面白くなってきた温暖化ガス削減問題、日本は環境先進国アピールのチャンス 産業界も時代先取り必要、かつての米マスキー法排ガス規制克服の先例を


時代刺激人 Vol. 64

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

地球温暖化に歯止めをかけるには各国はどう対応すべきか、ややオーバーに言えば地球の運命を決める国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が12月半ば、デンマークで行われる。日本は2020年時点での地球温暖化ガス削減目標について、30年前の1990年比換算で25%削減という数値目標を打ち出し、突出しているが、他の国々が今回、どう対応するか、興味深いところだ。
 そこで、結論を先に申し上げれば、この際、日本は、ハードル高いこの削減案を国際公約だと強く宣言すること、そして今後、省エネ技術、環境改善技術に一段と磨きをかけ、中国など経済成長のためにエネルギー多消費で環境に弊害の多い国々に対して惜しみなく技術提供することを大胆にアピールすればいい。
 要は、日本が世界各国の関心事であるCOP15で、どの国もが及び腰になっている地球温暖化ガス削減目標について、踏み込んだ提案を行い、それを国際公約にして自らに対しても負荷をかけることで、日本をアピールする絶好のチャンスだ。
 先進国は、文字どおり先を進んでいるという意味もあるが、誰もが簡単に取り組めない重い課題を克服すれば、本当の意味での「環境先進国」「課題克服先進国」と評価を得る。国際世界で、日本は、政治ではほとんど評価を得たことがなく、また強みだった経済も最近は、ほとんど評価の対象になっていない。しかし環境がらみでの省エネ技術や環境防除および環境改善の技術では先を走っており、今回、厳しい課題にチャレンジして、その課題克服に成功すれば、本当の意味で「先進国」という国際的な評価を受けることになる。そういった意味で、重い課題にチャレンジする意義は十分にある。

小沢環境相「問題は待ったなし、COP15会議は何としても成功に」
 つい最近、数人の人たちと一緒に小沢鋭仁環境相に会うチャンスがあった。そう言っては失礼だが、以前ならば、環境相ポストは、それほど多忙でなく、インタビューなどで会うにしても時間的な余裕があった。だから、ジャーナリストの側も時間を気にすることなく、いろいろなことで議論もできた。ところが、今回の小沢環境相とのインタビューは国会開会中だったこと、COP15に向けての準備もしなければならないことなどもあったが、30分を過ぎると、大臣秘書官が次の会合への時間を気にし始め、こちらも落ち着かなくなる始末。裏返せば、時の人でもあるとはいえ、環境相として重大な政策判断をせざるを得ない立場にある、ということなのだろう。

 その小沢環境相は、COP15について「地球温暖化問題は待ったなしの状況にある。何としても会議を成功に導かねばならない。日本としては、最低限、先進国の地球温暖化ガス削減目標、途上国の削減行動、そして測定・報告・検証の方式、それに途上国支援の4つについて政治合意し、期限を決めて法的拘束力のある文書をつくらねばならないと訴えている。その着地点に至るようにがんばる」と述べた。民主党政権内部でも、よく勉強し問題意識も、またフットワークのよさもあり、評価している人だが、いざ、グローバルな課題に、しかも各国が利害をもろに全面に押し出す中で、どこまでリーダーシップをとれるのか、気がかりだが、日本にとっては、重要な交渉のキーマンだ。

問題は世界の排出大国、米国と中国をどう削減交渉に巻き込むか
 今回、COP15目前のギリギリの段階で、やっと米国と中国が相次いで2020年までの削減目標を公表した。米国が2005年比で17%だ。しかし1990年比で言えばわずか3~5%という。えっ、その程度かと思わずがっかりしてしまうが、専門家によると、まずは数字を出してきたことを一歩前進という。難しい国だ。また、中国は国内総生産(GDP)あたりの二酸化炭素(CO2)排出量の削減を2005年比で40~45%と打ち出した。これもまた、なかなか意味深長なのだ。一見して数値目標として、数字が大きそうだが、他方で、経済成長に伴って、総排出量が増えることを許容しているという。わかりやすく言えば、仮に中国がいまの年率8%前後の高い成長を続けていくと2020年の目標年度のGDPは2005年の3倍になる。このため、今回の方針どおり、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を最大の45%減らしても、排出量は全体的には2005年比で70%も増える見通しだ。

 問題は、これら世界の排出大国の米国と中国をいかに削減交渉に巻き込むかだ。日本のいくつかの新聞は、見出しだけを拾えば「G2(米国、中国)が動いて世界が動く」、さらに「米中の削減目標、COP15への追い風だ」「温暖化ガス削減交渉、米中が主役狙う」といった評価でいる。かつて京都議定書づくりに際して、各国の思惑が露骨に現われ、足並みがそろわなかった。具体的には米国は議定書の枠組みには応じられないと離脱、また中国は議定書では削減義務を持っていないとしてカヤの外にいた。しかし世界で排出量トップの中国、第2位の米国の2カ国だけで、世界の排出量の40%を占める。環境にまったくやさしくない国だが、その排出量がケタ外れに大きい2カ国があえてCOP15に加わったのだから、世界の大きな流れを変えられる、G2が今やそれぞれの決意と行動で世界を引っ張る時だ、と持ち上げる新聞もあった。

京都議定書から12年、時代変化のもとで米国、中国、インドの意識が変化
 私は、見方が違う。京都議定書という形で何とか地球温暖化問題に世界の目を向けさせた1997年から12年たったいま、世界中の国々の環境問題に対する危機感が大きく高まり、他人事のように考えていた国々も当事者意識を強めざるを得なくなってきた。だから、今回のようなCOP15にも否応なくコミットせざるを得なくなってきた。環境改善に国益主張のナショナリズムは通用しないどころか、そんな主張をすれば、国際社会で相手にされなくなる時代になったのだ。まさに、時代は、米国や中国にモノ申し、これらの国も対応せざるを得なくなっているのだ。
 確かに、さまざまな環境悪化の問題がグローバルに広がり、しかも水際で止められる時代でなくなった。早い話が日中2カ国間で言えば、中国の黄砂被害などが大気の風に乗って日本に押し寄せるときに、日本が発生源の中国に対策を求めるといったレベルを越えて、むしろ、日本が中国の黄砂対策に技術協力などのサポートをすることで自国への被害の波及を抑えることが必要になってきたのだ。あるいは環境問題国際会議に中国を引っ張りこんで対策を迫ると同時に、周辺国のみならず多国間の問題解決システムの構築と同時に、そのシステムに中国を巻き込む時代になった。

 そればかりでない。京都議定書以降の大きな時代変化は、中国やインドなどの新興経済国の台頭だ。人口の多さが経済成長の制約要因だったこれらの国々にとって、人口に消費購買力をつけ、巨大な消費市場にすると同時に、製造業の立ち上げによって輸出主導の経済で弾みをつけたが、その急成長に伴って、一気に環境悪化問題が表面化した。京都議定書当時、中国やインドは、地球環境の悪化は欧米先進国がもたらした問題であり、われわれに地球温暖化ガス削減を求めるのは筋違い、と反発してきた。しかし、今回、自分たちで自助努力で取り組まないと、いずれブーメランのように跳ね返ってきて、社会的コストを償わねばならなくなること、また経済・金融危機への対応をめぐってG20などのグローバルレベルでの国際会議に組み込まれるうちに、中国やインドは、ある一定の責任を果たすことが自分たちの存在感を強めることにつながる、むしろ積極的なコミットが世界の流れを自分たちの土俵に引っ張り込むチャンスとも考えてきた。今回のCOP15に対して、中国のみならずインドも削減の数値目標を出すようになったのは、そういった背景があってのことだと見た方がいい。

宇宙人的な鳩山首相の個人的アピールと冷ややかな受け止め方はまずい
 さて、ここで、日本がどうするかだ。冒頭で申し上げたとおり、日本が今回のCOP15で、地球温暖化ガス削減目標について、鳩山由紀夫首相が提案した25%削減目標は国際公約であることを強くアピールすること、そして環境がらみでの省エネ技術や環境防除および環境改善の技術で磨きをかけ、技術レベルで立ち遅れている国には積極的に技術協力を行うことを約束することだ。そして、それらによって、日本は「環境先進国」「課題克服先進国」と評価を得るように仕向けることだ。
 その場合、問題は日本国内の対応だ。国内では、宇宙人的な鳩山由紀夫首相が勝手に国連演説の中でアピールしただけのことで、政治家としての意気込みを伝えただけのこと、現実問題として、1990年比換算で25%削減という数値目標の実現に向けて費やすエネルギー、費用などを考え合わせれば、無理があるうえ、経済成長を阻害する、といった冷ややかな主張がある。

 しかし、私は意見が異なる。少なくとも総選挙で国民は圧倒的な支持を与え、それに伴う政権交代で誕生した鳩山首相があえて重い課題に挑戦したのだから、国民のみならず産業界、経済界も、むしろ目標実現に向けてチャレンジすることが必要だ。そうでなければ、海外からは、日本って、国民が政治的支持した指導者の足を引っ張る奇妙な国だと言われかねない。

日本は環境技術提供によってアジアを世界の環境にやさしいセンターに
 それよりも、この問題を「環境先進国」「課題克服先進国」へのチャンスと捉え、踏み込んだ努力をすべきだ。その点で、われわれはいい学習対象がある。1970年9月に米国で法制化されたマスキー法、大気汚染防止法だが、その関連で自動車の排気ガス規制に関して、基準を満たさない自動車メーカーの車の販売を認めない、というもの。端的には排ガスに含まれる一酸化炭素などを1970年型車比で10分の1以下にする規制だった。 ご記憶だろう。ホンダ自動車が排ガス規制クリアするCVCC(シビック)エンジンを必死のチャレンジで誕生させた。当時、開発チャレンジを渋っていたトヨタ、日産といった主要大手自動車メーカーが追随し、ゼネラルモーターズ(GM)など米国の自動車ビッグ3を驚かせたばかりか、一気に日本車ブームにした問題だ。今回、日本はホンダの先例にならって、逃げ腰ではなくチャレンジしてみることだ。

 さきほどの小沢環境相は「日本の省エネ技術は圧倒的に強い。アジア諸国との勝負は、今までは価格競争でしかなかったが、今後は、環境技術という競争要素が加わる。鉄鋼や電力などの産業界もぜひ、がんばってほしい」とエールを送った。その場合、冒頭に述べたように、むしろ、積極的に環境技術を技術協力の形で提供し、アジアを世界の環境にやさしい地域のシンボル的存在にする。その先端を日本が走るようにすればいい。
 それから、うっかりしていたが、エネルギー消費量の多い一般家庭、つまり国民1人1人も同じ課題を背負っている。1970年のマスキー法規制クリアへのチャレンジにならって、再度、チャレンジが必要でないだろうか。

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