帰郷困難が20年超とはひどい 政治の怠慢、放射線除染を急げ


時代刺激人 Vol. 150

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

またまた政治不信につながる問題が最近あった。次の首相を決める民主党新代表選に世の中の関心が移っていた8月27日、その前日に退陣表明した菅直人首相(以下当時)が東日本大震災被災地、福島県を訪れ、被災者らにとって重大と言える発言を行ったのだ。

菅首相は、佐藤雄平県知事に対して唐突に「今回の福島第1原発事故で、避難された住民の居住が長期間にわたって困難になる地域の生じる可能性が否定できない。心からおわび申し上げたい」と謝ったが、その長期間というのが、何と最長で20年以上かかる、というのだ。そればかりでない。放射性物質で汚染されたがれきや土壌などの放射性廃棄物の処分場所についても、持って行き場がないため、福島県内に「中間貯蔵施設」という形で場所の確保や整備をお願いしたい、というものだ。

菅首相がなぜ退陣直前に重大発言するのかと当然ながら反発の声
被災地の行政、さらには住民にとっては、なぜ、そんな重大な問題を、首相の退陣直前に聞かされるのか、今の民主党政治には被災者目線が決定的に欠けている、という思いが強まったのは間違いない。
新聞報道によると、菅首相は福島市内での「原子力災害からの福島復興再生協議会」という地元の市町村長らを中心にした集まりの場では放射性物質の除染の重要性を強調し、政府の取組みも説明したが、肝心の長期にわたっての帰郷困難が現実化する可能性については、いっさい言及しなかった。

ところが、そのあとの佐藤県知事との会談で、冒頭に述べた重大発言を行ったため、佐藤知事がまず反発した。「原発事故以来、猛烈に苦しんでいる県や被災地住民にとって極めて重い話だ」、「中間貯蔵施設の話も事前に何の連絡がなく突然のことで、困惑する」と声を荒げた、という。怒るのも当然だろう。
また、同じ新聞報道では、重大発言の中身をあとで聞かされた富岡町の遠藤勝也町長も、「首長との会議は、いったい何のための会議だったのだ。どうして、われわれに(長期に帰郷困難の)話をしなかったのか。とんでもないことだ」と怒った、という。

伝え方が唐突で被災者への思いやり、政治の責任対応に欠ける
この菅首相の伝え方は確かに唐突で、被災者への思いやり、政治の責任対応が欠けている。ジャーナリストの立場で見ても何とも納得しがたい面があり、今回のコラムでは問われる政治に力点を置いて、取り上げてみたい。

20年以上も帰郷が出来ない、ということは事実上、故郷を捨てろ、と通告したに等しい。原発事故からすでに半年がたとうとする今、住みなれた土地を追われるようにして避難先を定めきれない住民の人たちにとっては、実にむごい通告だ。20年という期間はあまりにも長すぎる。大震災の今年に生まれた子供が避難先で成人になっても、故郷、ふるさとを知らないままとなるのだ。
あとで申し上げるが、菅首相はもっと以前に、この情報に接していた可能性があり、それを考え合わせれば、後継政権に問題先送りする前に、果敢に政治対応する時間があったはず。それをせずに退陣間際になっての対応は、逃げの姿勢でしかなく、政治の怠慢としか言いようがない。

年間被ばく総量が推計200ミリシーベルト以上の4地区が対象
この最長20年以上も帰郷が困難という地域は、もちろん、原発事故周辺地域すべてではない。年間被ばく線量が200ミリシーベルトと推計される土地のことを指し、その地域で放射線量が、住民の帰宅可能となる年間20ミリシーベルトにまで低下するには20年以上かかるという政府の試算にもとづくものだ、という。
毎日新聞報道によると、文部科学省が福島第1原発の半経20キロ圏内の警戒区域の50地点で年間の積算放射線量を推計したところ、福島県大熊町小入野地区で508ミリシーベルト、同じ大熊町の夫沢地区で393ミリシーベルト、同じく熊川地区で233ミリシーベルト、そして浪江町川房地区で223ミリシーベルトと、4か所で200ミリシーベルトを超えていた。4地区に長く住んでいた人たちには、本当に耐えがたい現実だ。

その報道では、「放射能の除染をせずに、自然要因だけによる被ばく線量の減衰から試算したとみられる。除染の進行具合で、帰宅までの期間が短縮される可能性もあるが、同じ市町村によって、大きく線量が異なっており、実際に、誰がいつ帰宅出来るかを判断するには、より詳細な測定が求められる」という。何ともわかりにくい記事だが、要は、放射線の除染をしない段階での推定値で、除染によって期間短縮も考えられるということだ。

1か月以上前にオフレコで同じ情報、
菅首相は当時、知っていた可能性も
実は、この20年以上、避難した人たちが帰郷できない可能性がある、という話は今年7月に、取材力があって尊敬する友人ジャーナリストが東京電力の元副社長からオフ・ザ・レコード、つまり記事にしないという条件で聞いていた話と符合する。それをこっそり聞かされた私は思わず「エッ、本当か」と絶句した。オフ・ザ・レコードという形での縛りは、ジャーナリストにとっては厳しい制約で、しかも間接的な情報なので、そのままにしていた。そうしたら、今回、その話が菅首相の発言でオープンになったのだ。

私が問題にしたいのは、東電の元副社長がもらした情報が、東電の現役役員は当然、もっと詳細に持っている情報であり、それはそのまま政府の原子力災害対策本部を通じて、当時の菅首相ら政府中枢にも報告され、情報共有されていたと見て間違いない、という点だ。菅首相は、政権にとってのネガティブ情報が自身に報告の形で伝わらない時には、すぐにカッとなる体質があると言われた人だけに、この情報は当然、耳に入っていたはず。

ネガティブ情報でもいずれ直面する問題なら早く情報開示し対策を
ということは、政治のトップリーダーとして、とるべき行動が決まって来る。ネガティブ情報とはいえ、いずれ誰もが直面する問題なので、いち早く情報開示し、放射能の大掛かりな除染対策、それも外部被ばくだけでなく、内部被ばく対策、さらには農地などの土壌汚染対策を速やかに担当部局に指示することだ。同時に、除染度合いの工程表作りに関しても自治体と連携し、不安におののく被災者への対応を行うことだ、と思う。

ご記憶だろうか。松本健一内閣府参与が今年4月13日に菅首相と会った際、「原発周辺には10年、20年は住めない」との問題意識のもとに積極的な対策を、と進言した。松本参与は当時、そういうリスクもあるので、被災者の人たちを住まわせるエコタウンのような町づくりの必要性アピールのために使ったそうだが、一部の通信社が早合点して首相の言葉として、ニュースの形で流したため、大混乱が起きた。松本参与発言の誤報は問題だが、菅首相も4月当時、放射能汚染で厳しい事態が訪れることを想定し、早めに放射線量の除染対策を進めるべきだった、と言える。
菅首相はその後も、自身の政治延命に走り、保身が先行したため、結果的に与野党から「辞めろ」コ―ルが強まり、政治空白を作り上げた。野田新首相には思い課題が引き継がれてしまったが、菅首相が、本来ならば自身で道筋をつけるべきテーマをほとんど後任政権に押し付けた、としか見えない。

政府公表の「原発事故のセシウム137は広島原爆の168個分」は驚き
退陣間際のどさくさ時に、もう1つ、無視できないびっくりする問題が発表になったのをご存じだろうか。原子力安全・保安院が8月26日に公表したもので、福島第1原発の1~3号機から爆発事故後に放出されたセシウム137の量は、広島原発の168個分に相当するものだった、という話だ。
147回コラムで取り上げた東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が今年7月27日の衆院厚生労働委員会に参考人出席した際、「福島原発事故で漏出した放射性物質の総量は、広島原爆の29.6個分に相当するものだ」と問題提起した数字よりもケタ外れに大きい量にのぼっている。

日本政府が公式に発表した数字で、しかも今回の原発事故で放出された放射線量の多さがケタはずれであるというビッグニュースなのに、意外や、日本国内のメディアは大きな位置づけで取り上げなかった。全く信じられない。同じ8月26日に政府の原子力災害対策本部発表での「除染に関する緊急実施基本方針」とからめて、ケタ外れの放射線量の影響、今後の見通しについて、もっと鋭くメディアの問題意識で迫るべきだったと思う。

毎日新聞OB池田氏が「メディアウオッチ」で突っ込み不足を批判
そう思っていたら、「メディアウオッチ100」の最近号で、毎日新聞OBの池田龍彦さんが厳しくメディア批判をしていた。この「メディアウオッチ100」はメディアOBを主体にした組織だが、メンバーの私は以前から「言論はメディアの独占物でない。広く議論交流の場にすべきだ」と申上げており、企業人や大学教授の方々も参加している。

我が意を得たり、なので、ちょっと引用させていただこう。
「福島原発周辺に飛び散ったセシウム137の除染が焦眉の急になっている現在、国民の多くはシーベルトやベクレルの数値に翻弄されてだけで、安全基準など、さっぱりわからない。原子力安全・保安院の発表を“垂れ流し”した新聞の責任は重大だ。複数の放射線研究者に取材し、慎重に報道すべきケースだった。今からでも遅くない。『広島原爆168個分』の影響を再取材し、検証紙面をつくってほしい」と。

土壌汚染もひどく高濃度地点が34、
チェルノブイリ強制移住基準を超す
そんな矢先、今度は文部科学省が8月29日、福島第1原発から100キロ圏内の土壌の汚染度の調査結果を公表したが、これまたすごい放射線量なのだ。最も土壌汚染が厳しい地区は、冒頭の「20年以上、帰郷が困難」と言われた警戒区域内の大熊町の1地点で、セシウム134、137の2つの合計値が1平方メートル当たり約2946万ベクレルにのぼった、という。
高濃度であることは、数値の大きさから見てピンとくるが、まだ実感がわかない。読売新聞報道で、そのすごさがわかった。報道によると、旧ソ連で原発事故があったチェルノブイリで、1平方メートルあたりの放射性セシウム137が148万ベクレル超の量が検出された地区が強制移住の対象となったそうだが、今回の福島原発周辺の6市町村34地点で、その強制移住レベルを超えている、という。

野田民主党新政権の取組み課題は山積しているが、冒頭のように、原発事故による放射性物質の異常な蓄積で、20年以上も帰郷が困難という被災者にとって絶望とも言える状態を放置することは、政治的許されない。政治の被災者目線、国民目線を求めたい

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