エルピーダ破たんは製造業全体のテーマ 韓国や新興アジアとの競争に勝つ対策を


時代刺激人 Vol. 174

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

半導体大手のエルピーダメモリが2月27日、突然、4480億円の巨額負債を背負って経営が破たん、東京地裁に会社更生法の適用申請を行った、というニュースを聞いて、思わず耳を疑った。

産業の発展基盤や競争力の基盤づくりをどう進めるかが問われる

でも、半導体は、このDRAM以外にも、超LSI(大規模集積回路)はじめ、MARM(磁気記録式メモリー)、さらに東芝が圧倒的な強みを持つNAND(不揮発性記憶素子)型フラッシュメモリーなど、私自身も得意分野ではないので覚えきれないほど、さまざまなものがある。いずれも今後のグローバルな産業間、企業間競争に勝ち抜くためには技術開発投資を含めて不断の努力が必要だ。その場合の努力の担い手は言うまでもなく個別企業だ。

でも、経済産業省のような政府が、産業政策という切り口で、どこまで踏み込めるのか、今回のエルピーダメモリに対して行った個別企業救済や支援には無理があるにしても、どこまで産業の発展基盤を強化、といった産業政策的な政策行動がとれるのかどうか、まさに正念場だ。

韓国サムスンの新興アジアでの薄型テレビの販売戦略は
企業の勢いの差?

結論から言えば、冒頭の主見出しに書いたように、今回のエルピーダメモリの経営破たんは、戦略的な企業行動で世界シェアをとっていく韓国のすさまじさに負けたが、これ自体は日本の製造業全体に共通するテーマだ。すでに、日本が圧倒的な強みを誇っていたテレビなどエレクトロニクス製品分野でも、今や韓国のサムスンエレクトロニクス、さらにはナンバー2のLGに敗退を余儀なくされている。

先日、ある友人の企業幹部から聞いた話で、思わず苦笑いしてしまった。韓国のサムスンエレクトロニクスのマーケッティング戦略、販売戦略はすごい、という。要は、ソニーやパナソニックが薄型テレビの新機種を新興アジアで売り出す場合、3機種程度だが、サムスンエレクトロニクスはその3倍以上の新機種を同じ売り場に大胆に出す。その数の多さに圧倒されるが、それら新機種にはほとんど機能の面での差がない。微妙なデザインや機能の差でもって、低価格から比較的高価格のものまでラインナップを多くしただけのこと。要は、品ぞろえの多さを武器に、消費者をくぎ付けにして「サムスンのテレビは種類が豊富で、すごい」というイメージ戦略で来るのだ、という。

エルピーダメモリの経営破たんから日本の製造業、
行政は何を学ぶか

別に、ライバルは韓国に限ったことではなく、いずれ新興アジアの中国、インド、あるいはインドネシアなどが後発のメリットと、それぞれの国内市場での消費購買力の強さに支えられての強気の経営攻勢が、かつての高度成長期の日本と同じように、勢いに弾みがついて、次第に国際競争力を強めてしまい、ハッと気が付いたら、彼我の差はかなりのものだった、ということが十分にあり得る。それはエレクトロニクスに限らず、今後は自動車、化学品など消費財産業にとどまらず、あらゆる分野で起きてくる。

その場合、競争の現場で戦うのは個別企業の責任だ。それぞれの自助努力で、どのようにグローバルな企業間競争に勝ち抜いていくかどうかだ。まさに、サムスンエレクトロニクスのような戦略が問われる。何も販売戦略に限らず、研究開発や技術開発でもタフにやっており、日本企業も対応せざるを得ない。
問題は、経済産業省が産業政策を錦の御旗に、前面に出て主導する、といったかつてのようなことはあり得ないにしても、どういった政策的な産業基盤整備などのプラットフォームをつくれるのかどうかだ。今回の公的支援をしたエルピーダメモリ経営破たんで、経済産業省を含めて、日本全体が何を学び、またどういった教訓にするかどうかだ。

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