想定外リスクを常に想定する時代に 2016年は波乱含みで先が読めず


時代刺激人 Vol. 280

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「想定外を想定する」。一瞬、何のことかと思われるかもしれない。正確に申し上げれば、想定外のリスクを常に想定して行動せざるを得ない時代に入った、ということだ。言葉の遊びで申し上げているのではない。

「想定外」は一時、責任回避で流行語になったが、
安易に問題を片づけてはダメだ

「想定外」という言葉は、ご記憶だろうか。東京電力の清水正孝元社長が、世界中を震撼させた5年前の福島第1原発事故当時、津波による全電源喪失が事故を招いたことについて「未曾有の津波によって起きた。津波の高さは想定外だった」と記者会見で不可抗力を主張した。その後、さまざまな事故を引き起こした当事者が「想定外だった」と述べ、一種の責任回避の流行語となった。私がかかわった東電原発事故調査の国会事故調は報告書で、東電経営陣が津波リスクを予見できたにもかかわらず対応しなかった「人災」の要素があると指摘した。想定外だったと問題を安易に片づけてはダメだとクギを刺したのだ。

 

最近、日本記者クラブが「3.11から5年」シリーズ企画をスタートし「災害時の危機管理」問題を初回テーマにしたので、私は関心があって参加した。そこで興味深いことが起きた。ゲストスピーカーの1人、防衛医科大講師の秋富慎司さんが今後の首都災害リスクの可能性に言及し、冒頭の「想定外を想定することが必要だ」と述べたのだ。まさにわが意を得たり、だった。同じ発想をする人に出会えてうれしく、会見終了後、秋富さんと話し合い「今後、一緒に世の中に問題提起していきましょう」と意気投合した。

まずは想定すべきリスクを列挙し最悪リスクは何か、
対策は何かを考えることが重要

さて本題に戻そう。想定外リスクを常に想定して行動する必要がある、と申し上げたが、数多とあるリスクのうちで、今後、どういった問題を想定外、つまり予想もできないようなリスクとして、取り出し、それをある程度、想定して先手、先手で手を打つことが可能なのか、という問題がある。

 

私が、それに答えるならばこうだ。それぞれの現場で、いま想定すべきリスクを列挙し、その中でも最悪のリスクは何かを考え、それを引き起こさないためにはどういった手だてが必要なのか、絞り込んで具体策を準備する。それだけでも突然、何かのリスクが表面化しても慌てふためく必要はない、と思う。大事なことは、さまざまなリスクを想定し、その中でも重大リスクを洗い出して絞り込んで対応策を常に考える枠組みをつくることだ。

イアン・ブレマー氏はリーダー不在のGゼロ状態、
米欧同盟関係の空洞化を危惧

そこで、いま世界で想定されるリスクはどんなものがあるか知っておくことが重要になる。私としてはこの際、地政学的な手法で国際政治経済情勢のリスク分析を常に行っているユーラシアグループ代表の米国人、イアン・ブレマー氏の話を紹介したい。実は、昨年2015年12月3日にブレマー氏が行った「Gゼロ時代の地政学的リスク:2016年の世界展望」という講演を聞くチャンスがあり、ポイントを突く話が多かった。
その講演を聞いたあと、好奇心が強まり、ブレマー氏が出版した新著「スーパーパワー・Gゼロ時代のアメリカの選択」(日本経済出版社刊)、ブレマー氏のユーラシアグループが発表した2016年の10大リスクも見てみた。それらをもとに、リスクの専門家は2016年という波乱含みの年をどう見ているか、整理してみよう。

 

結論から先に申し上げれば、ブレマー氏は、欧州連合(EU)が政治的にますます脆弱性を強め、政治指導者の力が弱体化して危機乗り切りの力を失いつつあることを危惧する。しかもその欧州と米国との関係が壊れ始め、同盟関係の空洞化リスクが強まっていることも懸念材料だ、という。そしてブレマー氏は、世界主要国リーダー不在による「Gゼロ」状態が顕著になり、世界の混乱、無秩序化が強まっていく、という。

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