今ごろ原発現場で国産ロボットが活躍、 「安全神話」で開発阻まれたこと響く


時代刺激人 Vol. 135

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

なぜ、東京電力の福島第1原発事故現場に、日本が技術的にも優れ、しかも抜群の国際競争力を持つと言われるロボットのうち、たとえば災害対策ロボットを投入しないのだろうかと、私は、事故当初からずっと不思議に思っていた。

そんな思いをしている中で、2カ月たった最近になって、東電福島第1原発の原子炉1号機で、何と地震直後に、核燃料が溶け落ちたうえ、その核燃料が原子炉圧力容器の底にたまってしまう恐ろしい炉心溶融(メルトダウン)が起きていた、という事態が判明した。しかも、それが2号機、3号機でも同じ状況が想定される、というから、さらに恐ろしい。東電が最近、現場復旧に伴って、やっと入ることが出来た中央制御室のデータなどの解析結果から判明した、というのだ。

この高濃度放射能汚染の水の処理は今後、大丈夫だろうか、と不安に思うが、こんな重大事態に備えて、もっと早く無人ロボットを投入し現場チェックしていたら機敏な対策がとることが出来、メルトダウンや放射能漏れという事態も防げたのでないのか、と思う。

米国の軍事用ロボット提供でやっと動く、ロボット大国と言えない現実
 私の題提起について、結論から先に申上げよう。実は、原発事故対応の無人ロボット投入が遅れたことには信じられないような理由があった。原発対応ロボットの開発は過去に「原発絶対安全神話」に阻まれて、開発を断念せざるを得ない現実があり、それが今になって大きく響き、事故現場への投入が遅れた、というのだ。

今回の原発事故処理局面で、米国が軍事用に開発したロボットを放射能汚染現場で活用するように提供を申し入れ、それに刺激されたのか、日本側があわててロボット活用に動き出した。とくに民間企業や研究機関などからの災害対応ロボットなどの提供があり、それらが現場に次々と投入され、事態解明にプラスとなったため、本格活用になったという。

これがロボット大国を自負していた日本の現実だから何とも悲しい。産業用ロボットの活用はまだしも、ストレス社会対応の癒しロボットで日本全体が満足していたわけでないはず。原発事故現場で多機能のロボットを活用できないのでは、ものづくり日本が泣く。

実は1999年のJCO臨界事故反省で原発ロボットを開発していた
ジャーナリストの好奇心で調べるうちに、さらに、いろいろなことわかってきた。ものづくり技術力で進む日本の産業の現場、大学などの研究機関の現場では、当然ながら研究者の関心事として、災害対応の無人ロボットなどの開発研究が行われていた。とくに原発事故現場で放射能汚染に対応可能な遠隔操作ロボットに関しては、1999年の茨城県東海村のジェーシーオー(JCO)での臨界事故で作業員に犠牲者が出たことが国も動き出す決定的要因となった。当時の通産省(現経済産業省)が無人ロボットの開発予算30億円をつけ、日立製作所など民間企業4社に開発を委託した。

「事故など起きるはずがない」発言で、メーカーが量産は無理と判断
 ところが、ここで、信じられないような「原発絶対安全神話」の問題が出て来るのだ。ロボット開発の関係者の話では、2001年から02年にかけての当時、ロボットを現場で活用する側の電力会社担当者から「原発は多重の防護壁があって事故は起きるはずがない。そんな現場に、なぜ原発事故対応のロボットが必要なのか」といった趣旨の冷たい言い方があった。メーカー側としては国の予算を使っての開発とはいえ、現場ニーズ、需要がないのならば、量産も無理、と判断せざるを得なかった、という。

そして、その報告を受けた当時の旧通産省の担当者も「原発絶対安全神話」に逆らうこともできないと判断したのか、試作ロボットの段階で終わってしまい、実用化に至らなかった、という。何とも信じられないことだ。

この話については最近、朝日新聞が5月14日付の夕刊で同じような事実をニュースにしているほか、週刊誌の日経ビジネスも5月16日号の「ロボット大国の虚実」で取り上げているので、興味がおありの方はぜひ読まれたらいい。

藤本東大教授「同じ話聞いた」、放射能対策の素材が高額で開発中止も
 私はさらに、最近、東日本大震災に対応するものづくり現場の対応問題でお会いした東京大学ものづくり経営研究センター長で、大学院経営学研究科教授の藤本隆宏さんからも同じことを聞いた。

藤本さんによると、「原発絶対安全神話」がまかりとおった当時の状況が最大の問題だという。同時に、藤本さんは「聞いた話で、事実確認したわけでない」と断りながらも、こういった話もされている。

「当時、原発事故現場で活動するロボットには、高濃度の放射線量に十分に対応し測定数値が狂わないような素材を取り付ける必要があった。ところが、この素材の値段が飛び上がるほどの高額なものだったので、原発絶対安全神話とリンクして、どうせ事故が起きない、心配ないと電力会社側がいうのだから、無理して高コストの開発に踏み切ることもないだろう、と開発担当の幹部が現場に指示して、開発断念した。これが原発事故対応ロボット開発を遅らせた遠因だ」というのだ。

藤本教授は「強い現場・弱い本部」問題視、現場力の活用を強調
 藤本さんは、持論にされている「強い現場・弱い本部」が、今回の東日本大震災の被災現場でも起きている、という。私には、むしろ、東電福島第1の原発事故現場でこそ、事故現場が必死で対応しながらも、本部のある東電本社、あるいは事故対策本部で判断や対応指示のもたつきが問題を引き起こした面もあるのでないか、と思っている。

藤本さんによると、海外諸国からは、未だに、東日本大震災の被災地の復旧・復興現場、生産現場での秩序、助け合い、対策、実行などの水準の高さ、日本の「現場力」に高い評価の声がある。ところが、それとは対照的に、日本の一部の企業や政府の中枢のもたつき、官民双方で日本の「強い現場・弱い本部」症候群が全世界で認識されている、という。

そこで、藤本さんは「日本の優良現場は、幅広く柔軟な役割分担と、互いを視野に入れて目標に立ち向かう協業重視が特徴だ。高い組織能力を維持する現場を最大限に活用することだ。逆に復興の本部はタテ割り組織を各省庁で横断的に、かつ目的別に問題解決に取り組むマトリックス組織にすればいい」と述べている。東電問題対応も同じなのだろう。

日本は産業ロボットで断トツ競争力、第2世代に原発対応ロボット
ロボットの話に戻そう。日本は産業の現場で、自動車や鉄道などのスポット溶接やボディに塗装を吹き付けるボディ塗装、さらに組み立て、搬送などにロボットを自由自在に活用している。世界の産業用ロボットでは断然トップのシェアを誇り、第2位の米国、第3位のドイツなどを大きく引き離している。

ロボット研究では専門家の楠田喜宏さんが「サービスロボット発展の系統化調査」で書かれているのを参考にさせていただくと、ロボットの発展にはいくつかの発展段階がある。まず第1世代の田植えロボット、イベント用ロボット、危険現場対応の遠隔操作マニピュレータ、そして工場現場で機械組み立てなどにかかわる産業用ロボットがある。

それに続く第2世代のロボットは、知能が加わり自立性も出てきて、建設ロボット、家庭や工場での掃除ロボット、工場での保守や適応作業用ロボット、そして今回のテーマになった原子力ロボット、地雷除去、防火作業などに活用されるロボットがある、という。

最後は知能レベルがさらに進化した第3世代のロボットだ。このあたりになると、技術レベルも進んでくるが、体内手術など医療用、家事をこなす家庭用、縫製用、修理用、農作業用、さらに軍事用、そして宇宙ロボットまで用途が広がっている。

米国は地雷探知など軍事目的のロボット開発、日本は平和利用で
 今回、原発事故対応ロボットのことで、現場取材していて、米国と日本とではロボット取り組みの背景が異なるな、と思ったことがある。ロボット開発にかかわる専門家の話によると、米国の場合、地雷探知など軍事目的にロボットが活用されるため、米国防総省がふんだんに開発予算をつぎ込み、軍需メーカーに開発依頼し、量産も委ねる。このため、日本のような産業用ロボットや癒しロボットと違って、軍事など特殊用途のロボットで米国は群を抜いてしまうという。日本はその点、平和利用に徹すればいいのだ。

ただ、その専門家は「今回、米国から提供されたロボットは、原発事故現場で放射線量が多い現場でも平気で動きまわれたが、もともとは核戦争を想定して開発され、放射能汚染現場でも兵器として活用できるものだ。自衛隊が今回の原発事故をきっかけに、放射能汚染に対応出来るロボットを、とメーカー発注してくれば、事態が変わる」と述べている。

日本は技術力を駆使して高齢化など次世代対応のロボットを
 私は、今回、ロボットという専門外の分野ながら、好奇心で中山真さんの「ロボットが日本を救う」(東洋経済新報社刊)、石原昇さんと五内川拡史さん共著の「ロボット・イノベーション」(日刊工業新聞社刊)など、興味本位にいくつかの専門書を読んでみた。そこで感じたことは、日本のロボット生産技術は想像以上に素晴らしいということだ。

今回のような原発事故現場や災害現場でもすぐに対応出来るような国産ロボットは、日本の技術をもってすれば何ということはない。現に、たとえばACM-R5という水陸両用ヘビ型ロボットは先端部分にカメラをつけ、がれきで人間が動きまわれない海中でも自由に動き回って、遺体発見に活躍することも可能という話も聞いた。

要は、メーカーが量産できるように、商業ベースに乗せることが出来るように知恵を出すか、あるいは国がある程度、有事に備えて、防衛省や警察庁、消防庁などの公的機関向けに予算配分して、用途開発することだろう。

ただ、日本はむしろ、今後の高齢社会対応に備えて、手術支援ロボット、介護などの福祉現場対応ロボット、病院内の患者や食事搬送ロボットなど、思いつくだけでもこんなにあるが、まさに次世代ロボット開発で、今後の人口減少社会、高齢社会などに対応すればいい。日本のものづくり技術を磨けばいいのだ。

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