今こそ高齢社会の新プラットフォームを 時代先取りのイデアクエスト社が面白い


株式会社イデアエクスト

時代刺激人 Vol. 268

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本の人口の高齢社会化スピードは世界各国に比べても早く、高齢化の「化」がとれて、文字どおり高齢社会に突入するのは、あっという間だろう。

日本の人口の高齢社会化スピードは世界各国に比べても早く、高齢化の「化」がとれて、文字どおり高齢社会に突入するのは、あっという間だろう。とくに、巨大な人口の塊である「団塊の世代」が75歳以上になるのは、2025年からだと言われている。わずか10年で、日本はこれまでとまったく違った重いテーマを抱えた高齢社会国家になるが、果たして、その準備や布石が出来ているのだろうか。問題は、その一点だ。
若者たち現役世代にとっては、老人があふれる社会が現実化すれば、さまざまな負担を強いられるばかりか、将来の自分たちの年金財源を先食いされるなど「負の財産」を背負うだけだと、ネガティブな受け止め方が出るのは間違いない。その問題対応は、政治や行政が「解」を出して行く問題だ。
だが、それとは別に、そんな新時代を見据えて、今こそ旧態依然とした制度や仕組みをいち早く見直して、高齢社会に対応する新たなプラットフォームづくりに取り組む時代先取りの行動が必要でないのか、と思う。

中島代表が慶応大教授時代の教え子研究者らと
立ち上げたハイテクベンチャー

そんなことを考えていたら、最近、新プラットフォームづくりに積極チャレンジする、という工学博士の学位をずらり持つ人たちによる大学発ハイテクベンチャー企業、イデアクエスト(本社東京)の存在を知った。その代表で研究開発リーダーの中島真人さんが、慶応大学教授時代の教え子でさまざまな企業の現場で働く研究者に声掛けして再結集を図り、高レベルの技術で高齢社会に欠くことが出来ない数々の機器を造り出した、という点が興味深かったので、さっそく現場取材してみた。ジャーナリスト目線で見ても、なかなかすごいチャレンジなので、今回は、このベンチャービジネスをぜひ取り上げてみたい。

何がすごいのか。結論から先に申し上げれば、中島さんが自身で長年培った半導体レーザービームを使って3次元の映像をつくる技術をもとに、今後の高齢社会の時代ニーズをしっかり見極め、医療や介護の現場で今後必要視されると思われるさまざまな機器の開発を大学教授時代の教え子の研究者と一緒に取り組み、実用化にこぎつけたことだ。

赤外線レーザービームや人工知能を活用して
認知症患者の異常を見守りチェック

具体的には、中島さんらは、認知症患者がベッドから突然、落ちて転んだりとか、異常行動に出たりといった事態が人手の足りない現場で起きた場合に備えて、2000本の赤外線半導体レーザービームで患者に照射して動きをチェックすると同時に、人工知能(ニューラルネットワーク)を活用して異常が見つかった場合、複数の患者の対応について管理センターにいる担当者のタブレットに「安全」「要確認」「危険」などのサインを出して、現場チェックを求める、という機器を独自開発したのだ。

イデアクエストは、この認知症患者用ベッド見守り装置以外に取り組んでいるものがいくつかある。具体的には高齢者や乳幼児のベッド見守り装置、トイレや浴室での高齢者らの見守り装置などだ。
これらは、認知症患者用ベッド見守り装置の仕組みと同じ仕組みだ。赤外線半導体レーザービームやファイバーグレーティング素子のセンサーを使って、ベッドにいる患者や高齢者、乳幼児が動く姿勢を見て3次元的に映像化して身体の動きを見る姿勢情報、加えて呼吸が不規則であるとか、一時的に無呼吸になっているかどうかの呼吸情報を集める。すごいのは備え付けの人工知能に5000パターンの情報をインプットし、集めた情報をもとに人工知能の判断機能で即座に「安全」「要確認」「危険」の判断を下し、管理センターにいる担当者のタブレットに情報を出すやり方だ。

国が「ロボット介護機器」として補助事業対象に、
一転ニーズ増え今秋から本格生産

イデアクエストが病院や介護現場でのニーズを調査した結果、これら見守りチェック機器に対する需要が極めて高いことがわかり、中島さんを中心に3年前から開発に踏み切った。ビジネスチャンスになると実感したのは、経済産業省が2年前に「ロボット介護機器開発・導入促進事業」という形で政策的に補助金制度の枠組みづくりに踏み出したことだ。介護現場は補助金制度を活用すれば大きな費用負担なしに入手可能となるため、引き合いも増えた。そこで、イデアクエストは今年秋に商業生産に入る決断をした、という。

日本の高齢社会に向けた新たなプラットフォームづくりは今後、さまざまなことが考えられるが、今回の中島さんらの大学発ベンチャーのチャレンジもまさにその1つだ。高齢社会への移行に伴う介護や看護の社会的なさまざまな負担を軽減するシステムを開発した、という点は素晴らしい。いずれ日本の後を追って、高齢社会化が進むアジアの中国、韓国、タイのみならず、欧米諸国にとって、このイデアクエストのシステムは、先進モデル事例になることは間違いない。中島さんはすでに慶応大教授時代から数多くの技術の特許化を進めているが、大学発ベンチャーがメガベンチャーに大化けするチャンスは皆無でない。

厚生労働省も高齢社会対策で新プラットフォーム
「地域包括ケアシステム」を具体化

厚生労働省は、冒頭に申し上げた「団塊の世代」が75歳以上になる2025年の高齢社会対策として、最近、「地域包括ケアシステム」の制度化を打ち出した。高齢者が重度の要介護状態に陥った時に、自宅、病院やクリニックなどの医療施設、介護サービス施設、ケアマネジャーなどをリンクさせて、それぞれの地域内で30分以内に必要なサービスを一体的に受けることが出来るようなシステムにしようというものだ。

厚生労働省や財務省、経済産業省の行政機関は、それぞれの行政の立ち位置の違いによって、政策意図もまちまちだが、共通しているのは今後、膨大な医療費支出が財政を圧迫するのが目に見えており、病気を未然に防止して医療費が跳ね上がらないようにすると同時に、高齢社会の地域全体でのケアシステム、それを支える企業の体制など、新たなプラットフォームづくりを進めようということだろう。

イデアクエストは福祉機器だけでなく
医療機器にもチャレンジ、医療現場にはプラス

イデアクエストは現在、介護などの現場で赤外線レーザービームなどを使って患者や高齢者のプライバシーを損なわずに異常をチェックする見守り装置の開発、生産化に特化しているが、代表の中島さんによると、これらはいずれも介護や看護の現場担当者の補助役的な機能を果たす福祉機器で、今は並行して、同じ赤外線レーザービームや人工知能の技術を使った本格的な医療機器の開発にも取り組んでいる、という。

その1つが、摂食嚥下(えんげ)機能評価装置という機器だ。食べた食物がうまく飲み込めず窒息したり、肺に菌とともに入り込み肺の中で炎症を起こす肺炎症状によって死亡に至るケースが意外に多いため、それらを未然防止するのが開発のポイントだ。現場見学した際、担当者の飲んだ水が、半導体レーザーとホログラム回析格子の2つを使って喉の表面を投影し光の部分の輝点の動きを解析することで、嚥下機能が落ちているか、肺に入り込んだかなどが瞬時にチェックできることがわかった。
このほか成人用高精度呼吸監視装置、新生児用呼吸機能診断装置なども見せてもらったが、これらの装置はいずれも医療機器で、臨床試験や治験を経て薬事法の許可を得る必要がある。認知症患者用ベッド見守り装置などの福祉機器と違って、これらの医療機器や装置を活用すれば、高齢者の危険を未然にチェックでき、医療現場にとっては大きなプラスだ。その点でもハイテクベンチャーのイデアクエストの社会貢献度は高い、と言える。

中島さんは慶応大理工学部教官時代から
起業意識強く、産学連携に強い関心

さて、ここまで申し上げるとリーダーの中島さんというのは、どんな人物なのだろうか、という興味が湧いてくるだろう。インタビュー取材してみたら、実に興味深く、人間的にも魅力のある人だった。慶応大学理工学部(旧工学部)に入学し学生時代からそのまま助手、専門講師、助教授、教授と進み、6年前の2009年に定年退職となっているが、この間、光を使って物体の3次元像をつくりだすホログラフィ、光情報処理の技術、医用超音波映像技術、センサーで人物をセンシングする技術などを専門研究されていた。

ところが普通の大学教員と大きく異なるのは、早い時期から、中島さん自身が研究開発した技術を世の中に問うて、社会に役立てたい、と起業意識が極めて強かったことだ。専任講師時代の1970年代末にホロメディア株式会社を立ち上げ自身で社長として経営にかかわったのを最初に、以後、光技研、理想科学研究所などを立ち上げ、その極めつけが定年後の2012年に設立した株式会社イデアクエストだ。

「ベンチャーで金儲けする考えはなく、
技術を実用化して社会貢献が狙い」と中島さん

中島さんは「技術などで金儲けしようという考えは、いつもなかった。むしろ技術を生かして社会貢献したい、という1点だった」という。今回のイデアクエストは、高齢社会を見据えて、時代のニーズに合うような技術開発、製品化を狙ったもので、現在39人いる社員のうち21人が工学博士号などを持つ技術系の実用研究をめざす人たちだ。いずれも恩師の中島さんの考えに共鳴して参加した、というから面白い。

イデアクエストのネーミングにも興味がわくが、中島さんによると、ギリシャ語のイデア(超越的原理)と英語の「探究」などの意味があるクエストをつなげた造語だ、という。日本も未踏の高齢社会のシステムなどを探求するという意味合いがあったのかもしれない
また、イデアクエストの事務所は、東京の羽田空港の一角にある。日本航空が経営危機時に、大容量のジャンボジェット機運航ビジネスから路線転換し、そのジャンボジェット機の格納庫を処分売りした際、イデアクエストの経営に参加していた人の判断で格納庫ビルの一部を借り受ける形で現在に至っている。

共同代表の坂本さん「海外での技術評価が高く
フランスに現地法人を立ち上げた」

経営面でバックアップするのが、共同代表の坂本光広社長だ。坂本さんはもともと旧三菱銀行にいた銀行マンだが、融資業務などを通じて培ったプロジェクトなどの事業価値、技術評価を加える眼力に加えて、資金を集めるファンディングの技術に関してもなかなかの優れ者で、中島さんとの接点に関しては「以前、慶応大学理工学部に次代を担う3人の研究者がいると見ていて、そのうちの1人が中島さんだった。イデアクエストが持つ人工知能による画像監視技術は間違いなく今後の高齢社会ニーズを先取りできるものだと思っている、と自負している」と坂本さんは語っている。

坂本さんによると、イデアクエストの認知症患者用の見守り装置に対する技術評価はむしろフランスなど海外で高く、引き合いもあって関心が強いので、フランスにイデアクエストの現地法人を立ち上げ、むしろ、海外での評価を武器に日本の国内市場でのビジネス展開につなげたいという。
いずれにしても、日本の高齢社会は冒頭に申し上げたとおり、あと10年で本格化する。その時に備えて、プラットフォームづくりを進めておくことは間違いなく重要だ。大学発のハイテクベンチャーの志(こころざし)に期待したい。

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