新興アジア急成長ひずみリスクは深刻 インド大停電などインフラ制度に問題


時代刺激人 Vol. 197

世界の新成長センターになりつつある中国やインドなど新興アジアで最近、思わず「えっ、本当にそんなことが起きたのか」と声が出てしまうような、経済社会を支えるインフラ部分での大事故が起きている。その最たる例が今年7月末のインド大停電事故だ。

世界の新成長センターになりつつある中国やインドなど新興アジアで最近、思わず「えっ、本当にそんなことが起きたのか」と声が出てしまうような、経済社会を支えるインフラ部分での大事故が起きている。その最たる例が今年7月末のインド大停電事故だ。そのあと8月に入って、中国で信じられないようなインフラ事故が起きた。完成してまだ1年もたたない高速道路につながる高架橋の一部が突然、崩落し、走っていた自動車が橋の下の一般道路に投げ出されて死傷者を出す大事故になったりしている。

ビジネス展開めざす日本企業にとってはインフラの落とし穴、
看過できず

急速な経済成長に伴う需要増に対して必要な供給体制の整備を読み間違えたという制度設計上のミスがあったのか、スピードの時代、グローバルの時代という時代変化について、新興国の行政が十分に見通せず、結果的に行政対応が遅れてしまったのか、それともインフラ工事にあたって手抜き工事を行政が最終チェックできなかったのか――など、時代刺激人ジャーナリストの好奇心で、いろいろ考えてしまう。

しかし新興アジアでビジネス展開をめざす日本の企業にとっては、急成長の落とし穴ともいえるこれらインフラにかかわるさまざまな問題は看過できないことだ。そこで、私自身も以前から、新興アジアの急速な都市化への対応、インフラ整備対応の問題に強い関心を持っていたので、今回はこの問題を取り上げよう。

インド大停電は7月末の2日間にわたり22州、
人口の半分の6億人に被害

まずは、インドの大停電の問題だ。当時の現地からのメディア報道では、7月30日未明に北部のウッタル・プラデシュ州で電力需要が急増し、需給がひっぱくした。インド全体で6系統ある送電線網のうち、北部系統がこのトラブルによって停電した。このため、電力供給に余力のあった西部の州から送電線を通じて電力融通したところ、今度は送電網に過大な負荷がかかってしまい、停電が一気に広がった。解決に手間取るうちに停電が連鎖的に広がり、デリー首都圏、そして北部6州全域に及ぶ大停電となったという。

ところが、応急措置などで収束しかけた大停電が翌31日午後1時ごろになって再燃、今度は北部の州のみならず東部、東北部にまで連鎖的に波及し、インドの全28州と7つの連邦直轄地域のうち、実に22州、インドの12億人の人口の半分にあたる6億人の人たちに被害が及んだというからケタはずれの大事故だ。

電力需要の急増対応の融通で送電線に過大な負荷かかったのが原因

インド政府の中央電力規制委員会が緊急調査した結果、インド北部の州での電力需要増に伴い、供給余力のあった西部の州から融通したら送電網に過大な負荷がかかり大停電に至った。2度目のケースも同じで、すべてが送電線インフラの問題だったと断じている。

プライドの高いインドにとっては、屈辱的な事態であることは言うまでもない。当然ながら、インド政府は信用回復に躍起で、スタートさせたばかりの第12次5か年計画(2012年~17年)内に、当初目標のインフラ投資1兆ドルの30%相当を電力関連投資に充てる、という。同時に、これまで全28州の電力局に委ねていた電力ネットワークシステムを国家が一括管理する、という。

政府の補助金からめた低料金政策が電力需要増を誘発し
財政負担増

しかしインドのエネルギー政策の現状を知る専門家に言わせれば、根本的な問題が未解決なのだ。インド政府が低所得層対策のため補助金で電力料金を低く抑えているが、これが電力の割安感を誘って需要増を誘発、そして財政負担が恒常的に増えており、改める時期だという。一方で、供給力強化のためのインフラ投資、とくに老朽化もからむ送電線の強化投資が需要増に追い付かず遅れたままなので、大停電は潜在リスクだ、という。

そんな矢先、英フィナンシャルタイムス(FT)紙の調査報道スクープ記事が日経ビジネス誌8月20日号に「大停電で見えたインド構造危機」という形で転載されているのを読んだが、思わずFTの取材力のすごさにうなってしまった。電力を軸にしたエネルギー全般の構造問題に、銀行の融資焦げ付きリスク問題が深くからんでおり、もし対応策を誤れば、成長を急ぐ新興インドにとっては失速しかねない問題に発展する、というのだ。

発電・送電の供給体制に問題山積のうえ金融機関側には
融資焦げ付きリスク

ポイント部分を引用させていただこう。インドの発電会社は28州の電力局に電力を販売することを義務付けられているが、肝心の電力局の多くが政府の低料金政策のあおりで値上げを出来ないなど、いくつかの理由で経営的に破たん状態の州が増えている。このため、民間の発電会社は電力販売代金の回収に苦しみ、厳しい経営を強いられている。

そればかりか発電原料の石炭を供給してくれるはずの政府系企業コール・インディアの経営も不安定で、石炭の安定確保がままならない。これらのあおりで電力向けに巨額の設備投資資金を融資してきた金融機関に返済資金焦げ付きリスクが次第に現実化し、金融システム不安に発展しかねない――というのがFT記事で、構造危機を鋭く描いている。

中国では開通1年未満の高速道路への高架橋で崩落事故、
手抜き工事が有力

次は、中国の高速道路につながる高架橋の崩落事故だ。メディア報道でご存じの方もおられるかもしれないが、今年8月24日、黒龍江省ハルピン市内の高速道路への高架橋の上を走る8車線のうち2車線が何と長さ130メートルにわたって突然、崩れ落ち、走っていたトラック4台が橋の下に投げ出され死傷者の出る大事故となった、というものだ。

この高架橋は、昨年2011年11月に総工費18億元(円換算約234億円)をつぎ込んで完成したばかりの最新鋭の重要インフラだけに、メディアを含め多くの人たちの関心事となったが、崩れ落ちた橋のコンクリート部分から鉄筋以外に、常識では考えられないような木片や合成樹脂の破片が出てきたため、手抜き工事でないかと問題になった。

高速鉄道でも開通前の豪雨で地盤が崩れる事故、
やはり手抜き工事の可能性

中国では今年5月に開業予定だった河北省潜江市内の高速鉄道がその2か月前の3月に、長さ300メートルにわたって基礎工事部分の地盤が崩れる事故があった。豪雨の影響で地盤が軟弱化した、と見られていたが、現地からのメディア報道では地盤を固めるために必要な砕石に代えて土だけが盛られていた結果、軟弱地盤になっていた、という。開通後だったら、もっと大惨事になっていただけに、何とも恐ろしい話だ。

高速鉄道と言えば、昨年7月、中国の浙江省内の高速鉄道で落雷による停電か、信号系統の故障かによって、線路上に停車していた列車に後続の列車が追突し、4両の車両が高架から落下して大事故になった、ということが思い出される。

成長志向強い新興アジアで成長を最優先課題、
あおりで制度設計が伴わず

インドの大停電や中国での高速道路、高速鉄道の地盤工事にからむ問題は、どう見ても偶然の問題ではない。成長志向の強い新興国では成長を最優先課題とするあまり、道路や橋はじめ、電力、ガスなどの物的インフラに関して、新たな巨大需要増に対応するための抜本的な制度設計が後回しになり、まずは目先の問題に対応に終始、結果として前例踏襲でつじつま合わせしてきた可能性も否定できない。タイの洪水問題も川上部分の北部タイでの天候の読み間違いではなく、下流域の治水の制度設計の問題だったと言える。

しかし、新興アジアでの今後の問題は、こうした物的インフラへの対応も重要ながら、急速なテンポで進む都市化のもとで教育、医療、年金などの社会インフラの整備がほぼ共通して二の次になっている。経済の急成長に伴って、農村部から都市への流入人口が急速に増える形で都市化が新興アジアのどの国でも起きている現象だが、それを受け入れる社会のシステムづくりが追いつかないでいる。

電力、道路の物的インフラ問題に加え医療など
社会インフラ未整備が課題に

これまでのところ、どの新興アジアの国々でも成長があり、底辺の人たち、あるいは農村部の所得水準が上がっているので、大きな社会問題に発展していなかった。しかしこれからは違ってくる。現に、中国では上海万博効果が着実に都市化に弾みをつけている。

かつての大阪万博が、日本人全体に対して新たなライフスタイル、豊かさを求める欲求をもたらし、その後の日本の高度成長を誘発したのと同じように、中国では上海万博効果で、大都市にどんどん流入してきた人たちが、都市生活者の豊かなライフスタイルを見てあこがれを抱く。しかし一方で、都市戸籍を持っている人たちが享受する医療や年金、教育を同等に得られない格差の是正を求める動きがデモなどの形で顕在化してきている。

日本企業にとっては物的インフラ落とし穴は潜在リスク、
自衛策も必要に

インド進出の日本企業としては地元評価の高かった自動車のスズキの主力工場でインド人労働者の賃金など待遇改善を求めた暴動に拡大したのも、外資系企業ならば不満をぶつけやすく、政府も敏感に反応するだろうという労働者の狙いがあったかもしれない。

問題は、新興アジアの内需の広がりにコミットし、日本国内のデフレ脱却のきっかけにしたいと考えている日本企業にとって、これらの物的インフラ、社会インフラにからむ潜在リスクにどう対応するかという現実的な問題もある。とくに、インドのような大停電が程度の差を別にして、頻発するようなことになれば、エレクトロニクス製品や精密機器などのような電力の安定的な確保が必要な企業にとっては、他人事ではいられない。場合によっては自家発電という形で自衛策も必要になるかもしれない。

日本政府は先に進んだ「先進国」の立場で
システムづくりサポートし存在感を

しかし、私は言いたい。こういう時こそ日本政府が新興アジアとの連携を深めいい意味でのリーダーとして存在感を示すチャンスだ。以前もこのコラムで、申し上げたことがあるが、日本は先に進んだ「先進国」として、過去の高度成長政策での公害問題はじめさまざまな問題の事例を示しながら、どう課題の克服を果たしたか、また当時の政策面での教訓は何だったかを積極的に事例研究のように出していけばいいのだ。

そして、新興アジアが当面するさまざまなインフラ上の問題でアドバイスすると同時に、新たなインフラづくり、社会システム再構築へのサポートを行えばいい。間違いなく日本は頼もしい兄貴分としての評価を得るだろうし、存在感を持つことが出来る。それが結果として、各国に進出する日本企業をバックアップすることにもつながるだろう。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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