予算ムダチェックの「必殺事業仕分け人」、やりすぎ批判気にせずがんばれ 誰もが納得する予算の廃止や縮減基準必要、後は会計検査院と連携を


時代刺激人 Vol. 62

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

鳩山由紀夫首相がテレビ時代劇番組にヒントを得て命名した「必殺事業仕分け人」。その仕分け人たちのムダな国家予算のチェックをめぐって、「よくやっている。官僚の天下り先確保のためにつくられ、その政策効果も未知数の財団法人があるのには驚いた」、「やり過ぎだ。反論のチャンスも与えず、まるで公開処刑に近い」といった形で、賛否両論の声が起きている。そこで、今回は、民主党政権の行政刷新会議が打ち出した新手法の「事業仕分け」問題を取り上げてみたい。
率直に言えば、私は「事業仕分け」に関して、批判を気にせず、がんばれという立場だ。しかし、やり過ぎ批判にはしっかりと耳を傾け、まずは誰もが納得するような基準をつくり、予算のムダ排除という行政刷新につなげることが重要だ。そのためにも、会計検査院という専門家組織をうまく活用することだ。
そのやり過ぎ批判は、具体的には、事業予算の実体把握を十分にせず、わずか1時間ほどの質問攻めのようなヒアリングでもって予算の廃止や縮減、さらには地方自治体や民間への事業移管などの結論を出すのは乱暴だ、という意見、さらには仕分け人には民主党の国会議員のみならず、民間の専門家や有識者も加わっているが、世論受けのポピュリズムに走っているきらいがある、というものだ。当然、これらの批判には応える必要がある。

「こども未来財団」への仕分けは基金300億円を全額国庫返納案
 さて、総論的な話は、これぐらいにして、まずは、「必殺事業仕分け人」の仕事ぶりを見てみよう。メディアの「事業仕分け」報道を見て、好奇心から私が補足的に調べたものの1つに、厚生労働省所管の財団法人「こども未来財団」がある。この財団は、15年前の1994年に社会の少子化現象に対応して、こどもを産み育てやすい環境づくりを進めるという目的でつくられた。ところが、今回の事業仕分けの作業後の結論は、かなり手厳しい。典型的な官僚の天下り財団だとし、その事業資金の原資である「こども未来基金」300億円を全額、国庫に返納する必要がある。その代わり毎年度、国が必要な事業に対して必要額を補助する方式に切り替えるべきだ、というものだ。
 事業運営のもとになる基金を国庫に全額返納すべきだ、というのは、この財団にとっても存続が問われるものになりかねない。その事業仕分けが正しい判断なのかどうかの検証は、もちろん必要だが、具体的に、どういった点にメスが入ったのか、少し見てみよう。複数の新聞報道によると、なかなか問題が多い。予算要求している厚生労働省担当者の説明では、既存の公的サービスで対応が難しい子育て支援事業、たとえば企業など事業所内での保育施設環境づくり、コンサートや講演会場などで安心して講演会に参加できるようにする託児室支援、授乳室やキッズコーナーなどの整備助成といったものへの事業支出が主たるもの、という。

常勤役員4人のうち2人が厚労省元局長、人件費・管理費が全体の3分の1
 さらに、厚生労働省担当者の説明では、この財団は、児童手当制度にもとづく事業主拠出金を財源にした「こども未来基金」300億円で運営され、民間主導の事業だという。ところが実際には、企業の拠出は自主的なものとはほど遠いうえ、この基金の資金運用についても、今のような超低金利状況下では極めて厳しい運用益しか確保できず、国からの補助金、2009年度予算での場合、8億8089万円の補助金に頼らざるを得ない。
しかも、事業仕分け人たちが質疑を経て得た財団の事業の現状は、常勤役員4人のうち理事長が厚生労働省の元職業能力開発局長、常務理事が同じく元労健局長で、年間1600~1200万円の役員報酬を含めた人件費と管理費が5億円を占め、全体予算16億6000万円の3分の1近くに及んでいた。このため、事業仕分け人の判断はガバナンスなどに課題が多く、基金全額を国庫に返納し、必要な事業予算は国のチェックを受けながら、補助金の形でもらえばいいでないか、財団が事業支援するベビーシッター事業の利用者は1000人にも満たない、それらベビーシッターの研修が年間たった600人では話にならないのでないか、国は補助金を出すにしても事業評価をしっかりすべきだ、となった。
この事業仕分け人の評価とは別に、「こども未来基金事業評価委員会」というのがあり、事業評価報告書を出している。公表されている2007年度の事業評価報告書を見たところ、「少子化対策としても、子育ちと子育てを社会全体で支えるとの意識改革は重要な課題だ。意識啓発事業、健全育成事業、出版・調査研究・研修事業の必要性と有効性が認められる」とし、総合判断は「A」となっていた。失礼ながら、この委員会も、今回の事業仕分け人が委員メンバーだったら「B」どころか「C」評価になったのだろう。

基金や補助金使って本当に政策効果上がっているかどうかが問題
 問題は、社会全体の少子化が進み人口減少が日本という国の将来不安を強めている現状で、国が、あるいは自治体が、さらに企業などの事業所、家庭でさまざまな少子化に歯止めをかけるための取組みが重要なことは言うまでもない。この財団が、その役割の一端を担う形で設立され15年間がたった中で、その取組みの重要性を否定する人はいないにしても、今回の事業仕分けの対象になったように、基金や補助金を多く使って、本当に政策効果が上がっているのかどうかだ。
今の若い人たち、とくに女性が結婚後、子供がほしくても果たして産める環境にあるか、あるいは働いて生活環境をよくしたい中で、働きながら子育てするには保育所、託児所が十分に確保されておらず子育てに不安というのが現実。となれば、国は少子化対策の必要性を強調するのならば、こうした財団に頼らず、もっと大胆かつストレートに企業に保育所設置を義務付け、それをスムーズにするための経過措置として補助金でバックアップというやり方の方がいいかもしれない、と私は考える。
 いまは、少子化対策の話をするのが本題ではないので、「こども未来財団」の問題は、ここまでにして、事業仕分けをめぐる問題に戻ろう。ここでの1つの問題は、基金を組成して財団などの事業組織をつくるのはいいにしても、官僚OBの天下りの受け皿づくりのために基金、そして財団がつくられる、という、言ってみれば本末転倒の状況を止めさせるべき点だろう。とくに、今のような超低金利状況のもとで、資金運用で事業予算をひねり出すのは至難のワザだ。挙句の果てが、海外の新興国の高金利通貨への投資話のような誘惑に乗って巨額の運用損を出してしまった、ということになりかねない。それどころか、天下り官僚OBの役員報酬のみならず人件費や管理費などの「カネ食い虫」が元凶になって、肝心の事業などの政策効果どころでなくなっても困る。

国土交通省の下水道事業への補助金は非効率 地方自治体へ移管案
 実は、国土交通省の「まちづくり関連事業」は1821億2500万円の予算をつぎ込んでのものだが、事業仕分け人の評価は「まちづくりに国が関与しなければならない理由が不透明。むしろ地方自治体に任せればいいでないか」だった、その点でハッキリと地方自治体移管の判定が下されたのが、同じ国土交通省所管の下水道事業への補助金5188億円だ。むしろ、国が関与するよりも、自治体にゆだねれば、低コストの浄化槽で対応するなど臨機応変の予算の使い方ができずはず、という評価だ。確かに、自治体に移管したほうが効率的なことも多いように思える。
 ただ、これら事業仕分け人のヒアリングなどの仕方に関して、評価を受ける側の行政官庁、財団関係者らの受け止め方は複雑だ。ある事業関係者は「初めての体験で、とまどうことが多かった。質問は、警察か何かの尋問のような形で、『官僚OBの天下りは何人か』『事業の効果はどこまで上がっていると考えているか』など矢継ぎ早に聞かれる。官僚の天下りにこだわり、それ1つがあるだけで、ああ、この事業は予算削減対象といった姿勢が見受けられた。それに、事業評価と言っても、定量的に数字が出るものでないので、答えに窮することさえある」と述べている。冒頭のやり過ぎ批判の中にあった「反論のチャンスも与えず、まるで公開処刑に近い」ということも、被害者意識が強まれば、そういった受け止め方になりかねないのだろう。

行政刷新会議には予算廃止の権限なく最後は首相官邸、鳩山首相判断に
 しかし、われわれの関心事は、予算の使い方にムダがあるかないか、もっと効率的な使い方はないのか、人件費や管理費などの「カネ食い虫」だけになってしまっていないかどうかが問題なのだ。もっと言えば、前の自民党政権時代に、選挙区の票がらみや利権ほしさで動く族議員、権限拡大に意欲を示したり、官僚の天下り先確保に躍起となる行政官庁などの利害が一致して、不必要な事業を作り出したり予算執行したことは否めない。そうした予算のムダにメスを入れることは、政権交代がない限り、なかなかできないことで、その意味では、今回の事業仕分けには議論があるにしても必要なことだと思う。
こうした問題とは別に、実は、意外に難しい問題がある。それは、政権の行政刷新会議自体には予算を廃止したり縮減、さらには地方自治体、民間への移管といった権限がないことだ。このため、最終的には首相官邸、さらには鳩山首相の判断、そして政権を担う閣議の決定ということになる。だから、「必殺事業仕分け人」の仕事ぶりがセンセーショナルに話題を集めたが、2010年度予算編成の段階での最終決定となり、まだまだ一里塚というところなのかもしれない。

会計検査院は予算ぶんどりに鋭いメスを、決算おざなりでは困る
 そこで、私はかねてから、どうしてもっと活用しないのかと疑問に思っていた会計検査院を、この際、全面に押し出したい。11月11日に公表された会計検査院の2008年度検査報告書では、予算の使い方にムダあり、と指摘された額が実に2364億円にのぼっていた。中でも、今回の事業仕分けで問題になった厚生労働省所管の「こども未来財団」の「こども未来基金」300億円のような基金が経済産業省や農林水産省の公益法人8基金、総額744億円に問題あり、の指摘だった。中には、予算を査定する側にあるはずの財務省傘下の9税関で、電気工事士などが行う岸壁の監視カメラの保守点検工事で、日当の労務単価計算を誤り、相場の5倍以上の日当8~10万円という非常識な労務手当を払っていたことが判明している。2年間で総額8170万円が余分に支払われたという。
 明治大学政治経済学部教授の西川伸一氏が書かれた「この国の政治を変える会計検査院の潜在力」(五月書房刊)を以前、読んだ際、わが意を得たり、と思った。ぜひ、紹介させていただこう。「ポークバレル(ばらまき政治)を見直す仕組みは制度的に存在する。決算である。『予算ぶんどり』の結果を精査して、後年の予算編成に正確に反映させればよい。このフィードバックの回路があまりに貧弱のため、せっかくの予算制度がうまく機能していない。言いかえれば、『惰性のシステム』が断ち切れないのである。予算ぶんどりに対して決算おざなりということであろう」と。要は、西川教授は、会計検査院がフィードバックの機能を発揮すればいい、と言いたいのだ。私も同じ考えでいる。長い間、経済ジャーナリストして、マクロ経済の報道に携わってきたが、この会計検査院の問題をもっと取材して報道すべきだった、と思っている。今回の事業仕分けの問題を見て、民主党政権もぜひ、連携して対応すれば、行政官庁などに対しても説得力ある問題提起ができると思う。

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