めざせ、外国人が思わず訪問したくなる日本 観光・社会探索地を掘り起し線や面でつなげ


時代刺激人 Vol. 262

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

最近、ベトナム、ミャンマーに仕事で1週間ほど、出かけるチャンスがあり、1年4か月前に私が訪問した陸のASEAN(東南アジア諸国連合)と言われるタイ、ベトナムなどメコン経済圏諸国の変貌ぶりを見てきた。

最近、ベトナム、ミャンマーに仕事で1週間ほど、出かけるチャンスがあり、1年4か月前に私が訪問した陸のASEAN(東南アジア諸国連合)と言われるタイ、ベトナムなどメコン経済圏諸国の変貌ぶりを見てきた。両国とも相変わらず課題が山積しているが、その一方で、新ライフスタイル願望への動きが一段と強まり、「きょうはダメでも、あしたはよくなる」という期待感がエネルギーになっていたのが、印象的だった。
その旅行のあおりで、コラムを書く時間がなくなり、先送りになってしまったことを、まずはおわびしなければならない。そこで、今回のコラムは、アジアの現場の最新の動きをレポートしたいところだが、その前に、取り上げたい問題がある。実は今回の旅行に際してたまたま成田空港で見かけた数多くの訪日外国人旅行客、ビジネス旅行客の動きを見ていて、「魅力ある日本」を強くアピールし日本ファンになってもらうにはどうすればいいか、と考えた。日ごろから取り上げてみたいと思っていたので、ぜひご覧いただきたい。

オンリーワンあればベスト、でも日本の強みに
磨きかけわくわくする魅力づくりで十分

結論から先に申し上げよう。日本政府がここ数年、経済成長戦略とからめて、観光立国日本を全面に押し出したが、それ自体、異存ない。ただでさえ、国際社会で存在感に欠ける日本なので、この機会に、観光だけでなくビジネスでも訪日客をどんどん増やす必要があり、日本を積極アピールするのは当然、必要だ。

問題は、そのアピールの仕方だ。そこで、観光にとどまらず訪日外国人を増やすための方策をいくつか提案してみたい。要は、外国人が思わず日本に行ってみたいという衝動に駆られる、言ってみれば、わくわくするような魅力をいかに作り出すかが最大ポイントだ。それがうまくワークすれば1回限りの日本への旅ではなく、リピーターとなって「ぜひまた日本に行って、新たな発見をしてみたい」といったファンが次第に増えていく。

その場合、日本にしかないというオンリーワンをアピールできればベストだが、グローバルの時代、スピードの時代に模倣によって、あっという間に一般化しオンリーワン誇示も限界がある。むしろ、私は日本の強みの部分に磨きをかけ、それを点から線に、線から面に広げて行き、広範なシステムにまで持っていけば、他の追随を許さない、と思う。

観光地を地域間連携でつなぎ合わせストーリー性を、
食文化や里山文化もリンク

わかりやすい例で言うと、水のプロジェクトが好例だ。日本は水のろ過膜などで突出した技術を持つほか、自治体ごとの水道管理で漏水率が低いばかりか料金徴収でも抜群の制度を確立している。ところが個別、単体ではすごいのに、それらをつなぎ合わせてトータルのシステムに持って行く力量に欠ける。今年12月から地域・市場統合に踏み出すASEANで地域横断的な水プロジェクトも始動するので、技術力に裏打ちされた日本のソフトパワーをもっとアピールすれば、圧倒的な世界シェアを持つフランスのスエズとヴイヴェンディの2大企業とは遜色ない競争を展開できると、私は思っている。

さて本題だ。日本に海外から観光客を呼び込む際、私が申し上げた点から線、線から面への発想が十分に活用できる。要は、日本が誇りにする観光地をいくつかつなぎ合わせて、自治体あるいは観光地が互いに地域連携しストーリー性のある観光物語のツアーにしていくこと、そればかりでない。現代日本の工芸づくり、食文化、里山文化などをからませていけばいいのだ。たとえば倉敷市の大原美術館とその周辺の古風な家屋敷の美しさも、点に終わっていて線や面への広がりがない。日本人のみならず外国人までが行列をつくるような魅力ある地域デザインが出来るはずだ。まさに地域経営資源の掘り起こしが必要だ。

メーカー系列店軸の「20世紀型」モデルが変容、
量販店などからの低価格攻勢

この点に特化した経営を行えば、低価格と品ぞろえの多さを武器に攻勢をかける家電量販店やネット販売網と競争しても生き残ることは十分に可能だ、という。確かに、戦略的な発想だ。

井坂社長の話によれば、これまでの「20世紀型」の町の電器屋さん経営では事態を乗り切れない現実が出てきた。パナソニック(旧松下電器)など数多くの大手家電メーカーがかつて需要旺盛な国内市場で元気よく競争していた時代には、町の電器屋さんも、どこかのメーカーの系列下に入って系列販売店、特約店を「売り」、つまりは「強み」にした。あとは町の電器屋さんが独自に持つアフターケアなどのサービス力、電器製品の取り付け工事、修理対応力の「強み」で地域セールスを展開し、存在感をアピールしてきた。

観光だけでなく現代日本の
先端技術探索プロジェクトをからませるのも一案

私は、点から線、線から面へのプロジェクトづくりに関して、いま申し上げたように食文化や里山文化などをからませて日本の文化をアピールすると同時に、そのプロジェクトに、現代日本の先端技術探索プロジェクトなどもからませるのも一案かと思っている。

たとえば日本のロボット技術は素晴らしく、今や工作ロボットよりも、今後の高齢化の「化」がとれた高齢社会のもとでの介護ロボットなどへのニーズの高まりを考えれば、日本を訪れる人たちが、日本で、それぞれの国の次の時代を考えるヒントを得るチャンスとなるかもしれない。単なる観光コースだけでなく、この先端ロボットの現場を見る現代社会探索コースというバリエーションをつくればいい。

そうすれば、すでに申し上げた地域経営資源を生かす地域デザインと同様、ある面で外国人にとって、自分たちの次の時代を予見もしくは想定するヒントとなる新たな国のデザインが日本にあると見てくれるかもしれない。彼ら外国人に、日本を「面白い成熟社会国家」、「高品質社会をめざす国家」、「新たな技術革新で社会の変革にチャレンジする面白い国家」として位置付けてもらえるようにすれば、彼らの日本を見る目も変わってきて、単なる観光だけでない捉え方をしてくれると、私は期待する。まさにチャレンジだ。

中国観光客の異常な買物はPM2.5や
食の安全不安が背景、日本アピールチャンス

ご記憶だろうか。今年の正月に東京池袋の西武百貨店で、観光に訪れた中国人女性が一度に福袋を30袋も買って大きな話題になった。その話には思わず笑ってしまったが、私自身が昨年12月に、東京銀座での友人との会合に早く着いたため、ドラッグストア、マツモトキヨシ銀座4丁目店をのぞいたら中国人観光客が買い物かごに薬や化粧品を大量に入れて免税カウンターにずらりと並んでいて、圧倒された。

中国国内での根強い反日の動きとは別に、中国人の買い物ツアーとしての日本旅行熱は高まるばかりだ。彼らは円安・人民元高の為替メリットのみならず、日本の高品質のモノを買い、サービスも享受したいという気持ちが強い。裏返せば、中国国内でのPM2.5などの環境汚染、さらに食べ物の農薬や異物混入など安全性に対する根強い不安があるからだ。
中国観光客の買い物を通じた消費が、消費増税の反動で低迷する日本の国内消費を押し上げる力になっているばかりか、中国国内での反日教育内容と違って、自身で見た日本はなかなかの素晴らしい国だ、という評価が中国に持ち込まれれば、冷却した日中関係の改善につながるメリットさえある。その意味で、中国を含めた外国からの訪日旅行客に現代日本の強み部分をアピールすることは、間違いなくプラスだ。

海外に向けての外国語での積極的な
情報発信も重要、SNSもどんどん活用を

ポイントはまだある。情報発信もその1つだ。観光スポットと言われる富士山など「定番」の場所、歴史の重みを感じさせる有名な名所、旧跡だけでなく、日本の生活文化を味わえる旅館や民宿、日本の強みである「おいしい」「安全・安心」「際立った品質管理」「おもてなしサービス」の日本食文化を満喫できるレストランや居酒屋などをラインアップし、それらを英語、中国語、韓国語など外国語でインターネットを通じて、積極的に情報発信することだ。とくにフェースブックなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用するのが重要だ。日本にこれまで決定的に欠けていたのがこの情報発信だ。

その点で興味深い事例がある。昨年2014年10月に、東京都が2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてのプロジェクトとして、海外から新聞、雑誌、テレビなどのメディアの記者6人を公募で招待し、彼らの目線で自由に東京を取材してもらい海外へ東京情報の発信する場をつくった。国際メディアをどう活用すればいいか熟知している舛添東京都知事らしい発想だが、これを参考に、日本政府も、同じように世界中のメディアの記者を1回と言わず、何度もさまざまな国から取材招待し「何でも見てみよう日本」といった形で、日本の面白スポットを東京発で海外に発信してもらうのも一案だ。

東京都招致の外国人記者
「英語など外国語、無線LANの普及が必要」と指摘

朝日新聞が、東京都招聘の記者の指摘した問題を1か月後の11月5日付の朝刊で、「外国人記者が見たTOKYO」という形で取り上げた。その中で、なるほどと思わせたのは、やはり英語会話がもっとオープンになること、街路表示などにも英語案内がほしいことだったが、外国人が道に迷ったり、次の移動場所へのアクセス情報を得るのに困ったりする際の方策として、インド人記者が公衆無線LANのWiFiをもっと自由に使える通信インフラ環境の充実を求め、米国人記者はスマートフォーン用の地図アプリが必要などの指摘を行っていた。いずれも参考になる。

外国人旅行客を意識して、最近、英語のほかに中国語、韓国語のアナウンスがJR東日本の東京駅で耳にするが、東京都内の主だった場所ではまだまだ。しかし農業の出張取材で地方に出かける私が、「おっ、少し外国人旅行客を意識して変わったな」と感じさせたのは広島空港からダウンタウンに向かう空港リムジンバス、さらに福岡市内の観光スポットを周遊する「シティループバス・ぐりーん」での音声案内だった。そんな話を友人としていたら、外国人が好きな飛騨高山でも同じく英語、中国語、韓国語の3か国語の道路表示などに行われている、という話を聞いて、うれしくなった。

スイス人編集の「ジャパンガイド」が好評、
別府市の山田別荘はネットで英語発信

外国人の目線で日本を正確に紹介してくれているのが、スイス出身のステファン・シャウエッカーさんだ。1996年に訪日してから日本に強い興味を持ち、国内1000カ所を歩き回って得たさまざまな情報をもとに、外国人向けの日本観光情報サイト「ジャパンガイド」(JAPAN-GUIDE.COM)を立ち上げている。シャウエッカーさん自身で編集した観光地、食文化、ショッピング、生活風土などの日本情報は、私が読んでもわかりやすく、とても参考になった。
興味深いのは、シャウエッカーさんがあるメディアインタビューに答えた日本に関する部分で「多くの外国人が感動するのは、日本の食べ物や料理は、目でも楽しめるというところだ。盛り付けはもちろん、食材の彩り、それに料理を盛るお皿の色やデザインまでが1つのつながりを持っているように見える。まさにアートと言っていい」と。こんなに日本好きの外国人に日本を紹介されるというのはうれしいことだ。

最後に、日本の観光現場が英語でも自前の情報発信を行い、成功している事例を聞いたのでチェックしてみたら、なかなか素晴らしい。ご紹介しよう。大分県別府市の山田別荘という、地元で名家の山田家が昭和初めに建てた別荘を今では宿として活用している。女将の才覚で、英語でインターネット上のホームページを使って宿のアピールをすると同時に、オンラインでの予約も受け付けている。外国人が好みそうな部屋のつくり、ゆとりを感じさせる庭園などが魅力だが、地元の工芸作家らが工芸品展示にも協力している、という。宿泊料金もリーズナブルで納得価格だ。私もチャンスをつくって泊まってみたいほどだが、外国人の口コミで人気スポット化している、というから素晴らしい。
行政など上からの発想ではなくて、地域が自然体で、外国人が気軽に歩き回れる安全な国づくりに積極的に取り組めば、日本も変わる。そうすれば、外国人からは「世界中で行ってみたい国NO1」となるかもしれない。早くそうなってほしい。

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