民主化運動家へのノーベル平和賞授与、中国の猛反発は異常、何を恐れる? 経済大国化し国家運営に自信あるのなら劉さんを釈放し受賞受け入れがスジ


時代刺激人 Vol. 104

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

最近の中国が国際社会を揺るがす問題は、数えきれないほど多い。中でも10月8日にノルウェーのノーベル賞委員会が中国国内の刑務所で服役中の詩人で民主活動家の劉暁波さんに対し、ノーベル平和賞授与した問題は象徴的だ。ノーベル賞委員会が長年の民主化運動を評価した結果だが、中国政府は猛反発して容認せず、中国国内でテレビ、新聞、さらにはインターネット上でも情報封鎖する強硬措置に出た。このため欧米諸国からは劉暁波さんの即時釈放要求という形でエスカレートした。中国政府の頑(かたく)なさは変わらず、国際社会での中国の孤立がぐんと浮き彫りになる事態に至っている。

実は、経済ジャーナリストの立場で現代中国経済を見てきただけだったので、劉暁波さんの存在に関しては、今回初めて、その存在を知った。しかしジャーナリストの好奇心で、著書「天安門事件から『08憲章』へ」(藤原書店刊)に目を通したところ、民主化への取組みのすごさに圧倒される。とりわけ中国共産党の事実上の一党支配体制に対する批判は強烈で、共産党幹部は権力維持にのみ関心を持ち、中国人民の人の命に関して無関心である現実は恐ろしいことだ、といった形で、民主化を強く求めている。

ノーベル賞委員会判断は見識、平和賞授与で中国民主化を促したことが重要
 ノーベル賞委員会のヤーグラン委員長は、メディア報道によると、授与の記者会見で「世界第2位の経済大国となった中国の新たな立場には、さらなる責任が伴わなければならない」とし、経済大国としての責任をキーワードにして中国国内での民主化要求の動きに対して柔軟に対応すると同時に、大国に見合った責任を果たすべきだ、という趣旨の発言をしている。

昨年のオバマ米大統領への平和賞授与が核兵器の非核化への政治的なリーダーシップへの期待を込めた意味合いがあったのと同様、今回も大国主義化が急速に強まる中国に、大国に見合った責任ある行動を、ということで、国内での民主化要求に応えよ、というメッセージ発信なのだ。ノーベル賞委員会が政治的になることには議論があるが、平和賞授与によって、中国の民主化に道筋をつける役割を果たすそうとするのは素晴らしい。

経済大国を自負する中国が北朝鮮と変わらぬ国内での情報封鎖行動は奇怪
 ところが、経済大国にのしあがった中国はノーベル平和賞授与に猛反発し、北朝鮮と同じような国内での情報封鎖に躍起になる。これは何とも奇怪であり、常軌を逸している。上海万博の中国国家館で改革開放30年の実績を高らかにうたい上げたこと、また北京オリンピックでは世界を先導した中国文明をアピールしたことは単なる国威発揚のためで、大国というには現実はほど遠いということになる。中国の人たちは「冗談じゃない」と反発するだろうが、いま中国政府の対応は、北朝鮮のレベルと大差ないのだ。

むしろ、私からすれば、中国全体が今回の受賞を素直に喜び、中国政府、それに共産党が国内での民主化総点検に踏み出すきっかけにすればいいと思う。もっと言えば中国はメンツなどを捨てて、新興経済大国の新しい政治、経済、社会モデルづくりのきっかけにすればいいのだ。事実、ここ数年、中国の人たちとつきあう機会が多いが、優れた問題意識、考え方の人たちが急速に目につき、中国という国のすごさを感じさせられることが多い。裏返せば、中国が国際社会で責任ある行動をとるだけの力をつけてきているのだ。

社会主義と相反する市場経済化に成功した中国、なぜ民主化に神経質?
 中国から離れて日本に帰化した評論家の石平さんは10月10日の民放のテレビ番組で、鋭い問題意識で的確な発言をした。「中国政府は、社会主義体制を維持しながら市場経済化を標榜し見事に経済大国化したと国家運営に自信を持つならば、劉暁波さんの平和賞受賞をきっかけに釈放し民主化を容認、そして政治改革などに踏み出せばいい」といった趣旨の発言だった。まさにそのとおりだ。そして石さんは「いったい中国政府は何を恐れているのだろうか」とも述べている。私も同じ気持ちだ。

体制が180度も異なる市場経済化を容認し、矛盾をはらみながらも社会主義体制との同居に成功した中国が、なぜ民主化の問題になると異常に神経質になり、国家政権転覆扇動罪といった、おどろおどろしい罪名で民主運動家を投獄するのか、本当に理解に苦しむ。早く国際的に高い評価を受けるように、中国も「大人になれ」というところだ。

国際社会を揺るがす中国リスク問題は数えきれないほど、問われる責任行動
 冒頭に、私は、最近の中国が国際社会を揺るがす問題は、数えきれないほど多い、と申し上げたが、たとえば尖閣諸島領有をめぐる日中間のあつれきも、単に2カ国間の問題ではなく南沙諸島、東沙諸島でも同じ問題に発展しており、いわば中国が周辺の海洋国家との間で海洋にあるさまざまな資源をめぐる海洋権益の争いが根底にある。急成長した経済を支えるための資源確保から、中国は世界中でいま、2兆5000億ドルに及ぶドル建て外貨資産を使って買いあさりを続け、資源価格の高騰を招き、買い負ける日本などの反発を買っている。

さらには人民元の通貨価値をめぐる問題も今や国際会議の主要テーマになりつつある。為替レートが経済の高成長度からみて明らかに人為的に低い相場にして、結果として中国の輸出競争力を強める結果になっているのは問題だ、という点だ。知的財産権をめぐる問題も主要国を巻き込んでの深刻な問題で、各国からすれば技術のパクリがひどすぎる、中国政府は大胆に国内規制を加えないと国際社会から総スカンを食らうぞ、と警告を受けてもノラリクラリの姿勢を変えていない。経済分野はまだまだこれにとどまらないが、軍事問題などに範囲を広げれば、さらに国際社会を揺るがす問題は多い。まさに中国は国際社会でのルールをどう守るか、大人のつきあいをどうするかが問われているのだ。

日本にとっては11月の横浜APECでの外交展開が最大勝負
 さて、ここで日本の問題だ。民主党政権は、政治主導を掲げて政権交代した割には、外交能力はゼロ評価だ。とりわけ今回の中国との尖閣諸島での中国漁船船長事件をきっかけにした処理対応は、確たる戦略判断のもとでの行動とはとても思えない、不安ばかりがつのるものだった。99回目のコラムでも「政治空白がこわい、『内ゲバ』していると日本経済はガタガタに?」と書いたが、マクロ経済運営のみならず外交問題でも政治空白のツケが回ってきてしまった。それにしても、政権交代をめざして外交問題でも綿密な対中国戦略をたてていたのではなかったのか、と思わず言いたくなる。

日本の対応に関しては、結論から先に言えば、11月に横浜で開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が、日本外交にとっての正念場となる。日本は、しっかりとした戦略、対応方針を決め、早めに布石を打つことだ。この会議には中国の胡錦涛主席はじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳、それに米国のオバマ大統領らアジア太平洋の関係国の首脳が一堂に会して、さまざまな懸案を話し合う。10月4、5日にベルギーで開催されたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に比べてケタ違いに重要度が違う。

日本は尖閣諸島などの海洋権益、領有権問題で広域関係国会議開催に意味
 今年夏場ぐらいまでは、民主党政権は参院選敗退ショック、それに民主党代表選に追われてAPECどころでない、という状況だった。霞ヶ関の関係省庁に対応を見る限りでは際立って重要案件が大きなテーマになる状況でもなかった。むしろ、議長国の日本がどういったリーダーシップをとるかだけがポイントだった。ところが、9月に入って、一転、尖閣諸島問題をきっかけに、中国にからむさまざまな問題が噴出し、議長国の日本としては本来の経済問題だけでなく政治問題、さらには軍事問題まで、状況によっては首脳会議の場か、あるいは非公式会議の場を使って、方向づけのためのリーダーシップが大きく問われることになった。

私に言わせてもらえれば、日本が尖閣諸島、南沙諸島、東沙諸島を含めた中国と周辺関係国との間の海洋問題をめぐる対応処理、それに付随する領有権問題を討議する場を設定し、その場には日米安保同盟とのかかわりで米国をもからませることが必要だ。要は、すぐには結論が出ないだろうが、大事なことは、日本がAPEC議長国の権限で海洋権益をめぐる問題、領有権をめぐる問題に関する広域関係国会議の場をつくって、これは個別2カ国間の問題ではないことを強く印象付け、大国主義を背景に領有権や海洋権益問題で手前勝手な自己主張を続ける中国に歯止めをかけることだ。

そして、日本としては、日米安全保障条約がらみで米国もこの問題には利害がからむとして、会議では米国にも発言権があると引っ張り出し、米国に中国へのニラミをきかす役回りを演じさせることだ。ベトナムなどの関係国にとっては、さすが日本も修羅場では存在感を示してくれると外交的な評価をしてくれるかもしれない。

今こそ日本は現代版三国志で外交ゲームを、戦略軸はASEANとの連携
 ご記憶だろうか。このコラムの2回目、そして48回目で折に触れて、日本は米国、そして中国の3カ国間で「現代版三国志」のような緊張関係をつくることが大事だと述べたことを。つまり、かつての中国の魏、呉、蜀の3カ国が互いに生き残りをかけて権謀術数を繰り広げる三国志の世界がいま、日、米、中の3カ国の間での外交ゲームにぴったり当てはまるのでないかということだ。今こそ、日本は三国志に学んで現代世界で存在感をアピールすることだ。
3カ国間のうち、たとえば中国に問題が生じれば、日本と米国が連携して中国の行き過ぎに対処、逆に、もし米国に問題があれば日本と中国が連携し、場合によっては保有する米国債を売るぞ、というプレッシャーをかけて自制を求めたりする。最大の問題は、日本に問題が生じた場合、米国と中国が連携すれば、日本が踏み潰されるリスクがある。
だから、日本はそれに備えて座標軸をしっかり持つこと、端的には中国を除く東南アジア諸国連合(ASEAN)を戦略軸に置き、ASEANと連携しながら行動すること、そのためにも、日本は過剰な対米依存、そして対中依存も止め、アジア、とりわけパートナーになり得るASEANにもっとエネルギーを注ぐことだ。

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