動車が普及しないのか、日本政府が電気自動車導入で打撃を受ける石油産業や自動車産業への政策配慮が原因なのか、あるいは石油産業や自動車産業の抵抗や反発が強いためなのか、ジャーナリストの立場で問題究明してほしい、というコメントもあった。
そこで、今回は、再度、電気自動車の問題を取り上げ、何が課題なのかなどについて、取材結果を踏まえ、レポートしよう。

急速充電スタンドの整備、リチウムイオン電池開発などに課題
 まず、政府サイドは、この電気自動車をどう受け止めているのか。
経済産業省産業政策局幹部は、「まだ経済産業省として政策的にどう位置付けるか最終的判断に至っていないので、個人的な見解」としながらも「推進していくべきだ」という。
その産業政策局幹部によると、20世紀は間違いなく化石燃料の石油をベースに自動車産業の時代だったが、21世紀はむしろ環境がポイントになっており、 CO2(二酸化炭素)を排出しない電気自動車はガソリン車に代わる有力な輸送手段になる。あとは、燃料源のリチウムイオン電池の開発がどこまで進みコスト的に引き合うか、また安全性確保の面で問題がないか、さらにガソリンスタンドに代わる急速充電設備のスタンド設置がどこまで進むかといったインフラ整備の問題だけだ、という。
 ただ、自動車産業という機械産業の中軸にあって雇用吸収力も大きく技術開発力もすごい産業の根底を揺るがすことになり、産業政策的にリスクを取りたくない、という考えがあるのでないか、という気もする。
産業政策局幹部にその疑問をぶつけたところ、「自動車部品産業を含めて、自動車産業のすそ野は間違いなく大きく、電気自動車へ流れがシフトすれば影響は避けられない。ただ、自動車産業そのものは、われわれの政策対象であっても行政面で規制が大きくからむような産業でない。むしろ自動車産業が電気自動車をどこまで受け入れるかだろう。しかし、内燃機関のガソリンの問題か、電気のモーターかの問題で、自動車の機械の部分は変わらないので、石油産業と違って死命を制するという問題ではないはず」と述べている。

石油メーカー「電気自動車がすべてガソリン車に変わるとは、、、」
 確かに、石油産業の方が石油製品としてのガソリン需要が電気自動車への利用者シフトが起きれば、打撃は大きい。
ある大手石油元売り企業の幹部は「電気自動車がガソリン車とどこまで価格面で競合出来るかによるが、電気自動車がすべてとって代わるというオール・オア・ナッシングという話でない。ただ、われわれ石油企業にとって、厳しい時代が来ることは、いずれ避けられないと思っている」という。
ご記憶だろうか。12月26日付コラムで電気自動車の問題を取り上げた際、米国カリフォルニア州政府が大気汚染対応から1990年に自動車メーカーに対し2003年までに年間販売台数の10%を排ガス・ゼロにする無公害車を義務付ける州法を制定、そこで米ゼネラルモーターズ(GM)が「EV1」という電気自動車を開発しリース契約制で販売したが、その際、危機感を持った米国の石油業界の対応を書いた話のことだ。
石油業界は当時、「電気を生み出す石炭火力発電は大気汚染の原因でないか」と反対キャンペーンを行い、これが意外に影響を及ぼし電気自動車人気が下火になっていく。しかもGM自身が自主規制するかのようにリース車の回収をしてしまった。ドキュメンタリー映画「誰が電気自動車を殺したか」でその模様が描かれたが、業界は必死だったのだ。

「開発・設備投資規模が大きく、踏み込めない」のが自動車メーカーの本音
 さらに最大手のトヨタも、2010年に現在の環境対応車、ハイブリッド車とは別に電気自動車を市場投入する、と表明している。ハイブリッド車はガソリンでエンジンを動かしている間に発電し電池に電気がたまるとモーターを動かして走行する仕組みだが、新たな電気自動車は、電気コンセントから充電して走るプラグイン・ハイブリッド車で、これまでのガソリンエンジンを積んだハイブリッド車戦略から切り替えつつある。トヨタの場合、電気自動車の比重をどこまで高めるかがポイント、と言える。
 12月26日付コラムで紹介した自主開発に取り組む慶応大学の清水浩教授の開発車「エリーカ」はリチウムイオン電池車で、100馬力のモーターを8個、車輪に搭載し普通の4輪車ではなく8輪車。最高速度が時速370キロ。最大加速度が0.68G。1回に充電してからの走行距離が300キロ。充電時間が30%というすごい車だが、問題は量産に至る状況でないため、清水教授によると現時点で1台あたり8800万円という。

国や自治体補助を活用したら神奈川県の場合、三菱の電気自動車は163万円
 この金額の高さに「えっ」と驚く一般の利用者の反応が電気自動車の普及度合いのカギを握りそうだが、自動車評論家で、しかも日本EV(電気自動車)クラブ代表の舘内 端氏の話を聞くチャンスがあった際、舘内氏の話では国や自治体の補助金バックアップによって、ガソリン車とはわずかの価格差だという。
それによると、神奈川県で今年発売予定の三菱自動車の電気自動車を買う場合、本体の軽自動車の価格が400万円として、国の補助金137.5万円、神奈川県68.75万円、そして横浜市30万円を差し引くと163.75万円で、ガソリン車の同型車とはわずかに38.75万円の差だという。確かに、この価格水準ならば、射程距離と言える。
舘内氏はEV推進者の立場もあってか、「今年11月に、東京~大阪600キロを日本EVクラブの仲間でつくる軽・電気自動車で無充電で走る計画だ。一晩、充電すれば、翌日も600キロ走行が可能で、EVの実用性を証明すると同時に、地球温暖化防止で世界に貢献したい」と述べている。
 前述の清水慶応大教授は、月刊誌VOICE2月号(PHP研究所刊)での「切り拓け!電気自動車社会――いまこそ自動車会社の本気度が問われる」の中で「各自動車メーカーは(世界的な経済危機で)苦境に立たされている。しかし、この苦境を経済環境のせいにしてはいけない。いま自動車が売れないのは、商品としての魅力がないからだ。まったく新しい魅力ある自動車を作り出し市場そのものを活性化していくべきなのだ」と述べている。
自動車メーカーは、この清水教授の問題提起をどう受け止めるだろうか。

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