1990年生まれ20歳の若者に、経済成長への執着心がないという現実 成長未体験世代が増え続けるこわさ、政治や行政、企業経営者の責任は大


時代刺激人 Vol. 94

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

私にとって、最近、とてもショックだった話から始めよう。私の友人で、東アジア経済を研究している早稲田大学の深川由紀子政経学部教授が、あるシンポジウムで「私のゼミにいる3年生の20歳の大学生たちは驚くことに、経済成長への執着力が全くと言っていいほどない。勢いある新興アジアについても、ぜひ現地に行って見てみたいという意欲もない」と述べたことだ。深川さんによると、彼らは湾岸戦争の1990年生まれの若者たち。いずれも過去にゼロ成長か1、2%の低成長、場合によってはマイナス成長しか経験しておらず、経済成長とはそんなものと思っているためだ。これから日本を担っていく人たちの人的資源の面での劣化が始まっていることがこわい、という。

ダイナミックに動く新興アジアに全く興味を示さないのも意外
 別の会合で、同じような話を聞いた。やはり旧知の旧大蔵省官僚で主税局長、国税庁長官経験者の大武健一郎さんが「いま、3つほどの日本国内の大学で、若い人たちと接していて驚くのは、そろって好奇心がないことだ。私は年間3回ほど、かかわる仕事の関係でベトナムや中国に出かけるが、ダイナミックに動くアジアの話をしても、興味を示さず、行ってみたいという気持ちも起こさない。とても残念で仕方がない」と述べたことだ。

私個人の話をして、恐縮だが、私自身は大学時代、小田実の「何でもみてやろう」と似たような世代で、海外のいろいろな国に行ってみたいという気持ちが非常に強かった。当時は海外渡航が不自由で、外貨の持ち出しも極度に制限されており、チャンスを探すのに躍起だったが、数少ないチャンスを生かして、いろいろな体験をした。

「何でも見てやろう」式に海外を歩き回ったことが貴重な体験に
 崩壊する前の東西ベルリンの壁を往復し東西冷戦の緊張の一端を肌で感じ取った。そのあとアジアの国々を歩いた際、インドの旧カルカッタ駅頭で中印国境紛争の真っただ中にあったため、中国人と間違えられ、あわやリンチにあう厳しい体験をしながら、難を逃れてインドでがんばっている日本農場の人たちの現場を見に行き、その取組みに刺戟を受けた。また東京オリンピックのころ、ベトナムの旧サイゴンで、バスに乗って出かけたビエンホアという旧南ベトナム空軍基地が襲撃されたのを翌日、香港で知り、ベトナム戦争のこわさを知ったことなど、数知れない経験をした。
当時は、ひたすら好奇心が先行していて、見ること、経験することをまず最優先にした。それが今でも役立っていて、まずは現場に行き自分の目で確かめる習慣が出来たこと、物事の価値判断に関しても、幅広くかつ多様な見方、考え方を踏まえることが大事だという意識行動が自然に出来上がっている。

若者の海外旅行多いのは事実、だがアジア専攻大学生のアジア興味なしが心配
 だから、私も深川さんや大武さんの話を聞いていて、今の若い大学生が海外での異文化体験に興味を示さないことが残念で仕方がない。私自身、彼らに対して、生き方を強要したり、押しつける気は全くないにしても、「いま、世界の成長センターのアジアの現場は面白いぞ。アジアの多くの国々には、まだまだ至る所に生活の貧困がある。しかし彼らは日々の生活に必死というだけでなく、自分たちの国を何とかしなくてはといった立て直しに向けての意欲とか勢いのようなものが出てきている。現代の日本とは違う熱気みたいなものがあり、現地に行けば、何か得るものがあるぞ」と言いたくなる。

もちろん、日本の若い世代が全く海外旅行や生活経験がないのか、と言えば、もとより、そんなことはない。ゴールデンウィークや年末年始の休みなどを使って海外で、という形で旅行体験をしている人たちが多い。とくに中堅サラリーマンが家族ぐるみで海外に出かけ、その旅行に連れだって出かける子どもたちの世代が海外でさまざまな体験をすることで異文化体験をしているので、そんなに心配する話でないだろうと言われそうだ。
しかし私の問題意識は少し違う。最も好奇心旺盛なはずの大学生、とくに深川さんらの東アジア経済を専攻しているゼミの大学生が、なぜ海外、とりわけ新興アジアに自ら出かけて現場を体験したらどうか、という教授側の問いかけにも強い関心を示さないのか、という点が心配なのだ。

「成長に執着しない」世代が人口のボリュームゾーンになるこわさ
 そこで、議論が及ぶのは深川さんの大学ゼミの1990年生まれの20歳の学生に広がる「経済成長への執着心が見られない」という点だ。バブル崩壊後の長いデフレ経済状況のもとで、そこそこの経済成長を体験しない、言ってみれば「成長未体験」世代を作り出してしまったことは大きな問題となってくる。これら世代が今後、人口の大きな塊(かたまり)、人口のボリュームゾーンの中核を占めるようになってくると、経済成長への執着心だけでなく、さまざまな物事への執着心も薄れてくることになるのだろうか。
そういった意味では、バブルを生みだし、そしてそのバブルを巧みに収縮して平時の経済に戻すようなマクロ政策の運営に失敗し、バブル崩壊後のデフレ長期化を引き起こした政治や行政、さらには経済革新へのチャレンジを怠った企業経営などの責任が大きい。「ジャーナリストはすぐ簡単に批判するが、あのバブル経済時、そしてバブル崩壊時のマクロ経済運営で、どういった秘策があったというのだ?」と反論のボールが飛んできそうだが、結果として、「失われた10年」が15年、そして20年と続いてきて、今や1990年生まれの20歳の大学生たちに経済成長への執着心を失わせる結果になったことは、やはり看過できない事態だ。

現実問題として、経済成長がゼロもしくは1、2%成長といった低成長が常態化したことによって、大学生を含めた若者たちの雇用環境が一段と厳しくなり、非正規社員やフリーターといった形での雇用不安定な状況に追い込まれて、次第に閉そく感を強めてしまう。 若者たちの意欲をそぐ事態が常態化すれば、深川さんのゼミの大学生のように、次第に経済成長そのものに対する執着心も希薄になってきてしまうのだろう。そういった意味で、やはり政治や行政が有効な手立てを講じきれないまま現在に至っている責任は大きい。

友人の意外なアドバイス、「親の遺産が転がり込むことを当てにする若者もいる」
 私の親しい友人の1人は面白いことを言っている。「今の若者は、さまざまなタイプがいて、価値観も多様だ。たとえば、周囲の空気を敏感に感じ取り、その場に合わせようという行動パターンが大勢だ。しっかり主張して発言しよう、目立とうといったアクションを好まないのだ。また、エッ?と思うかもしれないが、祖父母の世代、そして親の世代の遺産を当てにして、生活している若者も意外に多い。彼らは年金財政が破たんして、場合によって、自分たちの年金が確保できなくても祖父母、そして親の遺産がいずれ転がり込むと考えるしたたかさもあるのだ」と。でも、こんな世代がさきほどの人口のボリュームゾーンの中核になった時の日本はこわいなと思ってしまう。

毎日新聞7月26日付のキー・パーソン・インタビューで、途上国への技術支援、開発援助などにかかわる国際協力機構(JICA)理事長の緒方貞子さんが興味深いことを言っている。ちょっと引用させていただこう。
「若い人の興味は全体的に減っていると、みなさん、おっしゃる。留学したい人すら減っているとか。生活や将来の不安感はあると思うが、外に出て人を助けることを否定しているわけでないでしょう。日本だけで生きていける時代ではない、相互依存の世界なんだということを、私もよく言っている。ただ、日本で増えるのは青年でなく元気なシニアでしょうね。でも、青年海外協力隊は、元気で活発ないい日本の青年をつくりたいということで始めたのです」

貴重な異文化体験経た青年海外協力隊、企業は中途採用で積極活用を
 この青年海外協力隊制度というのは、国際協力機構の傘下にあり、途上国の地域開発や農業、医療、教育などのプロジェクトに原則2年間かかわるボランティアを派遣する制度だ。1965年にスタートして、45年に及ぶ息の長いプロジェクトだ。20歳から39歳までの青年たちが途上国でさまざまなボランティア経験を通じて、それらの国々との架け橋役、ブリッジ役になっていくのだが、私は、実は冒頭に述べた海外の旅の途中でインドやマレーシアなどで、先行モデルとなった米国ケネディ大統領(当時)が創設した平和部隊のボランティア青年たちの現場で共同生活体験をして、日本にこそ導入すべきだと主張した1人なのだ。

私は、冒頭の深川さんのゼミの学生を含めて、多くの若者たちが日本の国費で途上国に派遣され、貴重なボランティア経験をしたらいいと思う。たぶん、生き方が変わるし、アジアの新興国、途上国への目線も変わってくる。ボランティア経験を経て、たくましい若者がどんどん誕生するだろう。いま、企業は、これら貴重な経験を経てきた青年海外協力隊員を積極的に中途採用すればいい。語学力もあるし、フットワークもよく、そこそこのリーダーシップもある。いま、企業が現場で求めているのはこういった人材でないかと思う。そうした再就職の道筋がつけば、若者たちはこのボランティア活動にチャレンジし貴重な異文化体験を自分たちの財産にするのでないだろうか。

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