東電原発汚染水の海洋流出は大問題 漁業の風評被害に加え国際的反発が心配


時代刺激人 Vol. 225

 東京電力福島第1原発の事故現場は、2011年3月の事故から2年半がたとうとしている、というのに、いまだに収束に至っていない。それどころか、事態は悪化の一途をたどっている。とくに、高濃度の放射性物質を含んだ汚染水の原発敷地内での水漏れ、そして海洋への流出問題が、とてつもなく厄介な事態に陥らせている。

4月の地下貯水槽の汚染水漏れ、
そして今回のタンクからの汚染300トン漏れ
今年4月、7基あった地下貯水槽のうち2号、そして3号貯水槽で次々と汚染水の水漏れが見つかり、大騒ぎとなった。当時、突貫作業で貯水槽工事した際、3層の防水シートに弱い部分が出て水漏れとなったのでないか、と見られた。しかしもっと根本的な問題は、雨水や山側から流れる地下水が原子炉建屋内に流入し、原子炉の冷却に使っている水と混じりあって放射性物質を含んだ汚染水を大量に生み出したことだ。それが見えない地下の水路で動きまわり、事態を悪化に導いている。対処療法ではなくて抜本対策が必要だ。

ところが、つい最近、今度は、原子炉建屋周辺にあるタンクから高濃度の放射性物質を含んだ汚染水約300トンが流出したうえ、それが地下水と混じって海洋にも流れ出た疑いがある、ということで、さらに大騒ぎとなった。
外国メディアは予想どおり、東京発のニュースで海洋汚染に無神経な日本という形で手厳しく批判した。放射性物質を含んだ汚染水を故意に海へ放出したわけでないが、まずはあってはならないことで、批判が国際的な反発に発展することが重大懸念だ。

原子力規制委は「重大な異常事象・レベル3」に、
2年前の「収束宣言」は何だった?
 原子力規制委員会は事態を重視し、今回の汚染水漏れ問題に関して、国際的な原発事故のトラブルの規模や深刻度を示す評価レベルを重大な異常事象という「レベル3」に決定し、国際原子力機関(IAEA)に確認を求めた。私は、最悪レベルの「レベル7」がずっと続いたままとばかり思っていたが、原子力規制委は今回、この汚染水に限って「レベル3」という厳しい評価にしたようだ。

ご記憶だろうか。2011年12月16日、当時の民主党政権の野田佳彦首相は、緊急記者会見で東電原発事故の収束宣言を行った。私は当時、テレビで会見の模様を聞いていて、何の根拠があって収束宣言などと言えるのだろうか、と強い憤りを覚えた。野田首相の会見内容は「専門家による緻密な検証作業を経て、安定して冷却水が循環し原子炉の底の部分と格納容器の温度が100度C以下に保たれている」ことを根拠にしたが、事態の鎮静化を図りたいという政治の思惑が先行しただけだ。事故現場の現状を見て、政治家の無責任ぶりをどう考えているのか、思わず聞きたくなるほど、事態は悪化の一途だ。

東電の対応は後手後手、
柏崎刈羽原発再稼働よりも専門家集め総力対応が必要
 私は以前も申し上げたように、東電原発事故調査を行った国会の事故調査委員会(国会事故調)の事務局にかかわった関係で、フォローアップが重要と考え事故処理の動向に強い関心を持っていた。そこで今回、ぜひ汚染水をめぐる問題をコラムで取り上げたい。

結論から先に申し上げれば、事業者の東電の第1義的な責任は果てしなく大きい。事故現場の人たちは、日夜、事故処理に追われ、休む暇もないことを十分に理解した上でのことだが、高濃度の放射性物質を含んだ汚染水の流出騒ぎに関しては、関係者の話を聞く限り、率直に言って、東電の対応は後手後手に回っており、多くの人たちの不安を増幅させている。とくに、当初は応急処理のために仮設のタンクを作ったが、この仮設対応ということに隙(すき)があったのか、注意義務を怠ってきたのでないかという懸念がある。

私は、東電がこの際、福島第2原発のみならず柏崎刈羽原発、さらに火力発電所から、ある程度、原子力のみならず土木などの技術専門家を総動員して、徹底対応すべきだ。そればかりでない。柏崎刈羽原発の再稼働にこだわっている場合でない。それがまず1つだ。

国が乗り出したのは遅きに失したが、
国民に理解を求め予算措置で機動対応を
次の問題は国の責任問題だ。今回、安倍晋三首相が「東電だけに事故処理をゆだねる東電任せではだめだ。国の責任もあり、積極的にかかわっていく」と国が前面に出ることを表明した。担当大臣の茂木敏充経済産業相も現場に出向き、現場指示を行っている。これらに関しては、率直に評価する。
しかし私に言わせれば、国が前面に出るのが、やや遅きに失したと思う。もともと「国策民営」で国が原発対応を民間に都合よく委ねたところに問題があった。原発事故が起きて原発災害の形で大きな広がりを持ったいま、国が廃炉まで全面的に責任を分担することは当然だ。
とくに、かつては隠然たる力を誇示していた東電が原発事故をきっかけに、今や当事者能力を失い、事故処理のみならず賠償責任などでも十分な責任を果たし得なくなっている現実を見ると、「国策民営」の電力経営に対する国の責任という意味でも、今度は国が前面に出るべきだ。その場合、安全対策に関しては、国民に税負担の理解を求めながら、必要な予算措置を講じることは必要だ。

原子力規制委の動きが鈍い、「規制の虜」状態でないはず、
保安基準で厳しく対応を
 この国のかかわりという点で、私は、今回の事故処理を見ていて、新たに政府からも事業者からも独立した規制機関として立ち上がったはずの原子力規制委員会の動きが何とも鈍いという印象が否めない。まさか今でも「規制の虜(とりこ)」状態にあるとは思いたくもないが、汚染水対策有識者会合を組織して対応しているとはいえ、規制機関としての存在感が見えないのだ。
「規制の虜」の問題は、国会事故調報告でも取り上げたように旧原子力安全保安院(現原子力規制庁)の官僚が、原発技術などの専門知識や情報量の面で、かつては東電の現場技術者、専門家群に太刀打ちできず、規制当局が規制を受ける側に言いなりになって本来の機能や役割を果たせない弱みがあった、という問題だ。

原子力規制委の記者会見などに出ていないので、メディア報道を見るしかないのだが、この汚染水処理対応に関して、原子力規制委の踏み込んだ動きが見えてこない。ある専門家は、原子力規制委が厳しい保安基準を大胆につくり、東電に指示してすばやく結果を残せるようにすべきだ、という。確かに、汚染水問題がさまざまな形で長引いているのを見ると、原子力規制委が規制機関として、安全対策を含めてさすがによくやっている、という存在感が必要だ。

国会の原発問題特別委はなぜ動かぬ、
立法府の行政監視こそがミッションでないか
 それと、私が国会事故調にかかわった経緯から、過去のコラムでも幾度か問題提起したことだが、立法府の国会の対応が原子力規制委以上に鈍い。それどころか、今回の東電福島第1原発の汚染水処理対策に関して、国会が現場視察を含め、本格的な対策に乗り出した、といった話を耳にしたことがない。

とくに衆参両院の原子力問題特別委員会が、国会休会中とはいえ、こういった重要な時期にこそ、立法府の行政監視、とくに原子力規制委の活動チェックを厳しく行うと同時に、それら衆参両院の原子力特別調査委員会メンバーが積極的に現場をチェックして何が問題かを浮かび上がらせる具体的なアクションが必要だ。そういったことが見えてこないのが、何とも残念なことだ。メディアは、首相官邸や担当官庁の経済産業省、さらに原子力規制委などの動きを報道するが、私に言わせれば、立法府の国会の動きをウオッチし、なぜ国民目線に立って動こうとしないのか、と手厳しく報じるべきだ。

世界中に、国会の汚染対策など東電原発事故の教訓を情報共有するアクションを
 国会事故調は、立法府の全会一致での国会事故調法にもとづいて立ち上げられ、民間の専門家が政府、そして事業者から独立して独自の立場で原発事故の真相究明に乗り出し、2012年7月5日に衆参両院議長に報告書を提出した。立法府の行政府監視の役割を担ってものだった。しかし国会事故調の7つの提言は、以前のコラムでも問題視したように、野球に例えれば、ボールが外野に転がったのに、当時の与野党を問わず国会はそのボールをしっかりと受け止めず、衆院は今年1月に、また参院は今年8月にそれぞれ原子力問題調査特別委員会をやっと立ち上げるという、信じられないような遅い対応ぶりだった。

政権交代があり、めぐる情勢が変わったとはいえ、世界中を震撼させた東電原発事故の教訓を日本が積極的に世界に発信し、二度と同じような事故を引き起こさないという姿勢を強くアピールすることが大事なのだ。とくに、政府からも、事業者からも独立して、国民目線で立法府が行政府の監視役を担う、と国会事故調立ち上げ当時、国会が強く、胸を張ったのだから、今でも遅くないのだ。アクションを起こすべきだ、と言いたい。

汚染水の海洋流出リスクは依然消えておらず、
東電は重ねて、総力をあげて対応を
 今回の東電福島第1原発での汚染水の水漏れ、さらに海洋への流出リスクの問題は、改めて言うまでもないが早期に完全に水漏れがなくなるように、あらゆる対策が必要だ。3.11の事故後、原子炉に残る核燃料を冷却するため、東電は絶えず注水を続ける必要がある。これ自体が最重要課題だが、原子炉建屋内に、大量の地下水が流れ込み、現時点では毎日400トンものケタはずれの地下水が流入してくる、という。その地下水の水が放射性物質と交じり合って、逃げ場のない汚染水となっている。しかも海洋に流出するリスクが消えていない。

東電経営陣は事故当初、想定外の巨大な津波による全電源喪失が事故を招いたと言ったが、国会事故調が調査した結果、シビアアクシデント(過酷事故)マネージメントのミス、端的には15メートルに及ぶ津波襲来の予測があった際に、しっかりとした対策をとっていれば、こういった事態にならずに済んだわけで、間違いなく経営判断ミスによる人災だと言っても決して言い過ぎでない。現に、東北電力女川原発などが津波対策を講じて、危機を乗り切れている現実を見れば、東電にはエクスキューズの余地はない。その意味でも、東電は事故処理に総力をあげるべきだろう。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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