遺伝子と免疫の力で、がん治癒を目指す


シカゴ大学
医学部教授
中村 祐輔

特選インタビュー

がん患者の遺伝子を調べ、最適な治療法を探る「オーダーメイド医療」がいま注目を集めている。その先駆者とも言えるのがゲノム医療の世界的権威であるシカゴ大学、医学部教授である中村祐輔。彼の研究が、がん治癒への未来を拓く。

遺伝子検査が身近になり、分子標的薬など遺伝子レベルでがん細胞の特徴に合わせた個人に最適な治療が出来るようになってきた。しかし、遺伝子変異すべてに対応できる薬はまだないため、人間が本来持っている免疫の力を高めるための免疫療法にも期待が集まっている。
また、ガンを攻撃する免疫細胞を増強する免疫細胞治療や、免疫細胞の遺伝子を操作してガン細胞を攻撃する力を高めた治療も登場しつつある。今後は、標準治療だけでなく遺伝子解析や免疫力を活用した治療法など、選択肢が増えることでガンに対する常識が変わっていくという。

免疫療法に対する、負のイメージ

蟹瀬今の現状をアメリカと日本で比べた場合には相当差があるんですか?

中村日本は、免疫療法に対する物凄く強い負のイメージがあるわけですよね。免疫療法=いかがわしいというようなイメージがかなり定着しているんです。アメリカを見ると全くそんなことは無くて、例えばアメリカの臨床腫瘍学会、血液学会、アメリカの癌学会といっても免疫療法というのは大きなテーマの一つになっていて。どのような形で患者さんの免疫力を高めるのか?そこに非常に大きな注目が集まっているという状況で、かなり日本の現状と温度差があるように思います。

蟹瀬日本の場合は、認可に時間がかかったり、そういうことに対して非常に慎重だということをよく批判として言われるんですけど。患者になった場合には、やっぱりちゃんと調べた薬を使ってもらった方が、あるいは技術を使ってもらった方が安心だなっていう側面もあるんですよね。この辺りはどうなんでしょうかね。

中村安全性っていうのは、1番に優先度が置かれるようなものだと思います。ただ、日本は標準療法で、標準療法が尽きると何もない。じゃあ標準療法が終わった後、座して死を待つのかというと、やはり希望を無くして生きるのはすごく大変だと思うんですよ。国として新しい手立てを提供していくというのが非常に重要だと思いますし。
そこで、リスクとベネフィットのバランスを考えないといけないと思うんですね。本当に健康な人のリスクと、もうあなたは何カ月ですよと言われた方のリスクとは違う。やっぱり新しい治療を受ける権利っていうのは生きる権利。ガン患者さんにとっては生きる権利なので、その生きる権利を尊重するような形で日本から新しいモノを生み出していくという発想は必要だと思います。

病気に合わせた治療ではなく、患者一人ひとりに合わせた治療が必要である。それが中村が目指す最善の医療。

がんと向き合う

蟹瀬がんと向き合われたのはいつ頃からなんですか?

中村私は卒業してから7年間近く外科医をやっていて、胃がんとか大腸がんとか乳がんの手術をやっていました。その時に出会った患者さんを通してガンと遺伝子、遺伝するガンに関心を覚えてアメリカに留学をして、そのまま研究者として自分の道を考えるようになったわけです。

蟹瀬ただガンの患者さんと向き合われると当時は、告知とかなかなか難しい時代だったんじゃないですか?

中村当時は、告知はしていなかったので…。

ドーキンズしていなかったんですか。

中村はい。今でも印象に残っているのは私が27歳の時に、27歳の胃がん患者さんの死を宣告したんです。その前に、ずっと医者と患者という立場で関わってきたんですけれども、ガンと告知しない状況で日々悪くなっていく患者さんを診療するのは、私たちも心の負担になっていた。とにかく胃潰瘍とか十二腸潰瘍とかいう言葉を患者さんには付けていたんです。患者さんも自分の心の中で病気のことを気付かれていたと思うんですけれどもね、阿吽の呼吸でなんとなく言わないままに日々過ごしていました。

ある日、突然私の白衣を掴んで私のおなかの中の塊を取ってくださいと泣き叫ばれてですね。心の準備が出来ていなかった私は、うろたえるだけで自分が涙をこらえるのを耐えるのが精いっぱいだったわけです。ある大腸がんの患者さんは、二人の幼いお子さんを残されて亡くなられました。その時に奥さんは当然、ご臨終ですと言うと泣き崩れておられたわけですけれども、小さい子供は何もわからないから病室の中を走り回っていると。そのコントラストが今でも脳裏に浮かぶくらい強く残っていてですね。それで、どうして若い人がガンになるんだと。勉強するうちに遺伝するガンがあるんだと。遺伝するガンの原因を突き止めればガンの治療につながるんじゃないかと思って遺伝子の研究の道にすすんだわけです。

知識のギャップ

蟹瀬元気な時って、あんまり病気を意識することないんですけれども。やはり、ガンっていう今、不治の病ではないにせよ宣告をされた患者さんっていうのは辛いですよね。

中村ガンと宣告された段階でかなりの患者さんは動揺されると思いますね。日本の問題と言うのは、全部マニュアル化、標準化されてしまって治療法が無い場合でも簡単に患者さんに告知をして、あなたは余命何カ月です。治療法がありませんということを告げられるわけですけれども。

やっぱり自分の命が限られたことを伝えられた瞬間、患者さんは真っ暗闇の中に落とされたような感じを持つと思うんですね。そうではなくて、やっぱりいろんな手立てを用意して少しでも明かりが見えれば日々の暮らしが違ってくるし、美味しいモノを美味しいと感じるようになってくると思うので、そこはやっぱりこれからの日本の医療の中で考えていく大事なテーマだと思いますね。

蟹瀬患者の立場としてね。がんというものに対して、どう対応していけばいいかことなんですけれども。どうしてもお医者さん任せになっちゃいますよね。我々は。

がんと向き合う

中村アメリカと日本と比べて大きな違いというのは、病気の教育だと思うんですよね。例えば、ガンは遺伝子で起こる病気だというのは、ある程度の教育を受けた人間と言うのはアメリカでは高校生くらいでは常識なわけですよね。日本は、やっぱり遺伝子と言うものに対する恐れがあって。なかなか教育の中に遺伝子がどう関わるのかっていうのを教えていないですから。そこから変えていかないと。なかなか向き合うと言ってもちゃんとした情報が無い中で向き合うというのは、かなり患者さんにとっては厳しいモノがあると思います。

蟹瀬専門性と言うことで考えると、やっぱりお医者さんというのは我々の上の方にいらっしゃるわけですよ。だから、言われたらそうかなと思っちゃうわけですよね。

中村逆に、お医者さんが選ばずに、お医者さんがこれもこれもありますよというふうに言って、じゃあ選んでくださいという時代になってきて。でも逆に患者さん側は、その備えが出来ていないと。その知識ギャップ、情報ギャップを埋めていくというのがこれからの医療にとって物凄く大切だと思いますね。

蟹瀬自分たちで調べなければいけないということですからね。

中村教える側の責任もありますし、一般の方一人一人がもっとやっぱり病気に対して正確な情報を入手するというのが大事だと思います。

ドーキンズよくテレビで病気は、こういうふうに進行しましたみたいなドキュメンタリーをやっているのを見るんですけれども、あまり見すぎていろんなことを考えすぎると反対に良くないのかなと思ってしまう部分もあるんえすけれども。知識は持っていた方が良いんですか?

出演者情報

  • 中村 祐輔
  • 1952年
  • 大阪府
  • 大阪大学

企業情報

  • シカゴ大学
  • 放送日 2018.02.04

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