尖閣問題、日中軸に国際会議しかない 「領土紛争状態」とし外交交渉で決着を


時代刺激人 Vol. 199

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

中国との間で、尖閣諸島領有をめぐって、事態がどんどんエスカレートし、看過できないどころか、対応策を誤れば、深刻な事態になりかねない段階に入って来た。正直なところ、私自身、ここまで事態が悪化するとは思わなかった。9月19日になって、中国政府が8日間続いた反日デモに対し、デモ禁止策に転じたため、一時的に収まったように見えるが、中国、とくに共産党北京中央の尖閣諸島を含めた領土問題に対する執着、こだわりを見ると、問題の根が深く、とてもこのままで終わるとは思えない。

日中国交回復から今年で40年になる。過去のさまざまなわだかまり、問題をのみこんで、日中が互いに手を握りあって将来に向けて協力しあうことがプラスと、この40年間、民間レベルで太いパイプをつくってきたはず。それなのに、今回の尖閣諸島の問題1つで、反日デモにとどまらず日本企業がかかわるスーパーなどへの暴力行為、商品の略奪などに発展したばかりか、対日経済制裁論のような主張まで出てくると、中国とは本音ベースで交わりきれない間柄なのか、と思わざるを得ない。それにしても悲しい現実だ。

「領土問題は存在しない」という頑な姿勢改め、
交渉の場に中国を連れ出す必要
この事態に、どう対応すべきだろうか。私は、きっかけになった今回の尖閣諸島領有をめぐる中国の対応を見ていて、ここまで溝が深まった以上、日本としては、「領土問題は存在しない」といった頑な姿勢を改めること、そして中国側に対し日中間の外交交渉の場で話し合おうと提案すること、その際、尖閣諸島に関して領土紛争状態にある、という情勢認識を共有し、そこをスタート台にして、互いの主張を闘わせながら、今後どういった着地が見込めるか、徹底的に議論して外交交渉で決着をつけることしかないように思う。

一方で、日本は、国連など国際舞台で、東アジアでの日中の緊張関係の高まり、経済関係の悪化が国際社会に何のプラスにもならないことを訴える、尖閣諸島の領有をめぐる日本の立ち位置に関して、しっかりとした論陣を張る、そして領土問題で解決を図るため、中国に現在、外交交渉を求めている、とアピールすることが重要だ。加えて、中国との当事者だけでは決着がつかない恐れがあるので、日中を軸にした紛争解決のための国際会議にするように積極提案し、中国を巻き込むことだ。

「中国に国家戦略目標があり、尖閣領有も順番に進めているだけ」
と松野さん指摘
 今回の問題をきっかけに、現場重視の私といえども、すぐには中国に行くことが出来ないため、中国国内の日本人や中国人の友人にEメールで現状や今後の展開に関して、話し合った。その中で、長年の友人である精華大学・野村総研中国研究センターの副センター長の松野豊さんの指摘に、これは容易ならざる事態になりかねない、と思った。
松野さんの話では、中国共産党には中華帝国の復権、中華大国として世界のリーダーに復権する明確な国家目標がある。領土問題に関しても、尖閣諸島の問題を突然持ち出したわけでなく、また海洋資源の権益確保や覇権主義を突然、前面に押し出したわけでもなく、順番に着々と戦略を進めているだけ、ということを中国の現場で実感する、という。

ただ、その中国も外交上、米国の存在が唯1つ、思い通りにならず苛立っている。現実問題として、軍事力など国力の面で米国だけには負けると思っており、米国との間では衝突を避け、状況によって妥協もやむを得ない、と感じている。しかし、それ以外の国々とは目先の戦術で妥協することはあっても、あきらめたりすることはまずあり得ない。尖閣諸島問題で鄧小平が過去に一時棚上げを言ったとしても同じだ、というのだ。

「日本政府は裏で石原都知事とつながり宣戦布告」
との中国の受け止めも驚き
さらに、松野さんの分析で興味深かったのは、中国が戦略を構築する際、思考回路に明らかに欠陥があるなと思えることがある、という。要は、自分たちが国家目標やその戦略を実現するに際して、相手国も同じような体制、仕組み、考え方で臨んでくると思い込んでくることだ。たとえば、今回の発端となった石原東京都知事が尖閣諸島の土地を東京都が土地保有者から買い上げると表明した問題に関しても、中国側にすれば、石原都知事のやっていることは、裏で日本政府とつながっていることだ、という理解になる。

現に、日本政府は東京都の土地購入を肩代わりすることに踏み切った。そのあと時間を置かずして尖閣諸島の国有化を閣議決定した。中国の思考回路でいくと、これらは日本が海洋資源獲得のため、海洋国家戦略を意識的に打ち出し、地政学的にも要衝の尖閣諸島の国有化という手段を用いて明確に中国に戦いを挑んできた、という判断なのだ、という。
さらに、中国側からすれば、日本政府が閣議で尖閣諸島の国有化決めたのも、国家の強い意思表示であり、中国への宣戦布告と同じだと受け止める。日本政府は、こういった思考形態の中国だという情勢認識を持ち、対策を講じないと、大きな過ちを犯すことになりかねない、と松野さんは警告する。

日本政府は中国政府の出方を見誤った、
閣議での国有化決定は情勢判断ミス
 中国とのビジネスとのかかわりで名前を出せない中国在住経験の長い友人も、尖閣諸島を国有化すると日本が閣議決定したことがミスだったと、以下のように述べている。
「日本政府が中国の出方を読み誤ったとしか思えない。尖閣諸島の土地買い上げという石原都知事の挑発的な行動が中国を刺激しかねないと、民主党政権が事態の鎮静化、摩擦回避のために、日本政府の肩代わり購入を表明したが、中国側の見方は全く違う。石原東京都知事と日本政府は一体行動だと見ている」という。松野さんと同じような指摘だ。

さらに「中国側の見方は、胡錦濤中国国家主席が9月9日のウラジオストックでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、野田首相に対し、立ち話の中で自制を求めたにもかかわらず、2日後の11日に、日本政府が閣議で尖閣諸島国有化を決定したため、胡錦濤主席のメッセージが無視され、しかも国有化宣言で中国に対し日本が闘いを仕掛けてきた、という判断なのだ。国有化の閣議決定など、やらなくても日本政府の立場は変わらなかったはず。あれが中国側を刺激した。民主党政権が中国に人脈のパイプを持っていないこと、政治主導という割合には外交戦略がないことなどが最大の問題だ」と手厳しい。

双方のボタンのかけ違いが互いに相容れず状態つくり、
最後は対決構図に
国際政治でも、また企業のビジネス行動でもすべて同じだろうが、相手側とのさまざまな交渉に際して、相手方の行動原理、その背後にある戦略などをすべて読み取ったうえで自分側に有利にコトを運ぶにはどうすればいいか、戦術や戦略を練り上げて行動するものだろう。相手の出方や行動を読み違えてしまうと、ボタンの掛け違いに代表されるように、すべてがチグハグになって、最後は互いに相容れず、対立や対決の構図になってしまう。

そういえば、9月11日以降、中国側の尖閣諸島問題をめぐる対日行動がエスカレートしてきたのは事実だ。ボタンのかけ違いが一気に、中国側の反発行動を加速させたともいえる。一時は100を超す中国国内の都市で反日デモが広がり、まるで燎原の火のごとく燃えさかり、暴徒と化した中国人の日系スーパーで略奪行為に出たりした。
友人の目撃談によると、北京の日本大使館前のデモの先頭に立って暴れる中国人は言葉つきから地方出身者とわかる若者が多かったが、警察誘導によって路線バスで運ばれてきたようで、ペットボトルも本来、有料なのに老婆が誰かに指示されたのか、デモの後ろ側では無料で配っていた、という。中国政府の「愛国抗議デモ支援」といった感じがする。

中国政府は反日デモへの批判懸念し禁止したが、
海洋監視船などは継続指示
その反日デモは、すでに報道にあるとおり、携帯電話メールなどへの中国政府のデモ禁止措置によって、一気に抑え込まれた形だ。だが、誰が見ても、デモが日本政府への反対デモを越えて、日本憎しにエスカレートし、スーパーなどでの略奪行為になって、国際的にも批判を招く事態に至ったため、中国政府がブレーキをかけたのは間違いない。

しかし中国政府の日本政府に対する反発行動は続いている。尖閣諸島周辺の漁場への中国漁船の出漁の容認、漁船の保護も兼ねて中国の海洋監視船など12隻を尖閣諸島周辺の日本側領海との接触水域に派遣した。それに、日本製品の不買運動もほのめかしている。中国外務省スポークスマン役の洪磊(こうらい)副報道局長は記者会見で「中国の主権維持のための正義の行動で正当なものだ」と述べており、ホコ先を収める情勢にはない。

日本政府が国有化決定きっかけに尖閣諸島に政府施設つくったら
火に油
 日本政府が中国のしたたかな国家目標戦略を読み誤った、としても、こういった政府、とくに中国共産党北京中央が指示したとみて間違いない日本への過激な対抗措置、なりふり構わずの行動がすべて許されていいはずがない。事実、南沙諸島で同じ領有権問題を抱えるフィリピンなどアジア周辺、関係国は中国の行動に批判的であるのはいうまでもない。米国政府も二国間問題には中立という立場を維持しながらも、一方で、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲内にあるとし、中国に暗黙のプレッシャーをかけている。

こういった時に、日本がとるべき行動は、冒頭から申し上げるように、日中間で外交交渉の場に、尖閣諸島の問題を持ち出して交渉すること、二国間の問題にせず国際会議の場での問題にすることがいま、日本政府が率先してとる行動だ、と思う。
もし、ここで、日本政府が9月11日の尖閣諸島の国有化決定に付随する行動として、強固な国家施設をつくって既成事実化したりすると、火に油を注ぐことになる。まずは外交交渉に持ち込んで、しかも国際会議の場で、日中の領土紛争の問題を議論することが大事で、最後は日中双方で政治決着を図るしかないのではないか。

対日経済制裁論は異常、中国にこそダメージだが、
日本企業のリスク管理は課題
それにしても、人民日報が紙面で対日経済制裁論が浮上している、といった記事を掲載すること自体、人民日報編集陣の見識が問われる。政府刊行紙だということは承知のことだが、いま、日中経済関係が悪化した場合、日本企業などのダメージが計り知れないのは言うまでもないにしても、サプライチェーンがらみで対日経済依存度の大きい中国産業などにとっては、もっと大きな打撃を受ける。人民日報ぐらいの新聞になれば、もう少し冷静さを求めたい、と思う。

世界の工場としての中国よりも、13億人が消費人口となる巨大な消費市場としての中国の魅力に期待を抱いて中国進出した日本企業にとっては、いまは試練の時で、今後の動向を静観するしかない。しかし、リスクマネージメントという点では中国リスクをどこまで織り込むか、日本企業にとって、大きな課題になってきたことは間違いない。

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