世の中の空気が読めない(KY)日本相撲協会、大相撲改革はまだ途上 一般企業ならばとっくに破たん、公益法人として擁護されている自覚が必要


時代刺激人 Vol. 91

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

暴力団がからむ野球賭博に大相撲力士や親方が深く関与していた問題で、日本相撲協会 の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は7月5日のNHK特集番組「大相撲は変われるのか」で「戦後最大の危機と感じている。存続できるかどうかの瀬戸際にあり外部の方々の力を借りて対策に取り組みたい」と頭を下げた。しかし暴力団がらみの事件は過去にも多々あったし、それ以外に八百長疑惑の問題、時津風部屋での力士暴行致死事件、横綱朝青龍の暴行事件など枚挙にいとまがない。要は今回が初めてのことではないのだ。それだけに日本相撲協会は世の中の空気が読めない(KY)特殊な事業組織だと言われ続けないように、今度こそ大相撲改革に取り組んでほしい。

私自身、大相撲とも縁がある。大好きというほどではないにしても、本場所を何度か見に行って土俵での迫力に圧倒されたことが多い。そのうえ朝稽古も見るチャンスがたびたびあって、大相撲の面白さを見ている。とくに今回解雇になった大関琴光喜がいた佐渡ケ嶽部屋の朝稽古を以前、見に行って、なかなか興味深かった。それだけに、今回のような事件は残念で仕方がない。
ただ、ジャーナリストの立場で言えば、日本相撲協会は国技の担い手の公益法人として、法人税など税制面で優遇されているだけに、国民感情からしても、ガバナンス(組織統治)機能が厳しく求められて当然で、甘えは許されない。何でも「ごっつあんです」に代表される規律のなさ、あいまいさ、透明性の欠如は今や改めねばならない。出直し改革は至上命題と思うのだ。

作家の野坂さんは「矛盾抱えたまま国技の美名に甘んじてきた」と批判
 作家の野坂昭如さんが毎日新聞に連載中の「七転び八起き」83回(7月3日掲載)で「相撲界の賭博」と題して、今回の問題に鋭く切り込んでいる。ぜひ、その一部を引用させていただこう。
「伝わる食べっぷり、飲みっぷりに感心。また小金(こがね)を持ったタニマチが何かを与えたり、飲み食いに連れ歩いても、あっさり、ごっつあんです、のみ。金(カネ)やモノに執着する世間一般から見れば実に豪快で、自分たちにはかなわない事柄を日々実行している力士は見ていて気分がいい」「だが、このたびの相撲界にまん延する悪習慣は犯罪である。特別な社会にはやくざはいる。相撲も特別という意味では同じ。虚の世界に生きるという点でいえば似ているし、結びつきやすい体質と言えるだろう」「世間も角界も矛盾を抱えたまま、国技という美名に甘んじてきたのではないか。国技というのなら、子どもたちが憧れてこそのこと。(中略)相撲を伝統ある国技として守っていくというのなら、まず子どもたちが楽しめるものでなければならない」

力士暴行死事件の影響か新弟子受検は1人、07年はゼロ、海外でも報道
 確かに、子どもたちの憧れのようなものがあってこそ、大相撲を支えてくれる人口の広がりが出てくるし、大相撲の将来にも期待が持てるのだろう。ところが、ここ数年のさまざまなスキャンダル、事件が子どもたちの興味をなくしているように思う。現に、時津風部屋での若い力士暴行致死事件は影響が大きかったようで、今年の新弟子検査では受検者はたった1人だった、という。2007年のゼロに次ぐ少なさだが、明らかにサッカーや野球などと違って、子どもたち、若者離れが着実に進行しているということだ。

海外の受け止め方もご紹介しておこう。7月6日付の読売新聞が報じたところによると、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「米国でのゴルフのタイガー・ウッズの不倫とほとんど同じ大騒ぎ。大相撲の野球賭博のニュースで、生放送の菅首相の記者会見などが脇に追いやられたほど」と取り上げ、米AP通信は「スモウ・レスリング、スキャンダルと取っ組み合い」と伝えた。また英BBC放送は「相撲界を襲ったスキャンダルの最新版となった」としたうえで、「東京のナイトクラブの外で男性を襲った疑惑に端を発した元横綱朝青龍の引退騒ぎなど、このスポーツの周辺には不透明さがまとわりつく」と報じている。日本の大相撲も、今や世界のスポーツとなった日本の柔道と並んで、大きな話題性をもって海外で受け止められていることは間違いない。

相撲協会理事会に外部の風を注入、議決権持つ外部理事を過半数に
 さて、いよいよ本題の大相撲改革の問題だ。結論から先に言えば、日本相撲協会の執行機関である理事会は、年寄株を持つ親方などの理事だけで意思決定する、というこれまでの仕組みを改め、まず相撲界出身の理事の数を大幅に減らすこと、同時に企業でいう社外取締役など外部の専門家、有識者を増やして議決に加わらせ、重要事項決定のキャスチング・ボートは外部理事が握るようにすることが基本だろう。こうすれば、まず外部の改革志向の風が入ってきて、ガバナンスも透明度も増すだろう。外の世界が何を求め、何を期待しているかなど無関係という、空気が読めない「KY」の風土をなくすことが重要だ。

7月4日の緊急理事会で、大嶽親方(元関脇貴闘力)と大関琴光喜の解雇処分はじめ疑惑力士の名古屋場所の出場停止、さらに一部の親方の謹慎を決め、同時に謹慎処分の武蔵川理事長の代行に外部理事の村山元東京高検検事長を決めた。しかし主要な新聞報道では、協会内部には理事長代行に外部理事を起用することに対して強い抵抗があり、放駒理事(元大関魁傑)案が根強かったようだ。監督官庁の文部科学省が外部理事を通じてテコ入れを図り、最終的には村山氏で決着がついた。しかし、これ1つとっても、相撲協会は閉鎖的で、古い保守体質が強く、まだまだ大相撲改革は道半ばという感じがする。その意味でも、外部の風を吹き込む理事会改革は最重要課題のように思う。

中島慶應大教授の「大相撲の経済学」が面白い、年寄株譲渡益に課税をと指摘
 次に一種の資産バブル化した年寄株の継承をめぐる資産譲渡問題だ。引退した力士が相撲協会に残るためには、この年寄株を取得しなくてはならないが、協会の65歳定年制のもとで高齢化が進んだ結果、定年までしがみつく親方が多い一方でケガなどの故障で若くして引退する力士が多いため、パイが一定、つまり数が決まっている年寄株をめぐっては需要超過になって、この年寄株の取引価格が大幅に上昇、引退の若手力士が2億円とも3億円ともいわれる高額の資金をどこからかかき集めてきて、必死に入手しようとするそうだ。
慶應大学の中島隆信教授の書かれた「大相撲の経済学」(ちくま文庫刊)が抜群に面白い。大相撲の社会を科学する対象にして、経済社会学的に分析されているのだが、この年寄株売買に伴い巨額の売買益が発生しているのに、譲渡所得税という形で納税する考えが希薄なのは問題だ、と指摘している。
興味深いので、少し引用させていただこう。「年寄名跡は力士の引退後30年間の生活を保障してくれる証書のようなものだから、立派な資産である。したがって、その売却益に税金が課せられることは常識と言える。ところがこの社会常識が角界では通用しない。相撲協会の公式見解では『年寄名跡は代々継承していくのがならわし』で、金銭で取引されるものではない、という。(中略)歌舞伎の名跡のように血筋という特殊資産が継承の絶対的条件となるケースと異なり、年寄名跡は基本的に同じ一門に属する力士ならば誰でも継承が可能である。すなわち、市場価値が存在する。それならば、受け渡しの際、価値に応じて(発生した譲渡益は)納税するのが当たり前である」と。

若い理事貴乃花らの大相撲改革案を積極検討し改革に取り組め
 優勝回数の多さ、それに現役横綱時代に大相撲人気を盛り上げた功績によって、貴乃花親方は例外的な一代限りの年寄株を得て、現在、理事になっているが、若さによる改革意識の強さからか、閉鎖的な相撲部屋の透明化、茶屋制度の改革、給与の年俸制などを相撲協会に提案しているそうだ。
とくに、相撲部屋改革に関しては、タニマチや後援会などの資金が不透明なうえ、財政悪化に付け込んで今回のような暴力団が巧みに利権狙いで入り込むリスクがあるため、サポーター制度や会員制度を考えているという。ところが、相撲協会の親方衆、幹部理事は、これら改革提案に対して権益が侵されると考えているのか、ノ―だという。
今回の問題は氷山の一角のようなもので、われわれがうかがい知れないところで、さまざまな病根がまだまだあるのかもしれない。しかし一般企業で、こんなドンブリ勘定の経営、ガバナンス・ゼロの経営などを行っていたら、マーケットなどから厳しき淘汰の対象になり経営破たんとなる。大相撲がこの機会に、いい伝統を維持しながら、大胆に改革に取組み、開かれた面白いスポーツになってほしい。いかがだろうか。

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