銀行に魅力がなく色褪せてしまったのはなぜ?今こそ積極対応を 株式・社債発行の直接金融市場が傷んだ中で企業の期待にも応えず


時代刺激人 Vol. 16

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

米国発の金融危機が、まるで燎原(りょうげん)の火のごとく、またたく間に世界中の金融システムをおかしくしているばかりか、実体経済にもジワジワと波及している。国際通貨基金(IMF)見通しでは2009年の米国、欧州、日本の経済成長はいずれもマイナス成長を余儀なくされる、という。そういった厳しい状況の中で、比較的傷みの少ない日本のメガバンクを含めた銀行が、資金を求める側にとって本来ならば、頼れる存在であるべきなのに、そうなっていないばかりか、すっかり魅力を感じさせなくなっている。なぜ色褪(あ)せた存在になってしまったのだろうか。
 ベンチャービジネスで意欲的にビジネス展開している企業経営者が意外な発言をしている。「株式や社債発行による資本調達の場である直接金融市場が傷みに傷んでおり、資金を必要とするわれわれ企業としては間接金融の銀行に走るのだが、何と銀行の高飛車かつ傲慢(ごうまん)なことか。リスクを恐れて融資先の選別をするということもあるが、ライバルの直接金融が身動きとれないこともあって一転、強気姿勢なのだ。それでも銀行かと言いたくなる」というのだ。

銀行が頼れる存在になっていない、と申し上げたのは、こういう背景があってのことだ。別の企業関係者からも似たような銀行の対応姿勢を聞いており間違いない。確かに、大手銀行6グループが発表した2008年9月中間決算で連結純利益が前年同期に比べ57%減と半減した。融資先企業の経営破たんなどによる不良債権の増加、取引先企業と持ち合いで保有する株式の株価下落で含み損が膨らんだことが原因だが、そういったリスクも織り込んでビジネスをするのが本来の金融でないのだろうか。

過去の不良債権リスクの恐さと超金融緩和で「ローリスク・ローリターン」体質に
 日本の銀行は、バブル崩壊後の1997年秋の旧山一証券の自主廃業、旧北海道拓殖銀行の破たんなどに始まる金融危機で2000年代の初めに巨額の不良債権処理に追われ、来る所まで来ていた旧日本長期信用銀行などが国有化された。さらに自己資本比率の低下を余儀なくされた大手銀行が、政府の公的資金注入を含む金融システム改革の対象になった。病院治療にたとえれば、集中治療室に入って徹底治療を受けた。長い、長い治療期間を経て、やっと一般病棟に移り、そして退院する銀行も多かったが、今回の米国発の金融危機のあおりで、再び入院治療などが必要になる銀行も出てくる可能性もないではない。
 バブルを背景に、金融の仲介機能を自らマヒさせるような、さまざまな問題融資を行った日本の銀行の横並び体質が一気に噴き出した結果が10年前の日本の金融システム危機につながった。それを再燃させるような事態は厳に戒め、自己規律を持って金融ビジネスに臨むのは当然、求められることだ。
ただ、日本の金融政策が大きく緩和姿勢に軸を移し、ゼロ金利、さらには量的金融緩和という時期が長く続いた頃に、日本の銀行のほとんどが極めて低利の資金調達コストで資金を得ることができた。預金金利が異常に低い金利になっていたから当然のことだが、問題は、そのころに、いわゆる「ローリスク・ローリターン」経営に甘んじてしまったことだ。いい意味での経営のリスクをとらない、裏返せば、不良債権のババをつかみたくない、という発想から縮み志向でビジネスをするという体質が染み付いてしまったのだ。

冒頭のベンチャー・ビジネスの経営者の不満を代弁するわけでないが、株式や社債発行の直接資本市場が傷んでいて機能しなくなりつつあり、やむなく銀行に駆け込む企業に対して、銀行が存在感を見せつけるためなのか、傲慢あるいは高飛車な姿勢になるのは、何とも納得がいかない。しかも肝心の融資に関して、不良債権化につながる融資を避けようとしてか、事業計画などをしっかり見ないで選別し、リスクをとろうとしない面もある、というのだから、過去の「ローリスク・ローリターン」体質から抜け出せないでいる、ということに等しい。

銀行経営にワクワク感が起きないのはなぜ、、、
 経済ジャーナリストの長い取材を通じて、私は大手銀行などに友人や知り合いが多いが、最近は、以前のようにワクワクして、ぜひこの問題で取材したい、あの人に会って議論してみたいといった気分になれない。会ってもエクスキューズが多かったり、縮み志向で「うちじゃ、それは難しいですな」といった発言が多い。さらには「金融庁がやたらに口出しをしてきて身動きとれない。リスクを冒すな、というのが監督官庁の行政姿勢なのだから、それに乗るしかないでしょう」と金融庁批判でコトを済ませようという姿勢も見受けられるから、ますます取材自体がつまらなくなるのだ。
 ご記憶だろうか。第12回で取り上げた62歳から志を持って起業に立ちあがられた廣瀬さんの話を。廣瀬さんが、ゴルフ場再生ビジネスに関してビジネスモデルをつくり、必用資金を得るため、友人が経営陣にいる国内の3つのメガバンクの1つに持ちかけたら「倒産したゴルフ場に資金をつぎ込んだら、当局ににらまれる。悪いが協力できない」と門前払い。ところが、事業再生が軌道に乗った途端、そのメガバンクが手の平を返したように「そろそろお取引を」という話があり、さすがの廣瀬さんも激怒し「ふざけるな。当時の頭取らが来るならいざしらず、どういうことだ」と突き返した、という話のことだ。

廣瀬さんは「いま米国が金融危機で、傷が浅い日本のメガバンクに出資支援などで熱い視線を集まっているが、リスクをとるべき時にとらないようなビジネスモデルだと、グローバルな競争には勝てないのでないか」と冷ややかだったが、全く同感だ。

東京国際金融市場をめざしても、世界の目は「東京は田舎市場」
 2008年初めにみずほコーポレート銀行が、米メリルリンチに1300億円、7月に三井住友銀行が英バークレイズに1000億円、そして9月には三菱東京UFJ銀行が米モルガン・スタンレーに9000億円の出資を決めた。いま、これらメガバンクはそろって前述の2008年9月中間決算でのきびしい決算で財務内容が悪化したため、一斉に資本増強に踏み切って事態乗り切りを図ろうとしているが、「ローリスク・ローリターン」体質から抜け出せない大手銀行が、いま、欧米の金融機関をどこまで戦略的にマネージメントできるのか、ましてや金融危機で様変わりの状況に追い込まれている相手方の米金融機関の出方をどう読んで戦略展開を考えるのか、どうも危なっかしい気がする。
 余談だが、これら大手銀行の顧客サービスも、俗にいう「ユーザー・フレンドリー」ではないのも問題だ。預金金利と貸出金利の差である預貸金利ざやでは売上げが上がらないと、大手銀行は手数料ビジネスに傾斜しているが、他行への振込手数料ばかりか自行他支店への同じ手数料でも意外に割高で、なぜ、こんなに高いのかと不満どころか、反発をおぼえる。最近、ある大手銀行が総合口座をつくってくれている銀行会員を対象に2009年春から振り込み手数料の無料化を始める、と宣伝していたが、顧客サービスもひどすぎる。まだ、昔の供給先行型企業成長パターン、ビジネスモデルで通用すると思っているところに、大きな経営判断ミスがあるように思う。

ニューヨークやロンドンに比肩する東京国際金融市場を、などと政治も、金融庁も、そして大手銀行も旗を振ったが、いまだに実現していない。ハイリスク・ハイリターンとは言わないが、ミドルリスク・ミドルリターンでさまざまなビジネス展開、戦略展開が見えてくれば、海外の金融機関や投資家の東京金融市場を見る目が変わるかもしれないが、いまの状況では、東京市場は、海外から「あそこは世界の田舎市場だ」と言われているかもしれないのだ。冒頭のベンチャー・ビジネス企業に限らず、直接金融が傷む中で、間接金融に対する企業の期待に応えることができるかどうかが、大手銀行のポイントでないだろうか。

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