メコン諸国の現場レポート2 日本は品質で強み、コスト下げて中間層に照準を


時代刺激人 Vol. 236

 インド自動車最大手のタタ自動車の51歳の若手社長が2014年1月26日、旅先のタイのバンコク市内のホテルから転落死したニュースに続き、ホテルの部屋には遺書があったため、思い詰めての自殺だった可能性が高い、という報道を目にして、私は思わず「えっ、本当か」と驚いた。
そのことが今回のメコン経済圏諸国のレポート2の話と、いったいどういった関係があるのだろうか、と思われるかもしれないが、これが実は、無関係でない。

インドのタタ自動車社長のサプライズな自殺、
超安値車の販売不振が影響?

 タタ自動車はインドで有力なタタ財閥の中心企業だが、その総帥かつ実力会長だったラタン・タタ氏が2003年に超割安の「10万ルピーカー」(当時の円換算で28万円)構想を打ち出し、世界中を驚かせた。ラタン氏は当時のインドで「新中間所得層」とも言われていた年間所得10万~20万ルピー層をターゲットに、オートバイからマイカーへの乗り換えによって、新しいライフスタイルの夢の実現を、という販売戦略だった。

中国に次いで10億人の巨大人口を持つインドで、独特の販売サービスネットワークを武器に割安価格の軽自動車でシェアを握った日本の軽自動車メーカーのスズキのクルマでさえ、20万ルピーだった。鈴木修会長は当時、「4人乗りの4ドアのクルマとしては価格が低すぎて非現実的だ」とコメントしたが、インド最大手メーカーがつくる「国民的大衆車」だけに、スズキにとって脅威であったことは間違いない。

「新中間層」に照準当てた安値販売戦略がなぜか奏功せず、
品質や機能に警戒も

 ところがタタ自動車の工場建設用地確保でトラブルがあったうえ、ガソリン価格の値上がりでオートバイからの乗り換えが思うようにいかず、6年後に発売した際には、意外に不人気で、売れ行きが振るわなかった。そこで、ラタン会長はGMインドで経営手腕を発揮した英国人のカール・スリム氏を社長にスカウトし経営を託したが、ゴルフでいう「リカバリーショット」が打てず、結果は、冒頭の社長自殺となった。

中間所得層が次第に増えてきていたインドで、消費者にとって手の届きやすい低価格の新車だったにもかかわらず、なぜ価格が魅力と映らなかったのか、あまりに安すぎて品質や機能面で警戒感が働いたのか、逆に消費者にはクルマは「ステータス・シンボル」で高レベルのものを求めるニーズがあり、敬遠されたのか、このあたりは定かでない。

メコン経済圏諸国はインドと対照的、
中間所得層に勢い、日本車にも強い関心

 ここでメコン経済圏諸国と接点が出てくる。タイのバンコクの場合、私は何度か旅行するチャンスがあるので、変化を見ることが出来るが、今回は、もともと多かったバイクとともに、マイカーを保有する層が着実に増え、中間所得層に厚みが出てきたな、という印象があったこと、それに渋滞解消策として登場した新都市交通の高架鉄道がすっかり定着していたのには驚いた。

これに対して、学生時代からほぼ50年ぶりの訪問となったカンボジアのプノンペン、ベトナムのホーチーミン(旧サイゴン)はバンコクと対照的に、昔と変わらずバイクの交通量がすさまじく、そのバイクが至る所で慢性的な交通渋滞の原因を作り出していた。クルマの量も目立つものの、バイクの比ではなく、まだ発展途上段階の印象だった。

カンボジアで「中古車でもいいから品質いい日本車ほしいが、
高価格で手が出ず」

 しかしカンボジア、ベトナムとも、ヒトの動きなどを見ていると、間違いなく経済に活気があった。プノンペンで出会った30代半ばのピセット君は「今のボクの所得水準ではローンでバイクを買うのが精いっぱい。でも必死でかせいでマイカーがほしい。日本のトヨタ車は品質がいいので、買うならば中古車でもいいからトヨタだが、値段が高すぎて手が届かない」と述べていた。中間所得層の声をほぼ代弁したものだと感じた。

そのカンボジアで、トヨタの誇る高級車レクサスを至る所で見かけた。富裕層が乗りまわしているのだろうが、今や国民1人あたりのGDPで日本を追い抜いて5万ドルというシンガポールならいざしらず、国民の平均的な所得水準がまだそれほど高くないカンボジアでのことだけに、率直に言ってサプライズだった。

広がりを見せる中間所得層の消費ポイントは
価格も重視だが、まずは品質

 さて、ここで本題だ。新興アジア、とくにメコン経済圏諸国は、日本のような長期間のデフレに苦しむ国と違って、一定の経済成長レベルを維持しているため、中間所得階層が急速に広がりを見せている。問題は、その購買層の消費ポイントがどこにあるかだ。

タタ自動車の場合、比較的、低所得層に近い「新中間所得層」に照準を当て、10万ルピーという超割安価格で売り出したのに、インドの消費者の関心を引かなかった。値段の安さが決め手でないことを感じさせたが、カンボジアでは、さきほどのピセット君の発言どおり、日本車人気が根強く、異口同音に、品質のよさを理由に挙げたが、輸入中古車でも値段が高く、手が出ないので残念というものだ。ベトナムの中間所得層の間でも反応は同じだった。要は、品質重視なのだ。

ベトナムで韓国車がこわれやすいなど
問題多くても手が届く価格なので購入との声

 その点で、ベトナム市場への食い込みが急速に目立つ韓国車に関して、興味深かったことがある。ホーチーミン市で知り合ったベトナム人は「日本車に比べこわれやすいうえ、補修部品の整備体制が出来ていないので、不満がある。しかし、韓国車は値段が手の届くものなので、買ってしまう」と述べていた。ミャンマーのヤンゴンでも、親しくなったタクシー運転手が韓国車に関して同じことを言っていた。

要は、品質のいい日本車がほしくても値段が高くて手が出ないため、やむなく韓国車に、というのが大勢だった。今後、中国車が次第に力をつけて、タタ自動車ほどでないにしても価格の安さを売り物に新興アジアに参入してきた場合、韓国車と同様、品質を二の次にして価格選好で売れるかもしれない。メコン経済圏など新成長センターのアジアで、日本の自動車メーカーがシェアを上げるためには何が課題かが私なりに見えてきた。

メコン経済圏歩いて日本の戦略課題が見えてきた、
強みの品質に磨きと価格下げだ

 今回のメコン経済圏諸国を歩き、いろいろ取材していても、間違いなく日本車に対する高評価の最大のポイントは、まず第1に品質の良さだった。丈夫で長持ちのうえ乗り心地がいいというのだ。続いて、補修部品が比較的そろっているうえ、補修サービスなどの体制が出来ていることを理由に挙げた。この点も韓国車にない日本の強み部分になっている。逆に不満部分は、言うまでもなく値段が高すぎる、という点だ。

成長センターのメコン経済圏への日本企業の戦略で見直すべき点がはっきりしてきた。何も日本車に限った話ではなく、エレクトロニクスはじめさまざまな消費財、サービスなどすべてに言えることだ。日本は、最大の強みの品質に一段と磨きをかけるとともに、中間所得階層の消費の手が届くようにコスト削減を続け、販売価格を引き下げる努力を続けることだ。現地での部材の調達比率をあげ、現地生産比率も高めると同時に、さらに物流コストの圧縮も考える、といったやれる手は何でも打つ、といった発想でチャレンジしていくしかないのでないだろうか。

遠藤早稲田大教授の「日本品質」が世界を制す、
という発想がいま新興アジアに通ず

 ここで、日本の強みの品質問題に関して、ぜひご紹介したいことがある。「『日本品質』で世界を制す」(日経新聞出版刊)という著作を出された早稲田大学ビジネススクール教授、遠藤功さんの指摘だ。現場を歩く私のような時代刺激人ジャーナリストの立場でも、ポイントをつく指摘だと以前から思っていたが、今回のメコン経済圏の取材の旅で、それを実感したので、その指摘の一部を紹介させていただこう。

遠藤さんによると、「日本品質」というのはこうだ。品質は市場における顧客の「欲望の質」によって鍛えられる。それは消費財だけでなく、生産財、サービス財でも同じだ。日本の場合、企業が要求水準の高い日本の「目の肥えた顧客」「うるさい顧客」に目線を合わせた品質のつくり込み、つくり上げを行い、日本の高い品質水準を生み出してきた。その意味で、成熟して目の肥えた顧客が数多くいる日本市場は、これからも「日本品質」創造のマザーマーケットとして機能する必要がある。主たる生産拠点がアジアなど海外に移ろうとも、日本におけるモノづくりの素晴らしさを維持すべきだ、という。

大阪万博をきっかけに高度成長に入った
日本の中間所得階層の動きがいまアジアに

 そして、遠藤さんは、「日本品質」に関して、「信頼という機能的品質」、つまり「見える不良」の撲滅、「見えない不良」への挑戦、それに「感動という情緒的品質」、つまり物語性(ストーリー)、希少性、優れたサービスの機微性がポイントだという。日本が新興アジアで、こういった細かい品質にこだわって消費材財、生産財、サービス財を提供していけば間違いなく日本の戦略的な強みになる、と思う。中国にも、そして韓国にもない「強み」の部分だからだ。

今後、メコン経済圏諸国に限らずASEAN(東南アジア諸国連合)の他の国々が、2015年12月の地域経済統合をきっかけに、経済成長に弾みがつけば、かつて日本で1970年の大阪万博を起点に中間所得層に新たなライフスタイルへの志向が強まり一気に高度成長経済に突入したことと同じ現象が間違いなくASEANに生じる。その当時、日本は生活のクオリティ、新たなライフスタイルを求め、それに見合ってテレビや冷蔵庫など三種の神器が生産され、大量生産・大量消費の高度成長経済が実現した。その時の高品質社会への希求が成長のエネルギーだった。それがいま、新興アジアでも起きつつあると言えないだろうか。
 

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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