中国経済レポート:中国は上海万博後も切れ目なく成長持続へさまざまな布石 東京オリンピック、大阪万博後に経済に陰り出た日本ケースを回避できるか


時代刺激人 Vol. 102

尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件は、中国人船長の釈放後も中国政府が謝罪と賠償を求め、これに対して日本政府が拒否姿勢を見せているため、日中間の関係改善はすぐには進まないどころか長期化が避けられそうにない。それにしても民主党政権には外交戦略が不在で、最悪の状態だ。ジャーナリストの好奇心で言えば、日中関係にどういった影響を及ぼすか、何が課題か踏み込みたいところだが、今回は、私の9月中旬の中国「定点観測」旅行を踏まえた中国経済レポートを書きたいので、ご容赦願いたい。

レポートのポイントは、上海万博後の中国経済がどうなるか、という点だ。中国はその後の経済運営に関しては、切れ目ない経済の高成長をめざし、さまざまなプロジェクトの布石を打っている。それによって、中国政府は、社会不安回避のための成長死守ラインと見ているGDP年率6.5%~8%の経済維持に必死にならざるを得ないだろう。問題は、果してシナリオどおりうまく経済をマネージできるのかどうかだ。

結論から先に申し上げれば、かつて日本で東京オリンピック、そして大阪万博といった巨大イベントで高度経済成長に酔いしれたあと、一転して経済に陰りが見え、とくに環境破壊など公害問題が噴出した。中国の現状を見ていると、同じリスクに陥る可能性がゼロとは言い切れないのだ。

4兆元の内需拡大効果出ているが、一方でインフレ過熱、過剰投資のリスク
 中国は北京オリンピック、そして今回の上海万博と日本と似たような歩みを続けた中で、米国発のリーマンショックに伴うグローバル経済リスクに対応するため、2年間で総額4兆元(当時円換算60兆円)という巨額の内需拡大策を大胆に実施した。現時点で、その経済効果が持続しているが、一方で土地や不動産の価格高騰といったバブル、インフレリスクを抱えている。また地方政府レベルでの過剰な投資が次第に過剰生産を生み、輸出にはけ口が求められなくなった場合に国内経済に重荷がかかる。そのリスクを回避するために、中国は新たな大型プロジェクトによって成長の輪を広げようとするが、うまくシナリオどおりにいくかどうかだ。

こんなことを申し上げると、経済ジャーナリストというのは、いつも危機を煽(あお)ってイソップ物語のケースと同様に大変だ、大変だと警鐘乱打したり、政策批判ばかりする。時に悲観主義も横行する。何とかならないのかと言われそうだが、決して職業病ではなく、事態を冷静に見て機敏なリスク回避を主張しているだけだ。

中国人エコノミストも上海万博後に「中国の底流にある問題」浮上の恐れ強調
 そんな折、民間シンクタンク、富士通総研の主席研究員で中国人エコノミスト、柯隆さんが最近の著書「チャイナクライシスへの警鐘――2012年 中国経済は減速する」(日本実業出版刊)で、私が問題提起した点に関して中国人の立場で興味深い問題提起をされていることがわかった。少し引用させていただこう。
「上海万博後、求心力の低下とともに懸念されるのが過剰投資のツケだ。過剰な設備投資によって生産能力が大幅に引上げられ、モノがどんどんつくられるものの、国内需要が伸びないため、輸出依存体質の経済にならざるを得ない。リーマンショック後の世界的な需要の後退によって、中国でつくり出される大量のモノを買ってくれる国がなくなっている。過剰投資のツケは確実に回ってくるはずだ」と。

さらに、こうも述べている。「今まで表面化してこなかった『中国の底流にあるさまざまな問題点』が浮上してくる恐れがある。(中略)不良債権問題もそうだが、(それ以外に)公害の問題もあるだろう。家族の絆(きずな)が崩壊したことによる弊害もあるだろう。そのうえ公的年金制度が整備されていないので、老後に対する不安も浮上してくる。これらすべてが、高速で経済成長を果してきたことの象徴としての上海万博が終わった後で顕在化してくる」

地方都市や上海で都市化が急ピッチ、課題は未整備の公共インフラなどへの対応
 私は前回101回コラムでも、中国経済に勢いがつき成長に弾みがついている半面、さまざまな格差の問題が表面化してきたとレポートした。しかし今回は、もう1つ、新たに感じた問題を指摘しよう。それは都市化が急ピッチで進んでいることだ。
三峡ダム見学で行った湖北省の武漢市といった地方都市では上海までの高速新幹線建設、交通渋滞解消のための地下鉄建設にとどまらず老朽化したビルが取り壊され新築マンションなどの建設ラッシュが続いていた。4兆元の内需拡大策が地方経済を支えているのだ、という印象だった。新たな中間所得階層の登場と合わせてプラスに見えるが、半面で、これら都市化に伴って住宅問題、都市下水道など公共インフラ問題、環境問題、高齢化対応の病院医療や年金問題などの整備へのニーズが強まってくる。地方政府の対応がうまく機能しているかどうかだ。

上海万博効果は景気浮揚だけでなく「新たな都市ライフスタイル浸透」も
 これは上海万博効果とも関連する。上海滞在中にJETRO(ジェトロ)上海センターの大西康雄所長からポスト万博の上海経済を聞いた際、興味深い話があった。大西さんによると、上海万博効果は2010年上半期の経済を押し上げたのは間違いないが、それよりも「新たな都市ライフスタイル浸透」という都市化に弾みをつけるような効果も無視できない、という。豊かさへの渇望が消費購買力の強さと結びついて経済成長に弾みをつけるプラスシナリオも当然、期待できるが、半面、武漢市で見たような都市化に伴う社会インフラの整備が追いつくのか、また医療や教育などの制度の未整備が表面化し社会問題化するのでないか、といったマイナスシナリオも想定される。このあたりは、今後の中国をみる場合の大きなポイント部分だ。

ところで、冒頭に申し上げた中国政府のポスト上海万博対策はどうするのか、端的には経済成長が切れ目なく持続できるように、どういった対策を講じているかがポイントになる。そこで、JETROの大西さん、それに日中経済協会上海事務所長の後藤雅彦さん、さらに地元上海の上海交通大学はじめ上海在住の中国人の方々からもいろいろ取材したので、それらを踏まえてレポートしてみよう。

上海市で国際金融・国際水運のサービス経済化やハイテク9業種の産業奨励策
 まず、大西さんによると、上海市当局はポスト上海万博の新発展戦略として、サービス経済化と高付加価値化の2つを強く打ち出している。このうちサービス経済化に関しては、具体的には国際経済、国際金融、国際水運、そして国際貿易の4つのセンターをめざす。また高付加価値化に関しては、新エネルギー、バイオテクノロジー、民用航空機製造などハイテク9業種を産業奨励していく。いずれも上海万博で得た技術やノウハウなどを活用して上海市経済に弾みをつけることを狙っている、という。

また日中経済協会の後藤さんによると、中国政府は直轄市の上海市、それに江蘇省など3つの地域を1つにした「長江三角州」の一体化を進め、ここを成長センターにしていくこと、また上海に多国籍企業の本部などを集め、その集積効果で新規ビジネスチャンスを生みだす「総部経済」化、さらにJETROの大西さんも指摘していた国際金融センター、国際水運センターなどサービス経済化を進めると同時に上海をその中核センターにしていく計画が進んでいる、という。

沿海部から内陸部への産業移転計画も、日本のむつ・小川原開発挫折はどう映る
 さらに後藤さんの話では、中国政府は切れ目なく経済成長を続かせるため、上海などの沿海部から中部や西部などの内陸地域への産業移転を図っていく計画を進めている。とくに中部地域などに産業移転させ、そこに新たな需要の創出、雇用の創出を図ることが狙いだが、土地のコスト、工場リース料、労働力コストの3つが相対的に安く、移転する産業にとってもメリットが見込まれる、という。

これらの話で、ふと思い出すのは、かつての日本でも全国総合開発計画や地域開発計画の一環として、新産業都市や地方工業整備特別地区などを積極的に計画し、地方開発拠点との均衡ある経済発展をめざそうとしたことだ。しかし今や新全総(新全国総合開発計画)といった計画は有名無実化し、また苫小牧東、むつ・小川原などの大型地域開発プロジェクトも計画されながら、ほとんどが計画倒れに終わって無残な結果になっている。
そうした日本の地域開発の現実を見るにつけ、中国は、日本の東京オリンピック、大阪万博後の経済の失速などの学習をしているのだろうが、社会不安を引き起こさないためのGDP6.5%~8%成長維持のために、うまく切れ目ない、シームレス経済成長を実現できるかどうかだ。このあたりは、じっくりと中国をウオッチしていくしかない。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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