宅配便に危機、物流新イノベーションを ネット時代の社会インフラ見直し急務


ヤマト運輸株式会社

時代刺激人 Vol. 294

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

宅配便大手のヤマト運輸は、不思議な企業だ。インターネット通販(以下ネット通販)増大に伴う宅配現場の人手不足による深刻な配送遅れ、巨額の残業代の未払いなど引き起こした問題が日本中の関心を呼び、社会問題化させた。

宅配便大手のヤマト運輸は、不思議な企業だ。インターネット通販(以下ネット通販)増大に伴う宅配現場の人手不足による深刻な配送遅れ、巨額の残業代の未払いなど引き起こした問題が日本中の関心を呼び、社会問題化させた。そればかりでない。ネット通販が今後の大きな潮流となるのは避けられないので、この際、宅配を含めた物流という社会インフラをどうするかを考えるべきだ、との議論も誘発した。一企業の問題で、これほど社会的な広がりが出たケースは珍しい。失礼ながらライバルの宅配便の佐川急便や日本郵便に同じような問題が出ても、ここまで多くの人を巻き込む議論にならなかっただろう。

ヤマト運輸は不思議な企業、配送遅れなどで
社会問題化しても「頑張れ」コール

しかも、そのヤマト運輸が、窮余の一策として、値上げを表明した時に、「企業の自助努力なしに安易に値上げとはけしからん」と反発が噴出するか、と思っていたら意外にも「やむを得ない。その代わり改革にしっかり取り組め」と頑張れコールが大勢になった。なぜなのだろうか。私の見るところ、個別宅配システムをビジネス化したヤマト運輸創業者の小倉昌男さん(故人)の「利益よりも顧客サービスを」という経営理念が今も現場に浸透しており、それが多くの人たちから企業評価を得ているからでないか、と思う。
現に、私もクロネコマークのヤマト運輸の宅配便を活用することが多い。セールスドライバーと言われる現場の人たちは、感心するほど、よく動く。先日も、首都圏が強い風雨に見舞われた際、東京都心ビル街で、雨合羽もなしに、荷物を載せた台車と一緒に小走りに動き回る姿を見て、思わず「ご苦労さん」と声をかけざるを得なかったほどだ。

創業者小倉さんの経営哲学が現場に浸透したが、
問題は改革に向けた取り組み

独自サービスを生み出した創業者の小倉さんはリーダーとして傑出している。反骨の人で、政府の規制に対して大胆に挑戦する実績がある。経営理念も「よいサービスをすれば顧客に喜んでもらえ扱う荷物も増える。地域あたりの荷物個数が増えれば密度化が進み、生産性上昇につながり利益も増える。だから利益よりも、顧客サービス提供を」という。
米国のヘルスケア大手、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も同じ顧客重視の経営姿勢が評価されている。いずれもリーディングカンパニーとしての軸がしっかりしているところが「強み」なのだろう。しかし問題は、ヤマト運輸の今後の取り組みだ。
そこで、本題だ。ヤマト運輸の作り出した短時日に素早く個別宅配するネットワークシステムは、日本の社会インフラとなっており、世界に誇ってもいい。問題は、このシステムの崩壊は社会的ロス(損失)となるため、再構築するにはどうすればいいかだ。ただ、小手先の宅配サービスを含めた物流改革ではなくて、物流システム全体を変える新イノベーションが必要だ。スマートフォン(以下スマホ)を使ってタクシー配車を行う米ウーバーのように、デジタル技術を宅配など日本の物流システムに活用することもヒントだ。

ネット通販は拡大必至、
ヤマト運輸の労働集約モデルは限界、大胆なイノベーションを

結論から先に申し上げよう。インターネット通販が今後、とめどもなく拡大する時代を視野におくと、数多くのセールスドライバーに頼るヤマト運輸のような労働集約的な宅配サービスは、もはや限界がある。今の宅配システムを活かすにしても、米アマゾンがインターネットと物流をつないだイノベーションで新ビジネスモデルを作り出したのを参考に、ヤマト運輸も時代を変えるイノベーションに大胆に取り組むべきだろう。
そんな矢先、私の長年の友人で、日立コンサルティング社長OBの芦邉洋司さんが経営者仲間の人たちとの会合でたまたまヤマト運輸問題が話題になり、物流システムのイノベーションが必要だ、との点で意見一致した、という。その考え方を聞いてみたら「わが意を得たり」の点があるうえ、参考になることが多いので、ぜひ紹介させていただこう。

芦邉さんらは「宅配業界が競争から共創めざす
オープンイノベーションを」と提案

芦邉さんらの議論ポイントは、ネット通販が今後10年間に最大10倍規模で扱い高が増える。ヤマト運輸がネット通販大手、アマゾンからの受託荷物の総量制限するのは不可能、値上げで歯止めをかけようとしても荷物量は減らない。労働集約的な宅配便の集配構造のもと、1社での改革対応には限界があり、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の主力企業を軸にオープンイノベーションの取り組みが必要になる、という。発想が興味深い。
端的には業界全社で、競争から共創をめざす新たなセントラル・コントロール・センターを組織する。その際、どこまでが共創で、どこからシビアな競争か、必ず線引きが必要。そして新センターはラスト・ワン・マイルと言われる荷物受け渡しの末端部分の効率的な配送システムづくりなど、新ビジネスモデルを検討すべきだ、と芦邉さんらは指摘する。

 

新センターが配送先の顧客データを集め、
リアルタイムで配送ナビゲーションも一案

それによると、これまで宅配企業はドライバーの運送状況を追跡し運送管理していたが、今後は新センターが顧客管理を重視する。配送先の顧客が現在、自宅にいるのか勤め先なのかのチェック、再配送先やその時間確認について、スマホを含めたデジタルテクノロジーを使って把握し、各社ドライバーにリアルタイムで配送ナビゲーションを行う。
ヤマト運輸が一部で事前配送メール連絡などを行っているが、新センターがすべてをシステム化する。新システムがスムーズに機能するには顧客がスマホなどを持っていることが必要。また在宅かどうかのチェックに際して、セキュリティがらみで問題が起きるリスクもあるため、警備保障のセコムなどと連携した仕組みづくりが必要になる、という。
芦邉さんらは、「ピンチをチャンスに、という発想でいけば、宅配サービスを含めた物流業界にとって100年に1度のチャンス。物流とインターネットを融合したアマゾンのように、業界の垣根を取り外し異業種融合でイノベーションを起こすチャンスだ」と語る。

輸送関連企業が連携分し合い
エネルギー消費のムダなくし国民経済的プラスめざせ

そこで、私も提案したい。物流にかかわる飛行機、鉄道、陸送トラック、バス、タクシーなどを社会インフラの中核輸送機関と位置づけ、宅配便企業は、それら機関と荷物輸送で連携しネットワークをつくる。宅配便企業は、末端の荷物集荷と配達部分のみを担い、中間部分の輸送は、それら機関に委ねる。地域別、距離別に連携し合う仕組みが重要。
この仕組みが定着すれば、さまざまな輸送関連企業がバラバラに行っていたものを、効率かつ機動的に集約し分担し合える。うまくすれば交通過密・混雑をなくして事故を減らせ、大気汚染防止など環境対策にもなる、ガソリンなどエネルギー消費のムダを減らせ国民経済的にプラスとなる。そして輸送面での社会インフラ構築につなげることも可能だ。
物流全体を見る司令塔役は、芦邉さんらが提案する新セントラル・コントロール・センターでいい。新センターは、各地の拠点物流センターの状況を全体把握し、宅配便企業が集めた荷物を各地の物流センターでパーコードはじめさまざまなツールを活用して自動分別させる。地域別、距離別に分別した荷物を長距離、中距離の定期便で運んでもらう。あとは、顧客に近いラスト・ワン・マイルを再び、宅配便会社が担うというのが私の案だ。

企業間の競争と共創部分の棲み分けが課題だが、
新社会インフラづくりで意義

輸送機関連携ではJRだけでなく私鉄にも貨物便を走らせてもらい活用する。高速バスの荷物置き場スペース活用にヒントを得て、路線バスも活用できないか工夫する。長距離トラックも行きの満載便と帰りの空っぽのトラックをスマホで顧客や荷物を探して無駄をなくす。それらシェアリングを広く活用することも必要だ。芦邉さんらも、配送面でのオープンイノベーションとして公共交通機関との垣根をなくすことを主張し、私の提案と同様、路線バスの胴体に、スキーバスのような荷物室を設け移動式宅配ボックスにするのも一案だし、過疎化が進む中山間地域で1日に数回来る路線バスがバス停に止まったら臨時宅配ボックス化し周辺商店が荷物受け渡しでサービス連携する方法もある、という。
企業間の熾烈な競争部分と、システムを共有し合う共創部分をどう棲み分けするか、課題が残るが、新社会インフラづくり、という点で取り組んでみる価値は十分にある。これらを機動化するには、インターネットやスマホなどのデジタル端末を駆使することだ。

 

菊地さんは宅配システム二極化を予想、いずれ各家庭回るゴミ収集車が新聞配達も

外食の企業現場を束ねる日本フードサービス協会会長の菊地唯夫さん(ロイヤルホールディングス会長)も日ごろから物流に関心を持つ1人だ。宅配システムに関して、今後、二極化が避けられないという。その場合、受取人不在の家への再配送を含めたフルサービスは差別化が必要で、高サービスに見合って高価にする、一方で、特定の末端共同配送場所にドローンで運ぶ場合とか、コンビニ、鉄道やバスなどの駅、公民館など地域の拠点たまり場といった特定先への配送は廉価にするやり方が考えられる、と述べる。
そして、菊地さんは、今後の人口減少が進めば、物流再編成では追い付かず、ヒト、モノなどを組み合わせた最適化が必要になってくる。その場合、各家庭を確実に回るゴミ収集車に新聞配達を委ねるビジネス連携もあり得る。発想の転換が重要、という。
確かに、宅配便企業の今後を考えた場合、超高齢社会に対応して、単に荷物を宅配するだけでなくセールスドライバーの現場顧客との接点機能をうまく生かして介護サービス企業や便利屋さん企業などと連携した御用聞きサービスを行い、顧客ニーズをスマホやネットでつなぐこともあり得る。新たなイノベーションは発想すればいろいろ考えられる。

「宅配がなくなる日」の著者、
松岡さんは宅配ロッカーネットワークづくりを主張

ヤマト運輸の宅配便問題でいろいろな本を読んだうち、とても興味深かったのがフロンティア・マネジメントというコンサルティング&アドバイザリーサービス企業の代表、松岡真宏さんの著作「宅配がなくなる日」(日本経済新聞出版社刊)だ。ぜひ、読まれたらいい。タイトルが刺激的だが、なかなか示唆に富む。新しい宅配ネットワークづくりが必要で、その核にすべきなのは誰でも24時間、自由に利用できる宅配ロッカーだ、という。
松岡さんによると、この宅配ロッカーは、今のソフトドリンクの自動販売機を想定すればよく住宅地、オフィス街、公共施設などあらゆる場所に、網の目のように配備する。自販機1~2台分のスペースで、荷物を格納する箱の数は20個程度。宅配企業は地域の営業所に集荷した荷物を顧客の近くの宅配ロッカーに置き、顧客にスマホなどで連絡し、開ける際の入力番号を伝える。自販機会社が新たに宅配ロッカーをつくり、宅配会社は使用手数料を支払う仕組みにする。配送依頼した顧客がこの宅配ロッカーの手数料を配送料込みで支払っているので、受け取る別の顧客は追加費用を払う必要がない、という。

 

興味深い点は、この宅配ロッカーが広範囲に定着すれば、ドライバーが指定時間内に荷物を届けるために必死で走り回る宅配サービスの必要性は消え、受け取る側の顧客も好きな時間に自由に受け取れる時代になる、というのだ。これもイノベーションだ。

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