「日本代表のマインドセット変えることに腐心」 エディー・ジョーンズHCラグビー組織論に学ぶ


時代刺激人 Vol. 277

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ラグビーが俄然、日本中を湧かせるスポーツになっている。多くの方がご存じのとおり、英国で開催中のワールドラグビー大会で、日本代表チームが初戦の優勝候補の強豪南アフリカ代表チームに対しゲーム終了間際に劇的逆転トライし、見事に勝利したことがきっかけだ。

集団思考型のマインドセットをどう変えるか、
エディーさんは異分子コーチを投入

このマインドセットは、私が東電原発事故調査の国会事故調の事務局にかかわった際、当時の黒川清委員長がさかんに使った問題提起の言葉だ。黒川委員長は、原発事故を引き起こした背景要因の1つとして、集団的思考型マインドセットがあったとし、「自分の職業人としての属性よりも、所属している(行政官庁や企業などの)組織で自己を相互認識している。お互いの社会的地位は、その組織の社会的地位と自分の肩書で決まる傾向がある。当然、そこには集団思考の愚が働く」という。
その国会事故調で調査統括の役割を担った宇田左近さんは、そのマインドセットの組織体質として「責任回避」「問題先送り」「不作為」「前例踏襲」「改善の否定」「組織の利益優先」「実質現状維持」などを挙げ、異論の出ない組織体質が改革や病根妨げている、と問題視したが、ここで、エディーさんの話に戻ると、またまた「勝つための組織」論で面白い問題意識がある。

エディーさんは、日本代表チームのスクラム強化のために、フランス出身のスクラム・コーチ、マルク・ダルマゾさんを「異分子」として投入して強化を図った。「マルクは、私よりもはるかにスクラムのことを知っており、スペシャリストが鍛え上げるため、チームの意識も変わり、練習すればするほど強くなる」と考えた、というのだが、インタビューした生島さんによれば、同じようなタイプの人間ばかりが集まると、時間がたつにつれて緊張感が失われてしまいかねないので、異分子を投入することで組織を変えた、という。

コーチや専門スタッフのサポートが
日本代表組織を活性化すると優秀人材を起用

この方法で、エディーさんはヘッドコーチの権限を最大限に活用して、さまざまなコーチや専門スタッフを招致して、専門家としてのサポート機能を求めたという。メディカル・スタッフ、メンタル・コーチなど数多くのサポート役の人たちの協力を得て、組織づくりの強化を図った。エディーさんは「日本で素晴らしいのは、ドクターとトレーナーだ。これは米国に匹敵する高いレベルにある。トレーナーは、私が他の国の代表コーチになったとしても、今のトレーナーを引き連れていきたいほどだ。長時間労働をいとわないばかりか、何よりも質の高いケアを提供してくれる」という。

このメンタル・コーチがラグビー日本代表の活躍の陰のサポート役だった問題に関して、10月21日付の毎日新聞朝刊コラムで、中村秀明論説委員が知人のメンタルトレーナーの話をもとに興味深い問題を書いている。知人トレーナーによれば、「100%を超えた力を出せると信じ、そこを目指さなければ勝てない時がある。カギを握るのがメンタルトレーニングで、そのポイントは『高いゴールの設定』と『言葉、感情、映像の3つ』だという。まず、高い目標を自らに課す。その目標は自らにふさわしく、そこをめざすのが自分らしいと思う。たとえば、ある子がグズと言われ続けると、グズを抜け出せない。グズなのが自分らしい、と思い込むからだ。そこで(高い目標設定で)その逆を行くのだ」という。こういったメンタルなトレーニングが今回の日本代表チームの勝利の背景にあるのだろうが、エディーさんは組織づくりのために、あらゆるチャレンジをしたことがわかる。

強豪の南ア代表を破った日本代表が決勝リーグに出ることなく敗退したことに関して、英国を中心に世界の多くのラグビーファンは惜しんでいるが、英国のラグビー専門紙が10月18日付の新聞で、反則数などをもとにしたフェアプレー度の調査で日本代表を「最もクリーンで規律の撮れたチーム」と評価していたのはうれしい話だ。

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