メコン諸国現場レポート5 アジアで活躍の「和僑」は躍動している 日本グローバル化の先端部分の応援を


時代刺激人 Vol. 240

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 メコン経済圏諸国の報告に戻ろう。今回は、私が歩いたタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーのメコン諸国、それにシンガポールで出会った日本人のうち、それぞれの国で起業され、タフにビジネス展開されている「和僑」の方々のことをレポートしてみたい。実に生き生きと活動され、内向きの日本では考えられない躍動ぶりだ。まさに日本のグローバル化の先端部分でがんばっている人た
ちばかりで、思わず応援したくなる。

ちょうど私がタイに滞在中の2013年11月9日、友人の紹介でお会いしたバンコクの中堅企業経営者、小田原靖さんから、2週間後の22日、23日の2日間、バンコクで初めて和僑世界大会を開催すること、アジアを中心にいろいろな国で活躍する日本人が集まって交流しようというもので、間違いなく面白いものになるであろうことを聞いた。そして小田原さんが「中国の華僑のスケールの大きさにはかなわないが、われわれもいい意味での結束力を強めていこうと思っている」という話を聞いて、好奇心が湧いた。

タイで第5回和僑世界大会、
「リスク多くてもリターンある所で勝負」と1000人参加
 ただ、その世界大会が開催された時は、私がシンガポールから帰国の途にあって、スケジュール変更がきかないころだったので、さすがに私としても何ともすることが出来ず、少し悔しい思いをした。
帰国してインターネット上で、その第5回和僑世界大会記事を検索したら、ネットメディアで評価の高い硬派の東洋経済ONLINEに出ていたフジTV女性ディレクターの藤村美里さんの現場レポートが興味深いものだった。少し引用させていただこう。
それによると、会場のインペリアルクイーンズパークホテルに約1000人のベンチャービジネスを立ち上げて活躍する人たちが各国から集まった。前年シンガポール大会参加者が250人だったので、1年間で4倍に膨れ上がる盛り上がりぶりだった、という。
藤村さんは「ものすごい熱気のもとで名刺交換する人々から、リスクは多くてもリターンがある所で勝負したい、というエネルギーを感じた。(中略)国境を越えることがこんなにも容易な時代になったのか、、、。今回の和僑世界大会で感じた驚きだ」と述べている。

仕掛け人筒井さん「華僑対抗の若者ベンチャーネットワークの
必要性感じて組織化」
藤村さんは、このバンコク大会会場で、10年前に香港で和僑組織づくりのきっかけをつくった筒井修さんに話を聞いている。
筒井さんは「香港は会社を設立しやすいと言われているが、実際に継続していくことが難しい。9割が撤退していく。若者が夢を語ることにとどまらず、実際に成功していくために(企業経営に携わっていた私が)何か手伝えることはないか、、、。そう考えた時に、華僑に対抗できる横のつながり、日本人同士のネットワークの必要性を感じた」という。
そして、筒井さんが当時、毎月1回の勉強会を3回ほど重ねた時に、会の名前をつけることになり、華僑に対抗して「日僑」という名前も候補に挙がったが、協調する意味の「和」を込めて、和人(日本人)の「和僑」会にした。それが定着し、今や香港を起点にして、各国の和僑会が集まって世界大会を開催できるところまで来た、というわけだ。

タイ和僑会の中心メンバー小田原さんは20年間、
人材あっせんビジネスを経営
 そこで、この機会に、私が今回のメコン経済圏諸国の旅で出会った数人の頼もしい和僑の人たちのことをお伝えしよう。まず冒頭の小田原さんがその1人で、タイ王国和僑会幹事副代表という立場にある。
小田原さんは、米国の大学卒業後、マレーシアを経てタイに腰を落ち着け、20年前の1994年にバンコクで、パーソネル・コンサルタント・マンパワー株式会社を立ち上げ、それ以来、ずっと経営を切り盛りしている。現在、日本人スタッフ12人、タイ人スタッフ60人を抱える。しかもビジネスチャンスが増えた隣国のミャンマーでも労働省から日本企業としての営業ライセンスを得て事務所を開設し、活動の場を広げている。

会社の名前で想像がつくように、タイにビジネス進出した日系企業、それに日本とのビジネス機会が多い現地タイ企業向けにタイ人、日本人のホワイトカラーの人材をあっせん紹介するのが主たるビジネス。同時に、それら企業の人材採用や労務管理、社員教育のセミナーやトレーニングの支援ビジネス、さらには日本語やタイ語、英語の書類翻訳、通訳ビジネスも行っている。

小田原さん「アジアはビジネスチャンスが多い。
日本は魅力なく戻る考えはない」
すでに最初のメコン経済圏報告でもお伝えしたように、タイは政治不安を抱えながらも経済には勢いがあるため、失業率はタイ全体で0.5%と、ほぼ完全雇用状態にある。若者の失業率が2ケタで社会不安を引き起こすエジプトやギリシャなどとは対照的だ。
小田原さんは「バンコク市内の企業は人材募集をかけても、売り手市場のため、市場からの人材確保が難しい。だから、実績のある私たちへの引き合いが急速に増えている」と述べている。20年間のビジネス実績が評価され、顧客企業数が9000社に及ぶ、というから、なかなかのものだ。

日本がバブル崩壊後、長期デフレのトンネルに入った時期に、小田原さんはタイで起業し現在に至る。「福岡県に両親がいるので、年1回は帰郷するが、タイを含めてアジアは今、成長センター化しており、当然、ビジネスチャンスも多い。日本経済はその点、魅力がなく、日本に戻るという考えはない」と述べている。それよりも、バンコクで起業する日本の若者たちがいれば、先輩としてビジネス面でのアドバイスをする、という。

旧厚生労働省OBの鳴海さんは官僚生活の
マンネリズムに区切り、カンボジアで起業
 同じ人材のあっせんビジネスをカンボジアのプノンペンで起業して成功している旧厚生労働省の官僚OBも紹介しよう。クリエイティブ・ダイアモンド・リンクス(CDL)社のCEO兼社長の鳴海貴紀さんだ。

鳴海さんは、もともと行政統合される前の旧労働省に入って、ハローワークの現場だけでなく霞ヶ関の役所で政策官僚として法案づくりにもかかわったが、2年前に22年間ほど勤めた官僚生活にマンネリズムを感じて、区切りをつけ、カンボジアで起業した。北海道生まれなのに、鳴海さんはなぜか寒冷地が好きでないと南のアジアを旅行したが、その際、発展途上にあるカンボジアの面白さに魅せられた、という。

ASEAN地域統合後の「国境なき労働移動」に
魅力感じ経験生かし職業紹介ビジネス
それだけでない。2015年12月のASEAN(東南アジア諸国連合)の地域経済統合をきっかけに、今後は国境での人やサービスの移動が自由になって、「国境なき労働移動」が活発化する。そこで、アジア経済のダイナミズムのもとで、自分がこれまでかかわった官僚時代の仕事や経験が生かせるのでないかと考え、起業することにした、と述べている。

すでにカンボジア人女性と結婚し、プノンペンで長期的にビジネス展開するつもりでいる。タイの小田原さんと同様、ビジネスチャンスを求めてカンボジアに進出する日本企業の人材ニーズに対応しているが、鳴海さんは「人材あっせんとか人材紹介といった人間をモノ扱いする発想が嫌いで、私は、あえて職業紹介ビジネスだと言っている」という。持ち前のフットワークのよさで人脈ネットワークをつくりあげ、存在感を見せている。

朝日新聞OBの女性記者、木村さんはポルポト裁判フォローと
同時にミニコミ誌発行
 また、同じプノンペンでは朝日新聞の女性記者生活に区切りをつけ、日本語でのミニコミ誌、タウン誌でビジネス展開しているKANASAN―KOBO社の木村文さんもユニークな存在だ。名刺の肩書はジャーナリスト兼EDITOR―IN―CHIEF(編集長)となっているが、個人事業主として、経営にも携わっている。
雑誌は、カンボジアに進出している日本企業だけでなく、旅行者も含めたさまざまな日本人をターゲットに2000部ほどの発行部数ながら、中身は、さすがマニラやバンコクなどの現場で取材した記者経験を生かしてつくっているだけに、質の高い雑誌だ。

木村さんは「まだ、ジャーナリスト感覚が抜けず、カンボジアのポルポト政権時代の虐殺事件が裁判にかけられているのをずっとフォローし、特別法廷での裁判記録を日本語にデータベース化している」という。木村さんは、硬派の問題意識を捨てず、ポルポト裁判をフォローすると同時に、同じジャーナリスト感覚で言えば、カンボジアを含めた新興アジアの躍動ぶりに日本のさまざまなビジネスチャンスがあることを感じ、日本の多くの人たちに訴えていこうというプロ意識もあるように感じた。

タフに各国の現場でビジネス展開し
現地の人たちとの連携も深める動きが活発化
 メコン経済圏諸国で出会った数多くの日本人の方々のうち、ベトナム、ミャンマーなどでも現地にしっかりと根を下ろして、タフに活動されている方々を取り上げたいが、ページ数の関係で打ち切らざるを得ない。

冒頭のバンコクでの和僑世界大会に参加された人たちを含めて、もちろん言い知れない苦労もおありだろうが、私が出会った方々は、先を見据えて、さまざまなプロジェクトにビジネスチャンスを感じて取り組んでおられること、とくにそれぞれの現地の企業や各国の人たちとの交流を経て、うまく連携して活動されているところに、強い興味を持った。

華僑や印僑、韓僑のネットワーク力には
和僑はまだまだかなわないが、着実に変化
 アジアを含めて世界中で活動する華僑は、ケタ外れの人脈ネットワークを武器に、資金ネットワークはじめさまざまなネットワークを構築して、横の連携がすごい。しかも異国の地で、ビジネス展開し、そのスケールの大きさには舌をまくほどだ。しかも今や母国の中国と一種の大中華圏を作り出すのでないか、と思うほどネットワーク力がある。

これに続くインド人の印僑、さらに最近では韓国もアジアで現地化を進め、韓僑というくくりでのネットワークが出来つつある。そういった点では、日本人の和僑は、やっと和僑世界大会を5回開催できるような横のネットワーク化が出来てきたが、華僑、印僑、韓僑に比べれば、大きなパワーを持ちえる状況ではない。でも、グローバル化の先端部分で活躍する日本人の和僑が増えることで、遅ればせながら、新たな広がりを持つことを期待したい、というのが率直な気持ちだ。いかがだろうか。

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