メコン諸国の現場レポート3 アジアで日本農業の出番だ、 ライフスタイル変わり高品質ニーズ


時代刺激人 Vol. 237

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「陸のASEAN」のタイ、カンボジア、ベトナム、そしてミャンマーのメコン経済圏諸国の主要都市を歩いて強く感じたのは、すでに現場レポートで述べたように「各国はそれぞれ課題山積だが、間違いなく経済に活気がある」という点だ。とくに経済成長に伴って、都市化が急速に進み新たなライフスタイルへの願望が急速に強まれば、それが起爆剤になってさまざまな消費需要が起こり、経済に弾みがついている点が重要ポイントだ。
成熟国家日本は、数多くの先進モデル事例や「強み」を持っている。このASEANの成長ニーズに積極対応する絶好のチャンスだ、と言える。今回は、閉そく状況に陥る日本農業がアジアでリカバリーショットを打てるぞ、という話をレポートしてみよう。

1970年大阪万博時と同じ、
中間所得層のライフスタイル願望が新消費を誘発
 まず申し上げたいのは、このアジアの光景が、1970年の大阪万博の時によく似ていると思ったことだ。当時、日本では東京オリンピックの高揚感がそのまま大阪万博につながり、中間所得層を中心に、多くの人たちがテレビ、冷蔵庫、洗濯機の「3種の神器」と言われた家電製品を買い求め、新しいライフスタイルへの夢を膨らませた。そして高度成長期に突入した。メコン経済圏諸国では、まだ、その入り口の所という感じだが、新ライフスタイルへの願望の光景が随所にある。その1つが豊かな食生活への動きだ。
一例を挙げよう。ベトナムのホーチーミン市で、日本食がちょっとしたブーム、と聞いたので、日本食レストランがずらりと軒を連ねている地元で有名な地区に行った。いや、驚いた。「寿司」「日本ラーメン」「焼き鳥」などの専門店が多く、どの店もベトナム人の若い男女が数多く入って談笑しながら日本食を味わっている。客単価、つまりメニューにある値段を見てもお客が支払う食事の料金は決して安くないのに、客の入りは悪くない。ベトナム人従業員が日本語で「いらっしゃいませ」と元気のいい声を響かせて日本流おもてなしサービスに徹していたのが印象的だ。

ベトナムホーチーミン市では日本食ブーム、
味や品質のよさ、安全・安心などに人気
 その地区でもっと驚いたのは、日本人の益子陽介さんが経営の「ピザフォーピース」(Pizza 4P’s)というピザ料理店だ。メインストリートから入った裏通りの奥まった場所にある店なのに、予約制で、ほぼ満員だった。こぎれいで、見るからに雰囲気がよく、中間所得層と思えるベトナム人らがかなりいた。運悪く益子さんには会えなかったが、評判を聞いたら「ナポリピザがベースだが、オーナーがベトナム人の好む味を徹底研究する現地化で独自のピザをつくった。味がいいので、口コミで人気が広がっている」という。
この日本食人気はホーチーミン市だけの現象ではない。私が歩いたタイのバンコク、カンボジアのプノンペンなどでも同じだった。日本食レストランに携わる外食関係者の話を総合すると、日本食文化への評価が背景にある。とくに日本食の味のよさ、使う野菜や畜産物、水産物の食材の品質のよさ、安全・安心であること、それにおもてなしサービスのよさが評価を受けていて、それらが総合的な付加価値となって、ブームの域を越えて、今や生活者の間に必須のものという形で定着しつつある、という。間違いなく経済成長に伴う都市化で新ライフスタイル願望が強まり、食生活面でも日本食のよさが、高品質ニーズの高まりと合致した、と言っていい。

ASEAN経済統合で巨大経済圏誕生すれば
食に高度化ニーズ、問題は供給力確保
 そこで本題だ。ASEAN10か国が来年2015年12月に地域経済統合に踏み出すが、関税率の撤廃など「経済国境」のカベを取り外せば6億人の人口をベースにする巨大な経済圏が出来上がる。その際、メコン経済圏諸国の都市部で今、進みつつある都市化が経済圏全体で波及し、たとえば食生活の高度化ニーズに弾みがついたら、農畜産物や水産物、さらには加工した食品へのニーズが一気に高まる。問題は、果たして今のASEANでそれらに対応する供給力が伴うのか、とりわけ味がよくて、低農薬、場合によっては有機の高品質の食材が確保できるか、という問題に直面する。
私が今回歩いたメコン経済圏諸国のうち、タイからカンボジア、そしてベトナムに至る国際道路、南部経済回廊の陸路を車で走った際のことを申し上げよう。いずれも農業国なので、見渡す限りの農地だったが、率直に言って、耕作地のほ場整理、つまり土地の区画整理、かんがい排水などの整備がいきわたっているといった状況ではなかった。どちらかと言えば自然環境にまかせたままという農地が多かった。日本で、ほ場整理がしっかりと出来た農地を見続けている私からすれば、がっかりだが、当然のことながら、農業生産性が低く、増産余力も乏しいのだろうな、という印象だった。

日本農業は優れた生産技術、流通システム持っており
ASEANで活用チャンス多い
 南部経済回廊では牛が荷車を引っ張って農産物を運んだり、中古車のトラックがスピードを落としてゆっくりと農産物や肥料を運んで走る状況だ。物流のシステムが体系化されているとは言い難い状況だ。そればかりでない。都市部に持ち込まれた農産物は、ホーチーミン市やプノンペンでは市内のいくつかのマーケットで売買されていたが、卸売市場というよりも消費者への直売所といった感じだった。今後、想定される都市化に伴う大量の農産物、加工食品ニーズなどに対応した農産物流通システムはなかなか期待しがたい。
そこで、私は申し上げたい。今は、日本の外食企業が、メコン経済圏を含めたASANに進出し、ベトナムのホーチーミン市でのケースのように日本食レストラン街という形で先行して進出しているが、次は、日本の農業そのものが進出する番だ。
成熟市場の日本で培った日本の農業生産技術は、いま申し上げたメコン経済圏諸国での農業環境ではいくらでもニーズがあるように思う。活用も十分に可能だ。とくにIT(情報技術)化した生産技術は、日本と対照的な広大な農地でいくらでも活かせるはずだ。

リスク背負い込むのを嫌がる農業者の背中押すのは
ASEANに意欲的な日本企業?
 また日本では当たり前で、高品質農産物の代名詞の安全・安心の農産物づくりに関しても、今後はASEANでビジネスチャンスとなる。またおいしさをベースにした「売れる農産物づくり」のためのマーケットリサーチ、さらにはマーケッティングの展開も可能だ。さらに、第1次産業の農業者が主導して生産から加工、販売まで主導する6次案業化システムも、ASEANの農業現場に定着させ、事業化を図ることは十分にできる。
問題は、日本の農業者には保守的な人たちが多いため、わざわざ大きなリスクを背負いこんでまでASANには行きたくない、という人たちの背中をどう押すかだ。私は、その役割を日本企業、とくにASEANでの農業のプロジェクト展開に意欲を示す企業に期待したい。いま、日本国内では農業への企業参入や企業の農地保有の動きに対して、農協など既存の農業組織が岩盤のように抵抗しているが、そのカベの打破につなげる1つの手立てとして、ビジネスチャンスにチャレンジする日本企業に期待したい。
具体的には、日本国内で事業欲の旺盛な農業者を探し出して連携し、まずはASANの農業現場でチャレンジ、そしてその成功体験をベースに日本国内で農協などの岩盤にチャレンジする、というやり方だ。

中国の山東省で農業生産にチャレンジした
朝日緑源農業公司は先進モデル事例
 私は以前、中国の山東省で農業生産プロジェクトを展開するアサヒビール傘下の中国現地法人、朝日緑源農業公司の現場を見た際、いいチャレンジだと思ったが、こうした中国での先進モデル事例を参考に、何が成功部分で、課題があるとすれば何かを探って、新たにASEANにあてはめればいいのだ。
この朝日緑源農業公司は、当時のアサヒビールの瀬戸雄三相談役が山東省のトップと話し合って、日本が先端農業技術を駆使して高品質かつ安全性の高い農産物をつくって安全志向が強まっていた中国の消費者ニーズに対応すると同時に、技術移転も図って中国の農業生産の向上につなげる、という目的のためにつくられた。日本側から住友化学などが共同出資したが、アサヒビールには農業生産技術が十分に備わっていなかったため、いろいろな関係者の協力を仰いだ、と当時聞いた。私自身、残念ながら、その後のフォローアップが出来ていないが、安全志向の強い中国にとって先進モデル事例となったはずだ。

ラオスで野菜生産、ベトナムで
日本品種の水稲の試験栽培を始めた日本企業も
 興味深い動きがASEANでも起きてきた。つい最近出会った和歌山県の株式会社河鶴という漬物会社の河島伸浩社長が、新たに長野県など国内で農業生産を手掛けると同時に、ラオスにLAO KAWATURUという現地法人をつくり、20ヘクタールほどの農地に生鮮野菜の試験生産を始めた、という。河島社長によると、市場規模が小さいラオス国内よりもタイやベトナムなどを含めたメコン経済圏市場をターゲットに生産、加工、販売のプロジェクトが展開できるようにチャレンジしてみたい、という。
同じく最近、テレビで取り上げているのを見て、思わず会ってみたいと思った人がいる。岩手県北上市の農業生産法人、西部開発農産の照井耕一会長がベトナムのハノイ市近郊の農業者に依頼して日本の短粒種の水稲の試験栽培を行った、という話だ。ベトナムは日本と違って1年に3回も植え付け、収穫が可能な米作環境のため、味のよさ、収穫量の多さで競争力のある日本のコメがどこまで生産可能かを試してみたい、同時にベトナム人に日本の生産性がある水稲の作付け技術も伝授していき、可能ならばベトナムで現地生産したコメを日本やアジアで販売したい、という。

ASEAN地域共同体化でビジネスチャンス膨らむ、
地域横断的な農産物流通も
 私の友人の新潟のコメ生産農業法人で株式会社化した新潟玉木農園の玉木修社長はすでに台湾で新潟コシヒカリをベースにした品種をもとに現地生産し、台湾市場向けに販売をめざしている。
ASEANが地域共同体化すれば、経済国境が外れてヒト、モノ、カネの往来が自由になると同時に、冒頭から申し上げるように地域横断的に農産物流通などが進んでいく。とくに高品質の農畜産物、水産物、さらには加工食品などへのニーズが高まれば、着実に、先進モデル事例を持つ日本農業にとってはビジネスチャンスが膨らむ。

渡辺JBIC総裁「農業はアジアで成長産業、
農産物は高品質を背景に高価格に」
 日本プレスセンターで最近、メディアとの昼食講演会でゲストスピーカーとして登場した渡辺博史国際協力銀行(JBIC)総裁が興味深い問題提起をした。渡辺総裁が質疑応答の中で、アジアの成長産業は今後、どんなものが考えられるか、という質問に答えたものだが、今回のコラムのテーマにからむ話をしているので、ご紹介しよう。
要は、「これまでアジアでは農産物が生産性の低さと合わせて低価格というイメージが定着していたが、今後は都市化に対応して、中間所得層が着実に増え、その人たちの食へのニーズに沿って高品質イコール高価格の農産物が求められる。当然、農業はやりようによっては成長産業になっていく」というものだ。大いに参考になる考えだ。

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