大丈夫?海外原発輸出で官民一体会社創設し再挑戦と言っても難題山積 UAEやベトナムでの連続敗退原因は深刻、国内規制を海外に合わせられるか


時代刺激人 Vol. 95

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 原子力発電所の製造のみならず維持管理技術では今や世界でもトップレベル、と言われる日本。ところが日本は昨年から今年にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)やベトナムでの国際受注をめぐって連続敗退した。その敗因が、韓国やロシアの政府の強いテコ入れ支援によるものだったことから、経済産業省が危機感を強め、官民一体の「国際原子力発電開発会社」(仮称)を今年秋に創設して巻き返しの再挑戦を図るという。
オールジャパンでの取組みは、ワールドカップサッカーでの日本チームの結束力、意外なパワーの発揮をイメージさせるが、経済ジャーナリストの問題意識で言えば、この原発輸出の官民一体会社の枠組みに関しては、コトはそれほど簡単でない。それどころか難問山積なのだ。そこで、今回は何が課題か探ってみよう。

韓国は新興国の原発需要への対応に躍起、輸出実績づくりで安値受注
 まずは「失敗の研究」から始めよう。経済産業省や電力、プラント輸出企業関係者の話を総合すると、昨年12月、UAEアブダビに建設予定の4基の原発に関して、韓国国営の韓国電力がフランス、日本・米国連合との国際競争入札の結果、受注したが、その受注額が国際相場よりも30%ほど安い約200億ドル(円換算約1兆7000億円)の安値受注だった、という。
韓国は原発建設では後発国で、輸出実績がないため、一般的に評価が低かったが、ここ数年の新興国を中心にした原発需要の高まりに積極対応するには、まず実績づくりが最重要と位置付け、今回のUAE原発をめぐっても経済界出身の李明博韓国大統領が陣頭指揮で取組み、国営電力のプロジェクトでもあることから安値受注批判を覚悟でなりふり構わずに受注に走ったのは間違いない、という。

問題は「原発運転60年保証」提案、日本は「経営スパン超えたリスク」と敬遠気味
 しかし問題はそれにとどまらない。むしろ、日本、とくに電力やプラント輸出企業関係者にショックを与えたもっと重大なポイント部分がいくつかある。1つは、韓国電力が原発運転中の技術トラブル、事故などを含め運転保証を60年間行う、と提案したこと。もう1つは、原発の設備稼働率に関して、日本の65%に比べ韓国は90%で対応する、それに伴い定期検査期間も短くし効率的な設備稼働をめざすと提案したことだ。
東京電力などの電力関係者は、このうち60年運転保証に神経をとがらせている。「製造物に関するメーカー責任と同様、原発の運転保証はシステムを提供する企業サイドには当然の責務だが、60年という期間の長さは企業の常識を超えている。民間企業としては、到底、そんな長期のリスクに対応しきれない」「韓国が非常識な前例をつくってしまったので、これが今後、国際原発受注競争をめぐって、ひとり歩きしたりすると、大変なことになる。株式会社の経営スパンを超えた運転保証が受注の必要条件になるようであれば、この受注競争から降りざるを得なくなる。新しく創設予定の官民一体の国策会社が出来ても、このリスクをどう背負い込むかは難題だ」という。

官民一体会社が政府貿易保険適用で長期の巨額リスクに対応するかポイント
 国の貿易保険という制度的な手立てがあることは事実。だが、1基数千億円という原発の巨額の損失保証リスクが60年という長期間に及んだ場合、保険がどこまで対応できるかどうかという問題が残っている。官民一体の原発輸出会社とはいえ、民間の電力会社がリスク回避の行動に出た場合、経済産業省など国は貿易保険でどこまで安全を担保するのかがポイント部分だ。
今回のUAEの原発受注をめぐっては、日本側のプラントメーカー日立製作所は沸騰水型原子炉で米ゼネラル・エレクトリック(GE)と技術連携している関係で共同応札に動き、そしてシステム稼働は米電力大手のエクセロンがメインに、東京電力がサブの後方支援というバックアップ体制をとる形で臨んだ。日本側はこの布陣をとれば、輸出実績のない韓国が60年保証をアピールしても十分に勝てると踏んだが、日米という基軸は中東では張り子のトラでしかなかったようだ。

ただ、面白い話がある。日本の大手商社首脳がサウジアラビアの政府関係者と、今回のUAE原発の韓国受注をめぐって話し合った際、サウジ政府関係者は「原発の運転実績やシステム関するノウハウを十分に持ち合わせていないUAEとしては、経験豊富な日米連合の力量を買うべきだったのに、明らかに判断ミスだ」と言ってくれたそうだが、UAEにとっては60年もの運転保証は際立った魅力に映ったのだろう。

韓国は原発設備稼働率90%をアピール、日本は安全検査がらみで65%に
 韓国が売りこんだ、もう1つの原発設備稼働率90%問題も、実は日本の官民一体会社に今後、難しい課題を投げかける。この稼働率というのは、わかりやすく言えば、設備が損傷なく効率的に動いているかを見る際のメルクマールになるものだが、韓国の90%に対して、日本は統括する原子力安全・保安院の検査方針にもとづき65%の低さだ。この理由はいくつかある。
1つは、日本が地震多発国のため、耐震度チェックが重要になり、常に検査回数を多く、また検査期間を長くしていることだ。中越沖地震での東京電力の柏崎原発は地震発生と同時に原子炉が瞬時に止まり、日本の原発安全性の高さを証明したが、原子力安全・保安院は定期検査を13カ月ごとに実施、検査が半年以上に及ぶこともある。逆に韓国は20カ月ごとの検査で、期間も1カ月程度。これが設備稼働率の差となって表われる。

「性能向上で年1回の原発検査は不要」論に対し、国は自治体対策でも慎重
 米国も韓国と同じ90%だが、日本の場合、安全性へのこだわりがその差となっている。しかし電力関係者は「原発のハードウエアとしての性能は技術進歩に伴って格段に上がっている。年間1回の定期検査はもはや不要だと言っていい。米国などで検査制度の合理性が証明されているのだから、90%に引き上げても問題ない」と述べている。
同時に、別の電力関係者も「原発が定期検査中、火力発電などで電力のピーク時需要への対応が必要になるが、火力発電には原油確保が必要で、原油価格高騰時にはその分、大きなコストアップになる。20%稼働率を引き上げるだけで、コスト削減、引いては電気料金の引き下げにもつながる。ましてや原発の国際商戦で原発稼働率の差がポイントになるのなら米国や韓国の基準にスライドさせればいいでないか」とも述べている。

ここ数年の日本国内の電力会社の原発がらみでのデータ隠しなどの不祥事で、原子力安全・保安院が原発検査に厳しい姿勢で臨んでいる。しかし実は、原発立地の自治体、原発周辺住民への安全確保対応をめぐり、原子力安全・保安院としては、「原発の設備稼働率引上げ容認で地域住民への安全を軽視するのか」といった批判を懸念し慎重になっていることも否定できない。

エネルギー白書は「20年後に原発稼働率90%」を提案、国際商戦に勝てる?
 ところで、今回の官民一体の原発輸出会社がらみで官の側の姿勢が問われる問題がある。経済産業省が出した2010年版エネルギー白書では、CO2(二酸化炭素)排出量が少なく地球環境に優しい原子力発電の推進を打ち出し、同時に、2030年に原発の設備稼働率を90%にすること、具体的には「平均18カ月以上の長期サイクル運転、平均2カ月程度以内の定期検査による発電停止期間となることをめざす」としていることだ。
今回、UAEの原発受注をめぐって、日本が敗退した要因の1つに原発設備稼働率の低さがポイントになったというのに、エネルギー白書では20年後に韓国と同じ90%になるようにする、と平然と述べているのには正直、驚いた。
経済産業省は、原発の海外輸出を大きな国家戦略と位置付け、官民一体の会社まで創設して取組もうという時に、この意識のずれは問われる点だ。設備稼働率の関しては海外向けは90%に、国内向けは当面65%にして段階的に20年後に90%へというダブルスタンダードで臨もうということだろうか。

産業構造ビジョンでも「市場機能を最大限に活用した官民連携」を強調したのに、、、
 同じ経済産業省が最近まとめた「産業構造ビジョン」では「市場機能の中で、民は徹底して稼ぐための事業戦略を練り、官がそれを戦略的にサポートし、官は国内雇用の確保に必要な政策を徹底的に打つ。これが官と民の新たな方向性である」として市場機能を最大限に活用した官民連携をうたいあげている。とくに今後の産業政策ともからめて日本がオールジャパンで取り組む戦略分野として、新興アジアなどでの水プロジェクトや原発プロジェクトに関して、設備や製品の単品売りではなく、設計・建設から維持・管理、時には料金徴収などのシステムのニーズに対応すべきだ、とし、官の側の役割として公的金融支援、経済協力の見直し、インフラファンドの活用などを強調している。実現すれば好ましい方向と思うが、エネルギー白書の現実認識のズレからみると、官の対応が問われる。

日本政府は三峡ダムでの国際商慣習ルール破る中国に文句言えず
 この官民一体、オールジャパンの取り組みにはまだまだ課題山積だ。ベトナムの原発受注を巡って、ロシアは軍事協力という奥の手を出し、潜水艦6隻の無償供与を提案し、これがベトナムをロシア受注に決める決定要素となった。日本の原発輸出の官民一体会社はこの現実にどう対抗の切り札を出せるのかがポイントになる。
また、こんな話もある。かつて中国の三峡ダムの第2期国際入札が公開で行われた際、日本企業は1番から3番までの札をすべて引いたので、どう転んでも日本受注間違いなしだった。ところが、最終落札で何と予想外のドイツに行ってしまった。どんな裏ワザか定かでないが、ドイツは巧みなアクションをとったのだ。意気込んでいた日本企業関係者はなぜだと激怒し、日本大使館や経済産業省などに対し「中国は国際商慣習を守らなければ国際社会で生きていけぬぞ、と抗議しろ」とねじこんだ。当時を知る企業関係者は「日本政府は中国に対して、何も言えずだった。だらしがない、の一語に尽きる。官民一体、オールジャパンの掛け声はいいが、ギリギリのところでリスクをとれるのか。民間企業につけ回しだけは止めてほしい」というのだ。国は今回の官民一体のプロジェクトでも、本当にリスクをとる気概があるかどうかだ。

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