3.11から5年、教訓をどう生かすか 被災地は人口減少・高齢化で心のケアも


時代刺激人 Vol. 282

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本のみならず世界中を震撼させた3.11の東日本大震災、原発事故から5年がたった。5年は間違いなく、1つの節目だ。被災地の人たちにとっては、先が見通せないまま、厳しい試練の日はこれからもまだまだ続く。

岩手・山田町の佐藤町長
「がれき処理に2年間費やし復興取り組み遅れたのが反省」

そこで、今後の教訓になる問題を山田町の事例にあてはめて考えてみよう。山田町の行政庁舎がある中心部は、土地かさ上げ工事のためダンプカーなどトラックの数ばかりが目につき、人の姿はまばらだった。仮設の商店街も、人かげが少ない。大震災前に、中心部に住んでいた人たちが避難を余儀なくされ、高台の仮設住宅などに移り住んでいるため、やむを得ないにしても、本当に人の動きが少ない。復興工事が終わっても、いったいどれぐらいの人たちが戻ってくるのか定かでない状況だ。

 

運よく出会えた山田町の佐藤信逸町長は当時のことを述懐する。「最初の2年間は、行方不明者の捜索とともに災害がれき処理、応急仮設住宅の建設に追われ、困難を極めた。とくにがれき処理は、町の予算739億円の半分近い300億円をつぎ込まざるを得なかった。町の復興基本計画の作成、それにもとづく津波災害から町や住民を守るための土地かさ上げ工事などに本格的に取り組んだのが3年目からだ。すべてが初体験で、対応が遅すぎたが、行政サイドに災害対応のノウハウが十分になかったことも反省材料だ」という。

「私権制限してまで公共用地提供を
求めることが可能か事前に調整が必要」

佐藤町長によると、復旧から復興に至る問題で今後につなげる教訓は、数多くある。中でも、住民の人たちを高台の仮設住宅に避難させるにあたって、高台の用地確保のための買い取り交渉が難航した。先祖伝来の土地を売り渡すにあたって住民側には躊躇があるのと高く買い上げてほしいとの意向が強いためだ。町の中心部でのかさ上げ工事に伴う土地の買い取り交渉も同じく困難を極めた。地権者が津波災害で死亡、もしくは行方不明で交渉が宙に浮くケースもあった。決定的なのは、私権制限してまで公共用地に提供を求めることが憲法に抵触してしまうため、復興工事が進まなかったことだ。「私」の権利を「公」の論理で押し切れないことだ、という。

 

結論的には、山田町は、基幹インフラの再構築を軸に、2021年までの町の復興基本計画を粛々と進めているが、災害復興公営住宅に関しては、町が主導して作るにしても、人口の高齢化で入居後に介護が必要で移転したり、あるいは亡くなられたりすると空き家になるリスクもあるため、自治体にとって維持費用の負担などで新たな悩みが出る。
そこで、山田町は佐藤町長の発案で、「山田型復興住宅」をめざした。要は、住民が自主判断で住宅再建を行えるように、町が被災者向けの住宅再建支援制度を充実させ、被災者生活支援や住宅再建支援などを含めた補助金を最大560万円分、補助する仕組みだ。佐藤町長は「被災者の方々にとっては持家になる。自治体にとっても公営住宅で用地買収から四苦八苦することもなくなる。長い目でみればプラスだ」という。

宮城県南三陸町の佐藤町長
「人口減少が誤算、インフレ整備しても人口戻らず」

復興に取り組む被災地自治体の大きな悩みは、5年の長い歳月の中で、次から次へと変化して、新たな行政課題として、悩みが登場してくる。宮城県本吉郡南三陸町もその1つだ。町の中心部にあった町の行政庁舎が押し寄せた津波で鉄骨だけの無残な姿に変り果て、職員43人が逃げ遅れて犠牲になった町だが、私自身、過去3回、定点観測のような形で訪問したが、5年たっても際立った復興に至っていない。

 

最近、NHK―TVの3.11特集番組で、佐藤仁町長がインタビューに答えて、5年目時点での教訓を語っていたので、そのいくつかを紹介させていただこう。
佐藤町長は「1万7000人いた町の人口がいま、29%も減少してしまったうえに、その回復のめどがついていないことが最大の誤算だ。昔ならば、漁港などのインフラを復旧すれば、自然と人口が戻ってきた。そこで今回も、私たちは基幹産業の漁業の立て直しが基本だと折立漁港の復興に手を付けたが、肝心の漁業者はピーク時に比べ3分の1に減ってしまった。水産加工場も同じだ」述べている。要は、復興資金などを使って、インフラ整備をどんどん進めたが、人口減少に歯止めがかからず、下手をすると町の存立基盤が崩れかねないのだ。

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