民主党の期待外れ度は深刻、政治主導が空回りして政権運営に未熟さ 改革公約はほとんど実現せず、政権交代後の中間決算は企業でいえば大赤字


時代刺激人 Vol. 110

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 「自民党政権末期は、制度疲労がピークに達して至る所に政治劣化が見られ、ひどかった。しかし有権者の改革期待を担って政権交代した民主党政権も、時間がたつにしたがってメッキがはげてきたのか、ひどさが目に余る。期待外れだ」――思わずこんな声が聞こえてきそうな最近の民主党政権の状況だ。柳田稔法務相の国会軽視発言などにとどまらない。政権交代から15カ月もたつのに、マニフェスト(政権公約)で掲げた改革が、ほとんど実現していないのだ。致命的とも言える。いったい何が原因なのだろうか。メディアでも民主党政権問題を一斉に取り上げており、「またその話か」と思われるかもしれないが、「時代刺激人」ジャーナリストの立場でも黙っておれず、取り上げることにしたい。

このコラムで過去に数回にわたって、民主党政権の問題を取り上げている。見出しで言うと「さあ、政権交代した民主党は矢つぎ早やに新政策を」が「どうした民主党政権、期待半分・不安半分がいつしか不安増大に」に変わり、そのうち「日本の政治劣化は目を覆わんばかり、政治混乱招く鳩山首相の指導力のなさ」、「民主党の参院選敗退、消費税問題よりも10カ月の政策評価にイエローカード」となっている。苛立ちが高まるコラムばかりが続いているが、今回の見出しも「民主党の期待外れ度は深刻、政治主導が空回りして政権運営に未熟さ」と、さらに厳しいものになってしまった。

政権運営ノウハウに欠け自民党政治との違いや脱官僚政治へのこだわりが裏目
 結論から先に申し上げれば、民主党は、どう見ても政権交代に際して政権基盤づくりの段階から、さまざまな作業が準備不足で、しかも半ば見切り発車したため、そのツケがあとになって一気に広がって出てきたように思える。要は、ほとんどの政治家に与党経験がなく、野党政治の意識行動で対応し、しかも決定的なのは、政権運営ノウハウに欠けていたことだ。
民主党は、新政権の体制づくりに関してはマニフェストでの政権構想で「5原則」、「5策」、そして政策実行手順の「工程表」を一応、準備した。しかし、私の見る限り、それらはいずれも前自民党政権との違いを浮き彫りにすること、そして自民党政治の否定にこだわるだけで実体が伴っていなかったこと、そしてもっと大きな問題は、霞ヶ関官僚をうまく使いこなすどころか、脱官僚政治を主張し過ぎて空回りばかりしたこと――などが影響して、随所で政権運営の未熟さが出てしまっている。

民主党が掲げた政権運営の「5原則」「5策」はほとんどが機能せず状態
 ご記憶だろうか。この「5原則」は、「官僚丸投げの政治から政権政党が責任を持つ政治家主導の政治へ」、「政府と与党を使い分ける二元体制から、内閣の下での政策決定に一元化へ」、「各省の縦割りの省益から官邸主導の国益へ」、「タテ型の利権社会からヨコ型の絆(きずな)の社会へ」、「中央集権から地域主権へ」の5つ。掲げた「原則」は、実現できれば、これまでの自民党政治から脱皮し、新たな政治スタイルを確立できたかもしれないが、現実は、ほとんどが実体を伴うものになっていないことだ。
同じことは「5策」にも言える。5つの原則実現に向けての組織改革なのだが、首相直属の「国家戦略局」を設け国家ビジョンや予算の骨格策定を集中的に行うこと、政府に政治家100人を大臣、副大臣、政務官の「政務3役」、それに「大臣補佐官」の形で送りこみ、政治主導で政策決定すること、さらに政策テーマごとに関係大臣で政策調整する「閣僚委員会」、天下り法人や霞が関行政機構のムダや不正をチェックし改革につなげる「行政刷新会議」を新設することなどだった。これも、それぞれが試行錯誤を続けていることは、ご存じのことだろう。

政務3役が膨大な行政案件を裁き切れず行政停滞、政治主導の限界?
 私が見ていて、この「5策」のうち、脱官僚政治、政治主導の政策決定を打ち出して霞ヶ関の行政官庁に乗り込んだ政務3役が、いざ行政の現場に入ってみて、いろいろな問題を引き起こしている。
大臣、副大臣、政務官の政務3役がうまく連携して、大臣を中心に機能している行政官庁は問題なかった。しかし、中には大臣が外面のパフォーマンスに長けている結果、副大臣、政務官に膨大な行政事務の処理や政策判断などを委ね過ぎて行政停滞が起きるとか、政務3役が連携し役割分担したとしても厚生労働省や国土交通省などのように合併統合で肥大化した官庁ではカバーすべき範囲が膨大で、身動きがとれず、スピードの時代、グローバルの時代に敏速に対応する状況でなかったこともデメリットとして挙げられる。
このシステムは、自民党政権時代のように大臣、政務次官などが行政官庁の官僚に政策丸投げするとか、官僚の手のうちでいいように仕切られてしまうとか、あるいは官僚や族議員に利害調整を委ねて、大臣は最後の出来栄えの部分で政治的な成果をアピールする、といった政官癒癒着(ゆちゃく)と言われても仕方がない政策決定の枠組みにクサビを打ち込むものだったが、民主党にとっては意図せざる問題がいろいろ出てきている。

政務3役が「族官庁政治家」に変身、「事業仕分けは使命終えている」と反発も
 最近の事業仕分け第3弾での問題もその1つで、政務3役が「族議員」ならぬ「族官庁政治家」になってしまったのだ。この仕分けは、行政刷新会議の過去の事業仕分けで、廃止もしくは予算計上見送りといった判断を下したにもかかわらず、現実には各省庁での来年度予算編成要求段階で事業復活しているため、政治的にけじめをつけようというものだ。
ところが、農林水産省予算のいくつかで篠原孝副大臣、松木謙公政務官がそれぞれ復活要求にこだわり、閣議決定した政策案件にまで手を下すのはおかしい、とし、とくに農水省官僚OBの篠原副大臣は「仕分けは野党的なやり方であり、歴史的な使命を終えている」と批判した。農水省の行政現場の判断で言えば必要なものなのであり、譲れないというわけなのだ。

「民主党政権の課題は官僚主導体制打破でなく政治主導体制の実現」は鋭い
 厚生労働省OBで、現在、兵庫県立大学大学院准教授の中野雅至さんは著書「政治主導はなぜ失敗するのか」(光文社新書刊)の中で「民主党政権の課題は官僚主導体制の打破ではなく政治主導体制の実現だ」と指摘している。一見、当たり前のように聞こえるが、なかなか鋭いポイントだ。
中野さんは「民主党が責任政党であるならば、自民党の末期政権をポピュリズムと批判してきた自覚があるならば、事業仕分けも公務員制度改革も、自分たちの支持率をあげるためのポピュリズム的な手法で使うのでなく、政治のプロとして淡々と処理すべきだ。その上で、民主党は日本という国を立て直すためのプログラムを実行に移すべきだ。(閉そく状況に陥った)経済や社会を立て直さない限り、国民は民主党の政治主導体制を見限るだろう」と述べている。

バラマキ政策で国民の関心惹き付けるのは限界、消費税率上げ論議も中断
 かなりの国民には間違いなく不満がくすぶっている。最近の世論調査での内閣支持率の急落がそれを物語っている。昨年の総選挙で、自民党政権時代の族議員政治、既得権益擁護の政治、官僚に政策を丸投げして結果的に霞ヶ関行政官庁の省益と共存共栄し、国民目線を失ってしまう政治にはケリをつけ、民主党に託する形で新たな改革を期待した。それなのに、民主党政権は公務員制度改革や高速道路の料金無料化政策はじめ、こども手当、農家への戸別所得補償など、改革と称して打ち出した政策の数々が道半ばどころか、改革の成果さえ見えない。
経済のデフレ状況に歯止めがかからない中で、日本の周辺のアジアではさまざまな内部の課題を抱えながらも、世界の成長センターとして経済に勢いを持たせる政策を打ち出している。日本は過去の成功体験を捨て切れず、モデルチェンジが行えないでいることが経済低迷の原因なのだろうか。ところが民主党政権は、税収の低迷を視野に入れずマニフェストで掲げたバラマキ政策で国民の関心を惹き付けることに躍起だ。政治主導とはいえ、マクロ政策面で財政赤字のツケをどう処理しようとしているのか定かでない。社会保障の制度改革をねらって掲げる消費税率の引き上げ議論も宙に浮いたままだ。
15カ月の民主党政権の中間決算を企業決算と同じように、してみた場合、明らかに収支バランスが整っていない。しかも改革をうたった政策の効果もほとんど出ていない。間違いなく大赤字決算と言ってもいいほどだ。

外交政策でも戦略性が見えない、世論調査でも「民主党の外交に不安」の声
 外交面でも、対中国に限らず、対ロシア、対東南アジア諸国連合(ASEAN)、そして対米、対欧州共同体(EU)、さらには対中東などへの取組みに関して、民主党政権は政治主導という割合には戦略性が見えず、尖閣諸島での中国漁船への対応でも後手後手になっていて、国民の側からすれば、政権に外交政策を委ねておいて大丈夫かな、という不安が広がる。現に、読売新聞の世論調査でも、外交政策への取組みに不安を感じる、という声が過半数にのぼっていた。

毎日新聞の政治コラムニストの友人、山田孝男さんが11月22日付の新聞コラム「風知草」でなかなか鋭い問題指摘をされており、我が意を得たり、という点があったので、ぜひ、引用させていただこう。

毎日新聞コラムでの元外務次官、谷内氏の現役官僚を代弁する発言は重要
 「閣僚の失言比べが佳境に入っているが、より深刻な問題が別にある」として、まず谷内(やち)正太郎早稲田大学教授=元外務省事務次官=が11月18日の講演会で、民主党政権の首相と閣僚を見つめる現役官僚の状況、危機意識を述べた点を取り上げている。それによると、谷内さんは「今は(現役官僚は政権に対して)<面従腹背>ですらない。『勝手におやりになったらどうですか?』という感じになっている。(これは)国家として誠に不幸です」と述べている、とし、山田さんによれば、谷内さんは「民主党には国家という視点が欠けている」という点を問題視している、という。

もう少し核心部分を引用させていただこう。尖閣諸島問題で民主党政権が外務官僚の頭越しに中国に密使を送ったことについて、山田さんが首相側近の「外務官僚は意図的に情報を漏らして(政権の)足を引っ張りますから」とか、別の側近の「そもそも外務省のインテリジェンス(情報力)は高くないですし、、、」という発言を谷内さんにぶつけたら、谷内さんはこう答えた。「民主党はプロフェッショナリズムの無視、ないしは軽視なんですよ。官僚は、批判はありますが、税金で養われているプロ集団。政党としてそれを使いこなす器量をもってもらわないと困ります」と。
これらを踏まえて、山田さんはコラムの締めの部分で「民主党政権は太平に慣れた国民の覚せいをうながす捨石として退場するのか。霞ヶ関のプロ集団を使いこなして再び上昇気流にのるのか。ドラマは大詰めにさしかかった」と述べている。鋭い。まさに、そのとおりだ。

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