東日本大震災の未曾有被害や死者の多さに心痛む、日本にとって大きな試練 原発事故含めすべてが想定外の連続、日本再生に向け打てる手立ては何でも


時代刺激人 Vol. 126

 3月11日午後に突然、東日本の太平洋岸地域を襲った巨大地震、その直後に津波がまるでジェット機のような速さで押し寄せたため、あっという間に命を絶たれた方々の数が日を追って膨れ上がっていく。テレビでの現場映像が、逃げまどう住民、そして家屋を無情にも押し流していく津波の荒々しさを映し出す。映画を見ている錯覚に陥る。だが、それが現実であるとわかると、なぜこんなことが起きてしまうのかと思うと同時に、天災のこわさを知る。亡くなられた方々、被災された人たちのことを思うと、本当に心が痛む。
東京電力の福島原子力発電所事故を含め、すべてが想定外のことばかりだ。日本国内の新聞、テレビのほとんどは、当然ながら連日、大震災の模様を報道している。海外メディアも同じで、欧米のみならず中国のメディアもトップニュースで日本の地震、そして津波で壊滅的な被害状況を報じているが、菅直人首相の「日本は第2次大戦後でも最悪の事態にある」との記者会見発言を大きく取り上げたのが印象的だ。日本は戦後、戦争の後遺症に苦しみながらも奇跡的な経済成長によって、見事に再生を図った。今回は、それが出来るだろうか。日本にとっては大きな試練だ。しかし私は、日本人の団結力、組織力など、本来持っている力が蘇ってきて再生のエネルギーにつなげていくと思っている。

中国紙「日本人の冷静さが世界を感動させた」との称賛報道は素直にうれしい

 その点で興味深く読んだのは、中国の「環球時報」が報じた大地震発生当初の記事だ。東京の交通機関が運行ストップなど大混乱の状況下で、自宅に帰るに帰れず一種の「帰宅難民」となった人たちがホテルや駅の階段に座って長い時間、交通機関の復旧再開をじっと待つ状景を見て「地震発生後の日本人の秩序正しい行動が素晴らしい」「日本人の冷静さが世界を感動させた」と書いている。要は、中国で起きた場合には暴動にもなりかねないのに、日本人は整然と我慢強く、かつ冷静に行動するところが素晴らしいというわけだ。
かつて、いくつかの途上国での地震災害などによって壊滅的な打撃を受けた被災地に救援物資を補給する際に、現場で、まるで奪い合うように救援物資をつかみとる光景をテレビ映像などで目にした。今回、東北のどの地域でも救援物資を整然とリレー式で運びだしている。給水トラックから水の供給を受ける際にも、順番に辛抱強く整然と並んで待っている。中国「環球時報」紙は、中国にはこの民度の高さがない、日本人は素晴らしい、と言ってくれているのだが、日本人の美徳というよりも、いい意味での連帯感、組織力が根強く日本人にあるので、これを日本再生のバネに活用できるのでないか、と思った。

東京での買いだめなどミニパニック行動は結果的に被災地支援に逆行

 と言っても、すべてがGOODではない。被災地への救援物資の輸送を最優先にすべきなのに、東京など大都市での買いだめの動きがブレーキをかけている。ガソリンが一時的に品不足状態に陥り、しかも東京電力の計画停電で鉄道など公共交通の運行にも影響が出たため、ガソリンスタンドでガソリン買いだめの動きが出たのだ。
そればかりでない。1970年代の石油ショック時のモノ不足現象が買いだめ心理を誘ってトイレットペーパーなどが品不足になったことが40年たったいま、またスーパーなどで起きている。パニックになって見苦しい奪い合い、殴り合いといった異常な光景が見当たらないのは幸いだが、ミニパニック状態はちょっと度が過ぎる。私の自宅近くのスーパーマーケットで、カップラーメンのような保存食から、計画停電用のためか懐中電灯、電池、ろうそくまでがあっという間に売り切れ状態。異常な仮需要が発生しているのだ。
今は、被災地の人たちの苦痛を共有するという意味で、救援物資輸送優先に協力することだ。ここで買いだめに走れば、その分の物資が被災地に届くのが遅れてしまう。デフレ時代で、モノは潤沢にあることを肝に銘ずるべきだろう。

政治の責任は重大、政局休戦どころか復興開発や日本再生に向け機敏な行動を

 ところで、日本にとっては、間違いなく、これからが大きな試練だ。どんなことが日本再生にとって試練になるか、いくつか考えてみたい。その1つは、政治がどういった機敏な行動をとれるかだ。与野党とも、政治休戦は当然だが、議員立法で打てる手立ては機敏に打つ、災害救助法などに関しても、過去の先例や法的解釈でこれはやれないとかいったことを棚上げにし、広域の復興支援や地域再生プログラムを考えることが重要だ。
1995年の阪神淡路大震災の時の被害総額は10兆円と言われている。大都市災害とはいえ、地域限定だったのに比べて、今回は太平洋岸の青森、岩手、宮城、福島県のみならず関東の茨城、千葉など広域に及んでおり、15兆円規模の損害額になるのは間違いない。デフレ脱却がままならない日本経済にとって、国内総生産(GDP)の下押し圧力は辛い話だが、常識的に考えて0.5%から1%はあるだろう。一時的にはやむをえない。その点でもマクロ経済政策を仕切れるかどうか、政治の責任は重い。

再生めざす東北を新興アジアにつながるハブ基地、経済特区地域にする大胆さも

 根こそぎ住宅も資産も奪われた地域にとっては、新たに再生に向けアクションを取らねばならない。政治が行政をリードして仮設住宅、病院など救護・介護施設、水回りなどインフラ整備などに素早く対応すべきだ。それと平行して、新たな地域共同体づくりをめざすことも重要課題だ。集落や村、町、市や県といった境界線を取り外して広域の新しい地域づくりをめざす、そのためにプランナーやコンサルタントなどから公募によって面白い、夢が持てるような地域モデルをつくる必要がある。その点に関して、かつてのような公共事業主導の復興ではなくて、本当に夢のある、次代の日本の姿を感じさせる地域再生モデル、わくわくするようなプロジェクトを打ち出してほしい。
その先頭に立つべきなのが政治家だ。内向きになって政局ゲームしているヒマはない。沖縄の那覇空港が新興アジアの国々からの航空貨物を集積する一種のハブ空港となり、そこから目的地別に積み替えて輸送する国際貨物ハブ事業基地になったのが参考例だ。新生東北が新興アジアへの新たな戦略拠点となるべく、経済特区地域にしてもいい。それによって新規需要創出のみならず雇用の創出にもつながる。出直すチャンスづくりが必要だ。

地震・津波含む気候変動で、日本がアジアとインフラづくりや研究成果共有も

 地球温暖化に見られるように、地球全体がおかしくなっている。日本は地震列島の上に立つ国家だが、ここ数年、地震のみならず津波がさまざまな形で起きている。アジア全体でも地震、津波に限らず気候変動という括り(くくり)でもって、日本が主導的に新興アジアで先進モデル事例にして、未然予防の対策をとることが必要だ。津波に関しては、スマトラ沖の災害で、津波の恐ろしさが認識されたが、今回の日本での津波はケタ外れであり、その予防策をどうとるか、大きなテーマとなる。
そのからみで、NHKテレビで東大の地震研究の教授が今回の津波被害に関して、リアス式海岸で起きる津波が狭い湾内に入って行き場がないために一気に隆起してしまい、後ろから来る津波に押し出されるようにして5メートル、10メートルという高さの津波に早変わりし、陸地に襲いかかったことが考えられると、シミュレーションをもとに述べていた。これはとても参考になった。津波恐怖にさらされる他の国々にとっても参考になる。日本が率先して津波対応のインフラづくり、研究成果の共有で主導的になるのも重要だ。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に集団で陥るリスク、専門家で対策チームを

 試練という点では、家族や友人などを今回の大震災で失って茫然自失としている人たちがいまは非日常の世界で何とか過ごしているが、これから次第に現実の世界、日常の世界の戻った時に起きる心的外傷後ストレス障害(PTSD)が心配だ。
フリー百科事典「ウィキペディア」によると、地震や洪水、火事のような災害、戦争、テロや監禁、虐待などさまざまな要因で起きる。精神的な不安定による過覚醒症状、トラウマの原因になった障害などを回避したいと躍起になる傾向、異常な事故や犯罪、事件の目撃体験の一部や全体について思いだすフラッシュバック症状が典型だという。
今回の大震災で、ストレス障害に苦しむ人たちが極めて多いはず。これから2週間、1カ月、3カ月という時間の経過とともに、PTSDに陥る人たちが増えてくる可能性が高い。それが一種の集団ストレスになった場合には社会問題となりかねない。今回、社会問題化する前に、多くの専門家で文字どおり対策チームをつくって対応することが必要だ。

耐震性で世界的評価あった日本の原発に津波対応のもろさ、どう克服

 最後になってしまったが、もっと大きな試練がある。言うまでもなく世界中の関心を呼んでいる東京電力の福島の第1、第2原子力発電所のうち、とくに第1発電所での1号機、3号機の爆発事故、それが今では2号機にも及んだことだ。いずれも炉心溶融(メルトダウン)の恐れが出てきて、放射能汚染回避のために、30キロ圏内にまで避難地域が拡大したという厳しい事態に至っている。時々刻々、状況が悪化していき、だれもが不安を隠しきれない。過去最悪の原発事故と言われる旧ソ連のチェルノブイリ原発爆発事故ほど、ひどい事態ではないが、何とか歯止めがかかってほしい。
日本の原発は世界的にも耐震構造がしっかりとして、その技術も優れているという評価を得ていた。それが今回は、東京電力の説明では大津波という想定外の事態で電源系統が破損し、冷却水の水が原子炉にたどりつかず、原子炉の燃料棒が空炊きになる状態が起きてしまった。海水を急きょ、冷却用に使う応急措置を講じたが、原子炉を保護している格納容器と、その外のコンクリート製の建屋の間に水素が漏れ、酸素と結合して爆発が起きた。これが最初、福島第1発電所の原発1号機だったが、同じことが第3号機に及び、さらに第2号機にもそれが波及する恐れも出てきた、というのだ。

過去最悪のチェルノブイリ原発爆発事故の二の舞避ける、中国にも技術協力を

 原子力発電の専門家によれば、非常時対応での海水注入は塩分を含んだ水であるため、原子炉自体を痛めることになり、原子炉そのものの廃炉処分もせざるを得ない、という。しかし今はまず安全性確保に努め、チェルノブイリ原発のような格納容器、原子炉そのものの爆発、そして大気中に放射能汚染がまん延する最悪事態を避けねばならない。そのためには東京電力のみならず他の電力各社、原子炉プラントメーカー、大学や研究機関、政府の原子力安全・保安院などが最悪事態回避のために、知恵を出し合うしかない。
中国など新興アジア、中東諸国の間では原発に対する需要が高まり、建設ラッシュになりつつある。日本の原発プラントメーカーは電力会社と連携し原発のシステム輸出も行うと張り切っていたが、今回の事態で、様変わりの情勢となった。やむを得ない。
それよりも中国のエネルギー関係者が以前、話していたことが気がかりだ。「中国は今や日本から最新の環境や原発技術装備のハードウエアを得なくても市場から買える。問題はメインテナンスの技術がないことだ。日本に協力を仰ぎたいのは維持管理のノウハウ、人材、技術だ」と。裏返せば、中国が巨大なエネルギー需要をまかうため原発をつくっても、今回のような事故に遭遇した場合の対応が大丈夫か、という点だ。国際的に協力体制の枠組みづくりを確立しないと、中国リスクが海外に伝播する可能性もある。課題は多い。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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