日本の産業競争力低下に歯止めどころか戦略展開が重要だ 超ガラパゴス研究会提言おもしろい、世界の競争力比較で日本は27位に急落


時代刺激人 Vol. 85

 経済面での国力を示す国際競争力という点で、日本は1980年代から90年代前半にかけてずっと首位の座にあった。ところが驚くなかれ、最近、急速に低下しているのだ。競争力評価で歴史のあるスイスのIMD(経営開発国際研究所)が5月19日に公表した「2010年世界競争力年鑑」では何と日本の競争力が、前年の17位から一気に27位まで落ち込んだ。58カ国・地域を対象に、経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率、社会基盤の4分野で約300項目の統計や独自調査をもとに総合評価した結果だそうだ。

日本経済が長期デフレ状況から抜け出せないでいること、少子高齢化に伴い基幹となる労働力人口の減少が進みかねないこと、財政赤字の多さが世界的に際立つこと、法人税率が高く企業の活力がそがれていることなどがマイナスに働いた、という。競争力を測るモノサシは技術革新力など、もっといろいろあるはずで、これで決まりというわけでもないだろうが、アジアではシンガポールが1位、香港が2位、台湾が8位、中国が18位、韓国が23位で、いずれも競争力評価を上げているため、日本のちょう落ぶりが目立つ。知り合いの話によると、韓国では今回、日本を追い抜いた、ということで、メディアも大きく取り上げたそうだ。そんな話を聞くと、やはりくやしいという感じは否定できない。

技術優秀でも世界で孤立すれば無意味、日本産業のガラパゴス化見直しを
 そこで、今回は日本産業の国際競争力の問題を取り上げよう。たまたま最近、超ガラパゴス研究会(IT国際競争力研究会)という、面白い名前の研究会が提言をまとめたので、それを参考にしながら、問題提起してみたい。この研究会は夏野剛慶應大学特別招請教授を委員長に、民間企業や大学の研究者ら30人がかかわっていて、実は、私は友人の芦辺洋司日立コンサルティング社長から誘われて、オブザーバーの形で参加していた。

ガラパゴスというネーミングで、おわかりのように、南米エクアドル領内のガラパゴス諸島に生息するゾウガメ、イグアナ、ペンギンなどの生物が閉鎖された環境のもとで特異な進化をとげている状況に例えて、この研究会は、日本企業のガラパゴス化現象の是非を論じている。
ここでいうガラパゴス化現象というのは、私の理解では次のようなことだ。つまり日本の携帯電話産業が典型例で、ガラパゴス諸島に生息する生物のように、日本の携帯電話企業の技術、サービス、商品自体、レベル的にはとても高度のものがあるにもかかわらず、日本市場だけで特異かつ独自の進化を遂げ過ぎてしまった結果、世界市場でほとんど通用しない、適合しないものになってしまっている。ややオーバーに言えば、グローバル化という時代の流れに対応できないため、世界から取り残され、やがて衰退する可能性が高くなる状況をガラパゴス化現象と言っているのだ。

終身雇用などの経営慣行もグローバルな動きに背を向け見直さずでは問題
 この問題意識を、日本の産業の競争力全般の問題に置き換えると、さらに厳しい事態に直面する。かつては世界に誇った日本のさまざまな戦略的な強み、競争力の強さがいつしかグローバルな変化、時代の流れとかけ離れてしまった結果、今回のIMDの競争力調査のように、相対的な地盤沈下、競争力低下という判断を下され、次第に相手にされなくなってしまう。それでも日本の産業が現状にこだわるのかどうか、たとえば終身雇用制度や年功序列の賃金体系、人事制度など日本独自の経営システムに関して、日本企業がビジネス慣行や制度の見直しに背を向けていたりすると、グローバルな動きから取り残されるリスクが出てくる。さあ、どうすればいいか、という問題に発展していく。

さて、ガラパゴス化現象という問題について、この超ガラパゴス研究会がいくつか提言を行ったうち、携帯電話産業を含めた通信業界に対する5つの提言をみてみよう。それによると、1つは、日本の通信業界は先進的な技術を用いてグローバル展開が出来るポテンシャルがあることを認識すべきだ、ということ。2つが、日本の通信端末メーカーはグローバルに通用するマーケティング力とコスト競争力を保有すべきであること、3つが端末メーカーはハードとソフト、サービスは切り離せないものであることを理解すべきだということ、4つが日本の通信関連企業の経営者は経営陣の多様性を取り入れるべきであるということ、最後の5つは日本の通信キャリア、携帯電話などは海外展開をするのかしないのか、各社のスタンス、考え方、長期戦略を明確にすべきであることを挙げている。

芦辺さん「国内に残すもの、海外に出すもの選別し模倣されない仕掛けを」と強調
 私を研究会に誘ってくれた芦辺さんは著書「超ガラパゴス戦略」(WAVE出版)で、この提言を補強する指摘をしており参考になるので、ご紹介しよう。芦辺さんによると、「グローバル化社会の中で、日本の産業と経済を立て直すために『超ガラパゴス戦略』という戦略フレームワークが必要だ。この戦略は、端的に言えば『国内に残すもの』と『海外に出すもの』を選別し、そして競争力を維持するために『模倣されない仕掛け』を作り出すことに尽きる」という。
さらに、芦辺さんは「日本にはガラパゴス的進化を遂げたモノが豊富にある。産業用ロボット、テレビゲーム、カラオケ、寿司、浮世絵、アニメなど、例を挙げれば数えきれない。ロータリーエンジンや温水洗浄便座のように、発祥は海外であっても、日本で進化を遂げグローバル商品になったものも少なくない。日本のモノづくりの技術や土壌も世界に例がない。このような条件や環境を指して『ガラパゴス』と呼ぶならば、これは日本の強みの部分だ。戦略の定石は強みを生かすことであり、弱点を補強することではない。ガラパゴス的進化を積極的に起こしグローバル展開することこそが今、必要で、それが『超ガラパゴス戦略』だ」と述べている。

提言は「過去の成功体験が通用しない時代になったこと認識し戦略転換を」と指摘
 さきほどの提言では、この「戦略的強み」の部分に関して、「日本の携帯電話技術の多くは、欧米に比べて2~5年先行したものを多く搭載している。しかも日本には目の肥えたユーザーと安価で整備された優れた通信インフラにより鍛えられた技術力がある。にもかかわらずこのポテンシャルや先進性を十分に活用できているとは言い難い。『日本の通信業界はガラパゴス化している』などと悲観的に捉えるのではなく、これらの先進性を生かして世界市場に打って出る戦略性が求められている」「国内市場の急激な成長に合わせて成長を遂げることが出来た時代に成功したやり方は、これからの時代には通用しない。過去の成功体験が通用しない時代に、これまでの価値観にもとづいてマネジメントを行った場合には大きな過ちを犯すことが予想される」

「技術力がありながらビジョンや戦略がないために、それらを生かした活動が伴っておらず、場当たり的な海外進出にとどまってしまっているのが実体でなかろうか。この点、欧州の通信企業は中長期的なビジョンを打ち立て、これに基づく国際展開、戦略展開を行っている。フランステレコムは事業収益のうち半分以上がすでに海外事業からのものだ。日本国内の人口が減少し携帯電話の普及率が100%に近付く中で、国内の通信業界の市場が伸び悩むことは明白で、その点でも新興国をはじめとする海外市場への進出は不可避だ」と提言している。

ただ、日本の通信業界、携帯電話業界の最大の問題は、技術力などでは優れたものを持ちながら、世界標準の取得に先手を打つという戦略をとらず、むしろ1億2000万という日本市場に満足して日本標準にこだわったため、ガラパゴス化現象が生まれ、世界から孤立してしまった、という問題がある。今後、その技術標準で次世代を日本がリードできるものが打ちたてられるかどうか、という点がポイントでないだろうか。

根津さん「日本の技術標準をいち早く世界標準に置き換えるアクションが必要」
 事実、経済産業省OBで、現在、富士通総研取締役エグゼクティブ・フェローの根津利三郎さんは、1990年代以降、日本の産業競争力が長期にわたって衰退してしまった。技術、企業戦略、ビジネスモデル、産業構造などの面で多岐にわたって課題解決に至らず現在に至っているところに問題がある、として、とくに携帯電話業界における戦略ミスの問題の具体例で同じ問題指摘をしている。
根津さんはある講演会で、「日本はNTTを中心に世界で最も進んだPDCと呼ばれる技術標準を開発したのに対して、欧州メーカーは各国に共通のGSMと呼ばれる欧州基準をつくり、その採用を世界に呼び掛けた。結果的に、アジアを含めほとんどの国々で、このGSMが採用され世界標準になったため、日本製の携帯電話は海外に一歩も出られなくなった。日本企業は優秀な技術を持ちながらも、戦略ミスが原因で、大きく立ち遅れてしまった」と述べている。まさに、そのとおりだ。日本の通信業界、携帯電話業界が超ガラパゴス研究会の提言を踏まえて、この技術標準に関して、次世代技術の分野で世界標準を作り出せるかどうかが勝負どころかもしれない。

日本の総合電機は事業範囲が拡大し過ぎて創造破壊的なイノベーション進まず
 超ガラパゴス研究会が行った産業の競争力強化に関する提言では、日本のエレクトロニクス産業の問題についても言及しており、興味深い点があるので、ご紹介しよう。  提言は、日本のエレクトロニクス産業、総合電機産業の弊害部分について、1)事業範囲が拡大し過ぎていて戦略的判断が出来ず、創造破壊的なイノベーションも進まない、2)国際規格・標準に対するアプローチが弱く、自力でデファクト(市場の実勢によって事実上の標準とみなされるようになった規格などのこと)をとる動きが出来ないでいる、といった問題点を指摘し、そのまま放置すると、1)技術開発の人材が韓国のサムスンや中国系、台湾系メーカーに引き抜かれ骨抜き状態になりかねない、2)株価が低迷し続け資本増強も進まない、3)リストラをする原資もやがてなくなる、という。

それを踏まえて、提言は、1)今、大手電機メーカーはさまざまな事業を手掛けるコングロマリット企業が存在するが、どの企業も総花的で、明確な特長が見つけにくい。日本 国内企業とだけでなく海外の企業ともコングロマリット再編に取り組むべきだ、2)とくに国内シェアもさることながら、それ以上に成長もしくは成長が見込めるアジアなどの新 興市場でプレゼンス(存在感)を高めるべきだ。アジアにおいては、製造拠点という位置付けよりも市場の大きさを踏まえて販売拠点にシフトすることが重要、3)日本企業は高品質製品の内需と欧米市場への徹底したマーケティング戦略をとってきたため、新興市場では出遅れてしまい、液晶テレビ1つをとっても日本企業はどこもランクインされていない現実を冷静に見ることが必要だ。日本は技術力が高い製品を保有しているので、マーケティング力、販売力などがカギとなる。そのためには情報発信力を高め、ブランド力の再構築が必要だ、といった点を提言している。

経済産業省の戦略5分野を軸にした産業構造ビジョン、実行を伴うことが必要
 こうした中で、経済産業省が最近、6月に民主党政権が打ち出す予定の日本の成長戦略にからめて産業構造ビジョンを打ち出し、自動車と電機産業に依存した「一本足打法」から戦略5分野を軸にした新産業構造に転換するのだ、ということをアピールしている。この5つとは、原発や鉄道などインフラ輸出、電気自動車や次世代電力網など次世代エネルギー、アニメなど文化・ソフト産業、社会保障関連の医療・介護・健康・子育てなどの産業化、そしてロボットや宇宙産業など先端分野産業だ、という。

霞ヶ関官僚の中でも、経済産業省の巧みさは、こういった政策やビジョン、構想提案のうまさでは定評がある。しかし、いつも実行が伴わず、絵に描いたモチに終わりかねないところが多く、われわれジャーナリストもすぐには飛びつかず、冷静に見極めてから対応するようにしている。今回の産業構造ビジョン自体、興味深いがぜひ、実行を伴うようにしたたかに政治を動かしてほしいものだ。同時に、産業界も独自に、自らの戦略展開を大胆に進め、日本の産業競争力を回復させてほしい。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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