日本は時代先取りで地球環境にやさしい電気自動車にチャレンジを オバマ米新政権もグリーンエネルギー・環境政策打ち出し、本気度高い


時代刺激人 Vol. 19

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 最近、ガソリン車に代わる次世代の車、電気自動車の開発に取り組む慶応大学の清水浩教授に開発の現状や抱える課題をお聞きするチャンスがあった。そして百聞は一見に如かずのたとえでないが、まずは試乗を、とワクワクして乗ってみた。
結論から言えば加速性、乗り心地は素晴らしい。製品化、産業化にさまざまな課題を残しているが、この際、地球環境にやさしい車として、日本が率先垂範して技術革新力を背景にいち早く時代を先取りする形で導入、課題の克服に努めることが必要だと感じた。
とくに、米国発の金融危機が実体経済の悪化に及び、日本を含めてグローバルなレベルで100年に1度の危機的な経済状況のもとで、日本が今、経済社会に活力を与えるものに取り組む、という意味では、この電気自動車はチャレンジ課題の1つだ。
 なぜ、そう言うかといえば、米国のオバマ新政権はブッシュ政権とは違って、既存の枠組みにとらわれずチャレンジし、米国を積極的に変えようとしている。オバマ新大統領は米国民の支持率80%という驚異的な期待のもとに、新しい米国づくりをめざし、グリーンエネルギー・環境政策、端的には石油などの化石燃料に頼らず地球環境にやさしいエネルギーの開発に取り組もうとしている。日本もうかうかしてはおれないのだ。

清水慶大教授開発の「エリーカ」は最速370キロ、1回充電後走行300キロ可能
 そこで、まずは、試乗した電気自動車のことを少しお話しておこう。清水教授が開発段階から試行錯誤を繰り返しながら、やっと完成領域に入ってきた車のようで、高加速、高性能を実現した4人乗りのセダンタイプだ。愛称は女性的な名前の「エリーカ」。
全長5.1メートル、幅1.9メートル、高さ1.3メートル。モーター出力が640キロワット。最大の関心事である性能に関しては、最高速度が時速370キロ。最大加速度が0.68G。1回に充電してからの走行距離が300キロ。充電時間が30%。
「エリーカ」のエネルギー源はリチウムイオン電池で、車体の下の部分に内蔵している。100馬力のモーターを8個、車輪に搭載しており、このため普通の車のような4輪車ではなく8輪車であることが特徴。
しかも、電気自動車の欠点とも言われていた1回に充電してからの走行距離に関しては、300キロというから、かなりの航続距離だ。これまでの開発車は100キロ未満で、ガソリンスタンドのような充電するスタンド施設がない場合には、それがネックになると言われていただけに、「エリーカ」は課題を克服しつつある、と言える。

「ル・マンなどの世界自動車レースで優勝すれば優位性、存在感示せる」
 試乗した日は少し小雨の降る日だったが、この8輪のおかげでスリップすることなく、カーブの曲がりもほとんど問題なし。それよりも「すごい」と感じたのは、わずか2秒で一気に加速し、あっという間に170キロぐらいが出た。遊園地のジェットコースターは上り詰めた所から下る際に急にスピードが出るが、「エリーカ」の場合、スピードの出方は同じながら平坦な道で一気に加速する。さすがに電気自動車だと感じた。 清水教授によると、ガソリン車では世界最速を出せるという「ポルシェ911ターボ」と「エリーカ」とで加速性能試験をしてみたところ、スタートから2秒までは「ポルシェ911ターボ」が速かったが、2秒からあとは「エリーカ」が追いつき、その2秒後に加速がついて一気に引き離すパワフルな走り方で、優位性が証明されている、という。
試乗した友人の1人が、その話を聞いて「ル・マン、インディカーのレースに、この電気自動車を出走させたら、時速300キロを出せるかどうかが勝負どころだろうから、スピードの点で優勝間違いなしだ。電気自動車の優位性、そして存在感をアピールできるのでないか」と語っていた。確かに、アピールするにはそれがベストチャンスかもしれない。

CO2出さず地球温暖化防止に最適だが、コスト面で「総論賛成、各論反対」
 しかし、コトはそれほど簡単でない。清水教授は「電気自動車のエネルギー効率はガソリン車に比べて4倍高く、CO2(二酸化炭素)を出さない。CO2削減が地球規模での環境政策課題になっているときに、この電気自動車を積極活用すればいいのだ。地球温暖化に対し、日本がいち早く電気自動車に切り替え課題克服に取り組んでいる、と言われるはず。ところが、現実は『総論賛成、各論反対』の議論が横行している」という。
要は、誰もが試乗すると「素晴らしい」と言いながら、いざ、開発投資していただけるかと聞けば、大半の人が尻ごみしてしまう、というのだ。
清水教授によると、「エリーカ」の開発費は約5億円で、ガソリン車であればその10倍はかかっている。ところが商業ベースに乗せる製品化の段階になると、「エリーカ」の場合、量産できるような体制にないため、現時点で1台8800万円する。この数字を聞いて大半の人が尻ごみするのだ、という。

「塵の川」から「デスバレー」にさしかかったばかり、早く「ダーウィンの海」を
 清水教授は発明発見から産業化までの道のりを研究者らしく面白いたとえで表現する。つまり、発明発見からアイディアを形にする難しさを「魔の川」、試作品を商品にする難しさを「デスバレー(死の谷)」、そして製品化したあと産業化する商品の大量普及の難しさを「ダーウインの海」としたうえで、清水教授は「いまは魔の川を越えてデスバレーにさしかかったところだ。まだダーウインの海を渡り切るには克服すべき課題が多いが、あとは政治や行政、企業、さらには投資家、そして消費者の決断次第だ」と語る。
 電気自動車そのものは、かなり古い歴史を持つ。1900年代はじめガソリンエンジン、蒸気エンジンと並んで電気エンジンがあったが、米国でガソリンエンジンの技術開発が進み、それに石油産出量の多いさのバックアップもあり、電気自動車は後ろに追いやられた。
再登場したのは90年後だ。カリフォルニア州で大気汚染が深刻な社会問題となり州政府が1990年に州内で販売する自動車メーカーに対して2003年までに年間販売台数の10%を排ガス・ゼロにする無公害車を義務付ける州法を制定した。これを受けて米ビッグスリーの1つ、ゼネラルモーターズ(GM)が「EV1」という電気自動車を開発しリース契約制で販売した。

映画にもなった「誰が電気自動車を殺したか」、あとは政府や企業の決断?
 一時は爆発的な人気を呼んだが、なぜか、数年後に姿を消してしまう。その状況をドキュメンタリー映画「誰が電気自動車を殺したか」で描かれ、最近、日本でDVDになって発売されている。関心ある方はぜひ、ご覧になればいい。
ポイントは、電気自動車のライバルともいえる米国の石油業界が「電気を生み出す石炭火力発電は大気汚染の原因でないか」と反対キャンペーンを展開、これが意外にカリフォルニア州内に影響を及ぼし電気自動車人気が下火になっていく。しかもGM自身が自主規制するかのようにリース車の回収をしたため、あっという間に姿を消す。
 ただ、当時のブッシュ政権が自らの支持基盤がテキサスのオイルメジャーであることなどもあって、政府自体も環境課題にチャレンジした電気自動車に冷たかったことも影響している、という。
いま、電気自動車に待ったをかけるのは屋台骨を揺さぶられる石油メーカー、それにガソリン車主体の生産体制を抜本的に変えざるを得ない自動車メーカーなどがあるのは間違いない。しかし時代のキーワードは地球にやさしいエネルギー開発であり環境への取り組みだ。その意味で、この閉そく状況のもとで、政府、企業、政治、そして消費者が、時代を先取りして、次世代の車にチャレンジしていくのも1つの選択肢だと思う。いかがだろうか。

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