マーケットもあっと驚く米国経済の荒療治が必要 株価が落ちる所まで落ちる最悪シナリオ、覚悟も重要に


時代刺激人 Vol. 11

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「時代刺激人」らしくワクワク感のあるテーマを、と思うのだが、米国を起点にした金融危機が、株価下落の形で、世界中を何往復もする現実を見せつけられると、経済ジャーナリストとしても知らぬ顔ができなくなるので、今回も取り上げたい。
 株式市場は、さまざまな投資家の思惑が入り乱れて投機性を帯びていると同時に、マクロの経済指標、ミクロの企業業績などの数字が複雑に投影するため、ヨミが本当に難しい。そこへ持ってきて、今回の場合、世界のマネーセンターであるニューヨーク株式市場の値動きが米国金融危機をつぶさに反映し、それが瞬時に世界中に連鎖していく。各国の株式市場では、それぞれの所で投資家の不安心理が増幅されて、売りが売りを呼ぶ悪循環に陥る。そして誰も予測がつかず、神のみぞ知る世界となる。

G7「5つの行動計画」もその後公表の弱い経済指標であっさり打ち消し
 急落を続けていた主要国の株式市場の株価が、10月11日の主要7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)での「5つの行動計画」を好感して反騰したが、案の定、相場の反発力は弱く、米国企業の業績悪化数字や「9月の経済活動は全米12地区で弱まった」というマクロ経済指標が公表になると、ニューヨーク市場であっさり打ち消されて不安定な動きになってしまった。
東京株式市場の場合、米国を中心にした外国人投資家が60%の保有比率でいるため、運の悪いことに、その投資行動に大きく振り回される。彼ら外国人投資家はニューヨーク市場で株価下落によって損失リスクが出ると、それを最小限に抑えるため、東京市場で見切り売り、損切りする。これが、東京市場の株価を不必要に押し下げる結果になる。このようにニューヨークに連動した東京市場での下げが続くと、上海、シンガポール市場は敏感に反応して同じ動きとなり、さらに欧州市場へとつながって連鎖リスクとなるのだ。
 こうしてみると、たびたび申し上げる「マーケットの時代」「スピードの時代」「グローバルの時代」といった時代状況のもとでは、連鎖に歯止めをかけるのは、震源地の米国の金融システム危機がもう大丈夫、と誰もが判断できる状況になってくること、そしてマクロ、ミクロベース双方で実体経済への影響がなくなって立ち直りが見えてくることしかない。しかし現状では、米国経済が痛みすぎてきており、修復にはかなりの時間が必要だ。となると、落ちる所まで落ちる最悪シナリオをどこまで覚悟できるかだ。

米国では401Kの株式運用がダウン、年金目減りした人たちが真っ青
 最近、米国から帰国した友人の話では、米国の確定拠出型年金の1つである401Kプランに加入している人たちが、今回の米国市場の株価の急落に続く急落で、すっかり元気をなくしているばかりか、真っ青状態だという。無理もない。これから手にするはずの年金額が恐ろしいスピードで目減りしているからだ。401Kプランは、米国では確定給付型年金を上回る勢いで伸び、運用資産総額がケタ外れに膨れ上がっていたが、目減りとなると、個人の消費行動にも大きな影響が出るのは間違いない。
 そればかりでない。米自動車ビッグ3のゼネラル・モーターズ(GM)の株価が今回の急落局面で一時、2ドル台に落ち込んだ。フォードの株価も同じだ。米国自動車文明を担う象徴的な存在の企業の株価がたった2ドルの時価でしかないところに、米国産業が追い詰められている現状をヒシヒシと感じるし、米国経済の先行き不安を増幅させる。

米国経済はかつての日本と同じ「バランスシート不況」に陥るリスク
 私の友人の野村総研主席研究員、リチャード・クーさんは日本経済のバブル崩壊過程で起きた現象を「バランスシート不況」と鋭く指摘したが、今回の米国金融危機に伴う実体経済への影響に関しても同じ状況に陥るリスクがある、という。この「不況」は、民間企業が過剰債務あるいは資産運用ミスに伴う損失リスクの増大などによるバランスシートの悪化に対応して有利子負債の借金返済を優先、そして設備投資を抑え不要な支出を減らす行動に出る結果、それらが経済全体の委縮につながってデフレスパイラル化に陥るリスクだ。現にいま米国経済で、金融機関の貸し渋りなどの信用収縮、GMなどの民間企業や家計でのバランスシート調整の行動が一気に起きつつある、という。
 私も、今後の米国経済に関して、この「バランスシート不況」に陥るリスクが心配だ。日本の場合、その「不況」に対する政策対応を誤って、結果として「失われた10年」どころか、12、3年に及んでデフレの長いトンネルに突っ込んでしまった。米国がここで、同じ過ちを繰り返した場合、世界のマネーセンターだけに、大変な影響が世界中に及んでいくリスクがある。そこで、米国の当局は早めの政策対応、つまりマーケットに疑心暗鬼や不安の心理を起こさせないような素早い政策対応を行うことが必要だ。

金融危機対応のサミット呼びかけても実効性乏しく市場は反応せず
 では、いま、どういった手だてがとれるか。現実問題として、米国だけの対応では不十分として、日米欧、そしてロシアを加えた主要8カ国首脳(G8)が10月16日に金融危機解決のための「共通の責任を果たす」という緊急声明を出した。さらに、フランスのサルコジ大統領が欧州連合(EU)首脳会議の記者会見で、11月中にニューヨークで金融危機対応のためのサミット(首脳会議)開催を呼びかけた。一方で、日本も、麻生首相が同じ金融危機対応のためのサミットを日本で開催する用意がある、と発言した。しかし、率直なところ、G8による緊急声明や会議開催表明だけでは、マーケットは動かない。むしろインパクトのある具体策が必要なのだが、まだ現実化していない。
 ある金融専門家は「サミット・メンバーの欧州や日本からすれば、グローバルな連鎖リスクにクサビを打ち込めるのは、金融危機の震源地の米国でしかない、ということで一致している。ところが、肝心の米国が大統領選という政治の季節に入っていること、市場至上主義を党是とする今の共和党政権のもとで公的資金注入など政府介入には踏ん切りがつかないうえ、公的資金の最終的な額がケタ外れになった場合の財政赤字をどうするか、誰もが自信ない、といった問題がある。マーケットも、そのあたりを読んでいる」という。

確かに、震源地の米国のマーケットに、もうここが底だ、これ以上落ちることはない、という安心感を植え付けるのは、今の状況では並大抵のことではない。この際、第7回のコラムでも申し上げたように、米国が非常事態宣言を発して、マーケットに対して先手、先手の対策を打つことだ。

日本など主要国が米国際買い上げ「再建国会議」で厳しい課題設定
 とくに資本不足に陥っている金融機関対策としての公的資金の注入に関しては、現在の額よりもはるかに多い、ケタ外れの額が必要になるのだろう。しかし、それを使う、使わないは別にして、金融機関の信用収縮、貸し渋りをなくすために、米国政府はこれだけの公的資金を用意している、といった大胆な姿勢を打ち出すしかない。同時に、かつての大恐慌時に行った需要創出のための大型プロジェクトなども必要になるかもしれない。要は、世界のマネーセンターの再建のために、そして米国経済自体の再建のために、ありとあらゆる政策総動員しかないのだろう。
 そこで、日本はじめ欧州主要国、それに中国、産油国もドル暴落リスクに歯止めをかけるため、外貨準備などを使って緊急かつ臨時的に米国債買い上げを行い、財政資金調達のサポートをすることも必要になるかもしれない。

その代わり、ここが重要なところだが、米国に対しては、自分中心に世の中が動くといった錯覚をなくさせ、かつ勝手な政治、経済、軍事行動をとらせないようにするため、サポートに立ちあがった国々で「米国再建国会議」をつくり、新たな世界経済秩序づくりのために、米国にどういった負担を求め、厳しい課題を背負わせるかなども検討していく。突飛な発想かもしれないが、世界のマネーセンターの機能マヒにとどまらず米国の実体経済の機能不全に歯止めをかけるには、これぐらいの荒療治が必要かもしれない。

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