不気味な中国「影の銀行」不良債権 金融当局も実体つかめずリスクは大


時代刺激人 Vol. 223

今回は、中国ウオッチャーとして、中国経済を定点観測してきた私にとって、最近の強い関心事の1つ、シャドーバンキング(影の銀行)のことを取り上げてみたい。
正規の金融取引業務を認められている中国の国有銀行と違って、投資信託会社のようなノンバンクの金融機関がメインになって、信託貸出などさまざまなノンバンキング・ビジネスを行うことで問題が噴出している。そればかりでない。アングラマネーを動かすマフィアがらみの地下金融業のみならず、国有企業が手元の余剰資金の運用先に困って、こっそりとノンバンクビジネスに手を出す、という意味で、影の銀行と呼ばれる不気味な存在になりつつあるのだ。

中国の場合、高貯蓄率を背景に、行き場がなく滞留している個人のマネーが意外に多い。そこで、投資信託会社などノンバンクが、それらの滞留マネーを吸い上げるため「理財商品」という高利回りの財テク金融商品を発行して資金を調達、そのマネーを資金需要のある地方政府や地方の不動産開発会社に高利で貸出し、それが高じて、中国に蔓延する不動産開発ブームに火をつけたのがポイント部分だ。

ノンバンクが財テク「理財商品」の資金で不動産開発向け高利融資、
焦げ付きも
問題は、不動産バブルがはじけて、売れ残り物件の山が至る所に生じて資金回収が困難になると、一気に巨額の融資が不良債権化して金融システム全体を揺るがす問題になりかねない。そのリスクが急速に高まっていているうえ、ケタ外れの不良債権の総額など実体が金融当局でさえ容易につかめないため、大きな問題になっているのだ。

ちょっと余談だが、この「影の銀行」という銀行の存在について、中国の金融専門家に話を聞いていたら、「影の銀行」と「銀行の影」という2つの言い方があって、定義もまちまちなのだ、という。しかも信託財産や資産の管理に関しては、中国銀行業監督管理委員会という当局の管理下に入っており、問題行動を起こしにくい、というのだ。とはいえ、金融当局も実体がつかめないほど肥大化しているのが現実で、その金融専門家の話を聞いていても、2つの区分にどういった違いがあるのか、よくわからなかった。

思い出すのは複雑な金融商品組み込んだ米サブプライム、
日本のノンバンク住専
そんなことよりも、ノンバンクの「影の銀行」のことで2つのことを思い出した。1つは、「理財商品」が引き金になっているのを見て、複雑な仕組みの金融商品をリンクさせて問題を引き起こした米国のサブプライムローンと背景が何となく似ているな、ということだ。ノンバンクの証券会社が投資銀行という形で、住宅ローン融資に手を広げて米国の金融システムを瓦解させる事態に追い込んだ。

もう1つは、ご存じの方も多いはずだろうが、かつて1970年代の日本で大手銀行がなかなか手を付けない住宅ローン融資分野にノンバンクバンクの住宅専門金融機関、いわゆる住専(じゅうせん)が進出して問題を引き起こした話だ。個人向け住宅から次第に不動産融資に傾斜、その後のバブル崩壊、地価下落によって巨額の不良債権を抱え込んでしまった。旧大蔵省(現財務省)が行政権限拡大でノンバンク金融も傘下に収めるため、関与した点が中国の「影の銀行」とはちょっと異なるが、出資参加した金融機関にも波及し、金融システム不安を招いた。

「問題起きても国が公的資金で救済、借り換えで不良債権も処理し大丈夫」との声
さきほどの中国の金融専門家は、日本のジャーナリストが「影の銀行」問題を必要以上に重大視して取り上げ、金融の現場で動揺や混乱が起き、それが金融システム不安の引き金になったりするのを恐れてか、興味深い問題説明をした。
そのポイントはこうだ。中国が日本と違って、資本主義をベースにした市場経済化と社会主義を巧みに使い分け、しかも共産党政権下でマクロ政策運営も行っていること、仮に金融機関の経営破たん問題が起きても、国有銀行はもとよりながら、ノンバンクバンクに対しても国の公的資金で破たん処理し、また預金者保護も積極対応すること、また国民の貯蓄率が高いので、預金者の不安感が充満することはありえるにしても国家が「信用不安を起こさないので、安心せよ」と言明するので、問題は生じない。

そこが日本などと大きく異なる点だ。そして、極めつけは、目先、「影の銀行」に不良債権問題の発生で経営不安が顕在化しても、国家主導で借り換えを行わせるので、流動性危機を回避するのでないか、というのだ。
しかし、現場の中国の金融専門家の楽観論とは対照的に、中国政府が内外でとったここ数か月間のアクションを見る限り、中国政府は「影の銀行」問題をかなり深刻に受け止めているのは間違いない。

中国金融当局が事態重視、
6月に「影の銀行」への締め付けで短期金利が急上昇
まず、6月下旬に上海の短期金融市場で起きた金利高騰が1つだ。金融機関が手元の資金需給に合わせて銀行間取引で翌日物など短期の資金を融通し合う上海銀行間取引金利が6月20日、何と前日比で5.78%急上昇して13.44%という異常な高金利をつけた。当時、その金利高騰原因について、中央銀行にあたる中国人民銀行が手形オペレーションで金融市場から資金の吸い上げを図ったため、資金需給が一気にタイトになったが、その金融政策意図は、どうも「影の銀行」へ資金が流れることに歯止めをかけたいことのようだ、という市場観測が広がった。

この余波は、6月24日の上海株式市場に及び、ベンチマーク指数の上海総合株価指数が5.3%下落して1963.23となり、2000という指数の心理的抵抗ラインを割り込んだ。翌日25日も続落したため、中国人民銀行も神経質になり、人民銀行当局者が上海市内でのフォーラムで事態収拾を図るメッセージを発信したので、26日以降は収まった。

米中戦略・経済対話で米国が「影の銀行」問題にからめ金融制度改革に注文
当時の現地からのメディア報道では、6月末に「影の銀行」の「理財商品」の償還が集中するため、金融当局が短期金融市場での資金供給に揺さぶりをかける、という政策意図を示そうとした。ところが、株式市場の混乱を招いたことで、今後は「マーケットとの対話」を煩雑に行うことで、金融現場にニラミをきかす作戦に切り替えたようだ、といった観測報道が流れた。これ1つとっても、中国人民銀行当局の「影の銀行」の動きに苛立ちを深めているのは間違いない、と言える。

しかし、われわれ経済ジャーナリストが「おやっ」と驚いたことがその後、起こった。それは7月10日、11日の2日間、ワシントンで開いた米国と中国の閣僚らで話し合う5度目の米中戦略・経済対話で、米中間に横たわるさまざまな問題を議論した中で、米国側が「影の銀行」問題を持ち出し、それにリンクする形で中国の金融制度改革に注文を付けたことだ。

サプライズは中国がG20タイミング合わせ突如、
貸出金利の撤廃と自由化を公表
日本はかつて日米経済構造協議を通じて、互いの制度改革に注文を付けるやり方を経験済みだが、米中戦略・経済対話でも米国は平然と持ち出した。一昔前ならば、中国は内政干渉だと突き放しただろう。ところが、今や大人の対話に切り替えたのか、中国は逆に米国の金融緩和の出口政策が中国や新興国市場の金融に混乱を与えていると言い返すほどだった。
ところがサプライズはそのあと、グローバル金融市場で飛び出した。中国はモスクワで7月20日から開催予定の主要20か国・地域の財務相・中央銀行総裁会議(G20)の前日7月19日に、翌日の20日から中国の金融機関が企業などに貸し出す際の規制金利を撤廃し自由化すると発表したのだ。
預金金利に関しては規制を続けるが、貸出金利は自由化に踏み切るというものだ。中国は、海外の主要国の間で「影の銀行」問題への懸念が強まると同時に、不透明な貸出金利規制による部分だと批判されかねないと判断、そこで、G20の場で蒸し返される前に機先を制して対応しようとの意思表示だな、と受け止めたことは間違いない。

「影の銀行」の金融商品残高が円ベースで160兆円説、
一部には583兆円説も
 ここで問題となるのは、中国の「影の銀行」の実体がどうなっているのか、ということだ。正直なところ、イソップ物語のオオカミ少年と同じで、大変だ、大変だと言っているだけに過ぎないと言われそうだが、いろいろな取材ネットワークに聞いてみても、実体はわからない。
ただ、中国銀行業監督管理委員会の尚福林主席が今年4月に、「影の銀行」の「理財商品」などの金融商品残高は8.2兆円(円換算約130兆円)にのぼると公表したのが、ただ1つの手掛かりだ。しかし、米金融大手のJPモルガン・チェースの中国人エコノミストが独自に調べた「影の銀行」の融資残高は36兆元(円換算583兆円)にのぼると試算し、波紋を投じた。共同通信がつい最近、中国メディア報道をキャリーする形で6月末現在での「影の銀行」の融資残高は9兆8500億円(円換算160兆円)にのぼったと伝えた。情報ソースは中国銀行業監督管理委員会の幹部だというから、ほぼこのあたりが実体に近いのかもしれない。

中国の不動産投資・住宅投資バブルがはじけたら「影の銀行」にボディーブロー
 ただ、ここで問題は、「影の銀行」が融資した高利回りの不動産開発投資、マンションなど高層ビル建築融資が売れ残り物件急増で、融資返済が焦げ付くリスクだ。中国からの最近のいろいろな現地報道で、気になるのは、地方都市の高層マンションが建設半ばで工事中断となり、放置されているといったものが目立つ。需要急減で、買い手がつかないまま不動産投資バブルや住宅投資バブルがはじけたりしたら、間違いなく実体経済に大きな影響を与える。
中国共産党政権は、欧米向け輸出のダウンで、内需振興政策に切り替え、何とか7%台半ばのGDP成長を維持しようと必死だが、そんな中で、中国の地方経済で不動産開発投資、住宅投資バブルがはじける事態になれば、それこそ大ごとになるのは間違いない。

中国経済は肥大化しすぎて制御不能に陥るリスク、
「影の銀行」問題に早く対処を
 最近、ある会合で出会った富士通総研の主席研究員の中国人エコノミスト、金堅敏さんと「影の銀行」を含めた中国経済の現状について、話し合った。金堅敏さんは、現在の中国経済には今やさまざまな課題があるため、高成長の夢を捨てて、いかに安定成長にソフトランディング(軟着陸)できるかという点に強い関心がある。
私は、中国の経済規模が肥大化し過ぎていて、地方経済の現場にも目が届かず、一種の制御不能に陥るリスクがあること、とくに今回の「影の銀行」問題はその典型例であること、ノンバンクバンキングの実体は投資信託会社などにとどまらず国有企業にも問題があり、共産党中央がそれら機関を本当に制御できるかが目先のポイントだと述べた。

著者プロフィール

  • 牧野 義司
  • 1943年
  • 大阪府
  • 早稲田大学大学院

今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

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