日本は積極平和主義に見合った難民支援を アジアの成熟国家としての真価が問われる!


時代刺激人 Vol. 276

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

きっとご記憶だろう。シリア難民の男の子が今年9月2日、難民の人たちを乗せた船の転覆で泳ぎ切れず、トルコ南部ボドルムの浜辺に痛ましい姿で見つかったことだ。

日本はEUに比べ難民条約上の認定が厳しい、
北朝鮮崩壊による難民流入を警戒

安倍首相の対応は、確かにお粗末だった。国連の場を活用してタイムリーなメッセージ発信したのだから、「各国とも全面受け入れに、すぐ踏み出せない国内事情がある。しかし日本は今後、人道的観点に立ってフレキシブルに対応する」と述べればよかったのだ。

ところで、ご存じだろうが、日本は、難民条約の規定を頑なに解釈して、難民認定が主要国よりも厳しい。昨年だけをとっても5000人の難民申請に対し、わずか11人の認定実績しかない。条約上の難民は、人種や宗教、国籍、政治的意見などを理由に迫害された人と定めているが、日本の法務省は、その認定に厳しく、かつ消極的なのだ。
具体的には、EUが紛争から逃れてきたシリア難民に関して、条約上の難民と認めたが、法務省は最近、難民認定制度の運用見直しを行ったにもかかわらず、EUとは対照的に、条約でいう迫害にあたらない、との姿勢を変えていない。この頑な姿勢は頑強で、政治が議員立法などで弾力運用にすればいいのだ。しかし、日本は、北朝鮮などが仮に政治的崩壊したりすれば、難民が一気に日本に押し寄せるリスクを極度に警戒しているのだ。

難民の犯罪増加を過剰懸念?
国連OB滝澤さんは「日本は難民に魅力ない」と指摘

私は、北朝鮮リスクへの警戒対応については重要だと十分理解している。ただ、日本が門戸開放したら、難民がシリアなど中東紛争地域から殺到、あるいはアジアからも押し寄せ、治安が乱れて犯罪激化するのでないか、宗教摩擦が起きるのでないかといったことで難民受け入れに反発や懸念が一般の人たち、政治家や行政に根強いことに関して、私は人道的配慮を棚に上げて、やや過剰反応でないかと思っていた。

そうしたら、10月4日のNHK日曜討論でのシリア紛争と難民問題特集を見ていたら国連難民高等弁務官事務所の元駐日代表の滝澤三郎さんが興味深い問題指摘を行った。要は、「日本はいい国なので難民が殺到する、ドイツみたいに殺到すると考えるのは間違いだ。日本は難民には人気がない。シリアなど中東から遠いという理由だけでなく難民認定が厳しいうえ、魅力ある国だとは思っていない」というのだ。

日本帰化したペマ・ギャルボさん
「難民は日本定住を止めた方がいい」と意外な指摘

この点に関して、最近、民間外交推進協会の会合で日本とアジア関係について講演したチベット出身のペマ・ギャルボ桐蔭横浜大学教授に、日本の難民対応をどう考えるか聞いたら、意外な答えが返ってきた。ダライ・ラマ14世に従ってインドに亡命、難民キャンプで子ども時代を過ごし、その後、日本に移住し中学、高校、大学を卒業したが、10年前に日本に帰化するまでは日本で無国籍状態の生活を続けた数奇な運命を持つ人だ。

このペマ・ギャルボさんは「私にとって、日本は大好きな国だし重要な国だ。しかし、難民や移民問題への対応で冷淡なのが残念だ」と述べたあと、「率直に言って、日本は異質の外国人の受け入れには(医療、年金など社会保障の)制度面で対応しようとしない。言葉の壁の厚さもある。アジアの異文化、また宗教の異なる国々の人は日本に来て生活しても不自由さ、異質さを感じるだけなので、言葉などを克服できていない人は、難民や移民の形で申請して定住をめざすのは止めた方がいい」と語った。
ペマ・ギャルボさんほどの日本在住経験が長い人だけに、この発言は、私にとってはショッキングな話だった。帰化権利を得るまで無国籍のまま毎年、在留許可更新で問題先送りする日本の行政体質に精神的に疲れた、とでも言いたげだ。考えさせられる一幕だ。

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