政治空白がこわい、民主党代表選で「内ゲバ」していると日本経済はガタガタ? せっかくの緊急経済対策、市場に足元を見透かされて政策効果見えず


時代刺激人 Vol. 99

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本の政治はいったいどうなるのだろう。国民は政権選択によって、衰退の淵にある日本のチェンジ(変革)を期待して民主党を選んだ。それなのに、「期待半分、不安半分」の不安部分ばかりがどんどん増幅してしまい、かつての自由民主党の政権末期と変わらないような「日本の将来を託して大丈夫なのだろうか」という気分になってきている。

とくに、直近の民主党代表選(9月14日)をめぐって、6月2日に鳩山由紀夫前首相ともども政権混乱の責任をとって辞任した小沢一郎前民主党幹事長がわずか3ヶ月弱で立候補を決め、菅直人首相との直接対決という事態になった。しかも、この小沢氏の立候補担ぎ出しに一役買ったのが、一時は政界から身を引くと言っていた鳩山前首相なのだから、何とも不可解だ。そればかりでない。告示日ギリギリのところで一転、民主党内の小沢・反小沢対立が先鋭化し、昔の学生運動用語で言えば内ゲバ対立によって党分裂に発展するのはまずい、回避すべきだとの民主党内の動きに触発され、鳩山前首相は一転、菅首相と小沢氏の会談をアレンジして立候補者の一本化に向けた調整に動きだしたりしている。何とも政権政党とは思えないドタバタ劇で、政治の劣化を感じさせる。

英フィナンシャル・タイムズ紙は日本の民主党代表選で小沢氏批判の社説
 海外の国々からすれば、成熟国家と思っていた日本だが、前の自民党政権時代と変わらないような古い政治体質が今も続いている、政治が限りなく不透明だ、としか見られないのだろうな、と思っていたら、もっと手厳しい論調があった。英フィナンシャル・タイムズ紙が8月30日付の社説で「民主党は小沢氏を選ぶべきでない」というタイトルで、われわれ日本人にグサッとくるような指摘をしているのだ。小沢氏が民主党代表選に出る、出ないは別にして、英メディアはこう見ているのか、という判断材料になる。その一部をちょっと紹介させていただこう。

「ダンテの神曲に9つの地獄があるなら、日本の政治には9つの茶番がある。この1年で3人目の日本の首相となる菅直人氏が、就任わずか3カ月で、民主党内の代表選で強力な対抗馬に直面している。デフレ日本の救世主として名乗りを上げたのは小沢一郎前民主党幹事長だ。国際社会で脚光を浴びるよりは、陰に隠れて政治を操るのを得意とする。先だって米国人のことを『単細胞』と呼んだ小沢氏が首相になれば、2006年に小泉純一郎氏が退任して以来の興味深い首相になるだろうが、同時に、それは日本にとって大きな災難になるだろう」と。

政治混乱で経済政策が機動的に動けないのは間違いなくリスク
 今回、政治ジャーナリストでもない私が、この日本の政治混乱の問題を取り上げざるを得ないな、思ったのには理由がある。つまりマーケットが円高、株安で不安定かつ神経質な動きになっているうえ、経済デフレが続いている時に、政権政党の民主党が代表選、それも党を二分しかねない選挙戦に陥って政治空白をつくりだし、そのあおりで経済政策が機動的に動けないというリスクが高まるのがこわいな、と思ったからだ。現に、外資系証券の現場で、マーケット動向をウオッチする友人の日銀OBのマーケット・エコノミストもまったく同じ見方でいる。

政治空白という言葉について、インターネットの言葉辞典で調べてみたら「国会審議や政治混乱で政治的な機能が一時的にマヒしている状態」「国民の政治に対する信頼が失われたり、国会審議が空転して前進の見られない状態に陥った時に、首相など政治リーダーが影響力を行使できず政治的な機能が失われること」となっていた。まさに、今の状況がそれに近いような感じがする。

岸井毎日新聞主筆「何もしない、何もできない日本にはマーケットも厳しい」
 菅直人首相補佐官で、大手商社員から民主党衆院議員に転じた若手の寺田学氏は最近のテレビインタビューで「首相は急激な円高、株安状況を憂慮し臨時の緊急経済対策づくりを指示するなど、首相としての公務をしっかりこなしています。円高へのコメントに関しても、役所の案を『これじゃダメだ』と突き返すなど、マーケットとの対話に神経を払っており、民主党代表選に振り回されていることなど、あり得ません」と反論している。

しかし、私の毎日新聞時代からの記者仲間である岸井成格毎日新聞主筆が8月29日のTBSテレビ番組で、面白いことを言っていた。「ひとたびマーケットなどから、何もしない日本、何もできない日本と見透かされたら、手ひどい仕打ちを受ける可能性がある」と。まさに、そのとおりだ。日本内外のマーケットは極めて冷酷で、状況次第では容赦なく「日本は売りだ」といった形で攻めてくる。

政府と日銀の緊急経済対策「1週間前なら効果的だったのに」との声も
 現に、8月30日の政府と日銀の緊急マクロ経済対策発表後、東京株式市場で日銀の金融緩和策が一時的に好感され、株価が戻したが、8月31日になって、再び米国での株安や円高の動きに連動して、株価が下落するなど不安定な動きを続けている。菅政権にとっては、マーケットへのインパクトを考えて、当初の対策発表予定を繰り上げたりしたのに、という不満となっているのは間違いない。

確かに、日銀は当初予定の9月7、8日の金融政策決定会合を1週間早めて、30日午前に臨時金融政策決定会合を開き、追加の金融緩和を決めた。政府もそれに連動して、当初は月末31日に予定した緊急経済対策の閣議決定を1日繰上げ、日銀の金融緩和策と連動する形で対応した。経済実体が厳しくなってきたため、当初の政策決定タイミングを切り上げてのものだ。

しかしマーケット関係者の多くはむしろ冷ややかで、「1週間前ぐらいの円の対ドルレートが急騰した時期に機動的に対応していれば、効果的だったのに、今では対応が遅い。日本国内のマーケットは織り込んでいて、想定内だ」といった反応だ。

民主党経済閣僚はマーケットの時代での政策タイミングの機動性わかっていない
 このうち、友人の日銀OBのマーケット・エコノミストは「民主党政権の経済閣僚は、ほとんどが、マーケットの時代にどういった機敏な対応をすれば政策効果を発揮できるか、といった点でのノウハウも、政策タイミング判断も持ち合わせていない。政権発足当初にあれだけ脱官僚、政治主導でいく、と豪語しておきながら、その後、政策立案などの面でそこの浅さが露呈して空回り、挙句の果てが官僚頼みになっている。これではマーケットから足元を見られてしまう」と述べている。

そういえば、急激に円高が進んだ8月24日夕方に、野田佳彦財務相はマーケットへのメッセージを意識して緊急会見を行ったが、肝心のメッセージ自体が、財務官僚が書いた作文コメントで当たり障りのないものだった。為替市場関係者によると、「為替投機筋にとっては円買いしても大丈夫。財務省当局は円売り・ドル買いの単独為替介入には乗り出してこない。単なる口先介入と読まれてしまった」というのだ。

その後、菅首相が為替問題担当の野田財務相に代わって、8月27日に「経済情勢に関する首相談話」という形で重々しく発表、とくに為替問題に関して「為替市場の過度な変動は経済・金融の安定に悪影響を及ぼす。私としては重大な認識を持っている。必要なときには断固たる措置をとる」と述べた。しかし発表後、為替市場ですかさず円売り・ドル買いの介入があったわけでないため、インパクトなしだった。

民主党政権は成長戦略前倒し実施が必要、「絵に描いた餅」に終わらせるな
 新聞社や通信社が民主党代表選に関して、一斉に世論調査を行い8月30日付けの新聞紙面に公表したが、政府の経済対策、円高対策をどう見るか、という点に関しては予想どおり厳しい世論の評価だった。具体的には日経新聞調査で全体の74%が「政府対応を評価しない」と回答、読売新聞調査でも菅内閣は円高や株安に適切対応しているか、との問いに「そう思わない」が82%に達した。

今回の民主党代表選をめぐるドタバタ騒ぎの中で、結果として、首相官邸も、またマクロ経済政策にかかわる閣僚も「マクロ経済政策は大事。公務はしっかり対応している」と口にしながらも、現実は政策課題そっちのけという感じが否めなかった。一時は、代表選での多数派工作に、閣僚自身が陰で動き回っていたようなところが見受けられた、と友人の大手新聞の政治担当編集委員は述べていた。

今は、目先のマーケット対策だけでなく、今後に期待を抱かせるような、大胆な政策の実施が出てくることが大事だ。民主党政権が6月に打ち出した成長戦略も、それなりに中身のあるものが盛り込まれているのだから、「絵に描いた餅」に終わらせず、大胆に前倒しで実施に移していく姿勢が必要だ。政治空白が長引けば、それだけ経済デフレが深化していくリスクを民主党政権は感じ取るべきだ。

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