時代刺激人 Vol. 302
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
イノベーション都市深圳レポート2
独自エコシステムがユニコーン企業を創出
世界のハイテク・イノベーションセンターの名乗りをあげつつある中国深圳。その現場レポート第2弾は、なぜ深圳で次々に企業イノベーションが起きるのか、それにリンクする中国企業の動きとはどんなものか――などを取り上げよう。
ハード&ソフトウエアの2イノベーションが連鎖、米シリコンバレーなどにない強み
結論から先に申し上げよう。深圳は、米国シリコンバレーや中国北京の中関村といったソフトウエアを軸にした既存のイノベーションセンターとは大きく違っていて、深圳版エコシステムという独自のヨコ連携のサポートシステムを持っていること、それらがフルに機能してハードウエアとソフトウエアの2つのイノベーションが互いに連鎖しあうように実現していることが「強み」となっている。
要は、モノづくりの先端技術を持つスタートアップ企業を、起業からわずか数年でマーケット評価を得て企業価値10億ドル(円換算1100億円)のユニコーン企業、あるいはそれに匹敵する事業規模の企業に大化けさせる深圳版エコシステムがあるのだ。
このエコシステムはエコロジー(生態学)の意味合いを持つ生態系のことだそうで、それが転じてビジネス現場で収益を上げていくためのヨコ連携システムとも言われている。
ネット上で技術情報をオープン交流、アクセラレーターなどヨコ連携のエコシステム
深圳の場合、電子部品などを安価で豊富に供給する、東京秋葉原の数倍規模の広大な華強北地区はじめ、それら部材を数時間で融通し合える製造業のサプライチェーン網があること、技術情報をネット上でオープンに交流したり、互いにアドバイスし合うメイカーズフェア、メイカーズスペースという独自のモノづくり広場システムのあることが大きい。
さらに、スタートアップ企業を投資対象にしながらもアドバイスやサポートも行うインキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーキャピタルなどイノベーションを支える企業群が控えていること、そして極めつけは、深圳地方政府がイノベーション都市を世界にアピールするため、補助金などで財政支援を行うほか、海外から優秀な人材を招致する孔雀計画でバックアップしていることだ。
これらによって、深圳には中国国内はもとより海外からもビジネスチャンスを求めて技術集積、人材集積が可能になり、それらが文字どおり好循環している。
「北京から遠い南方で既得権益がなく自由度がプラスに働く」深圳の特性も重要
20数年ぶりに訪れた深圳がこんなにすごい、世界でも例を見ない独自のイノベーションセンターになっていたのは、私にとってはビッグサプライズだった。
前回レポートでの中国関係者の話をもう1度、紹介しよう。「深圳地方政府は共産党の指導があるとはいえ、(中国各地からビジネスチャンスを求めて集まる)移民人口が生み出す活力は大きい。しかも権力志向の強い北京中央政府から距離的に遠い南方地域にあり、改革開放モデル地区として自由度を与えられていたこと、(巨大な移民都市だけに)既得権益勢力がはびこる余地がなかったことがプラスに働いた。だからイノベーションに対し貪欲なチャレンジが可能になった」という指摘は重要ポイントだ。
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