シャープ大量リストラから何を学ぶか 技術流出リスク再燃、新対応が必要


シャープ株式会社

時代刺激人 Vol. 270

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

家電大手のシャープが2015年5月、経営再建のために3500人というケタ外れの人員削減のリストラ計画を打ち出した。そのシャープは2012年にも同じような理由で当時、5000人のリストラを実施している。

家電大手のシャープが2015年5月、経営再建のために3500人というケタ外れの人員削減のリストラ計画を打ち出した。そのシャープは2012年にも同じような理由で当時、5000人のリストラを実施している。わずか3年間に2度も大掛かりな人員削減を行い、その数が85000人にのぼる、というのは尋常なことではない。

わずか3年間に合計8500人の人員削減リストラは
異常、経営者失格とも言える

シャープという企業の技術力に誇りや愛着を感じ、新製品開発の技術研究、家電製品の生産に取り組んで働いてきた現場の人たちにとっては、企業の生き残りのためとはいえ、なぜ自分たちがリストラの対象になるのだ、という憤りが起きているのは間違いない。シャープ経営に携わった経営陣の責任は間違いなく重い。

シャープは、液晶テレビで一時代を築いたとはいえ、韓国サムスン電子などとの急速なグローバル競争に敗退を余儀なくされたのは間違いない。しかしこの10年、三洋電機はパナソニックスに吸収統合されてしまったし、そのパナソニックスも一時はかなり厳しい経営環境に追い込まれた、また日立は家電の主力のテレビ生産を打ち切っている。日本のモノづくりを主導していたエレクトロニクス、家電産業が、技術に裏打ちされた優れものをつくれば勝てるのだという技術過信にあったのか、投資戦略、あるいは量産化に伴うコストダウン戦略、売れるモノづくりのマーケッティング戦略でグローバル競争に対応できなかったのか、検証が必要だ。

坂根コマツ元社長は「1回だけの退職者募集やらせてくれと」
言って見事に危機克服

それにしてもシャープがわずか3年のうちに2度もケタ外れの人員削減のリストトラを行うというのは、経営者失格と言っていいのでないだろうか。というのも、私が経済ジャーナリストの立場で、コマツの坂根正弘元社長(現相談役)の経営を見ていて、経営者の指導力、見通し判断、決断力によって企業の命運はこうも変わるものかと実感したからだ。
坂根さんの場合、2001年にコマツ社長就任後、巨額赤字の厳しい経営環境から脱出するため、苦悩の末に、労使協議で労組の了解をとりつけ「固定費削減のために1回だけ大手術をさせてほしい。早期退職者募集をするが、退職者数の目標もつくらないので、2万人の社員のみなさん全員で考えてほしい。その代わり経営者として、間違いなく経営を立て直すことを約束する」と働きかけた。結果は、その1回限りのリストラでコマツを見事に再浮上させ、グローバル企業の米キャタピラーと激しく競り合う巨大企業に押し上げた。シャープとは雲泥の差だ。

かつて新日本製鉄が韓国ポスコに転職した
OB技術者の問題で訴訟ざたに

さて、今回、シャープの問題を取り上げたいと思ったのは、技術者らのリストラに伴う海外への技術流出の問題だ。実は、このコラムの第182回でも新日本製鉄(当時)が韓国鉄鋼大手のポスコを相手取って、高性能の方向性電磁鋼板の製造技術を不正に取得したとして、不正競争防止法(営業秘密の不正取得行為)違反で総額1000億円の損害賠償請求を、東京地裁に起こした問題を取り上げた。新日本製鉄を退職したOB技術者が退職時に、中核技術の秘密保持契約を結んでいたにもかかわらず、ポスコの勧誘で再就職した後に問題の技術を伝授したことで起きた問題だ。

当時のコラムでは、海外への技術流出問題に関しては、産業スパイなどによる技術流出には厳しく法的規制が重要なのは当然だが、企業リストラに伴う技術流出には歯止めをかけるのはなかなか難しく、技術は流出こともあり得るということを前提にしたリスクマネージメントが必要だ、と問題提起した。今回は、それを踏まえて、もう少し踏み込んだ問題提起をしてみたい。

シャープリストラ公表後、中国ハイアールなど
新興国企業が技術者の中途採用に意欲

海外への日本の技術流出の問題は、今に始まったことではないが、今回、シャープの3500人リストラ計画の発表があった翌日のメディア報道で、アイリスオーヤマなどの国内企業が、これら退職者の雇用の受け皿というかたちで中途採用に乗り出した、という話と一緒に、中国ハイアールなどの新興国企業が同じく技術者の積極雇用に踏み出したという記事が出ていた。予想どおりの動きだな、というのが実感だ。

韓国のサムスン電子がいい例だ。追いつけ、追い越せのビジネス戦略に沿って、グローバルの時代、スピードの時代などの競争に打ち勝つには大学新卒の若手の技術者のタマゴを採用して時間をかけている余裕はない、日本のライバル企業から即戦力の技術者をヘッドハンティングを含めて積極採用し、その技術力を武器に技術模倣から次第に新製品開発戦略に切り替えて世界の市場シェアをとるのだ、という人事戦略を打ち出した。その巧みな戦略に乗って、リストラされた日本企業の技術者の人を中心に数多くの人たちがサムスン電子に転職した。

今回は、家電分野では後発の中国ハイアールなどが積極的に名乗りを上げて中途採用攻勢に出てきたのだが、ここ数年の中国ハイアールの動きを見ていると、技術流出と技術移転などの問題の境目が次第にあいまいになってきており、今後、海外への技術流出問題を考える際には、狭い発想でケシカラン論をやっていても無意味だなと実感する。

中国ハイアールはライバル旧三洋電機の冷蔵庫など
事業部門を買い取って技術移転

具体的に申し上げよう。中国ハイアールは、低コストの労働力、立地工場の巨大なスペースなどを強みに世界の工場化を実現すると同時に、13億人の巨大消費市場力を武器に外国資本を取り込んで合弁パートナー契約のもとで、技術移転を求め、そのあとは技術の模倣によって、いつしか自国生産可能な技術力を確保した。
そればかりでない。低価格の家電品の販売先市場として日本をターゲットにするため、2002年に三洋電機との間で合弁の三洋ハイアールを設立、その関係をそのまま活用してハイアール三洋エレクトリックを創設、日本におけるハイアールブランドの製品開発やマーケッティング、製品アフターケアで三洋電機と連携を強め、2012年には三洋電機から冷蔵庫、洗濯機部門の事業譲渡を得て、日本のみならず世界の成長センターとも言えるアジア向けの企業戦略展開の布石としてハイアールアジアインターナショナルを設立、ハイアール三洋エレクトリックを吸収統合してその傘下に入れた。
何のことはない。三洋電機の強み部分だった白物家電の冷蔵庫、洗濯機部門の技術者を含めて戦力化してしまった。現に最近、中国ハイアールが売り出した冷蔵庫は、旧三洋電機技術者のデザインによるものをアピールするほどになっている。

日本企業自身が新興国企業との事業連携すれば
技術流出だと批判でできない?

かつて日本企業は欧米、とりわけ米国の背中を見ながら追いつけ、追い越せで必死に産業競争力をつけた。欧米から移入・導入した先進的な基礎技術をいち早く模倣、それにとどまらず模倣技術の実用化や商品化という形で、戦後の大量生産・大量消費時代の流れに乗って、経済の高成長をもたらした。導入技術の実用化自体は、日本モデルと言ってもいいものだったが、今や、韓国サムソン電子、中国ハイアールはさまざまな形で、その日本モデルを自分のものにしている。
とくに中国ハイアールは三洋電機の冷蔵庫などの事業部門買収によって、新たな戦略展開を行っている。この場合、新製品開発技術に関しては、中国ハイアールは堂々と、ビジネス戦略で勝ち取っているわけで、技術流出だと批判する余地がなくなっている。

シャープ技術経営OBの中田教授
「韓国は今やフロント型企業で様変わり」

シャープで長年、技術経営にかかわり、液晶事業本部技師長などを経て今は立命館アジア太平洋大学に転身されている中田行彦教授は、韓国、台湾が追いつけ追い越せのキャッチアップ型から新しい戦略展開になっている、という。
中田教授は、「シャープ『液晶敗戦』の教訓――日本のものづくりはなぜ世界で勝てなくなったのか?」(実務教育出版刊)の中で、韓国は今やサムスン電子を中心に独自技術、それをベースにした製品開発にこだわり有機ELテレビをつくるなどフロント型企業に大きく変わりつつある。また台湾は、先行企業のすぐあとをキャッチアップして素早く技術模倣して生産するファースト・フォロワー型企業が多い、という。
確かに、技術分野によっては、韓国サムスン電子のケースのように、先端技術を駆使したフロント型企業分野に進むことで、企業としての強み部分をアピールしていることは事実だろう。ただ、現実問題として、すべての先端分野で他の企業の追随を許さないといったことは考えにくく、やはり大半の既存技術分野では、それぞれの企業が国境を越えてし烈な製品開発競争、生産競争を繰り広げるのだろう。
となれば、今回のシャープのように技術開発力を持つ企業の大量リストラの場合、新興国企業の間では、当然のことながら、技術者の人たちに対するさまざまなアプローチが現実化し、海外の企業転職先で、その人が持つ技術に対する積極アプローチが行われ、その技術者が退職時に起業技術の秘密保持契約を結んでいても、それがどこまで生きるのかどうかだ。

絶対に秘密にしたい技術は
ブラックボックス化したり秘密管理するしかない

結論から先に申し上げれば、あらゆる技術は模倣されるので、本当に秘密にしたい技術に関しては、特許を含めてブラックボックス化したり、極端な場合、徹底して限られた人たちしか関与できないように秘密管理するしかないだろう。

しかしそれでも技術は、いろいろな形で、ライバル企業などに知られてしまう。中国や韓国の企業は、かつて日本の家電メーカーが開発して売り出した新製品に関して、日本に常駐する技術監視専門チームが電器店で購入してきてバラバラに解体して、技術の中核部分にまで踏み込む、という話を聞いたことがある。それどころか、今回のようなリストラで退職を余儀なくされそうな技術者をいち早くヘッドハンティングで獲得し、秘密保持契約の違反すれすれのところで技術伝授されかねない。

他社が追随できない技術開発に取り組むしかない、
中堅・中小企業に技術者移転も

今回の問題企業のシャープの創業者の早川徳次さんは、「いつも真似される商品をつくれ」と言っていたそうだが、シャープOBの中田教授によれば、技術流出の究極の対策は「常に他社よりも先を考えて進むこと」、もっと言えば、他社が追随できないような新技術の開発に常に取り組むしかないということなのだろう。
ただ、私は、リストラの形で事実上、企業外に追い出して、あとで海外への技術流出のことに思い悩むことがないようにするコマツのような優れた経営が重要と思うが、技術者がのどから手が出るほどほしい国内の中堅中小企業にうまくリストラされた技術人材を移転できないか、と思う。いかがだろうか。

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