無視できない中国版マーシャルプラン 大国意識など思惑先行だが、課題山積


時代刺激人 Vol. 265

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

最近の中国の動きを見ていると、対外経済戦略とも思える中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)プロジェクト、それに「一帯一路」という、中央アジアからユーラシアに至る陸上のシルクロード経済ベルトの「帯」、インド洋からアフリカ沿岸、中東に至る海上シルクロードの「路」の2つのシルクロードを軸にして巨大な経済圏を建設するというプロジェクトなどは「中国版マーシャルプラン」という括りで見てみると、形が見えてくる感じがする。

最近の中国の動きを見ていると、対外経済戦略とも思える中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)プロジェクト、それに「一帯一路」という、中央アジアからユーラシアに至る陸上のシルクロード経済ベルトの「帯」、インド洋からアフリカ沿岸、中東に至る海上シルクロードの「路」の2つのシルクロードを軸にして巨大な経済圏を建設するというプロジェクトなどは「中国版マーシャルプラン」という括りで見てみると、形が見えてくる感じがする。
いずれもスケールの大きい中国の対外経済戦略だが、日本にとって無視できない問題なので、今回はこの「中国版マーシャルプラン」の背景や問題点を探ると同時に、本来のマーシャルプランと重ね合わせて、米国や中国の姿を浮き彫りにしてみたい。

米国は第2次大戦後の欧州復興計画マーシャルプランで
戦後リーダーの地位確立

マーシャルプランは、ご存じの方が多いと思うが、第2次世界大戦の激しい戦火の舞台となって荒廃した欧州各国・地域の復興のために、米国が戦勝国の立場、そして経済余力を誇示して、積極的に主導した欧州復興援助計画のことだ。計画を提唱した当時の米国務長官、ジョージ・マーシャルの名前をとっている。

当時、米国は100億ドルにのぼる無償贈与を軸に、さまざまな経済技術協力を行い、戦後経済復興を主導した。欧州16か国の中にはドイツ、イタリアの戦時中の敵国も含まれていたが、各国にとっては干天の慈雨で、復興4か年計画をもとに、次第に復興に弾みがつき、米国は自由世界の新たなリーダーとしての存在感を高めた。同時に、ユーロダラーといった言葉が定着したのをはじめ、米国企業が欧州での復興プロジェクトにかかわり戦後の米国多国籍企業化への道筋もつけるなど、米国企業の影響力が際立った。

2つのマーシャルプラン重ね合わせたら中国の
「米中2大覇権大国」狙いが見える?

今回、中国の最近のいくつかの対外経済戦略と位置付けていいプロジェクトを「中国版マーシャルプラン」という形で、戦後の欧州での米国主導のマーシャルプランと重ね合わせたのは、多分、おわかりいただけよう。
米国が当時、無償援助などをもとに経済のみならず政治、軍事、外交などの面で戦後世界に影響力を行使したのと、中国が今、巨額の外貨準備をベースにした資金力を背景に、アジアのインフラ需要に応えるAIIBのみならず、「一帯一路」の陸と海の現代版シルクロードをもとに巨大経済圏づくりに踏み出したこととは、プロジェクトレベルも異なるし、同一次元ではとらえにくい。
とくに中国の今後のプロジェクト展開は、不透明部分が多いので、即断は禁物だが、中国がこれらの対外経済戦略をもとに影響力を行使するようになれば、中国が秘かに狙う「世界の米中2大覇権大国」ということが、ひょっとしたら現実のものになるかもしれない。その意味で、「中国版マーシャルプラン」は無視できない。どこまで実効力のあるものなのか、あるいは単なる張り子のトラなのか、見極めが必要だ。

王北京大教授が3年前に「西進――
中国地政戦略」打ち出し、その布石を打つ

友人のある中国ウオッチャーの話を聞いていて、今回の「中国版マーシャルプラン」に関して、中国は戦略展開の面でかなり以前から布石を打っていたなと思ったことがある。

その中国ウオッチャーによると、北京大学教授で、大学国際関係学院の王絹思院長が2012年10月に提唱した「西進―中国地政戦略のリバランス」戦略とからむ。王院長は当時、米国のアジア回帰に連動する形でロシアが極東アジアに、またEU(欧州連合)が中国などの北東アジアのみならず東南アジアに強い関心を示しているのに対し、中国は西部大開発という国家発展プロジェクトで内陸部、とくに西部地域を活性化すると同時にその延長線上の中央アジアを抜けて中東、欧州に西進し、ユーラシア大陸に新たな戦略支柱の「中央国家」をつくることで東の地域大国からグローバルプレーヤーになる必要がある、それ自体が、MIDDLE STATEという中心、中核の国としての「中国」にもつながる、という問題提起だ。

中国人エコノミストは、中国東側での領有権や
海洋権益めぐるこう着対策も指摘

日本のシンクタンクに勤める中国人エコノミストも興味深い指摘を行った。先日、この「中国版マーシャルプラン」に関連して、中国は、「西進」戦略とは違った背景もある、というのだ。それは、オバマ米国大統領ら率いる米国がアジア回帰を米国の新たな外交戦略にすると同時に、中国の尖閣諸島などの領有権主張をめぐって、日本と連携しての安全保障面での中国けん制に踏み出していること、また南シナ海での領有権や海洋権益をめぐるフィリピン、ベトナムを中心にしたASEAN(東南アジア諸国連合)との対立など、中国の東側、太平洋岸地域ではこう着状態に陥っている問題が中国の東側、東方には多い。

そこで、中国は事態打開策として「一帯一路」戦略によって「西進」に切り替えると同時に、AIIBを通じて欧米がバックにある世銀、国際通貨基金(IMF)などの欧米金融システムと一線画す形でアジアなど新興地域のインフラプロジェクトでリーダーシップをとろうとした、という。王北京大教授の「西進」戦略とは別に、中国の東方がこう着状態に陥っており、局面打開策として「西進」に切り替える戦略をとったというわけだ。

習近平政権はスタート後から大国意識を
全面に押し出すが、国内には格差など不満

中国の対外経済戦略に関して、習近平政権になってからの中国は、習近平主席自身が最初に打ち出した「中国の夢」戦略をはじめ、一貫して大国・中国を全面に押し出した戦略を出してきているのが特徴だ。13億人の巨大人口を抱える中国経済に関して、中国共産党政権は、社会主義中国と市場経済化の資本主義経済の2つの相反する枠組みを使い分けながら、成長政策を取り続けて現在まで来たが、その反動で、現場では数えきれない矛盾が噴出してきた。
国内に社会格差、都市間格差、所得格差などさまざまな格差が広がると同時に、都市化に伴って重慶市など地方の巨大都市には農村部から出稼ぎ労働者の流入が活発化するのに、都市戸籍を持てないため、医療や教育など都市生活者のサービスを十分に行けられず差別が広がる現実、国有企業の工場での大気汚染、水質汚染公害など環境破壊に住民の不満が増幅する現実などだ。

経済ジャーナリスト目線で申し上げれば、これら社会不安や経済不安がいつ、政治不安に転じて共産党政治に対する反発に発展し、政権基盤を揺さぶられかねないため、中国共産党政権は成長政策を取り続け、所得引き上げによって生活不安への反発を回避させる政策を行う一方で、国民の不満の発露を外に向けさせるため、反日キャンペーンを行ったが、さらに大国中国の世界展開によって、あとしばらく我慢すれば、豊かな中国にたどりつける、という政策を展開せざるを得ないジレンマに追い込まれていたと考える。

「新常態」政策はGDP至上主義抑え、
改革強化の一方で環境保護などにも配慮

しかし、今年3月の全国人民代表大会(全人代)で、共産党政権は今後の経済運営に関して、「新常態(ニューノーマル)」という聞きなれないスローガンを打ち出した。
要は、中国経済がさまざまな課題を抱える中で、これまでのような高成長を見込める情勢でなくなったこと、財政資金をつぎ込んで成長政策をとり続けるよりも環境保護や貧困減少などに取り組まざるを得なくなったこと、その一方で、安定した成長経済を続けるためにイノベーションによって新たな中国現代化の推進が必要であること、とくにこれまでの国有企業改革の一方で、新創業や起業を促して経済自体に活力を生み出すことが必要といった状況となったため、大国意識の強い中国共産党政権としては、新しいキャッチフレーズやスローガンをつくる必要がある、と判断したようだ。

それにしても「新常態(ニューノーマル)」は、なかなかわかりにくい言葉だ。ただ、2015年の経済運営の目標設定を見ると、経済成長率を前年14年の7.4%から「7%前後」と6%台への落ち込みも容認したこと、都市部の新規雇用者数を前年の1322万人から「1000万人以上」と控えめにしたことなどを見る限り、右上がりの目標設定から軌道修正を図り、言ってみればGDP至上主義を改めて、環境保護や貧困削減などに手をつけざるを得なくなったことだな、と言えそうだ。

孟精華大教授「アジアのみならず
中国国内でも社会資本整備に積極化」と指摘

ところが、中国の精華大学の孟健軍教授が最近、日本の経済産業研究所で「新常態下の中国経済」と言うテーマで講演したのを聞きに行ったが、極めて興味深かった部分がいくつかある。その1つが、共産党政権は、社会資本のさらなる整備を行うため、AIIBを創設してアジアでインフラ整備に積極的に取り組むと同時に、中国国内でも積極的にインフラ整備に取り組んだ。1980年代には通水(水道を通す)、通電(電気を通す)、通路(道路を通す)の「3通」、90年代にそれに高速道路、携帯電話など通信の2つの「通」を含めた「5通」、2000年にはさらに天然ガス、高速鉄道を加えた「7通」のプロジェクト展開を行ったが、新たに社会資本整備はハードからソフトに切り替えて生活の便利さ、資金、サービスなどに取り組む方針を打ち出した、という。

さらに2015年から北京、天津、河北の3地区の行政を統合し1億1000万人の巨大な生活圏にする。200キロ圏内を1時間以内で移動できるように高速鉄道を運行させる、PM2.5の大気汚染物質除去にも努めるなど、新たな施策を打ち出しているという。

3月全人代時、CCTV元キャスター女性の
大気汚染告発ネットが突然禁止処分に

そんな中で、「新常態(ニューノーマル)」を象徴する、と言ってもいい事件が全人代開催前に起きた。中国CCTVという国営テレビの元ニュースキャスターだった柴静(チャイチン)さんが2月28日、現場取材して大気汚染の深刻さを浮き彫りにすると同時に、汚染源の国有エネルギー企業の問題を告発するという衝撃的な映像をネット公開したのだ。

「UNDER THE DOME」(ドームの下で)というもので、柴静さんの知名度、綿密な取材にもとづく調査報道で共産党当局者もインタビューに応じていたことなどもあり、一気に話題を呼び、3月1日時点で9939回というほぼ1億のアクセスがあったこと、また政府当局の環境保護部(日本でいう環境省)トップの陳吉寧部長も記者会見で称賛したことから翌日3月2日時点で2億回以上のアクセス数になった。ところが、3月6日になってネット配信禁止処分にしたのだ。「中国版マーシャルプラン」で対外的に亜ピルするが、まだまだ共産党政権は、あらゆる事態にオープンになれるほどの余裕がないのだ。

AIIBは中国企業のひも付き輸出や
雇用不安解消対策懸念もあり透明性が課題に

問題のAIIBも、中国が巨額の外貨準備をベースにした資金力を背景に、アジアのインフラ需要に応えるべきだと創設を打ち上げたが、厳密な融資プロジェクト審査を通じた不良債権化リスク回避などのガバナンスの面で大丈夫なのか、中国主導のインフラプロジェクトは中国企業がひも付きで参加、それに中国国内の雇用不安、過剰設備のはけ口解消に使うのでないかといった懸念もある。「中国版マーシャルプラン」が、かつて米国が欧州復興で見せたような大きな成果を生み、時代を変える方向付けが出来るのかどうか、まだまだウオッチが必要だ。

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