中国はGDP世界第2位の経済力を誇示するなら、今こそ「大国の証明」を OECD加盟で名実ともに規律ある行動を、社会主義国なのだから格差是正も


時代刺激人 Vol. 119

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

何ともタイミングがよく、まるで計算し尽くした演出でないかと思わせるようなことが最近、起きた。米国のオバマ大統領が中国の胡錦涛国家主席を国賓として米国に招き、米中首脳会談を終えて共同記者会見を行った1月19日。そのわずか8時間後に、中国政府が2010年の中国の国内総生産(GDP)の数字を発表、名目ベースでのGDPが5兆8790億ドルに達し、日本を追い抜いて世界第2位になることが確実としたからだ。

中国のメディアは米中首脳会談とからませて大々的に報じ、主要国のメディアも、中国が日本を追い抜いて名目GDPで世界第2位の経済大国に躍り出たことを一斉に報じた。訪米中の胡錦涛主席にとっては、中国の存在感が一気に世界中に広がったので、鼻高々だったことだろう。いずれこうなることは、すでにわかっていたことだが、こういう動きをみると、中国経済をウオッチしてきた経済ジャーナリストの私としては、過去の時代刺激人コラムでこの問題を取り上げているとはいえ、この際、言及したい点が出てきた。

「中国モデル」確立は評価するが、高成長に酔いしれての新重商主義が気になる
 実は、69回目のコラムで、私は「中国がGDPで世界第2位になっても驚かず、経済の勢いの差は歴然、日本の『追いつき追い越せの時代が終えん』、日本は量よりも質的な成長をめざせ」といった話を書いた。そのコラムでは、日本自身の問題を取り上げたのだが、今回は、一転して、中国経済の問題にスポットを当てて、以下の点を指摘したい。

率直に言って、中国が、途上国に共通する経済成長の制約要因だった人口の多さに関して、消費購買力をつけて経済市場をつくり、成長に弾みをつけたこと、しかもその際、社会主義と市場経済化の相矛盾する枠組みを巧みに同居させながら「中国モデル」と言われる新たな成長メカニズムを確立したこと、これらによって中国が世界の成長センターの中核に位置していることは間違いなく評価できる。しかし、その一方で、中国は最近、高成長に酔いしれて大国主義を誇示、そして新重商主義的な行動をとっているところがとても気になる、それどころか問題だ、と考えている。

国際商慣習を無視し、なりふり構わずに資源プロジェクト奪い取りは問題
そこで今回、私が言いたいと思ったのは、中国がもしGDP世界第2位の経済力を誇示するならば、今こそ「経済大国の証明」とも言える行動、端的には経済協力開発機構(OECD)に正式加盟して経済大国にふさわしい規律ある、また競争ルールを守っての行動をとると同時に、さまざまな国際的責任を果たすことを求めたい、という点だ。

この「経済大国の証明」を持ちだしたのは、他でもない。新興アジアでプロジェクト展開している大手商社の人と話をしていて、中国がある国のエネルギーがらみの大型プロジェクトの受注競争をめぐって、なりふり構わずに国際商慣習を無視した極めて低利の好条件融資をつけて、その国の強い関心を引き、あっさりとプロジェクトをさらっていった、という話を思い出したからだ。この大手商社によれば、日本企業はOECD加盟国に課せられた過当競争防止の輸出信用ガイドラインに従って行動せざるを得ないのだが、中国はその加盟国でないため、平気で常識外れの融資提案し、しかも今や2兆8000億ドルにのぼる巨額のドル建て外貨準備を自由に活用する、という。

アフリカで中国がヒモ付き援助の資源買い漁り、現地雇用なしで反発も招く
 そういえば、NHKのテレビで最近、中国がアフリカで、外貨準備のドル資金を開発援助の形で活用して資源買い漁りを行う現場をレポートしていた。その際、中国は、日本がかつて行ったヒモ付き援助と同じように、援助と抱き合わせで中国企業を現地に常駐させ中国製の器材購入などで中国企業に援助資金が転がり込むようにする。しかも中国人労働者を引き連れてチャイナタウンを現地につくりあげてしまっていた。

そのテレビ報道では、現地の国の労働者が「中国はこの国に来て、なぜ、おれたちを雇用しないのだ。失業問題が深刻だというのに、ほとんどが中国人雇用だ。おかしい」と反発していた。これもある面で、国際的にはルール違反だ。レアメタルや石油などの豊富な地下資源を持ちながら、開発資金不足で身動きが取れず、しかも失業問題で苦しむアフリカ諸国にとっては、中国の開発援助はとても魅力だが、こういった場合、中国は、やはりOECDルールに沿って、「大人の援助」で臨むべきだろう。

OECDには新興アジアから日本と韓国だけが加盟、ガイドラインなどがポイント
 ここで持ち出したOECDは単に一例であって、国際経済社会では、さまざまな国際的な機関や機構がある。主要国を中心に、多くの国々は、それらの機関などに加盟し、その共通のルールに従って行動し、いい意味での秩序や調和が保たれている。とくに、OECDの場合、もともとは第2次大戦後の欧州経済復興を目的につくられた欧州経済機構(OEEC)を発展させ、国際経済協力につなげるための組織として、1960年に出来上がった。発足当初は20カ国だったが、その後、日本やオーストラリアなどが参加、韓国も1996年に加盟し、現在は34カ国にのぼっている。

このOECDは、パリに本部を置き、加盟各国間の経済などのモニターを行い、時に経済政策に関して勧告も行ったりする。とくに高齢化に伴う年金や社会保障政策の在り方、規制改革、税制、マクロ政策などに関する政策勧告と並んで、前述した輸出信用ガイドラインに関しても、一種の紳士協定を決め、過当競争などを防ぐと同時に、輸出補助金についても規制ルールを決めたりしている。新興アジアというくくりで言えば、日本と韓国だけしか加盟していない。中国やインドといった経済に勢いがついている国々が未だに加盟していないことは問題なのだ。とりわけ中国に関しては、そう言えるのでないだろうか。

中国の「まだ発展途上国」との言い方は許されず、米国世論調査でも「大国」視
 ところが東京で開催されるアジア開発銀行研究所のセミナー参加で来日する中国の政府系機関、社会科学院の研究者や大学教授らに会って話し合ったりするときに、時々出てくる言葉が「中国は確かに急成長を遂げており、一昔前とは大きく違うが、沿海地域と内陸部との格差は大きく、発展途上国の域を出ていない」という。それが政府関係者になると、使うタイミングが巧みで、急に都合悪い話になったりすれば、それまで誇示していた経済大国的な発言から「中国はまだ発展途上国なので、、、」という言い方に変わってしまう。

確かに、中国は1人あたりのGDPでは、まだ日本のそれに比べて10分の1と低いレベルにあることは事実だ。しかし13億人という人口の多さが加わって、全体のGDPはすでに今回の発表どおり世界第2位のGDP大国になっているのは間違いない。現に、米国のシンクタンク「ピュー研究センター」が最近実施した世論調査結果が公表になっているが、それによると、今後の世界一の経済大国について、米国人の47%が中国と答え、米国だとする比率は31%だった、という。要は、中国の政府関係者が都合悪い議論の時に使う「発展途上国」と違って、一般の評価は経済大国なのだ。だから、中国はOECDを含めた国際機関に加わって、しっかりとした責任を果たすと同時に、規律ある行動をとりながら協調しあうことが大事と思う。

「中国は未来に希望を抱き、日本は未来を前にたじろぐ」との仏教授の見方は鋭い
 パリ政治学院のクロード・メイヤー教授が「金融危機後のアジア――リーダーになるのは中国か日本か」(時事通信社刊)という著書の中で、中国と日本の現状を鋭く分析している。フランスの政治学者から見れば、中国はきわめて上昇志向の強い国で、逆に日本は今や守りの姿勢にあるだけという。参考になるので少し引用させていただこう。
「中国は未来に希望を抱き、日本は未来を前にたじろいでいる。中国は渇望し、日本は失望している。中国はこれから欲しいものを手に入れようとし、日本はすでに手にしたものを守ろうとしている。日本の人々が今、見つめているのは『未来の夢』ではなく、アジアにおける自分たちの特殊な位置付けという現実であり、またこれからの世界の中での自分たちの居場所はどこにあるのかという大きな不安である」と。

このクロード・メイヤー教授によると、中国は米国との間では日本との場合と違って、相互依存の関係を強め、米国が中国の貯蓄のみならず輸出先市場として中国を必要視するのと同様、中国も米国の市場を必要とし、互いが好むと好まざるとにかかわらず、関係を強めている、という。その中国は、手元の巨額のドル建て外貨準備を使って、米国債を購入し、今や米国の財政赤字のファイナンスをまかなっている。

中国には人民元改革はじめ国内の格差是正でも「大国」の責任を期待したい
 しかし中国の本音は、米国の金融の量的緩和政策の長期化でドル安が続けば、保有する米国債の為替差損などのリスクをどう回避するか、という点であることは間違いない。中国は今や必死で、それらのリスク回避に走ると同時に、その一方で、人民元の国際化という形で、アジアの周辺国で地域決済通貨としての活用に踏み出している。ただ、ここで重要なのは、中国の動向が国際通貨の世界でも存在感を示してきたということだ。それだけに、人民元改革を含めて、中国にも国際通貨改革に関して、責任を果たすように求めるという事態もやってくるかもしれない。この点でも、中国は「経済大国」という立場を忌避はできなくなっているのだ。

それと、過去の101回、102回のコラムでも指摘した点だが、中国は社会主義と市場経済化を巧みに使い分けながら、経済成長を続けているが、国内の所得格差、地域格差などの経済格差に関しては、ますます拡大傾向を見せているように思える。その点で、日本もかつての高度成長期に同じような格差問題に直面したが、税制面で所得への累進課税などの政策で分配の不平等を是正して、1億総中流化を図った。中国もこの際、社会主義の「顔」の部分をどう全面に出して、格差の是正を図るか、今回のGDP世界第2位の経済大国化したのをきっかけに、期待したい、というところだ。

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