なぜ「異論」の出ない組織は間違うのか 大組織病にメス、宇田さん著書が面白い


時代刺激人 Vol. 249

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

今回は、以前から、ぜひ取り上げてみたいと思っていた問題をテーマにしたい。それは行政や企業の巨大組織にからむ問題だ。東京電力福島第1原発事故調査の国会事故調査委員会(国会事故調)でご一緒した調査統括リーダーの宇田左近さんがこのほど、「なぜ、『異論』の出ない組織は間違うのか」(PHP研究所刊)というテーマの本を出版され、わが意を得たり、という部分があった。

今回は、以前から、ぜひ取り上げてみたいと思っていた問題をテーマにしたい。それは行政や企業の巨大組織にからむ問題だ。東京電力福島第1原発事故調査の国会事故調査委員会(国会事故調)でご一緒した調査統括リーダーの宇田左近さんがこのほど、「なぜ、『異論』の出ない組織は間違うのか」(PHP研究所刊)というテーマの本を出版され、わが意を得たり、という部分があった。そこで、その本で提起されている問題を軸に、日本の巨大組織に巣食う一種の病理ともいえる大組織病の問題を考えてみたい。

責任回避、前例踏襲、問題先送り、
現状維持の体質が大組織病の病理と分析

まず、宇田さんが本の冒頭部分で問題提起している点を少し引用させていただこう。
「組織に属する者として、自分自身も『聞いていない』『知らなかった』と言うことによって責任回避をしていないか。前例踏襲、先送りを当たり前のこととして受け入れてしまっていないか。社会的な責任よりも社内事情を優先していないか。もし問題を把握した時、自分ならどうするのか。その時、上司に異論を唱えられるのか。組織として、一方向に驀進している時に、自分自身を客観的に見ながら、『それは違うのではないか』と言えるだろうか」と。

この問題提起は、日本の巨大組織が抱える問題を考える際のポイント部分で実に鋭い。確かに、日本の巨大組織では図体の大きさが裏目に出て、そこに所属する人も、そして組織自体もリスクをとらず、前例踏襲や問題先送りをしてしまう。その結果、マンネリズムに陥って何も決まらない、何も動かない組織になってしまっている、という点がある。

宇田さんは米マッキンゼーの「異論を唱える義務」
ルール義務付けがカギと問題提起

宇田さんはそこで、かつて所属した米コンサルティング企業、マッキンゼーでの「異論を唱える義務」を参考事例に、大組織病解決のためのカギとなる問題提起を行っている。
ポイント部分はこうだ。マッキンゼーでは「集団思考の愚」に陥ることを避け、また多様な意見を取り入れながら前例踏襲に陥らず、課題をより立体的に捉えられるようにするため、各人に「異論を唱える義務」を課していた。「自由に意見を言っていい」のではなく、違うと思ったら相手の職位や年齢、年次に関係なく「言わなければならない」という規範があった、というのだ。米コンサルティング企業らしい発想だ、と言ってしまえば、それまでだが、企業組織自身が「異論を唱える」ことを義務づけるというのはすごいことだ。

率直に言って、私自身も経済ジャーナリストとして長年の取材の中で、わくわくして取材してみよう、ぜひ話を聞いてみたいといった意欲の湧かない行政組織や企業組織がかなりあった。当然ながら、面白くもないし興味もわかないので、自然と足も遠のく。ジャーナリストの好奇心を誘うような、アクティブな、存在感のある組織が多くなかった。

「国策民営」原発の事故対策は
民間に経営責任求めると同時に国も責任体制必要

その意味で、今回の原発再稼働に向けての動きの中で、優先課題として対応すべきなのは、「国策民営」の原発に関しては民間の電力会社に厳しい過酷事故対策を求めると同時に、国も防災対策、住民避難対策に関しては国が電力会社や自治体に任せず、国が最終責任を負うという新「5層の防御」体制を作り上げることだ。
なぜ、こんなことを申し上げるかと言えば、今回の川内原発に対する原子力規制委の田中俊一委員長が記者会見に関して、誰もが奇異に感じたことがあるからだ。それは、田中委員長が「新規制基準に適合していると判断した」と審査合格理由を述べながら、一方で、これによって川内原発再稼働に際して安全上の問題は確保されたのか、という質問に対しては「安全とは、私からは申し上げられない」と述べた点だ。

時代刺激人流には
「タテ割り巨大組織にヨコ串を刺す組織横断的な土壌づくり」

そこで、大組織病をなくして、組織をアクティブなものにするにはどうしたらいいかについて、私なりの結論を先に申し上げよう。
私は、タテ割りの巨大組織に、ヨコ串を刺して組織横断的な発想、行動がとれるようにすることだと思っている。場合によっては、ヨコ串がうまく機能するように、ユニークな新組織をつくることも必要だ。その場合、新組織には、できるだけ問題意識があって行動力のある人材を派遣し、自由な発想で、これまでのタテ割り組織では生み出せなかった新機軸を構築する。そのためには、組織のトップリーダーが、この新組織の動き、提案してきた新機軸を容認し、率先して方向付けすることだ。

私が、こういった問題提起をするのは、実は過去に成功モデルにかかわったからだ。かつて私が新聞記者として勤務した毎日新聞で、1970年代に政治部、経済部、社会部といった既存の編集局のタテ割り組織の殻を打ち破る新機軸を打ち出そうと、特別報道部を組織した。私が申し上げたタテ割り組織にヨコ串を刺す組織だ。当時、編集局の中核の政治部、経済部、社会部などから中堅の記者が新設の特別報道部に送り込まれた。そして、毎日新聞が独自にキャンペーンを張れるようなテーマを見つけ、それに向けて、特別報道部の名のもとに、編集局横断的に独自取材で記事を書いていこうというものだ。

かつて在籍の毎日新聞編集局で
組織横断的な特別報道部を新設して成功

私は新設から1年後に、経済部兼務のまま特別報道部へ移った。何がキャンペーンできるかいろいろ取材して回った結果、当時、急激な円高のもとで国際電話や航空運賃、輸入牛肉などの為替差益還元策を取り上げるのが面白いと考えた。ところがいずれのテーマとも、当事者の企業はもとよりだが、行政機関も深く関与していた。このため、為替差益の還元をどうするかをめぐる政策判断が問われ、旧郵政省、旧運輸省、旧農林水産省などの記者クラブ詰め記者との間で、テーマのカバーをめぐるバッティング調整が必要だった。

そこで、私は、これこそタテ割りの組織にヨコ串を刺して、組織横断的に取材し、円高下の為替差益を生活者、消費者還元するにはどうすればいいか、という切り口でキャンペーンを張るべきテーマだと主張した。中堅記者として、経済部の旧運輸省、旧農林水産省などの記者クラブ詰め担当者を現場ベースで説得し、経済部の了解もとりつけた。正直なところ、この部分で腰を引いてしまうと、何も変わらないため、当時は必死で対応した。

私は円高差益の還元策でキャンペーン、
記者クラブ制度に風穴も開け効果

早い話が、特別報道部で組織横断的に、この為替差益の還元問題を取り上げなければ、たとえば輸入牛肉の為替差益の還元に関して、当時の農林水産省は輸入元だった旧畜産振興事業団と連携して、差益還元は国内の畜産農家の競争力強化に使うべきだ、という姿勢でいた。農政担当の旧農林水産省記者クラブの担当者は記者クラブ制度に安住して、行政機関を代弁するようなことになりかねなかった。

特別報道部にいた私は、「取材する立ち位置が変わったから、というわけではないが、円高に伴う巨額の為替差益の還元策に関して、国民経済的にどういった使い道が正しいか、しっかりとルールづくりを考えるという意味で、キャンペーンテーマにすべきだ」と主張し、当時、さまざまな角度から記事を書いた。結果は、各行政機関にまたがる問題を組織横断的な切り口で取り上げ、円高差益の生活者への還元の重要性などをキャンペーンの形でアピールしたので反響もあった。

記者クラブ制度の弊害は取材先からのニュース確保優先、
結果的に行政官庁を代弁

当時も今も、日本のメディアは記者クラブ制度に安住している。取材先の行政機関から政策情報を得て、それをニュース仕立てにするため必死になる。私は、毎日新聞で経済部記者として、旧大蔵省(現財務省)詰めになった際、当時のキャップから「政官財一体の日本株式会社の重役たちの一角にいる大蔵省が何を考え、どうしようとしているか、95%の国民の立場で取材し記事を書くのだ。役所の代弁ではダメだ」と言われた。

駆け出し記者の私は、アドバイスに納得して取材したが、問題意識はしっかりしていたものの、日常の報道は代弁する結果でしかなかった。そんな思いもあったので、特別報道部新設は、タテ割りの組織の弊害をなくすだけでなく、記者クラブ制度にも風穴を開けることになると、内心、わくわくして取材に走り回ったのを憶えている。

宇田さんも「異論を唱える義務」
負った新組織をつくれとの問題提起

本題に戻ろう。宇田さんは本の結論部分で、こう述べている。
「対極の『異論を唱える義務』を負った組織を想定し、それが『集団思考型マインドセット』の組織とは異なる結果をもたらす」「前例のない新たな課題に取り組む時に、既存の行動様式に凝り固まった組織とは別に、新組織を組成できるかという問いかけだ。その組織は、可能性を持った若手あるいは多様性を持った人材にとって、自らの力を発揮できるまたとない機会でもあり、挑戦の場ともなる」という。

私が申し上げた毎日新聞の特別報道部の新設と同じ問題意識だ。うまくすれば、タテ割り組織にクサビを打つ形でヨコ串を刺した特別報道部のような組織が、他の巨大組織などにつくられれば、シュンペーター流の創造的破壊、企業革新につながるかもしれない。

「経営トップが新組織創出の重要性を十分に理解すること必要」
と宇田さんは指摘

宇田さんはその際、「経営トップあるいは全体の最終責任者が、この環境創出の重要性を十分に理解している必要がある。そもそもトップが自分の考えに反論を許さない環境では実現は難しい。公的機関あるいは官僚組織などでも、年次が上の人間が、この重要性を本当に理解できない限り、いくら実現を図ろうとしても難しい」と述べている。

しかし宇田さんはその著書の中で、私が申し上げたタテ割りの組織にヨコ串を刺す新組織に関して「この環境創出には、それを周到にデザインする能力と稼働させていくプロジェクトマネジメントのできるリーダーもまた必要となる。組織のトップの決断によって一度動き出せば、その環境を経験した人たちから、その重要性が語られることによって、急速に組織内に拡大していくはずだ」と述べている。そのとおりだと思う。

国会事故調が「異論を唱える義務」負った組織だった、
今後も必要に応じ似た組織を

最後になってしまったが、実は、宇田さんが「なぜ、『異論』の出ない組織は間違うのか」という本で最もアピールしたかったことが、もう1つある、ということを申し上げたい。その点は、私も100%同感だと」思っている点だ。
具体的に申し上げよう。宇田さんは著書の中で、「東電原発事故調査を行った国会事故調が憲政史上初めて、国民の代表である国会に、行政府から独立し、法的に調査権を付与された、民間人からなる調査委員会として設立された。これは言い換えれば、国会事故調が、立法府の国会から、原子力問題に関して、行政を監視し、政府から独立した立場で『異論を唱える義務』を果たす付託を得ていたとも考えられる」と述べている点だ。

国会事故調は、原因究明や真相解明の調査を踏まえて、2012年7月に、衆参両院議長あてに報告書を提出し7つの提言を行った。これまでのコラムで、国会がその報告書をしっかりと受け止めずにいる点を問題視してきた。この点は、世界中に、日本の原発事故の教訓をしっかりと伝えるためにもプッシュすべき問題だが、宇田さんは著書の中で、次のように指摘している。
「報告書の提言で、国民生活に大きな影響のあるような案件に関しては、国会主導で第2、第3の国会事故調のような独立した委員会で議論をし、何らかの提案をしてほしいということが述べられている。(中略)今後、もしもこのような調査委員会が設置される場合には、異論を唱えるための具体的な仕組みについて、(私の問題提起が)よりよい形で反映されることを望みたい」と述べている。
私はさらに、その点に踏み込んで申し上げたい。立法府の国会が行政府を監視するための新たな独立の組織を、たとえば医療制度改革やアベノミクスのマクロ経済政策検証のための組織として設置することが必要だと思う。

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