メコン諸国現場レポート6 ASEAN経済統合のカギ握る「連結性」 地域横断メリットの一方で課題も山積


時代刺激人 Vol. 241

メコン経済圏諸国の報告も6回目を迎え、締めくくりの時期に入らざるを得ない。そこで、今回は、来年2015年12月に迫ったASEAN(東南アジア諸国連合)10か国地域経済統合のキーワード、CONNECTIVITY(コネクティビティ、連結性)にからむ問題をぜひ取り上げてみたい。

キーワードはCONNECTIVITY(連結性)、
関係国つなぐ経済回廊に連鎖効果?
 このCONNECTIVITYは、「陸のASEAN」と呼ばれるタイ、カンボジア、ベトナム、ラオス、ミャンマーのメコン川流域関係諸国にぴったりあてはまる言葉だ。というのはこれらの国々をタテ、ヨコに走る南北経済回廊、東西経済回廊、そして南部経済回廊といった道路網がそのキーワードを象徴する。経済回廊は、将来的に情報通信回線など経済インフラを埋め込んだ経済価値の高い道路にして関係各国を連結し、経済連鎖効果を高める狙いがあるが、そのインフラ網の連結性が地域経済統合への第1歩だ、というわけなのだ。

公的な地域開発金融機関のアジア開発銀行が主導して1992年、タイなどメコン川流域関係諸国に上流域の中国雲南省を加えて、大メコン圏地域経済協力(GMS)プロジェクトをスタートさせた際、関係国間を緊密化させる中核のプロジェクトとして、この経済回廊建設を具体化させた。率直に言って、アジア開銀が当時、20年後の地域経済統合を見据えて、この経済回廊に取り組んだのは、大正解だったと言っていい。

ASEAN政治制度はバラバラだが、
経済最優先で「経済国境」撤去に柔軟が面白い
経済回廊と呼ばれる道路以外に橋、電力の送電線網、水道、鉄道などの物的インフラが今後、国境を越えて地域横断的に連結していくようになれば、経済効果は確かに上がっていく。しかもASEAN地域経済統合をきっかけに「経済国境」を外して各国間の関税率の撤廃もしくは引下げ、国境の通関業務やパスポートチェックの簡素化、輸送物資の各国ごとの積み替えをなくし自由往来を認めるようにすれば、地域経済統合が進み、地域共同市場も理論的に可能になる。

ASEANは加盟国間で内政不干渉の原則をとっているが、各国とも政治制度はまちまちどころか、ばらばら状態に近いのに、こと、経済に関しては、地域経済統合のメリットを認めて、いち早く連携に踏み出すところが実に面白い。政経分離、経済最優先なのだ。中国が共産党政治と、資本主義そのものの市場経済化を大胆に使い分けているのと同じだ。

ASEAN事務総長
「インフラプロジェクトで連携し地域統合に踏み出しつつある」
 私がメコン経済圏への出発直前の2013年11月6日、東京のプレスセンターでASEAN事務局当番国ベトナムのレー・ルオン・ミン事務総長が記者会見するというので会見に参加したが、ミン事務総長が会見やその後の質疑で、この地域経済統合に言及した。

「ASEANは、各国間で経済力を含めてさまざまな格差があり、課題も山積しているのは事実。だが、2015年末の地域経済統合後にヒト、モノ、カネの移動が進めば、ASEANは大きく変わってくる。ASEAN各国は地域経済連携のメリットを認めている。その際のポイントは域内各国間のCONNECTIVITYだ。道路、鉄道にとどまらず電力、水などのインフラプロジェクトで各国ともいずれ連携に動き出す。CONNECTIVITYの重要性はどの国も認めており、地域経済統合に向けて踏み出しつつあるのは間違いない」と。

南部経済回廊をクルマで走ってみて、
物流の基幹道路にほど遠いデコボコ道に驚き
 しかし地域経済統合があと1年半後に近づいた今、CONNECTIVITYが機能しているのかどうか、私には気がかりだった。そこでジャーナリストの好奇心で、現場をしっかりと見ておく必要ありと陸路を車で走った。結論から先に申し上げれば、課題は山積だった。
私がクルマで走ったのはタイ、カンボジア、ベトナムをつなぐ約1000キロに及ぶ南部経済回廊だ。タイのバンコクを起点にカンボジア国境のポイペトを抜けて首都プノンペンまでをまず走った。プノンペンで取材のために数日過ごした後、再び南部経済回廊を走り、メコン川をフェリーで横断してベトナム国境沿いまで行き、国境を越えてホーチーミン(旧サイゴン)に到着するコースがその陸路コースだ。

南部経済回廊の大半はさすがに道路整備が進み、舗装も行われていたのでクルマでの走行は比較的スムーズだった。問題は、カンボジア国内に入ってプノンペンをめざす経済回廊に入った途端、片道2車線の未舗装のデコボコ道路に出会った。沿線は農村部が多いので、牛がのんびりと歩く光景が随所にあった。その牛の行列が続く未舗装の道路をトラックが物資を積んで走り抜けていくのだ。物流の基幹道路というイメージにほど遠かった。

カンボジアに分工場化した日本企業はタイの親工場への半製品輸送などで悩み
 バンコクからミャンマーに行く産業道路がつながり、南部経済回廊は一応、ベトナムからミャンマーまでの大動脈道路に近づいた。しかしミャンマーまでの道路もカンボジア国内の一部デコボコの未舗装道路と同じだという話なので、前途多難の感じは否めない。

物流網の未整備は別の問題を引き出していた。タイでの賃金高騰、雇用の需給ひっぱくという厳しい企業経営環境からカンボジア、ラオスに工場移転する、いわゆる「タイプラスワン」で工場立地する進出日本企業が増えている話をカンボジアで聞いた際のことだ。
「タイの親工場からカンボジアに工程の一部を移転させ分工場化する進出ケースが増えてきたが、カンボジア分工場でつくった半製品を仕上げのためタイの親工場に輸送する際、エレクトロニクス部品などは未舗装の道路の振動などで打撃を受けやすく、陸路を使わず遠回りして船便で運ばざるを得ない。加えて、カンボジア国内は電力、水の供給不安があり、賃金や労働力確保で分工場化してもメリットが少ない」と日本企業関係者はいう。
道路の未整備、電力や水の供給不安といったインフラ問題でCONNECTIVITYが機能しない典型例だと言っていい。ミンASEAN事務総長は、このあたりの方向付けをどうする考えなのか聞きたいところだ。

タイのミャンマー国境沿いの橋にひび割れ損傷、
トラック輸送に大影響の事例も
 タイでの現場体験が長いジェトロ(日本貿易振興機構)の助川成也さんに興味深い話を聞いた。それによると、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーをつなぐ東西経済回廊のうち、タイ北西部のターク県内にあるミャンマー国境沿いのメーソット橋で複数のひび割れ、亀裂の損傷が見つかった。このため、25トン以上の大型トラックに重量制限が加わり、橋の手前で中、小型トラックへの積み替えが義務付けられた。安全対策上、やむを得ない措置だろうが、物流システムの中核部分で、こういった事態が起きれば、CONNECTIVITYの経済効果は減殺されてしまう。

助川さんによると、このメーソット橋プロジェクトは、今や援助される国から援助国に変わったタイ政府の大型援助で建設したものだったが、制度的、技術的な欠陥が露呈したようだ。メンツを重んじるタイ政府は2016年完成に向けて、その近くで代替橋の建設にとりかかっている、という。このあたりも課題を抱える「中進国」の現実かもしれない。

メコン川での水力発電プロジェクトでラオスやミャンマーが援助国中国とトラブル
 CONNECTIVITYの問題は、経済回廊の道路にとどまらない。メコン川の落差を利用した水力発電所の建設プロジェクトをめぐって上流と下流域の国々の利害が対立しているケースもある。
メコン川の上流域のラオスで、電力供給確保のための水力発電所建設プロジェクトをめぐり資金難から中国に援助を仰いで建設を行った。ところが中国側は巨額援助の見返りにダム建設の事業者を中国からひも付きで従事させたばかりか、地元ラオスの雇用創出をせず中国人出稼ぎ労働者を積極雇用、さらに完成後の電力に関しても、かなりを電力需要の強い中国に送電線を使って電力を送って地元ラオスへの還元を少なくしたため、ラオス側との間で「約束が違う」と大問題になった、という話は有名だ。これに似た話は、ミャンマーの北部カチン州での水力発電所建設をめぐっても発生し、ミャンマー政府が中国に建設中止を通告する事態に発展した。

ラオスもメコン川の下流域のタイやカンボジアとの間でCONNECTIVITYトラブル
 このメコン川上流域での水力発電プロジェクトをめぐっては、ラオスは中国とのトラブルとは別に、メコン川の下流域のカンボジアやタイとの間で、CONNECTIVITY虎ヌルを抱えている。上流での水力発電所建設によって、下流域への流水量が変わり、水の利用をめぐる対立、さらに川の生態系を壊しかねないと環境保全がらみでのトラブルなのだ。
いま、ベトナムを加えたメコン川流域4か国で、これらの利害調整のための「メコン川委員会」を組織し議論や紛糾が続いている。オブザーバーとして利害がからむ中国、ミャンマーも参加している。
中国が援助での水力発電所建設支援を武器に、ダム完成後に発電所の電力を中国に強引に送電してしまう強引さも大問題だが、メコン川流域国間でも、ダム建設によって生態系の変化などで下流域が干ばつ被害にあうのも無視できない問題だ。当然、「メコン委員会」での利害調整が必要になる。これもまたCONNECTIVITYの問題と無縁ではない。

課題抱えるASEANにとって今こそ日本の出番だ、
兄貴分として政策アドバイスを
 さて、こんな話を続けると、ネガティブなことばかりで、ASEANの地域経済統合は大丈夫なのか、という議論になりかねない。しかし、すでに述べたASEANのミン事務総長の発言にあるように、山積する課題を抱えながらも、加盟10か国は着実に動き出していることだけは間違いない。
日本としては、これまでの報告でも述べてきたように、先進国、つまり先を進んできた先輩国として、マクロ経済政策運営の成功と失敗の経験を伝えてアドバイスすること、とくに今後、ASEAN各国が経済成長の過程で直面する都市への人口集中に伴うさまざまな都市化の課題、さらに人口高齢化に伴う医療や介護、年金などの制度設計をどうするか、さらに経済成長と環境保全、公害対策とのバランスをどうするかなどに関してもアドバイスすることが極めて重要だ。まさに、日本の出番だ。

中国や韓国のASEAN攻勢すさまじいが、
日本の「強み」発揮で存在感示せる
 今回歩いたメコン経済圏諸国で、各国の人たちと話をしていても、兄貴分としての日本に教えてほしい、学びたい、連携したいといった期待やニーズを強く感じた。とくに、以前の報告でも述べたように日本の品質管理力、メインテナンス技術力への期待は極めて強い。裏返せば、それらが日本にとってはすべてビジネスチャンスともなる。
中国や韓国のASEAN攻勢はすさまじいものがあり、日本としてもASEANとの連携戦略を持つことがますます重要になるのは間違いない。しかし、こと品質管理力メインテナンス技術力などに関しては、日本は、中国や韓国に比べて、ASEAN各国、とくにメコン経済圏諸国の間では絶対的に優位な立場にあり、その評価も受けているので、この強みを生かすことだと思った

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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