オールジャパンの水プロジェクト大賛成、世界での潜在需要増にチャレンジを 日本の強みは水処理膜や下水再生の技術だが、全体システムでの勝負が大事


時代刺激人 Vol. 87

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

最近お会いした東レ顧問で、水の膜技術などでは専門家の工学博士、栗原優さんが、水にからむことについて、興味をそそられる話をされた。「冗談のような話ですが、昔、サウジアラビアの王族が財力にまかせて『ふんだんに水を飲みたいので、南極から大量の氷を持ってこい』と命じ、周辺を困らせた。そのサウジも今や海水の淡水化技術の恩恵を受けて、安定的に水を飲めるようになったのに、技術支援するわれわれからすれば、未だに乗り越えられないカベがあって困っているのです」という。

イスラム社会では宗教戒律がネック、トイレなど下水は浄化しても受け付けず
 そのカベとは、イスラム社会の宗教戒律にからむ話だ。要は、トイレなどの下水は不浄(ふじょう)のものとされ、どんなに浄化しても口にせず飲もうともしないのだ。栗原さんに言わせれば、日本が圧倒的な強みを持つ水処理膜技術や下水再生技術を駆使すれば、生まれ変わったように清潔な飲料水になる。しかも今や循環型社会システムの考え方を導入して、有限の水を大事に活用することが大事。それなのに「イスラム教の戒律に反することはまかりならぬ」の一点張りだという。
しかし、栗原さんにすれば、中東のみならずアジアでは経済発展や人口増加に伴い上下水道など水にからむ潜在需要が見込める。技術力のある日本にとっては絶好のチャンスだが、これら地域に広がる巨大なイスラム教の人たちの意識が変わらなければ、身動きがとれない。意識改革が今や何よりも重要課題だ、というのだ。

この話を最初に持ちだしたのは、実は最近、チャンスがあって、グローバルなレベルでの水ビジネスをめぐる問題のシンポジウムなどに参加し、パネリストの専門家の人たちにも取材して話を聞いたりした結果、ジャーナリストの立場からすると、わくわくしそうなテーマなので、ぜひ、この「時代刺戟人」コラムで取り上げようと思ったからだ。

グローバルレベルでの水ビジネスは日本にとってさまざまなチャンス
 率直に言って、水ビジネスに関しては、さまざまな問題や課題がある半面、日本にとっては、間違いなくチャレンジングな分野だ。戦略的な取り組みをすれば、日本は世界に対して存在感をアピールするだけでなく、大きなビジネスチャンスがあると感じた。

結論から先に申し上げよう。先行してグローバル展開するヴェオリア、スエズというフランスの水メジャー(国際的有力企業)に正面切って太刀打ちするのは難しい。しかし、日本が圧倒的な強みを持つ海水の淡水化などの水処理膜技術や下水再生技術、さらには漏水防止の管理技術の分野で各企業が連携しトータルのシステムにして、かつ日本連合、オールジャパンという形で中国や中東などでビジネスチャンスの掘り起こしに取り組めば、新興経済国での潜在需要が大きいだけに、世界のインフラに貢献する日本、という評価につながっていくということだ。

三菱商事などが官民連携で豪州の水道事業会社買収しプロジェクト展開
 このからみで面白いと感じたのは、三菱商事が5月11日に発表した豪州の水道事業会社UUA社とその関連企業の買収によって、豪州での上下水道、海水淡水化、工業排水処理など14のプロジェクトに取り組むという話だ。具体的に言うと、三菱商事はフィリピンで自ら出資して水プロジェクト展開するマニラウォーターと連れだって、水インフラプロジェクトや環境分野で実績のある日揮、そして官民出資ファンドの産業革新機構と一緒に、豪州での水道事業では第2位シェアを持つUUA社とその関連企業を2億2500万豪州ドル、円換算約190億円で100%買収し、新会社を設立して、水道事業を継承し、豪州での300万人向けの水供給などのプロジェクトに取組む、という。

ジャーナリストの好奇心でいくと、三菱商事の展開が興味深い。水にからむ世界のインフラビジネス潜在需要の大きさに着目し、総額8000億円の投資能力を持つ官民投資ファンドの産業革新機構と連携したこと、さらに公営水道管理技術で世界的な競争力を持つ東京都水道局傘下の東京水道サービス(TSS)をプロジェクトに巻き込んだことなど、日本企業がややもすれば欠けているトータルなシステムつくりに関して、官のファンドや技術をうまく活用しながら日揮など民間の水ビジネス企業をリンクさせ、最終的に大がかりなプロジェクトにしていったことだ。

和製水メジャーが誕生しフランスのヴェオリア、スエズに対抗できれば面白い
 三菱商事がフランスのヴェオリア、スエズに匹敵する日本の水メジャーになれるかどうかは今後の問題だが、対抗できる存在になれば、日本のグローバルな水ビジネスも面白くなってくる。三菱商事は、すでにフィリピンの首都マニラで盗水や漏水で収入確保できない無収水率が悪く24時間給水の比率も低かった公営水道事業の民営化プロジェクトに参加、1997年にマニラウォーターという会社設立に出資して民営化でリーダーシップを発揮した実績がある。今回の豪州プロジェクトに、このマニラウォーターを参画させている。しかも今年2月には水ビジネスでのエンジニアリング力で定評のある荏原製作所、日揮と海外での水処理で提携している。

フランスのヴェオリアなどの水メジャーの強みは、上下水道での民間事業経営経験が豊富にあり、そのノウハウを生かして水源から水道の蛇口までの水を維持管理するシステム、料金徴収などの経営管理システムといったトータルのシステムに仕立て上げる力を持っていることだ。日本のように、自治体が直接もしくは第3セクターの形で公営水道事業すべてにかかわっているのとは決定的に異なる。とくにフランスの場合、地方自治体の行政サービス能力、財政力に弱さがあったため、上下水道事業の民営化が進み、ヴェオリアなどが事業展開を行って実績をつくると同時に、そのノウハウを他の先進国や途上国で活用し文字通りのメジャーにのし上がった、というわけだ。

海外ではIBMやGEが水量や水質のコンピューター管理など事業分野に参入
 そればかりでない。最近は米IBMや米GE(ゼネラル・エレクトリック)といったコンピューターや総合電機メーカーの進出も目立つ。IBMなどは水道事業そのものではなくて、センサーやモニターなどを活用して貯水設備から配水管に至るまでの水量や水質などコンピューターで自動制御あるいは管理、それによって水事業の経営効率化につなげる事業分野にビジネスチャンスを見出したのだ。強みをいかんなく活用しようというものだが、裏返せば、水ビジネスに潜在的な需要が見込めるとの判断であることは言うまでもないことだ。
それだけでない。水ビジネスのシンポジウムでお会いしたグローバルウォーター・ジャパン代表で、国連の水プロジェクトに関するテクニカルアドバイザーでもある吉村和就さんの話が参考になる。その吉村さんが同じく気候変動や水資源予測分野の専門家、沖大幹さんとの対談集「日本人が知らない巨大市場――水ビジネスに挑む」(技術評論社刊)で、面白い指摘をしているので、ご紹介しよう。「IBMは、水は自分たちにとって最大のビジネスになると思っています。彼らは水情報を収集するデジタルセンサーを世界中にばらまいて、その情報をインターネットや衛星で集めることをやっています。このセンサーシステムが世界中に展開されると、世界の水情報が1社に独占される可能性さえあります」と。

要素技術誇示よりもトータルシステムでチャレンジ必要、行政の縦割りも弊害
 しかし、吉村さんや冒頭の栗原さんら専門家の話を聞いていると、日本の水ビジネスでの最大の課題は、個別企業はどこも水処理膜技術や下水再生技術などで素晴らしい要素技術を持っていながら、それをトータルのシステムにしてビジネスにしていくマネージメント感覚に欠ける、という。フランスのヴェオリアなどのすごさは、水プロジェクトを事業経営の視点で束ね、それをトータルのビジネスモデルにして中国などの新興国に提案しプロジェクト受注していく点だ。
それに日本の場合、行政の対応もタテ割り組織の弊害がある。たとえば上水道は厚生労働省、下水道は国土交通省、農業用水は当然ながら農林水産省、また経済産業省は工業用水にかかわると同時に、ここ数年、アジアを中心にしたインフラプロジェクトがらみで水ビジネスプロジェクトの政策展開にかかわってきた。しかし吉村さんに言わせると、水行政にかかわる行政官庁がバラバラのため、水源が同じなのに水の統合管理が出来ず、結果として、非効率、ムダな財政支出、投資になってしまっている。明らかにに行政サイドに戦略がないことが問題だ、となる。

猪瀬東京都副知事は「システム受注には水道経営経験ある東京都などの活用を」
 そういった行政の対応で意外にがんばっている印象を与えているのが、今回の豪州の官民連携プロジェクトに参画した東京都のケースだ。漏水防止や料金徴収などの面でビジネスノウハウを持つ東京都が第3セクターの東京水道サービスを通じてこの豪州プロジェクトにコンサルティング会社として参画することになったのだが、作家かつノンフィクションライターから道路公団民営化委員などを経て現在、東京都副知事を務める猪瀬直樹さんが最近の著書「東京の副知事になってみたら」(小学館新書)の中で、巨大都市東京の水道管理技術は世界一であることを自慢している。
猪瀬さんによると、東京都の水道事業管理は1300万都民への水を、1日平均430万立法メートル、漏水率わずか3%で供給し、料金徴収率99.9%。この管理システムは十分に国際市場でビジネスとして展開できる、という。さらに、「水メジャーの強みは一貫したシステムとして売るところだろう。日本も、海水の淡水化のための逆浸透膜の技術などでは世界一だし、浄水技術、汚水処理技術も日本のメーカーはトップクラス。だが、個々の技術で強くても、水源から蛇口までを維持管理するシステムとしての水道経営は日本では自治体しかない。システムで受注するには水道経営の経験がある自治体が必要だ」という。

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