日本の座標軸はどこへ行った? ASEAN軸に米中と戦略展開を


時代刺激人 Vol. 200

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「時代刺激人ジャーナリストコラム」も今回で200回になる。日本は課題山積の国だが、モノづくり技術を含め、まだ捨てたものでない、強みと弱みを見極めて戦略的に、存在感のある国をめざすべきだ、この際、生涯現役のジャーナリストのこだわりで、時代の閉そく状況を打ち破るため時代を刺激してみよう――と始めたのがこのコラムだ。

継続は力なり、ではないが、当初のコラムからみれば、数多く書いているうちに、自信もついてきた。今は一段と現場にこだわり、いろいろな方々にお会いして取材することが楽しい。「時代刺激人という割合にはちっとも刺激になっていないではないか」と、手厳しいコメントもいただければ、と思う

日本政治の内向き劣化が付け入るスキ、
中国やロシア、韓国は領土問題で攻勢
 さて、今回のコラムは、日本という国の座標軸はどこへ行った?という問題を提起してみたい。なぜ、座標軸にこだわるのか。実は、現在の日本を取り巻く情勢で、ロシアとの北方4島、韓国との竹島、そして中国との尖閣諸島の領有権をめぐる問題、とくに中国との領土問題がエスカレートし日中関係全体に亀裂を生じさせる、という抜き差しならない事態に日本が陥っているのに、外交の戦略軸、基軸がしっかりしていないためだ。

こういった問題が生じる背景には、日本の政治が内向き、かつレベルの低い政争で劣化が顕著なうえ、政治そのものに外交戦略を含めた座標軸が決定的に欠けているため、中国、ロシア、韓国は日本の政治の足元を見て、領土問題で揺さぶりをかけたと推測せざるを得ない。そこで、それらの動きに対峙するには日本自身が骨太の揺るぎない座標軸を持つことが必要だ。それによって、相手国側に緊張感を与え、付け入るスキを与えなくなる。

元外務官僚の佐藤さん
「新帝国主義国は相手がひるむのに乗じて権益拡大」
 元外務官僚の佐藤優さんが最近のこれら3か国の問題を捉えて「新帝国主義の時代に入った」との見方でいる。新帝国主義国というのは、佐藤さんによると、相手国の立場を考えず自国の要求を大胆かつ最大限に行う。相手がひるみ国際社会も沈黙すれば、それに乗じて権益を拡大していく、というものだ。確かに、現実の動きは指摘どおりだ。

雑誌「中央公論」10月号「プチ帝国主義化する韓国」で、佐藤さんは「韓国が生き残るためには日本との関係を根本的に変える機会が到来したと見て、対日攻勢をかけ、これまでに成立した日韓関係の『ゲームのルール』を変更しようとしている」と述べている。ロシア、中国は拠って立つ基盤が韓国と異なるかもしれないが、日本政治の弱さを見抜き、韓国と同様、対日攻勢をかけている、という点は同じというのが佐藤さん分析なのだろう。

座標軸のポイントは現代版「三国志」、
国益のために権謀術数の外交戦略を展開
 日本の対外戦略の軸になる座標軸という場合、私が以前、このコラムで述べた現代版三国志の外交戦略が参考になる。中国の三国志で描かれた魏、呉、蜀3か国が権謀術数の外交戦略を駆使、自らの国益のため、あるいは生き残りを図るため、機敏に戦略展開を考え、ある時は魏が呉と、またある時は魏が一転、ライバルだった蜀と戦略連携といった形で行動するやり方が日本にとってヒントになる、と思うのだ。

座標軸という言葉は、厳密には座標を決めるため、タテにX軸やヨコにY軸といった基準となる数直線を置くことがポイントになる。しかし私は今回、日本という国家をモノゴトの中心に置き、その日本がかかわりを持つ中国や米国、ロシア、ASEAN、さらには欧州や中東の国々との相互関係、位置関係を示す基軸の考え方、つまり日本という国家が動く拠り所になる戦略行動基準みたいなものを座標軸という言い方にした。

中国との間に問題生じれば米国と連携、
逆の場合、中国と連携する機敏さが必要
 では、現代版三国志に置き換えた場合、日本の座標軸の外交戦略とはどんなものかが焦点となる。そこで申し上げたい。日本がASEAN(東南アジア諸国連合10か国)と連携し、日本が持つ技術革新力などの強みと新興アジアの潜在経済力をバックに米国、中国という2つの強大国との間で、機敏な戦略外交を展開することだ。中国との間に問題が生じれば米国と連携して揺さぶりをかける、逆に米国に問題が起きれば、日中が連携してブレーキをかける、といった形で戦略的に大胆に動くことでないかと思っている。

ロシアや韓国との間で問題が生じた場合にも、この座標軸をベースに、日本は対象国やその案件やテーマによって、米国と連携するか、あるいは中国と連携するか、その時々の情勢を見極めながら、柔軟かつ戦略的に判断すればいいのだ。竹島の領有権をめぐる問題で、日本は国際司法裁判所に提訴して問題の決着を試みたが、この場合、韓国に影響力を残す米国を巻き込んで国際世論を作り出すように働きかけるのも一案だ。

今後の日本の戦略軸は新興アジアに軸足を移し、
ASEANとの連携以外にない
 日本は米国との間で安全保障条約を結んでおり、戦略行動が制約を受けるという議論もあり得る。しかし、過剰な対米依存は日本にとってリスクであり、条約に反しない範囲で柔軟対応すればいい。元外務官僚の佐藤さんがいう新帝国主義が横行する国際社会でこそ、現代版三国志的な戦略展開が重要になるのでないだろうか。ただ、日本は国家としての主体性がないうえ軽挙妄動して節操がない、と批判されないように、基軸がどこにあるか、しっかりとしたものがあることが重要であることは言うまでもない。

その点で、私は日本が座標軸の基軸部分を、ASEAN諸国との戦略連携に置くことが必要だと思う。なぜASEANなのかが当然、ポイントになる。現代版三国志のゲーム展開でいくと、中国に対峙する場合、米国と連携してプレッシャーをかける、逆に米国に問題があった場合、日中で連携して米国に揺さぶりをかけるため、両国で大量保有する米国債を市中で売却するぞ、と凄みをきかせれば、米国はドル暴落、財政赤字拡大リスクに歯止めをかけられないため、日中に従わざるを得ない。それよりも日本に問題が生じて米中が連携したら、日本は踏み潰されるリスクがあるため、ASEANの力を活用するのだ。

ASEANは中国南下戦略や米のグローバリズム強要に反発、
日本には連携チャンス
 ここで重要なのは、今や経済面で勢いがついてきて2015年に地域経済統合に一歩踏み出すASEANが日本の連携の呼びかけ、ラブコールに応えてくれるかどうかだ。早い話、ASEANにとって、日本のパワーは捨てたものでないと連携メリットを感じさせることが可能かどうかだ。その点に関しては、私がアジア開銀の戦略シンクタンク、アジア開銀研究所のメディアコンサルティングなどを通じて接するASEANの国々の人たちと話していると、まだチャンスは十分にある。

その最大ポイントは、ここ数年の中国のASEAN、とりわけベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーなどメコン河流域経済圏諸国への経済協力や市場開拓といった南下戦略、それにフィリピン、ベトナムを巻き込んだ南沙諸島の領有権をめぐっての露骨な攻勢が反発や脅威と受け止められ、それが日増しに強まっていることが1つ。この中国の南下戦略に歯止めをかける役割を日本が担ってほしい、という期待感があるのは間違いない。

メコン経済圏での経済協力案件で地元還元少なく
中国独り占めへの反発が強い
 とくに、中国のメコン河流域での経済協力に関しては、メディア報道でもご存じだと思うが、ミャンマーやラオスでの水力発電プロジェクト1つとっても中国の都合が先行し地元への利益還元がない、端的には経済支援の形で強力な資金援助を得ても発電した電力を中国へ送電されてしまったり、下流のタイへの流水量に制限が加わり影響を第3国に与えること、中国企業が建設受注し地元に技術移転がないこと、現地での雇用創出を生まず中国人労働者が仕事をとってしまうことなどから、メコン経済圏への南下戦略には反発が強い。ミャンマーはこのため、中国との共同水力発電プロジェクトを中止したほどだ。

もう1つは、米国のグローバリズム押し付けに対する反発が根強いことだ。米国が貿易赤字解消のため、新興アジアに市場開放を求めると同時に、金融市場に関してもかつてのような強引な市場開放要求はないにしても金融インフラ構築協力を通じて金融ノウハウを武器に参入するすごさへの警戒心がASEANにある。ASEANにとっては中国と米国の2つの大国のパワーは魅力であると同時に、脅威をはねのける緩衝役が必要で、それを日本に期待する部分があるが、日本がその期待に応えられるかどうかだろう。

日本がASEANと積極連携すれば中国へのけん制効果大、
中国リスクの分散にも
しかし繰り返しになるが、日本は米国や中国という2つの強大国と、時に対峙し時に連携して独自の存在感を出していくためには現代版三国志的な戦略展開が重要。同時に日本単独では米中に踏み潰されるリスクがあるため、ASEANと積極連携することだ。現に、ASEANでは中国の南下戦略などへの反発や脅威、米国のグローバリズム押し付けへの反発があり、その歯止め役として日本への期待があるのだから、日本は戦略思考でもってASEANとの積極連携を考えるべきだ。

日本がASEANに積極連携の実を挙げれば、その連携が中国にインパクトを与え、中国の行き過ぎ行動へのけん制にもつながる。中国は今、最大の輸出先市場のユーロ圏経済危機の影響で輸出がダウン、国内も過剰な設備投資の反動で経済減速に歯止めがかからない。そんな中で、日本がASEANに攻勢に出れば中国へのけん制効果は間違いなく大だ。日本自身にとっても中国リスクの分散となる。

日本はASEANにとって先進モデル事例を持っており
システム輸出で貢献を
 以前のコラムでも申し上げたが、日本は、新興アジアのASEANにとって、数多くの先進モデル事例を持っており、連携のきっかけになる材料を活用できる。とくに急速な経済成長をきっかけにした都市化への対応、端的には医療や年金、教育、高齢者介護のシステムが立ち遅れていることへのアドバイス、また道路、鉄道などのインフラ整備に際して料金制度などを加えたトータルのシステム輸出も可能だ。 日本は、これらの問題に関して制度疲労が来ていて先進モデル事例にならない分野もあるが、逆に、この機会にASEANに輸出できるように制度設計を見直せばいいのだ。それは日本自身の社会システム変革のチャンスとなる。

日本の政治は今こそ、国としての外交戦略を含めた座標軸をどうすべきなのか、考え直す時期だ。今のようなスピードの時代、グローバルの時代には機敏な行動がまず第1だ。このASEANとの連携戦略が重要課題と感じた場合、たとえばインドネシアやフィリピンの看護師受け入れ制度1つとっても、早急に、日本の社会システム改革と連想させる形で取り組まないと、ASEANは口先だけで実行の伴わない日本は戦略パートナーにはならないと突き放すかもしれない。
 

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