時代刺激人 Vol. 315
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
衰退日本を危惧する海外諸国に新・成熟社会モデルを
今、海外のマクロ政策当局の間で、新型コロナウイルス禍の長期化リスクに対応し、日本経済の「日本化」現象を本格研究する動きがある、という。
この「日本化」とは、日本経済がバブル崩壊後、30年間に及ぶ長期デフレに陥り、日銀の大胆な金融緩和策でも景気浮揚せず、金利がゼロ近傍に張り付き「低金利の罠」に陥る現象のこと。コロナ禍の長期化で、同じ現象がそれらの国で現実化するのを避けるため研究しようというもので、要は、日本経済の衰退研究だ。何とも悔しい話だ。
それに似た話がある。シンクタンクNIRA総合研究開発機構が2020年6月に出したレポートで、とりまとめ役の谷口将紀東大教授によると、海外における日本研究、とくに政治学などでの日本研究者の減少が顕著だ、という。米ハーバード大のクリスティーナ・デイビス教授も、日本経済低迷に連動するように日本研究が米国で衰退している、と述べている。
人口高齢化に伴う経済社会システムをデザイン
そこで、私はこの際、問題提起したい。日本は間違いなく人口の高齢化が急速に進み成熟社会に付随するさまざまな問題が噴出していることは事実だ。海外諸国が、その日本を衰退過程にある国の事例として見るかどうかは自由だが、私はむしろ発想の転換で、この際、日本が、高齢化が進む成熟経済社会のさまざまな課題を提示し、それらの課題を克服して新たな成熟社会システムをデザインし、1つのモデル事例として提示すればいい、と考える。
強大国化する中国は今、グローバル世界では米国との間で対立がエスカレートし、引くに引けない状況だが、実のところ、中国国内では高齢化に伴う医療や介護問題にとどまらず、貧困対策問題、雇用確保などの課題を抱えている。
「中進国のカベ」に苦しむ中国は今や日本を研究対象
本来ならば、中国政府は経済成長のアクセルを踏んで「中進国」を脱出し、「先進国」の仲間入りを目指したいところだが、これらの問題対応のため、成長の果実ともいえる財政資金を回さざるを得ず、結果として「中進国のカベ」を乗り越えられないジレンマに陥っている。だから、中国にすれば、日本が、高齢化に伴う新たな経済社会システムを打ち出せば、必死で学びの対象にするのは間違いない。
現に、最近のオンラインでの講演で亀田総合病院経営管理本部副本部長の野々村純氏が、前職の三菱商事での中国駐在勤務時代の経験をもとに、中国の医療事情、その政策課題などの現状を語った。野々村氏はその中で、14億人の巨大人口を抱える中国の病院の現場では高齢者を中心に病気治療対応でさまざまな課題を抱えていること、中国政府にとって、日本は今や高齢化に伴う医療や介護で実績を持つ医療政策を研究対象だけでなく、その制度的な枠組みに学ぶこと多く、模倣している現実がある、と述べていた。
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