孤立小国イスラエルの強さはハイテク力? M&Aでの外国への技術流出恐れず新技術挑戦


時代刺激人 Vol. 299

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

孤立小国イスラエルの強さはハイテク力?
M&Aでの外国への技術流出恐れず新技術挑戦

国の周囲を敵対するアラブ諸国に囲まれているため、片時も気のゆるみが許されず、常に軍事的な緊張を続ける国、というのが、誰もが描く中東イスラエルのイメージだろう。ところがそのイスラエルは今やハイテク、とくに車の自動運転やサイバーセキュリティ―、医療機器分野などでの先端技術に強みを持ち、世界で独特の存在感を示している。

中でも興味深いのは、欧米諸国のみならず中国やインドなどの新興国企業がこれら技術に異常な関心を示し、イスラエルのハイテクベンチャー企業のM&A(合併・買収)、あるいは資本提携によって、それら技術を手中に収めようと躍起なのだ。そればかりでない。アラブ諸国からの原油確保が最優先課題だった日本もこれまで「アラブ・ボイコット」を恐れイスラエルとの交流を極力、回避していたが、最近は北朝鮮がらみのサイバーテロ対策のみならずさまざまな分野で、民間企業などがイスラエルへ急接近しているという。

ベンチャー支える独自エコシステムに秘密、政府の支援が核で、企業は起業に意欲的

イスラエルが対アラブ諸国との一触即発を開けるため軍事技術で突出しているのは容易に想像できる。しかし、それ以外の民生用技術で世界中の関心を引く先端技術を持っているのがすごい。その秘密は何なのか好奇心をそそられたので取材したところ、イスラエルベンチャー・エコシステムという、ユニークなシステムにカギがあることがわかった。

詳しくはあとで申し上げるが、要はヒト、企業R&D(研究開発)などのインフラ、そして政府の財政支援やベンチャーキャピタルの支援マネーの3つがうまくリンクしてシステム化していることだった。これらの支援システムで、まず起業が行われ、そして技術開発力をもとに市場開拓が進み収益力をつけてベンチャー企業が成長、それを経て大半のベンチャー企業が外国企業のM&Aのターゲットになり、技術ごと企業売却の運びとなる。

イスラエル政府は外国企業のM&Aをリスクと考えずに容認、日本とは対照的

問題はそのあとだ。重要な先端技術が仮にライバル国やライバル企業に移転した場合、イスラエルにとって、それら技術の流出が経済安全保障のリスクにつながる。ところがイスラエル政府はそれをリスクとは捉えないのだ。それどころかイスラエルの技術力がグローバル評価を得たと受け止め、外国企業のM&Aを容認する。ベンチャー企業も売却で得た巨額資金をもとに新たなハイテクベンチャーを立ち上げ、売却技術を越える新技術の開発に取り組む。この枠組みが何度も繰り返される。まさにハイテク立国だと言っていい。

このイスラエルの発想は、日本ではまず考えられない。経済産業省を中心に政府、それに企業も技術流出には極度に神経質になっており、産業や企業の国際競争力を妨げる技術の移転や流出につながるイスラエルのような外国企業のM&A案件があれば、即座にNOだろう。ところがイスラエルの発想は大胆だ。ブラックボックス化して流出防御しても、今のようなインターネットを背景にしたデジタル社会では模倣され技術の陳腐化が進む。むしろイスラエルとしては模倣リスクを抱え込むよりも技術力の強みを誇示するとともに外国に高く売却し、その資金で先端技術開発に取り組むべきだと。周囲を敵対国に囲まれる逆境にあっても、戦略さえしっかり持てば強みになる、という発想だ。実にたくましい。

「知立国家イスラエル」著者米山さんらの話でもイスラエルの行動は極めて戦略的

そんな矢先、「知立国家イスラエル」(文春新書刊)というタイトルからして刺激的な本が出版されたので、さっそく読んでみた。私が関心を持ったイスラエルベンチャー・エコシステムに関しても言及があり、その仕組みがすべてのカギを握っていることがわかった。著者は三井物産OBで、米国を含め世界の政治や経済の潮流を探るワシントン事務所長を経験された米山伸郎さんという方だったので、経済ジャーナリストの好奇心で必死に連絡をとりお会いすることができた。

同時に、毎日新聞時代の先輩の紹介でイスラエルの先端技術動向に精通されている日立製作所副社長OBの武田健二さんにお会いすると同時にコンサルティング企業が主宰するイスラエル企業と日本企業の交流セミナーにも積極参加した。それを機に新任の駐日イスラエル大使の就任記者会見出席など、好奇心に拍車がかかって矢継ぎ早にイスラエル研究特化を進めた。その結果、面積が日本の四国の大きさしかない小国のイスラエルの戦略的な強み、弱みも見えてきた。同時に、オランダやシンガポール、イスラエルを見ていると小国というと失礼ながら、それぞれさまざまなハンディキャップを抱えながらも、戦略的な行動で特異な強みを発揮している。独特の産官学連携の新品種開発システムなどにより米国に次いで世界第2位の農業輸出大国になっているオランダが象徴的だ。

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