[米国現場レポート]金融危機→経済悪化→再び金融不安の悪循環リスクに カギは時期オバマ政権の大胆な経済政策、それでも全治回復に3年説も


時代刺激人 Vol. 17

 たまたまチャンスがあって、金融危機に揺れる米国に行き、現場を見ることができた。経済ジャーナリストにとっては、何と言っても現場を踏み、いろいろな人たちの話を聞くことが最重要だ。限られた時間の範囲内であり、すべてを網羅できる状況にないが、ジャーナリストの目線で見た現場レポートをしてみよう。

 結論から先に申し上げれば、米国発の金融危機が、グローバルに影響を与えているのは言うまでもないが、足もとの米国経済への影響が日増しに看過できなくなっており、最悪シナリオである経済の悪循過程に陥るリスクが急速に高まっているのだ。つまり、金融危機に関しては、パッチワークのような対処療法の公的資金注入対策で、辛うじて金融システム全体のリスクにつながる事態を避けることができた。しかし住宅価格下落に歯止めがかからないうえ、株下落も加わって資産価格が急速にダウンし、あおりで米国国内総生産(GDP)の70%を占める個人消費ダウンに波及するなど、実体経済にボディブローのように影響を与えつつある。

しかも、この実体経済の悪化が新たな金融不安問題を引き起こす可能性が高まっているのだ。端的には、以前、住宅価格のインフレ期待(値上がり期待)から資金を追加で借りて新築住宅に買い替えた人たちが金融危機後の住宅価格急落でローン返済できなくなり、そのしわ寄せが金融機関に来て不良債権化してきている。加えて、金融機関にとっては、低所得層向けのサブプライムローン問題の処理を何とか終えたが、新たに、ワンランク上のプライムローン問題がここ1年以内に表面化するのが目に見えており、それへのリスクヘッジから貸し渋りなどの信用収縮に動いている。しかし金融機関の経営問題が再び表面化すると、金融危機→実体経済の悪化→再び金融不安もしくは金融危機という悪循環リスクに陥る可能性がきわめて高くなるのは間違いない。

Xマス・年末商戦初日の「ブラック・フライデー」でもスーパー除いて振るわず

まずは、現場のいくつかの動きをレポートしよう。米国の人たちは、感謝祭祝日をはさんで特別休暇をとることが多いが、祝日明けの11月28日の金曜日は「ブラック・フライデー」と呼ばれる。日本人には「ブラック・マンデー」という、株価が大暴落し金融混乱を引き起こした苦い思い出があり「ブラック」はいい印象を与えない。しかし、お祭り好きの米国では年末商戦、とりわけクリスマス商戦の初日という意味合いを持たせ、派手にセールス展開することで有名。

その日、私は、ロスアンゼルス市内でいくつかのスーパーマーケットなど流通の現場を見て回ったが、安売りスーパーのCOSTCO(コストコもしくはカスコ)、そしてウオールマートでは買い物客で混雑し、消費に影響が出ているという感じがしなかった。
ところが、同じ市内の高級服飾品などの店はさすがに店内に客の姿は少なく、また店によっては30%OFFあるいは50%OFFという値下げのメッセージをウインドーに掲げたりしていたが、いずれも客の入りは多くなかった。
現に、店を開ける直前の高級レストランに飛び込んで、マネージャーに聞いたところ「売上げは今年の夏場ぐらいから落ちている。お客の注文も、以前ならば高額のビーフステーキなどを簡単に注文していたのが、いまは価格先行で、慎重な選び方だ」という。

商戦に冷水浴びせた過去4番目の株安、リセッション認定やゼロ金利示唆

驚かされたのは週明け12月1日の月曜日のことだ。これからクリスマス商戦に入ろうという矢先にもかかわらず、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均が急落し、過去4番目の下げ幅となる679ドル安となったのだ。まさに冷水を浴びせられた形だ。

株価急落を誘ういくつかの出来事があった。
米有力シンクタンク、全米経済研究所(NBER)が、米国経済の景気後退(リセッション)は2007年12月から始まり、1年後の現時点でも景気後退が続いている、と認定公表、しかも研究所幹部が「長いリセッションになる可能性が高い」と述べたことだ。
同じころ、米中央銀行の連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長がテキサス州での講演で、厳しい景気認識を示すと同時に、12月15、16日開催の金融政策決定会合である米連邦公開市場委員会(FOMC)で一段の金融緩和もあり得ることを示唆した。明らかに、米国の政策金利が、かつてのバブル崩壊後の日本と同じようにゼロ金利時代に入るメッセージを伝えたと言っていい。
さらに、同じ日公表の11月の製造業景況感指数が26年ぶりの低い水準に落ち込んだことも拍車をかけたが、マクロ経済がらみでのマイナス要因が相次いだことが決定的だ。

メディアのマクロ経済見通し論調は厳しく、ビッグ3への政府支援にも批判的

西海岸のロスアンゼルスから東海岸のニューヨークに移動した日だったが、2日付けの経済専門紙、ウォールストリート・ジャーナルはじめ各紙は、1面トップで取り上げ、いずれの論調も厳しい見通しばかりだった。
しかも、折しも、米議会では12月4、5の両日、経営危機に陥っている米自動車大手3社(ビッグ3)への政府の資金繰り支援をめぐる公聴会が始まるところだった。メディアの論調は、全体としては、ビッグ3が米国文明を支えた象徴的企業との位置づけながら、国民の税金をなぜ特定企業救済に回す必要があるのか、という批判的なものだった。

ただ、12月5日には11月の米雇用統計が公表になり、非農業部門、つまり製造業や小売などサービス産業部門の就業者数が10月に比べて53万人も減り、その減少幅は第1次石油ショック直後の1974年12月以来、34年ぶりの悪さであること、失業率もこれに伴い15年ぶりの悪さである6.7%に達した、という。
私がたまたま米国にいた10日間ばかりの間だけでも、こういった先行き不安を抱かせるマクロ数字が相次いで公表になるのだから、金融危機のさまざまな影響が、実体経済の着実な悪化に及んでいる、ということが理解できる。

最悪のシナリオは泥沼の悪循環過程に入って抜け出せないリスク

そこで、本題の金融危機→実体経済の悪化→再び金融不安もしくは金融危機という悪循環リスクの問題に関して、レポートしよう。

ニューヨークで会った複数の金融専門家らは、とても参考になる話をしてくれた。いくつかの話を総合すれば、米国の金融機関はいまだに3つの問題を抱えている、という。
1つは、各金融機関とも今後、1年ないし1年半以内に、住宅融資のプライムローン問題への対応処理で苦境に立たされるリスクが高い。さすがに、サブプライムローン問題への対処は終わっており、大きな金融リスクにつながることはないが、問題は、これまでどちらかと言えば、後回しになっていたプライムローン問題で、意外にボディー・ブローとなって金融機関経営に影響を与える、という。
いずれもプライムという名前が示すとおり、優良顧客向け融資という位置づけで、最初の数年間は金利支払いゼロなどの優遇措置があったが、これらが今後、1年ないし1年半後に元利の償還を迎える際に返済滞りリスクになる可能性が極めて高い、という。

2つめは、住宅ローンとは別の既存の企業向け運転資金や設備資金、さらに個人向け自動車ローンなどに関して、金融機関にとって、景気後退もからんで返済滞りリスクが増えている。また、3つめは、金融機関が、さまざまな金融証券化商品を帳簿外のオフバランスにしていたのをオンバランスにしてきたため、隠された不良債権の実態が浮き彫りになってきたが、この対処に出遅れた大手金融のシティグループが何とか国からの支援も得て事態乗り切りを図っている。これらオフバランスからオンバランスに切り替える過程で問題が出る可能性も残されている、という 。

250万人雇用創出含め公共事業を計画中の次期オバマ大統領に期待高まる

しかし、すでに申し上げたように一番最初の金融危機が大騒ぎになり、それが実体経済に波及してきているのが今の状況だが、今後は、いま述べた1つめ、2つめの問題が実体経済の悪化とからんで金融機関経営に襲いかかるリスクがあることだ。
一度、金融危機→実体経済の悪化→再び金融不安もしくは金融危機という悪循環リスクに入ると、文字どおりの悪循環が際限なく連鎖的に続く。そうなると、かつての日本経済と同じようにデフレスパイラル・リスクに陥る可能性さえ出てくる。ニューヨークで聞いた専門家の話では、全治3年、あるいはもっと長引くリスクさえある、というのだ。

その反動でか、オバマ次期政権への期待度は高まっている。それに応えるように、オバマ次期大統領は全米で道路網の整備や老朽化した橋など社会資本インフラ整備など大規模な公共事業を実施し、250万人の雇用創出などを実現したい、といった演説をしている。
そういえばニューヨーク州からニュージャージー州へ移動する際に渡った巨大な橋は老朽化がすさまじく補強工事をしていた。昨年のミネソタ州のミシシッピー川にかかる巨大な橋が崩れ落ちた大事故の経験もあり、次期政権は重要課題として取り組むのだろう。

いずれにしても悪循環の連鎖にクサビを打ち込むのは、オバマ次期政権の大胆かつ果敢な経済政策なのかもしれない。しかし、1月20日の大統領就任式までの「政治空白」期間中に何か起きないとも限らない。ジャーナリストとしては、米国の動向に目が離せない。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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